第六百二十四話 従業員増員!(後編)
年末になりなんだかんだと忙しくなってしまいなかなか更新できず焦っていたのですが、なんとか年内更新間に合いました。
今年はあまり更新できず申し訳なかったのですが、来年はもう少し更新できるようになんとかがんばります。
今年は年始にアニメが始まってそのおかげで読者の方も増えた実感があり本当にありがたかったです。
今年も一年「とんでもスキルで異世界放浪メシ」をご愛読いただきありがとうございました。
そして来年も「とんでもスキルで異世界放浪メシ」をどうぞよろしくお願いいたします!
皆様良いお年を!
ラドスラフさんからご自身の御髪事情をつらつらと聞かされたが、おっさんの髪のことを聞かされてもねぇ。
右耳から左耳に抜けていくだけだ。
とは言っても、誰かに聞いてもらいたかった切実な事情ではあったようだからある程度まで聞いてあげたよ。
それから様子を窺いつつもう一つの目的の話を切り出した。
「あの~、今回も戦闘のできる奴隷が欲しいのですが」
「ほうほう、そうですかそうですか。それは運が良い。フフフフフフフ、先ほどお話したとおり良い戦闘奴隷が手に入りましたからねぇ。早速お見せしましょう」
自信ありげにラドスラフさんがそう言うと、従業員に指示を出した。
そして、従業員に連れてこられたのが……。
「おぅ……」
筋骨隆々でところどころに古傷が残る正に歴戦の戦士のような雰囲気の男が六人俺の前に並んだ。
「みんななかなかの面構えでしょう。小国群でも有名なあの“暁の旅団”のメンバーなのですよ」
ラドスラフさんが自慢気にそう言うと、無精ひげを生やしてちょっとふてぶてしい雰囲気のある男が「“元”なぁ」と突っ込みを入れた。
「おお、そうでしたな。しかし、メンバーだったことは間違いのない事実。特にこの男は“暁の旅団”の幹部として知られております」
突っ込みを入れた無精ひげのふてぶてしい男の肩をポンポン叩きながら、ラドスラフさんがにこやかにそう言った。
「なるほど。みなさん強そうですね。……それで、“暁の旅団”というのは?」
そう聞いたらラドスラフさんがズッコケた。
「そこからですか……」
だって知らないんだからしょうがないでしょ。
ラドスラフさんの話によると“暁の旅団”というのは小国群の中で三本の指に入る傭兵団で、規模もさることながら所属している傭兵の戦闘力の高さにも定評があり、小国群周辺で傭兵を雇うとなればまず最初に“暁の旅団”という名前が上がるほどに名実ともに超一流の傭兵団とのことだ。
傭兵団というと対人特化と思われがちだが(実際にそうではあるのだが)この“暁の旅団”に限っては対魔物に対しても高い戦闘力を持っているという。
それというのも、傭兵団にしては珍しく積極的にダンジョンに潜ったり商隊の護衛任務も受けたりして対魔物に対する戦闘力も培っているそうなのだ。
そのことから小国群では対人・対魔物との戦闘をそつなくこなす“暁の旅団”は商人たちからの絶大な信頼を受けているとのことだった。
「小国群内の老舗はほぼ“暁の旅団”と契約していますな。長距離を移動する場合は信頼できる護衛が不可欠ですからねぇ」
それは確かに。
戦闘力も含めて不安がある護衛だったら気が休まる時がないもんね。
「特に幹部の戦闘力は冒険者でいうところのSランクに匹敵するのではと言われております」
「ほほ~、それはすごい」
ということはだ、幹部だったというあの無精ひげを生やした男は相当強いってことか。
だからこそ不思議に思った。
「彼らはなんで奴隷に?」
言っちゃあれだけど、ルバノフ教総本山にいた聖騎士でさえ自称で見てくれだけって感じだったのに。
国で一番大事な総本山の守りがあれじゃあ他もたかが知れてるような気がする。
そういう相手にこの強そうな男たちじゃあ勝負にもならないと思うんだけど。
それともこの男たちを打ち負かすような強者がいたのかな?
「ホホホホホ、それがですねぇ」
「おっと、そこからは俺らが話すぞ。自分たちのことだからな」
無精ひげを生やした男がそう言うと、他の面々も苦々しい顔をしながら頷いていた。
「まぁ、要は仲間に裏切られたってことさ」
「おいっ、あいつらはもう仲間じゃねぇぞ!」
「そうだそうだ!」
「やっぱり途中からうちに入ってきた奴らは信用できないってこった」
「あいつら次に会ったら絶対ぶっ殺してやる!」
「おうよっ」
当時のことを思い出してかヒートアップしていく男たち。
そんな彼らを宥めつつ聞いた話をまとめると、こんな感じだ。
まだ名前も決まっていなかった彼らの傭兵団は、“暁の旅団”の幹部だった無精ひげの男が独立する際に彼を慕う者たちが集まって新しくできた。
団員は十一人と少数だが、戦闘力には定評のあるヤツばかりで士気も高かった。
なによりこの中で一番の戦闘力を誇る無精ひげの男は念願だった自分の傭兵団を立ち上げたことでヤル気に満ち満ちていた。
団員みんながこれからこの傭兵団を大きくしていこうと希望にあふれていたところ、“暁の旅団”の幹部だった無精ひげの男の伝手もあって傭兵団を立ち上げてすぐに仕事が舞い込んだそう。
それがルバノフ神聖王国の仕事だったというわけだ。
ルバノフ総本山へ向かう教会関係者の護衛任務だったのだが、ルバノフ神聖王国国内がゴタついていて誰が敵か味方か分からない状態だという。
国元から少し離れていることと依頼がルバノフ神聖王国という多少問題のある国からだったものの、あの国の聖騎士や冒険者のレベルがお察しだったのと、立ち上げた傭兵団が今のところ人種のみだったこと、なにより成功報酬も悪くない金額だったこともあって初手に受ける依頼としては良い話だろうという判断のもとにその教会関係者の護衛任務を受けたそうだ。
それが……。
「ロッコの野郎が教会関係者の口車に乗せられやがって」
ロッコというのは団員の一人で、いつの間にか教会関係者とベッタリな関係になってしまっていたそうだ。
「今思うとあの教会のヤツは魅了系のスキル持ちだったのかも知んねぇ」
「そうだとしてもだぞっ、無条件で従わせるほど強力な魅了系のスキル持ちなんていやしねぇだろうが」
「そうだそうだ。口車に乗っかったってことは自分の中にそういう気持ちが少なからずあったって証拠だぜ」
「そういうこった。それにあいつ狡賢いところあったからなぁ」
「ああ。俺たちみたいなのには珍しく口も達者だったしな。それもあって、他の奴らも仲間に引き入れられちまったんだろうけどよ」
「それにしたってよう」
「あいつらは俺たちとは違う。途中から入ってきた奴らばっかだからな」
なんでもここにいる男たちは“暁の旅団”内で結ばれた両親から生まれた生粋の傭兵団育ちで、それこそ生まれた時から一緒に育ってきたような仲間なのだそうだ。
それに比べてロッコも含めてロッコ側に付いたのは途中から“暁の旅団”に入団した団員だったようで、普段はそういう素振りはなかったにしろやっぱり絆の深さは違っていたんだろうと思う。
傭兵なんて特に命を預ける仕事なんだから、その辺はもしかしたらそれぞれ肌で感じていたのかも。
だからこそそのロッコというのも途中加入した団員にのみ話を持ち掛けたようだ。
「そんで寝込みを襲われちまってなぁ」
あっさりと拘束されてしまったらしい。
交代で見張りをしながらの就寝中のことで、後で気付いたことだがその見張りの組み合わせが生粋の傭兵団育ちと途中加入した団員とで分かれていたそうだ。
計画的な犯行ということなんだろうけど、これじゃあ油断と言い切れる状況でもないよね。
だいたい同じ傭兵団の仲間だと思ってたんだから組み合わせなんてそこまで気にはしないし気にもならなかっただろう。
逆にそこまで気にしていたら仲間なのに全く信用してないってのと同義だし。
傭兵が奴隷として高値で取引されることは周知の事実で、結局のところロッコとロッコに付いた団員は教会関係者の「今なら簡単に大金が手に入る」という誘いに乗っかったというわけだ。
当然持っていたものは全て没収されて、あとは流れるように奴隷商に売っぱらわれて今に至るそう。
「あいつら俺らが強いことを知ってるもんだから手も足もガッチガチに拘束しやがってよう」
「しかも、平気で殴る蹴るしやがって」
「あいつら絶対コロス」
売られた先の奴隷商でダメもとで「この国の教会関係者が関わってこんなことになってるんだぞ!」って訴えたらしいが、一般市民ならともかく裏の世界を知っている奴隷商がルバノフ教の教会関係者が腐っていることを知らないはずもなく当然無視。
そもそもルバノフ神聖王国の奴隷商など誘拐された子どもでも平気で取り引きするような鬼畜ぞろいだそうで、奴隷の話なんぞ聞く耳も持っていないという話だった。
「そこのラドスラフの旦那にも俺らが奴隷に成り下がった経緯は話はしたんだけどなぁ……」
「私は買っただけですからねぇ。あなたたちが自分を買い戻すお金をお持ちならいくらでも解放いたしますよ」
ま、そうなるわなぁ。
ラドスラフさんはあくまで商品を仕入れただけって話だもんね。
「ま、そんな理由で今は奴隷になっちまったってわけよ」
話を聞くと問題はなさそうなんだけどねぇ……。
「強いのは間違いないんですよね?」
「それはもう」
「自分で言うのもなんだがそれなりに自信はあるぞ。ま、お宅のその従魔たちには敵わないけどな」
やっぱりこの人たちくらいになるとフェルたちの強さも分かるか。
ってか、どんなに強い人でもフェルやゴン爺に敵うわけないもんね。
フェルやゴン爺ほどではないにしてもドラちゃんとスイだって強いし。
とはいえ、うちの警備をお願いする分にはまったく問題なさそうだ。
対人の戦闘もそれなりにできることから考えたら、もしかしたら冒険者よりも傭兵だったこの人たちの方が適任かもしれない。
ただねぇ……。
「傭兵っていうと乱暴者なイメージがあるんですけど……」
「“暁の旅団”は依頼者との関係も重視している傭兵団ですからね。その辺は団員にも徹底されていますから、無暗に乱暴狼藉は働きませんよ」
「傭兵は荒くれものが多いのも事実だから心配するのも分かる。だが俺たちは違うぞ」
「暴れるだけの阿呆は“暁の旅団”にはいられねぇからな」
へ~。
あ、商人の顧客も多かったみたいだからその辺は気を使っていたのかな。
しかし、話を聞いていると奴隷になったのは不本意って感じなのになんか俺に買ってもらいたいみたいなのは何でだろ?
「ええと、俺に買われるのは納得しているんですか?」
「まぁ、こうなっちまったものはしょうがねぇ。俺たちも油断していたってのもあるしな。それに、あの国で奴隷だったら追手がつこうがなにがなんでも逃げただろうが、この国なら問題ねぇ。奴隷の扱いもきちんとしているからな」
「この国に来れたことだけは運が良かった」
「ああ。あとはさっさと買ってもらって金を貯めたら自分を買い戻す。そんで俺らを裏切った連中をぶっ殺しに行くぜ」
おぅ、そういうことか。
「な、なるほど……」
「ハハハ、まぁそんなことを言ってますけど、どうなりますかねぇ? ムコーダ様の所は普通の奴隷の扱いとはだいぶ異なるようですし」
「おい、この国では奴隷の権利も保障されているんじゃねぇのか?」
ちょっと、ラドスラフさん言い方。
なんかみなさん勘違いしてるみたいでおっかない顔で睨まれてるんですけど。
「ホホホ、逆ですよ逆。扱いが良過ぎて、その裏切り者のことなんか忘れてしまうんじゃないかとね」
「「「「「「ハァ?」」」」」」
いや、みんなしてそんな変な顔で見ないで。
うちでは奴隷っていうより従業員っていう扱いなだけだから。
なんやかんや話を聞いて、ラドスラフさんにも彼等以外の戦闘奴隷となるとあとはギャンブルで借金漬けになったか酒で暴れて損害賠償金を払えずに奴隷になった冒険者しかいないと言われて、彼ら六人をうちに迎えることにした。
ラドスラフさんの激推しの戦闘奴隷とあって、以前にトニ一家とアルバン一家、タバサたちを買った時よりも大分高かったけれど、フェルたちの狩り三昧のおかげでとんでもない量の金貨があるから問題なかった。
こういう時じゃないと大きい金額が出て行かないからねぇ。
ということで、従業員ゲットだぜ。




