第六百二十話 傷だらけのゴン爺
遅くなりましたがなんとか更新。
短めですが書いてて楽しかったです(笑)
アニメ最終回まで見ていただいた皆様、ありがとうございました!
本作らしいイイ感じの終わり方ですごく良かったなと思いました。
アニメは最終回を迎えましたが「とんでもスキルで異世界放浪メシ」まだまだ続きますので今後ともよろしくお願いいたします!
「夕飯出来たぞ~」
フェル、ドラちゃん、スイの下へできあがった夕飯を運ぶ。
今日はスイのリクエストでチーズINハンバーグだ。
『ワーイ! チーズの入ったハンバーグ~!』
『これもウメェんだよな~』
『うむ。これも悪くない』
みんなの大好物のから揚げほどではないが、ハンバーグもみんなの大好物だ。
特にチーズINはスイの大好物。
言わずもがなで、俺も嫌いじゃない。
トロッと中から出てくるチーズが肉に絡んでまた美味いんだよね。
そのみんな大好物のチーズINハンバーグをいざ食おうとした時……。
ゴンッ、ゴンッ―――。
ドアを叩く大きな音がした。
「なんだ?」
『我らの夕飯を邪魔する不届き者など放っておけ』
『そうだそうだ』
『ご飯~……』
夕飯を邪魔されて、みんな不機嫌な顔をしている。
「そういうわけにはいかないだろ~。いいよいいよ、俺が行くからみんなは食ってなよ」
早足で玄関に向かい開ける。
「はいは~い」
すると、視界に広がる黒光りする鱗が。
そして『主殿……』とバツの悪そうな顔をしたゴン爺がヌゥッと現れる。
「ゴン爺か」
『うむ……』
視線が彷徨ってなかなか視線を合わせないゴン爺。
気まずいのは分かるけど目を合わせなよ。
「ほら、中入んなよ」
ゴン爺を迎え入れて食事中だったリビングへと戻る。
無言のままゴン爺に冷たい視線を送るフェルとドラちゃん。
これ、嫌味でも言われた方がまだいいかもしれないわ。
重過ぎる雰囲気に耐えられなくなってゴン爺に声を掛ける。
「ゴン爺も食うだろ?」
『う、うむ…………』
ゴン爺の前にチーズINハンバーグの載った皿を置いてやる。
一応ゴン爺の分も用意してはいたからな。
とはいえ…………。
重い。
重いというか冷気が漂ってるぞ、ここには。
フェルとドラちゃんは憮然としまま黙々と食っているし、スイはチーズINハンバーグに夢中で重たい雰囲気には気付いてもいない様子。
というか、スイじゃわかんないだろうな。
ゴン爺はと言えば、視線をキョロキョロと彷徨わせてるけど、フェルとドラちゃんとスイをめちゃくちゃ気にしてるし。
しかし、ゴン爺の自業自得とはいえ(なにせ二度目だからな)ずっとこのままなのは俺も辛いぞ。
みんなの様子を窺いながらそんな風に考えていると……。
『わ、わ、儂に言いたいことがあるのなら言うがよかろうっ』
この微妙な雰囲気に耐えかねたのか、ついにゴン爺が声を上げた。
そんなゴン爺にとびきり冷たい視線を向けるフェルとドラちゃん。
『な、な、何じゃ』
『『………………』』
い、今、この部屋には冷気が渦巻いています。
フェルとドラちゃんのブリザード級の視線、恐ろしいです。
現場からは以上です。
って、逃げている場合じゃないけど、めちゃくちゃ怖いんですけど~。
俺に向けられたわけじゃないのに、見てはいけないものを見たようで思わず視線を逸らす。
お、お、俺が何とかしないといけないのか?
一応ではあるけど、主どしてこの場を収めなきゃならないと?
そ、そうなのか?
そう悶々と考えていると……。
『…………こんなに暗くなるまであのだらしない姿でグッスリ寝ているとはさぞや気持ち良かったのだろうなぁ』
『だなぁ。あんまり遅いから俺なんてあの場でもう二、三日寝て来るのかと思ったぜ』
『ぐっ……』
フェルとドラちゃんの嫌味がゴン爺にヒットする。
『酒に酔って腹を見せて寝コケるとは、情けないを通り越して笑えるわ』
『うんうん。しかも、これで二度目だもんなぁ~』
『ぐぬっ……』
フェルとドラちゃんの嫌味がゴン爺に再びヒット。
『あんなだらしない姿で寝ていたのが最強種の一角たる古竜だとはなぁ。呆れかえるしかないわ』
『だなぁ。あの姿を見たらドラゴン種最強ってのも冗談にしか思えないぜ』
『ぐぬぬぅ』
フェルとドラちゃんの嫌味がゴン爺に大ダメージを与える。
息も絶え絶えなゴン爺。
ここで弱り切ったゴン爺が救いを求めて俺に視線を向けた。
イヤイヤ、無理だから。
お願いだからこっち見ないでくれるかな。
さっきはなんとかしないとなんて思ったけど、フェルとドラちゃんを見てたらこりゃ無理って分かったわ。
うん、無理。
だいたいさ、フェルとドラちゃんの言ってることは全部正しいし。
そもそもの話、ゴン爺の自業自得だろう。
ということで、諦めろゴン爺。
ゴン爺に向かって首を小さく振って拒否するが、なんとかしろと縋るように見てくるゴン爺。
いやだからね……。
『あ、あ、主殿はどう思っているのじゃっ?!』
え?
ちょっと、ここで振る?!
ゴン爺だけでなくフェルとドラちゃんの視線も俺へと向けられる。
「え? いや、そのな、えーっと………………。フェル、ドラちゃん、ほどほどにな」
『『お主は黙ってろ』』
「…………はぃ」
極寒の視線でフェルとドラちゃんに『『黙ってろ』』って言われた。
もうどうしようもないよ。
ゴン爺よ、健闘を祈る。
今にも死にそうな顔をしたゴン爺にフェルとドラちゃんが追撃する。
『古竜を倒したければ酒をしこたま飲ませるといいと触れ回りたい気分だわ』
『そりゃあいい。そこら辺の木っ端冒険者でも、それなりの武器さえそろえば簡単に古竜が倒せるんだからなぁ~』
思いっきり悪役顔のフェルとドラちゃんがそう言う。
言われていることが事実なだけにゴン爺も反論できないのであろう。
『そんなんで最強を名乗るとは片腹痛い』
『だよな~。ドラゴン最強種だぜ、笑っちまう。プププ』
『ぬぅぅ~…………』
もうやめてあげて。
ゴン爺が瀕死だよ。
『あるじー、おかわり! あ~、ゴン爺ちゃんは食べないの~?』
「ス、スイ、今はな」
お、お願い。
スイちゃん空気読んで。
無理かもだけど。
『だってゴン爺いちゃん暗くなるまでねんねしてたんでしょ~? 朝見たとき前みたいにお腹出して『グゴォ~』ってイビキかいて気持ち良さそうに寝てたもん。 なのにお腹空いてないの~?』
『ククク。スイやるな』
『ブフッ。さすがスイ』
スイちゃん……。
素直なだけに、その言葉がときには致命傷になるんだよ。
ゴン爺ちゃんを見てごらん。
ガックリと項垂れて今にも倒れそう。
ゴン爺のライフはもうゼロよ。
無言のままこの場を見ていた俺は引き攣った笑みを浮かべながらスイにおかわりを出してあげたのだった。
懲りないゴン爺ですがこれで少しは懲りたかな、なんて。
ゴン爺と酒にまつわる話は書いていて楽しいのでまた書きたいかも。




