第六百十八話 大酒飲み
今日は、大分待たせてしまったが、ゴン爺がブルーノさんたちと約束した酒宴だ。
昨日、ヨルゲンさんたちの旅立ちを見送った後、都合を聞くためにブルーノさんの事務所によったんだけどさ……。
みなさん仕事に出た後で、アニカさんしかいなかったけど、アニカさん曰く「明日で大丈夫だよ。ってか、みんな酒宴なんて聞いたら仕事にならないさ」とのことで。
アニカさん自身もドワーフでドワーフの性を知り尽くしているから豪快に笑ってたわ。
そういうことで、急遽酒宴開催が決まったというわけだ。
とは言っても、昨日の午後は丸々時間があったから準備も余裕で進められた。
酒が飲めるってことでブルーノさんの所は言うまでもなく全員参加だろうし、こういう宴は人数が多い方が楽しいだろうからうちの従業員たちやハイエルフのみなさんも全員参加で。
大酒飲みのドワーフが多数来るということで、とにかく酒ということで酒だけはしこたま準備。
最初にね。
酒の種類はビールにウイスキーで。
他のラム酒やらブランデーやら日本酒やらと出すとキリがなくなりそうだからね。
その代わりと言ってはなんだけど、ビールは辛口キレ味と言えばコレな銀色の奴やら根強いファンも多い黒のラベルに星のマークの定番ロングセラービールやら、麦本来のうま味を引き出したクリアな味わいでファンが多いビールに俺も大好きなプレミアムなビールと言えばコレなビールやら、そしてコクのある味わいで定評のあるYビスビールやらの五種を用意。
ウイスキーは手ごろな値段のウイスキーと聞いたらこれを思い出す亀の甲羅のような模様と角ばった瓶が特徴のウイスキーとヒゲのおじさんのラベルが印象的なロングセラーウイスキー、ハイボールや水割りにするならコレなこちらもロングセラーウイスキーに日本で一番販売されているというスコッチウイスキー、世界で最も売れているバーボンとも言われる定番バーボンウイスキーのこちらも五種を用意。
ウイスキーは完全にコスパ重視で選んだよ。
そして、料理の方は大人数でワイワイ食えるようなものを。
大人数でワイワイ、しかも大人から子供まで受けがいいとなるとピザもありだなと、アイヤとテレーザにピザの準備をお願いしておいた。
そして、大人数でワイワイとなればやっぱりBBQでしょってことでその準備も。
当然肉は多めというか大量に用意して、野菜はそこそこ。
でも、質は超高品質だぞ。
なんてったってアルバンに頼んで収穫してもらった新鮮採れたて畑直送のアルバン印の極うま野菜だからな。
タマネギ、ピーマン、トウモロコシ、ナス、ジャガイモ等々。
個人的には一番楽しみだったりするんだよな、野菜。
従業員のみんなもハイエルフのみなさんも楽しみなのかどことなくソワソワしていたよ。
うちのみんなも肉がたらふく食えると嬉しそうだ。
特にゴン爺は酒が飲めると目に見えてご機嫌だった。
まぁそんな感じで酒宴準備を進めていって今日を迎えたわけだ。
場所は石窯のある母屋の裏手。
従業員たちの家の前だ。
さて、準備は万端。
石窯の方も火が入れられて、あとはピザを焼くばかりになっているし、俺のBBQコンロも火入れして肉を焼くばかりとなっている。
「ムコーダさん、親方たちが来たぜー」
知らせに来たのはルークだ。
そして、少し後からアーヴィンに連れられてやってきたブルーノさん率いるドワーフ軍団。
「お邪魔するぞ! 昨日から楽しみにしていたんじゃ!」
「よろしくのう。たんと酒を飲ませてくれい!」
「どんな酒が飲めるのか楽しみだわい!」
「今日は飲みに飲むぞい!」
「酒じゃ酒じゃ酒じゃー!」
…………酒、足りるかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「プッハ~、美味い!」
「この喉の奥がカーッと焼けるような酒精がたまらんわい!」
「このなんともいえぬ香りも最高じゃぞ!」
このドワーフ軍団、ビールを一通り飲んで味わった後はウイスキーばかり飲んでいる。
しかもゴッゴッゴッとまるでビールを飲むように、こちらでそろえた陶器製のタンブラーに入ったウイスキーを飲み干す小さいおじさんたち。
酒精が高い酒なんだからそんな飲み方したらダメだと何度も注意したのだが、俺が渡していたウイスキーもそういう飲み方をしていたらしく、「ドワーフだから大丈夫」の一点張りで聞きゃあしない。
ブルーノさんの奥さんのアニカさんに「ドワーフが酒のことで言うことをきくわけがないんだから放っておきゃいいのさ」と言われて、放っておいている。
そのアニカさんは「アタシだって酒は好きだけど、あの酒が酒精が強いってのは分かってるからねぇ。今日はこっちを楽しませてもらうさ」とうちの従業員に交じってビールを楽しんでいる。
とは言ってもさすがドワーフ。
アニカさんもカパカパとビールを空けていらっしゃるが。
ウイスキーを飲むドワーフ軍団に交じっているのが、うちの従業員のバルテルとゴン爺だ。
バルテルはもともとウイスキー好きだからねぇ。
ブルーノさんたちに負けじとウイスキーをゴクゴク飲んでいる様子。
そしてゴン爺もだ。
あの巨体でゴクゴクとドワーフの倍以上ウイスキーを飲んでいるわ。
『あるじー、お肉もっとちょうだい!』
『我もだ』
『俺も! あ、あとピザもな。肉の載ったやつ!』
『スイもお肉のピザ食べる~』
『むむ、我もだ』
「はいはい。ちょいお待ち」
フェル、ドラちゃん、スイの皿に追加のおかわりを盛ってやる。
大分食っているはずなのだが、未だ食欲は衰えないようでガツガツと食っている。
フェル、ドラちゃん、スイは食う方に全振りでBBQとピザを大いに楽しんでいるようだ。
酒ではなく甘いジュースをお供にね。
俺はビールを少々。
BBQとピザのお供には最高だからね。
うちの従業員も慣れたものでBBQとピザにはビールがベストマッチなのは分かっているから冷えたビール入りのタンブラー片手に大いに楽しんでいるようだ。
ハイエルフさんたちもそれに倣って大いに楽しんでいるご様子。
フェルたちに再びおかわりを要求されて出してやり、俺自身はそろそろ腹も膨れてきたしアイスティーでも飲んで一服するかと思っていると、先に俺が土魔法で作った椅子に座って休んでいる一団が。
「ん? セリヤちゃんとエーリク君とロッテちゃん、食わないのか?」
「お腹いっぱいだから一休みしてるの」
ロッテちゃんがそう言うと、セリヤちゃんとエーリク君もウンウンと頷いている。
「ピザが美味しいから食べ過ぎた」
腹をさすりながらそう言うエーリク君。
それに続いて恥ずかしそうに「私も」と言うセリヤちゃん。
「でもね、一休みしてまたお腹空いたら食べるよ!」
フンスとそう言うロッテちゃん。
「うんうん。いっぱい用意してあるからいっぱい食べな。あ、そうだ。飲み物くらいは大丈夫?」
そう聞くと三人とも頷いたので、冷えたオレンジジュースを渡してあげた。
「美味しい~」
セリヤちゃんとエーリク君とロッテちゃんが美味しそうにオレンジジュースを飲んでいるのをほっこりしながら見ていると……。
『おーい、主殿~』
ゴン爺に呼ばれた。
仕方なく飲兵衛たちの所に向かう。
陽気で超ご機嫌なドワーフ軍団。
至る所から野太い笑い声が飛び交っている。
…………酒クサッ。
ウイスキーの臭いがそこら中からプンプン漂っているよ。
「ゴン爺、なんだ?」
『いやのう、もう酒がな』
そう言って硬い爪二本でウイスキーの空瓶をつまんで振っている。
「は?」
ちょ、ちょっと待て。
あれだけ用意したウイスキーがもうないだと?!
『ドワーフとは大酒飲みじゃからのう』
ゴン爺がそう言うと、ドワーフ軍団から「なにを言うか。ドラゴン様もじゃわい」「そうじゃそうじゃ」と声が上がる。
『ま、そうかのう。ワハハハハハ』
あれだけ用意したけど、ドワーフには少なかったのか。
ドワーフ恐るべし。
ドワーフの飲みっぷりに戦々恐々としながら追加のウイスキーを補充した。
そして、一応の声掛けも。
「みなさん、ほどほどに」
聞いているのか聞いていないのかおざなりに「おお」と言いながら手を上げる小さいおじさんたち。
ついでに前科のあるドラゴンにも。
「ゴン爺もだぞ。くれぐれも前みたいになるなよな」
『分かっておるわい』
本当に分かっているのかねぇ。
豪快に笑いながらウイスキーをゴクゴクと飲むドワーフ軍団&ドラゴンの大酒飲みどもをジト目で見やる俺だった。




