第六百二十三話 従業員増員!(前編)
有名なK-popアイドルの方(イケメン過ぎてビビった)がアニメを見て下さっていると知って嬉しくなった今日この頃。
もうちょっと更新がんばろうと思いました。
ここ最近はなんだかんだバタバタしていた(ほぼ押しかけて来たドラゴンLOVEなあの人のせい)のと神様たちへのお供えも済ませたので、翌日は久々になんの予定も入れずにまったりと過ごした。
フェルたちはつまらなそうだったけど、たまにはこういうなんにもしない日があってもいいもんだよね。
というか、個人的にはもっとあっても良いと思う。
まぁ、うちのみんなは狩り大好きな超々アクティブ派だから無理だろうけど。
フェルたちからも『肉ダンジョンはまだか?』なんて話がチラホラ聞こえてきているし、肉ダンジョンに行く前に予定していた奴隷増員を済ませておくことにした。
肉ダンジョンについてはデミウルゴス様が余計なことをしたのが気になるところではあるけど、もうなるようにしかならないと諦めている。
まぁ、うちのみんながなんとかしてくれるでしょう。
多分。
ということで、ランベルトさんから紹介してもらって以前お世話になった奴隷商の“ラドスラフ商会”へと向かった。
ちなみに暇だからという理由で、フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイも一緒にくっついて来ている。
記憶をたどり見落としそうな小さな看板を見つけて閉ざされたドアのノッカーを鳴らした。
ドアが開き、その隙間からスキンヘッドのゴツイ男が顔を覗かせる。
うん、この人前にも見たな。
「あの、以前お世話になったムコーダと申します。また奴隷が必要になったのでお伺いさせていただいたのですが……」
そう言うとスキンヘッドの男は無言のままドアを閉めた。
そして、少しすると再びドアが開き見覚えのある顔が。
「ラドスラフさん」
「お久しぶりですね、ムコーダさん。ご活躍は私の耳にも入ってきていますよ。で、そ、そちらが新しい従魔のドラゴンですね」
「ハハハ……」
ゴン爺を見て、海千山千な雰囲気のラドスラフさんの笑顔もさすがに引き攣っている。
ご活躍ってしたくてしているわけではないんだけどね。
フェルたちが動くと自然とそうなっちゃうというか。
「ささ、どうぞ中へ」
商会の主ラドスラフさんに促されて、俺たち一行は店の中へと入っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ヴィクトル一家です」
ラドスラフさんにはトニやアルバンのところと同じように家族ごとということでお願いしていた。
出てきたのは確かに家族のようだが、トニやアルバンたちの時とはなんだか様子が違った。
痩せて疲れ切った感じの夫婦と同じように痩せた男の子と女の子の子ども二人。
四人ともかなりビクビクした様子で、男の子と女の子は両親から離れまいと必死にしがみついている。
「お前たち、そんなに怖がらなくても大丈夫だ。この国では奴隷といっても無体なことはされないと話しただろう」
ヴィクトル一家の様子に苦笑しながらそう話すラドスラフさん。
「申し訳ありません。ヴィクトル一家はこの国の者ではないもので」
ラドスラフさんは定期的に他国にも奴隷を仕入れに出向くそうなのだが、今回、ソレス王国に向かい見つけたのがヴィクトル一家というわけだ。
「奴隷になってからそれほど経たないうちに私が買い上げたことで一家離散は免れましたが、あの国の奴隷の扱いには同じ奴隷商の私でさえ眉を顰めるほどですから短期間であっても……」
まぁトラウマものだよな。
ガイスラー帝国とルバノフ神聖王国とソレス王国での奴隷の扱いはひどいものだって聞いているし。
今回仕入れ先をソレス王国にしたのは、ルバノフ神聖王国のルバノフ教総本山で重大な問題が発生して、ルバノフ神聖王国とその属国扱いであるソレス王国で大きな混乱が生じているとの情報を得たからとのことだった。
ラドスラフさん曰く「そういう時こそ掘り出し物の奴隷が仕入れられますからなぁ」とのこと。
ラドスラフさんの話によると、ヴィクトル一家はソレス王国とフェーネン王国との国境に近い街で雑貨屋を営んでいたそうだが知人に騙されて借金を背負うハメになり家族全員奴隷落ちとなったそうだ。
「ヴィクトル一家は商家を営んでいただけあって共通語の読み書きと計算ができますし、今回は驚くほどレベルの高い戦闘奴隷も手に入ったのですよ」
そう言ってホクホク顔だ。
まぁ確かに自分の名前さえ書けないという人が多い中で、読み書きと計算ができるならそれだけで貴重だもんな。
………………ん?
ちょい待ち。
ルバノフ神聖王国のルバノフ教総本山で重大な問題が発生?
……少し前に俺たち行ってきたよなぁ。
ルバノフ神聖王国のルバノフ教総本山。
思い当たることしかないんだけど。
そっと振り返って俺の座るイスの後ろで我が物顔でくつろいでいるフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイを見る。
…………うん、知らなかったことにしよう。
っていうか、俺のせいじゃないよねっ。
みんながやり過ぎちゃったところがなくもないけどさ。
というか、そもそもがこの世界の創造神様の依頼だし~。
俺たちは悪くない。
そう、悪くないよね。
…………多分。
い、いや、考えてもしょうがない。
デミウルゴス様のご神託があったんだし、しょ、しょうがないことなんだから。
き、気持ちを切り替えよう。
「どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもないですっ」
あたふたする様子の俺に首を傾げるラドスラフさん。
「あ、あのっ、ヴィクトルさんたちに確認したいことがあるのですがっ」
「もちろんいいですよ」
誤魔化し成功。
って、確認したいというかしておかないといけないことがあるのは事実なんだけどさ。
「ええとですね、うちに来るとなった場合、同僚にエルフとドワーフと獣人がいますが、みなさんは大丈夫ですか? それから、ルバノフ教は私とは合わないところもあって……。ルバノフ教を信仰したいというならかまいませんが、私や他の従業員に強要するようなことはしてほしくないんです」
これ大事なこと。
ソレス王国というなら、ルバノフ教を信仰しているだろうし人族至上主義ということになるだろうからさ。
「ヴィクトル?」
ラドスラフさんが答えるように促した。
「……この身分に身をやつした時、私たちは信仰をきっぱり捨てました。なにせ、私たちを騙したのはルバノフ教の司教様でしたから」
おぅ…………。
一般市民を騙す司教様ってなんなのさ?
今までのこともあるしルバノフ教って結局のところ宗教の名を騙ったただの反社会的勢力やんけ。
そう呆れるとともに、ルバノフ神聖王国とソレス王国に混乱を生じさせてしまってはいるけど総本山をぶっ潰したのは正解だったのかもと考える俺。
「それに、この身分になってみて人族が至高の存在だなんてのは妄想だってことがよく分かりました。ひどい扱いを受けた私たちを気にかけてくれたのは亜人、いえ、獣人の方やドワーフの方、エルフの方でしたし……」
あ~、そういうことがあったのか。
しかもその気にかけてくれた獣人やドワーフやエルフだってヴィクトルたちと同じ奴隷だったんだろうな。
特に獣人は人が良過ぎるくらいに人が良いからなぁ。
極限状態でそんなことがあれば考えも改まるか。
「うん、そこさえ確認できれば。是非ともうちに来てもらいたいです。読み書き計算できる方は大歓迎というかぜひとも欲しい人材なので」
ランベルトさんの所との折衝をお願いしたいよ。
今はコスティ君に任せっきりになっているからコスティ君の負担がハンパないんだよ。
成人にもなってないコスティ君に任せっきりになっているのはずっと気にはしていたんだ。
コスティ君に心の中で「本当にごめん」と謝る。
「お買い上げありがとうございます。フフ、冒険者稼業とは別にいろいろとやっておられるようですからな。私も愛用させていただいておりますよ」
そう言って大事そうに懐にしまっていた瓶を取り出して俺にチラリと見せた。
「それは……」
ランベルトさんの所に卸している【神薬 毛髪パワー】だ。
「年々広くなっていく額に私も切ない思いを抱いていたのですが、これのおかげでホラこの通りですよ」
ファサッと前髪をかき上げるラドスラフさん。
良かったですねって、おっさんの髪ファサを俺に見せられても。
というか、【神薬 毛髪パワー】を俺が卸していること言ってないはずなんだけど。
とは言っても、ラドスラフさんはランベルトさんとも繋がりがあるし、海千山千の奴隷商なら分かっちゃうか。
「その辺はご内密に」
「分かっていますよ。私もこれがなくてはもう生きていけませんからね」
それほどかよ。
思わず苦笑いしてしまう俺だった。




