第六百十六話 羽目を外して飲み過ぎた
616話の差し替え分です。
以前に酒のことについては触れているというご指摘があり、確認すると確かにありました。
長期連載あるあるで以前の設定をド忘れしていました(汗)
なので急遽直しましたので、既読の方はお手数ですがもう一度読んでいただければと思います。
よろしくお願いいたします。
昨日はえらい目にあったわ……。
あれから酔っ払ったスイをみんなでなんとか宥めすかしつつ、陽が落ちてあたりが暗くなる頃にようやく寝かしつけた。
大きな被害はなかったものの俺もフェルもゴン爺もドラちゃんも最後はヘトヘト。
いつだって食欲旺盛なはずのフェルたちも『とにかく疲れた。今日はもう寝るぞ』と夕飯を食わずに床に就いたくらいだ。
その分今朝の朝飯はとんでもない量になって、作り置きしていたものがきれいサッパリ無くなっちゃったけども。
作り置きもそれなりの量あったんだけどねぇ。
まぁそれは置いておいて、俺も昨日はしくじったなぁ。
最初にスイに「これはお酒が入っているからダメだよ」ってしっかり言い聞かせておけばよかったよ。
きっとお手伝いしたし味見してもいいんだって思っちゃったんだろうなぁ。
ハァ~。
スイにも悪いことしたよ。
しかし、スイがあそこまで酒に弱かったとはねぇ。
でも、落ち着いてよく考えたらさ、おかしいっていうか疑問があるんだよな。
スイって水の女神ルサールカ様の加護があるじゃん。
加護があると状態異常無効のはずなんだよな。
フェルは『毒や病気はもちろんのことありとあらゆる状態異常を無効化する』とか言ってたけど……。
……………。
いや、待てよ。
そういや前になんか聞いてたかもしれない。
ネットスーパーで買った酒のこと。
酒のことならっていうんじゃないけど、酒好きコンビのヘファイストス様にヴァハグン様に。
えーと、確かあの時は……。
そうだ!
あれはエイヴリングのダンジョンを踏破した記念の祝勝会の時だ!
知り合いのアークの面々と影の戦士の面々参加で、あの時はしこたま飲んだんだよな。
そんで、案の定ひどい二日酔いになっちゃって……。
でだ、酒のこととなればあの酒好きコンビが黙っていなかった。
祝勝会では俺も気張っていろんな種類の酒だしちゃってたしねぇ。
確か翌日すぐに神託が来て……。
そん時にブチブチ文句言われてさ、ひどい二日酔いの俺に『俺らの加護もさすがに異世界のものにまで影響はないからなぁ』って言ってたんだ。
思い出した思い出した!
ということはだ、スイにもバッチリ効いちゃうってことか。
しかも菓子に使っただけの酒でもあんなに酔っちゃうくらいだから、これからはスイの前では酒の扱いには特に注意しなきゃだわなぁ。
そう考えながら昨日のスイの様子を思い出す。
「冗談じゃなく家が無くなるかもしれない……」
崩れ落ちた家を想像して青くなる俺。
「も、もう酒の効いた菓子を作るのはやめとこ…………」
そういや神様のことで思い出したわ。
「もうそろそろお供えもしなきゃなぁ」
面倒だけど。
ま、一段落ついたら追々だな。
「おっと、こうしちゃいられない。みなさん昼前には出発するって言ってたから、ヨルゲンさんとアデラさんにお土産渡してこないと」
お二人とモイラ様とウゴールさん並びに護衛の方たちは街の門の前で合流して王都へ出発するって言ってたな。
護衛にはAランク冒険者パーティーが2チーム付いているそうだ。
ちなみにこの費用も当然エルランドさん持ちとなる予定。
モイラ様が「Aランク冒険者パーティー2チームで王都から往復の護衛だ。これだけでもそこそこの金額になるんだよ。それが今回は緊急依頼だからねぇ。どんどんどんどん彼奴が払わなければならない金が増えていく。最終的にはどれくらいになるか見ものだよ」と言ってニヤリと笑っていた。
めっちゃ怖かった。
そんな怖い話は置いておいて、門の方へはお見送りに行くけど、その前にお土産だけは渡しておきたい。
なんだかんだでけっこうあるからね。
ということで、ヨルゲンさんちにレッツゴー。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
コンコンコン―――。
ノックしても誰も出てこない。
「あれ? いないのかな……」
でも、出発の時間も迫っているし、どっかに出かけているってことはないと思うんだけど。
コンコンコン―――。
「ヨルゲンさん、アデラさん、いますか~?」
もう一度ノックして声を掛けてみた。
すると、ガタガタッという物音と「ううぅっ」という呻き声が聞こえてきた。
え?
「ヨルゲンさんっ?! 大丈夫ですかっ」
ドンドンドンッ―――。
今度は強めにドアを叩いた。
そして、ようやくカチャリとドアが開いて、ヨルゲンさんが顔を出した。
「あ゛~、ムコーダか……」
ひどい顔をしたヨルゲンさんがいた。
「ど、どうしたんですか? なんかひどい顔してますけど」
とは言っても、ひどい顔でも美男は美男だってのが少々ムカつくところだな。
「あ~、いやなぁ……」
顔をさすりながら、なんだかパッとしないヨルゲンさん。
その様子に少々不安を覚える。
「もうすぐ出発の時間ですけど、大丈夫です?」
「…………出発? ………………出発! そうだっ、王都っ! アデラッ、アデラーッ! いっつぅぅぅ」
最初はなんのこっちゃという顔をしていたヨルゲンさんが、ハッと思い出したように大声で叫んだ。
だけど、なんか頭を押さえて蹲っちゃったんだけど……。
「ヨ、ヨルゲンさん、もしかして具合悪いんですか?」
俺がそう聞くと、ヨルゲンさんがヨロヨロと立ち上がった。
「い、いや、そのな、島でも最後まで一緒だったみんなと別れるってことで…………」
ヨルゲンさんが気まずそうな顔でチラチラと俺を見る。
そして、小さい声で言い訳のように話していった。
「ハァ~。要するに羽目を外して飲み過ぎたと」
「面目ない……」
「えーっと、アデラさんは?」
「あそこに……」
ヨルゲンさんがドアをそっと開けて顔を部屋の中に向けた。
俺もそれに従って中を覗くと……。
おぉ…………。
ハイエルフさんたちが死屍累々。
アデラさんもテーブルに突っ伏して死んだように寝てるわ。
ってか、さっきヨルゲンさんが大声で呼んだのにもかかわらず起きてもいないよ。
しかし、あの状態じゃあ……。
「今日の出発は、無理そうですね」
「すまん…………」
いや、俺に謝られてもねぇ。
まぁヨルゲンさんたちの気持ちも分からないでもないけどさ。
みなさんしかいなかったあの島で何百年も一緒に過ごした仲なわけだし。
で、やっと人がいる街中に帰ってきて暮らし始めた直後に離れるわけだからな。
羽目を外して飲み明かすってのもしょうがないか。
とは言っても、とりあえずは出発は延期にしてもらわないとどうにもならないわな。
「モイラ様とウゴールさんには俺が知らせておきますよ」
「すまんが頼む。明日には必ず出発できるようにするから」
「とにかく今はゆっくり休んでください」
そう言ってお暇した。
「フェルたちはどうせ寝てるだろうし、このまま冒険者ギルドに行くか」
そう考えて、何度も通った冒険者ギルドへの道のりを一人で歩いて向かったのだった。
冒険者ギルドに着くと、モイラ様とウゴールさんがギルドマスターとロビーで話しているところだった。
あちゃー……、あの様子だとギルドマスターに挨拶して門に向かうところだったのかも。
「ん? ムコーダじゃねぇか。どうしたんだ?」
いち早く俺に気付いたギルドマスターが声を掛けてきた。
「いやぁ、実はですね…………」
かくかくしかじかとヨルゲンさんとアデラさんの状況を説明した。
「フハハハハッ。あの人らでも羽目を外すんだな~」
俺の話を聞いてギルドマスターが大笑いしている。
まぁみなさん見た目は絶世の美男美女だもんなぁ。
羽目を外して飲み過ぎるなんて俗物的なことはしなさそうだもの。
「まぁそんなに笑わないでやってくださいよ。ヨルゲンさんたちもずっと何百年も一緒にいた仲ですから、いろんな思いもあったんでしょう」
「そう言われるとそうだわなぁ。そんな長い間一緒にいた仲間と別れることになるんだからよ」
ギルドマスターがそう言うと、ばつの悪そうな顔をするモイラ様とウゴールさん。
「アタシらも急かし過ぎたね……。反省するわ」
「ですね」
「今はゆっくり休むように言ってありますんで、ヨルゲンさんもアデラさんも明日には大丈夫でしょう」
「ああ。出発は明日に延期だね。まぁ、その分護衛の費用もかさむからアタシには願ってもないことだわさ」
「フフフ、そうですねぇ~。その分あの方にはしっかりと働いてもらいましょう」
ニヤリと笑うモイラ様とウゴールさん。
「あいつ、借金地獄だな……」
引き攣った顔でそうポツリとこぼしたギルドマスター。
エルランドさん、冒険者ギルドに支払わなきゃならない金額がどんどんどんどん増えていってますよーっ。
ま、まぁ、精一杯がんばってくださいね。
~その頃のエルランド~
ドンドンドンッ―――。
「ヨルゲン爺っ! ヨルゲン爺っ!」
ドンドンドンッ―――。
「まったくもう~、なんなんですか! さっきから何度も声を掛けているというのに。まぁでも、そういうことなら今日は冒険者ギルドへは行かなくともいいんでしょう。行ったら最後、ヘトヘトになるまで働かされるだけですからねぇ。今日はゆっくり休ませてもらいましょう」
グゥ~……。
「しかし、腹が減りました。ヨルゲン爺は、私に激怒していましたけど、食事をさせないというのはあんまりです。…………そりゃあまぁ、私もちょっとやり過ぎたかもとは思いますけど。でもですよ、私のことを犯罪者みたいに扱うのはどうかと思いますね。私はゴン爺様とドラちゃんに、いろいろとお聞きしたかっただけなのに。これはドラゴンというものを知るため、そしてその知識を後世に残すためにも非常に重要なことなのに。それに今回はただムコーダさんに魔剣を返しにきただけなのですよ。だというのに…………あ、そういえばアイテムボックスの中に干し肉があったような」
アイテムボックスの中をまさぐる。
「あった、あった」
カチカチの干し肉に嚙り付きながらベットに横になる。
「ハァ~、今頃ゴン爺様とドラちゃんはどうしているのでしょうか? お会いしたいですねぇ」




