第六百二十二話 これ、やったでしょ!
皆様、お久しぶりです。
いろいろとご心配をおかけしましたが、ボチボチ更新を再開しようと思います。
まだまだ不定期更新となりますが、ちょっとずつ前のペースに戻せたらなと思っております。
長い間お休みをいただきましたが、またお付き合いいただけると嬉しいです。
それから、皆様からの声のおかげでありがたいことにアニメ2期の製作が決定いたしました!
『しっかり勤めを果たすのだぞ』
『主殿、先に休ませてもらうぞ』
『んじゃ俺らは先に寝てるからなぁ~』
『あるじー、おやすみ~』
「はいはい。みんなおやすみ~」
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイを見送り、俺一人リビングに残る。
「さてと、本日最後のお仕事やっちゃいますか」
毎回毎回騒がしくなるから面倒なんだけど。
まぁお勤めだから仕方がない。
ということで、天に向かってお声をかける。
「皆様、お待ちどお『キター! 待ってたのじゃー!』」
俺が言葉を言い終わる前に待ってましたとばかりに声が上がった。
…………ニンリル様、まだ声掛けの途中なんだけど。
かぶせ過ぎでしょ。
どんだけ待ってたんですか。
『早く早く♪ 甘味甘味♪ 妾の甘味~♪』
ウッキウキで歌うように甘味を出すように急かすニンリル様。
これはまた期間前に甘味切れしたな。
いい加減ちゃんとしたらいいのにね。
甘味だっていつもあんだけ大量に送っているんだからさ。
相変わらずのダメダメな残念女神具合に苦笑いしか出てこない。
そんな俺の様子にも気が付いていないのか、ニンリル様は超ご機嫌な様子で『甘味甘味♪ 妾のケーキにど~ら焼き~♪』と自作らしい歌を歌っている。
まったくなんて女神様なんだろうね。
まぁ、あまり待たせても発狂しそうだから早々に渡してしまおう。
「お待たせしました~。こちらニンリル様ご所望のケーキとどら焼きです。お受け取りくださいませ」
『ヤッホー! 妾の甘味! 甘味を手に入れたのじゃー!』
いつものごとくニンリル様の歓喜の声が。
まったく……。
毎度のこととはいえ本当に残念な女神様だよ。
『まったくいつもいつもうるさいわね~、ニンリルちゃんは』
『な、なんじゃと~キシャールめ! 愛してやまない甘味が手に入ったのじゃぞ! 喜びの声くらいあげてもいいじゃろうが!』
『あ~、ハイハイ。良かったわね。それじゃ用が済んだのなら、そこで中を広げないでさっさと退きなさい。邪魔なのよ』
『じゃ、邪魔じゃと?!』
『邪魔でしょうが。後がつかえているんだから』
『フンヌーッ! 妾は怒ったぞ! キシャールには絶対絶対ぜーったいに妾の甘味を分けてやらんからな!』
『いらないわよ、そんなの』
『そんなのじゃとーっ?!』
『本当に分かってないわね~。ニンリルちゃんはね、神だからって油断し過ぎなの。そんなに大量に甘い物を摂取していたらね、いくら神でも太っちゃうし吹き出物だってできちゃうんだから』
『ギクッ』
『ああ、そういやお前デコにポツッとニキビできてたな』
『なぁっ?! ア、アグニは余計なこと言うでないっ』
『やっぱりねぇ』
『ぐぬぬ。ル、ルカだって甘味をいっぱい食べているのじゃ!』
『ニンリルと一緒にしないで。私は若いから大丈夫。それに、ニンリルみたいに食べたいだけ食べるなんてことはしてない。ちゃんと一日に食べていい量は決めて食べてる』
『そうなのよね~。ニンリルちゃんはお腹いっぱいになるまで甘味を食べ続けているんですもの』
『ホント一度に食い過ぎだよなぁ。あんなに食って気持ち悪くなんないなんて不思議だぜ』
『甘味でお腹いっぱいにするなんて愚行。吹き出物ができるのも当然』
『ぐっ…………。うわぁぁぁぁぁん! みんながいじめるのじゃ~』
ダダダダダ―――。
騒々しい足音が聞こえた。
『あ、逃げた』
『逃げたわね』
『逃げた』
ニンリル様ェ……。
そりゃああれだけ甘いもの食ってりゃニキビの一つや二つできるか。
ってか、それだけで済んでるのは神様補正があるからだろう。
普通ならニキビだらけになると思うぞ。
恐ろしい。
でも、ニンリル様のことだから甘味を諦めるって選択はないんだろうなぁ。
肌荒れも魔法やら何やら使って強引に治して、なかったことにしそうだしね。
なにせ甘味命だから。
『はいはい、次は私の~』
へいへい、キシャール様ですね。
「えーと、キシャール様が希望していたアウトバストリートメントは全部そろっていると思うんですけど、そちらでも確認してみてください」
あれやこれやと指定されていたのは一応メモもとっていたからそろえられたと思うんだけど。
『ありがと~! 早く帰って中身を確かめないと。フフフ、使うのが楽しみだわ~。早速今夜から試してみないとだわね!』
興奮冷めやらぬといった感じなのか、カツカツとヒールのような足音を響かせながらキシャール様が去っていった。
ミルク、クリーム、オイルと使い心地も香りも違うからね。
美容オタクとなりつつあるキシャール様には楽しみだろうさ。
これだけあって使い切れるかどうかわからんけど。
まぁ満足してもらえたようだから良しだな。
『次は俺だな』
「リクエスト通りに量を重視して集めてみました」
量重視ビールの他に発泡酒・第3のビールも入れ込んだからね。
みんな箱買いしたからけっこうな数の段ボールが積み重なっている。
「でも、味もそんなに悪くないと思いますよ」
購入した発泡酒と第3のビールは自分でも過去に飲んだことがあるもので味も悪くなかったのを選んでるしね。
新しいものは試しに自分でも飲んでみたけど(そんなこんなで思いがけず昨日はプチ一人飲みができてちょっと嬉しかったぞ)悪くなかったし。
『おお、そうか。ありがとな~。これで飲み会もバッチリだぜ!』
アグニ様が『お前らよ、異世界の美味い酒にひれ伏すがいい。フヒヒ~』と妖しくつぶやいていたのは聞かなかったことにしておこう。
気を取り直して次は……。
『次はわたし』
「はい。ご希望のケーキとアイス。アイスはバニラ味を多めに集めてあります」
『ありがと。バニラアイスは至高』
はは、そうですか。
確かに美味いけど、ああいうのはたまに食うから美味いんだと思うんだけどね。
『わたしは毎日でも食べられる。というか毎日食べたい』
さいですか。
ま、まぁ、ほどほどに。
『大丈夫。ニンリルとは違うから』
おおう。
ニンリル様は、まぁ、うん、ちょっと生活見直した方がいいよね。
『じゃ』
トコトコとした足音が遠退いていった。
『…………よし、行ったな』
『ああ』
聞こえてきたのは恐る恐るといった感じの小声。
「ヘファイストス様、ヴァハグン様。なんで小声なんですか?」
『バッカ。内輪揉めしてるアイツ等に巻き込まれないために決まってるじゃろ』
『近くにいると巻き込まれるからなぁ。ああいう時のアイツ等には近づかないに限るぜ』
『そういうことじゃ。んで、儂らのウイスキーはどうじゃ?』
「もちろん問題なく……と言いたかったところなんですが、リクエストがあったものの中で何本か売り切れで購入できなかったものもあります。でも、その代わりに他の高級ウイスキーを選んでますのでご了承を」
『うんむ。残念だが手に入らなんだら仕方がないわい』
『そうだな。ま、お前が選んだほかのウイスキーを楽しませてもらうとするわ』
高級ウイスキーだと、専門店のリカーショップタナカでも在庫の関係で売り切れってこともあるみたいだからね。
そこは勘弁してくださいな。
「それじゃこちらです」
『おう。戦神の、今夜は飲み明かすぞ~!』
『当然だ! 鍛冶神の!』
高いのは味わって飲んでくださいよ~。
「よし。次は大トリのデミウルゴス様だな」
お呼びすると、いつもの『フォッフォッフォ』という笑い声が聞こえてくる。
「いつもの日本酒と梅酒、それからおつまみです」
『いつもすまないのう。寝る前にこのつまみと日本酒で一杯やるのがここのところの一番の楽しみじゃて』
「喜んでいただけて良かったです」
『うむうむ。そうじゃ、またダンジョンに行くそうじゃな』
まぁ、家の奴隷を増員してからになると思いますけどね。
それにダンジョンって言っても、いつもの難易度の高いところじゃなく肉ダンジョンですし。
『ほうほう。あの肉が獲れるところじゃの。それじゃあ、うむ。ホイホイのホイ』
え、『ホイホイのホイ』って、なんかやった?
ちょっと?
『日頃のちょっとしたお礼じゃて。そのダンジョンで良いことあるかもの~』
……やったな。
これ、やったでしょ!
そんなお礼いらないですって!
余計なことしないで下さいよ~。
『余計なこととはなんじゃ。良いことと言ったではないか~』
「いや、それで難易度上がったりしたら、そこで生活している人たちが困るでしょ」
『ふんむ。しかし、もうやってしまったしのう。一階層増やしただけじゃし、ま、大丈夫じゃろ。多分』
「え? 一階層増やしたって、どういうことですか?!」
『ま、そういうことじゃから。アディオ~ス』
「ちょっと! デミウルゴス様?!」
もうっ、『アディオ~ス』じゃないってば!




