第六百二十七話 歓迎の宴の準備
ちょい短めです。
『……ぃ…………ぉい、おいっ、いい加減に起きろ!』
「んぁ?」
目を開けると、不満そうな顔をしたフェルと目が合う。
昨日ステーキを焼きまくったせいで思ってるより疲れていたのか、朝飯の後についつい寝てしまったようだ。
「……えーと、頭が重いんだけど。足、どけてよ」
フェルのデカい前足がソファで寝そべる俺の頭に乗っかっていた。
『フン、昼飯だ』
「……へ? もうそんな時間?」
『そんな時間だ。そのうち起きるかと思っていれば、お主はちっとも起きぬ』
そう言って俺の頭をグリグリと押した。
昼が遅くなって少々ご立腹の様子のフェル。
「ちょっ、やめて! 起き抜けに頭グワングワンすんな!」
『なかなか起きぬお主が悪いのだ』
「ごめんごめん。すぐ作るってば~」
俺がそう言うとようやくフェルが頭から足をどけた。
ってか、フェルは俺の扱いが悪すぎだぞ。
まったく。
「あんだけ食ってるんだから一食くらい抜いたってどうってことないだろうに……」
ボソリとそうつぶやいたら、フェルにめっちゃ睨まれた。
いやいや、目力強いからね。
強すぎるから。
『一食くらい抜いたってだと? お主でも言っていいことと悪いことがあるのだぞ』
『主殿、飯抜きは非常によくない。儂らにとって食うことが最大の楽しみの一つなんじゃからのう。……食わせてもらえなんだら空腹で暴れてしまうかもしれんのう(ボソリ)』
『そうだぜ。一食くらいって言うけど、俺ら食うのめちゃくちゃ楽しみにしてるもんなぁ。腹減ったらなにするか分かんないぞ~』
『ご飯ないない? 絶対イヤー! 美味しいご飯食べるの~』
ちょちょちょ、な、なにこの不穏な空気。
「じょ、冗談だって。暴れるなんて怖いこと言わないでよ~」
お前らが暴れたらシャレにならないぞ。
特にゴン爺なんて。
「さ、さて、昼飯作ってくるか~」
顔を引き攣らせながらそう言ってキッチンへと避難した俺。
そこでネットスーパーで購入したのは万能調味料焼き肉のタレ。
速攻で焼き肉丼を作ってみんなに食わせたよ。
食いしん坊カルテットも焼き肉丼は大好物だから喜んで食ってくれたわ。
あって良かった焼き肉のタレ。
やっぱ困った時は焼き肉のタレだね。
焼き肉のタレ様々だわ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さぁて、今晩の宴の準備しますか」
とは言ってもほぼほぼ食材を切るだけになりそうだけど。
普通にBBQとも思ったんだけど、昨日フェルたちとステーキを食いながら「明日の宴のメニュー、炭火焼きのステーキっていうのもいいよな」ってポロッとこぼしたらみんなものすごい食いついてきてさぁ。
俺が「でも、今日もステーキだし、明日もステーキってのはさすがに飽きるだろ」って言ったら、みんな声をそろえて『飽きない』だって。
フェルたちからすると、分厚いステーキはやっぱり肉を食っているっていう感覚もさることながら肉のうま味を一番感じられるから飽きるなんてことは絶対に無いんだとさ。
そんなものだから食いしん坊カルテットは『明日もステーキ!』って言ってもうそれ以外受け付けませんみたいな感じになっちゃって……。
ステーキ連チャンになんだかなぁと思いつつも本人たちがいいって言っているし、うちの奴隷たちにとってはたまの贅沢になるだろうし、なにより用意も楽だからいいかってことで宴のメニューのメインは炭火焼きステーキに決定。
「肉は……」
アイテムボックスを探りつつ、目ぼしい肉を出していく。
「やっぱギガントミノタウロスだろ~」
ドドンと取り出した肉塊はほどよくサシが入っていて実に美味そうだ。
ステーキにするならやっぱりこの肉は欠かせない。
「あとは当然これも」
またもやドドンと取り出した肉塊はダンジョン牛。
それも上位種。
ステーキにするならやっぱり上位種の方が美味いからな。
ギガントミノタウロスがサシが入ってる肉だから、赤身肉の方がいいかも。
ということでヒレとモモの部位をチョイス。
ダンジョン牛の赤身の部位も美味いんだよね~。
「それから……、ドラゴンの肉はさすがにやり過ぎだよな」
量も少なくなってきているしね。
ということで却下。
量で言うなら、アレがいいかな。
「リバイアサンだな。元がデカ過ぎてみんなであれだけ食ってるのに全然減らないし」
まだまだ在庫が大量にある。
リバイアサンは塩胡椒を振って焼くだけでも美味いうえに肉質が魚っぽいからギガントミノタウロスやダンジョン牛に比べたらあっさり食えるのもいい。
なにより俺が食いたいし。
俺にはステーキ連チャンはさすがに辛いわ。
「肉はこれでいいな。あとは野菜」
もちろんアルバン印の極うま野菜たちだ。
ジャガイモにトウモロコシ、タマネギ、ピーマン、ニンジンetcetc。
この野菜たちだがこれまた焼いて塩を振るだけでめちゃめちゃ美味いんだな。
その肉と野菜を切って切って切りまくって大量に用意する。
「ふ~。ステーキとグリル野菜の準備はこんなもんでいいかな」
あとは、ステーキには欠かせないステーキ醤油となにげに飲兵衛が多い従業員たちのために大量の酒を用意する。
ハイエルフ連中も意外と飲むし。
酒はビールにウイスキーにワインを。
リカーショップタナカで良さげなものをどんどんと購入していく。
「ビールはみんなわりとカパカパ飲むからなぁ~。たくさん用意しないと」
定番の銀色の奴に黒のラベルに星のマークのロングセラービール、Yビスビールに適当に地ビールなんかも用意してみた。
そして当然……。
「俺の好きなプレミアムなビールもね~」
ウイスキーもバルテルを筆頭に元冒険者連中が好んで飲むんだよな。
トニとアルバンも割といけるみたいだし。
ということで、角ばった瓶のウイスキーとヒゲのおじさんのラベルのロングセラーウイスキー、国産ウイスキー第一号として有名なウイスキー、黒い瓶が特徴のウイスキー、アメリカンウイスキーとして人気のお手頃価格のウイスキー等々今回もコスパ重視で選んだ。
「ワインはハイエルフ連中が大好きだし」
赤と白のお手頃セットがあったから、6本入りのセットをそれぞれ購入。
リカーショップタナカにはこういうのがあるから助かるんだよね。
「っと酒はこんなもんでいいかな」
ゴン爺がいるから足らないとは思うけど……。
「あんまり最初から用意すると、あの爺さんいい気になって飲むからなぁ」
いい加減自重してもらわないとね。
「よし。宴の準備はこれでOK」
みんなにた~んと肉を食ってもらおうじゃないの。




