第六百十四話 チラッ チラッ チラッ チラチラッ
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明日は4話目の放送となりますので、明日も是非ご覧ください。
昨夜の話し合いの結果、ヨルゲンさんとアデラさんはエルランドさんの監視としてドランの冒険者ギルドに就職することが決まった。
モイラ様とウゴールさんも一安心という感じだったけど、それで話は終わらない。
なにせ、王都にいたエルランドさん、何もかも振り切ってここカレーリナの街へとやって来たわけだからさ。
その所業にに王都冒険者ギルドのお偉いさん方もカンカンに怒っていらっしゃるという。
モイラ様曰く「窃盗犯として突き出してやれ!」なんて過激な意見も一部では出ていたのだそうだ。
俺から借りていた“魔剣カラドボルグ”を無断で持ち出したも同然だからね。
そういう意見が出てくるのも分かる気はするよ。
だけど、エルランドさんも一応ではあるがまだドランの冒険者ギルドのギルドマスターという身分。
冒険者ギルド、しかもギルドマスターという立場の者から犯罪者を出すというのも世間体が良くないという意見が大半で、犯罪者になるのは免れたようだ。
とは言っても、お偉いさん方の怒りが収まったわけではなく、エルランドさんには今回の一件でかかった諸費用とそれと同額の賠償金を支払わせるということが全会一致で決まっているとのこと。
「今回の一件では、Sランクパーティーが何組も動いているからねぇ。安くない金額だよ。彼奴は相当先までただ働きになりそうだ」
モイラ様がため息を吐きながらそう言っていた。
それにだ、諸費用&賠償金の支払いは当然のこととして、お偉いさん方の怒りはそれでも収まっていないらしく……。
「王都の冒険者ギルドへ彼奴を引っ立てなければならんのさ。そこで吊し上げられる予定さね」
そうモイラ様が言っていた。
そして、「アタシも当然吊し上げる側に入るけどね」と言ってニィと笑っていた。
モイラ様、コワッ。
ま、まぁ、相当腹に据えかねていらっしゃるようだから、当然と言えば当然なんだろうけども。
エルランドさん、やらかしてばっかりなんだものね。
というわけで、聞けばなるはやで王都に戻りたいとのことだった。
ヨルゲンさん&アデラさんもそれについては承知済。
なにせ、身内であるエルランドさんのことだからね。
ただ、いろいろと他のハイエルフさんたちに説明しなきゃいけないってことで一日だけ待ってくれという話で、それについてはモイラ様とウゴールさんも了承済だ。
お二人とも「急かして本当に申し訳ない」って恐縮しまくってたよ。
本当ならヨルゲンさんとアデラさんの送別会をやりたいところなんだけど、そういう理由で時間がなくてそれもままならず。
なので、今日のうちにお二人に渡す料理を作ろうかなと考えている。
お二人とも俺の料理を食うの楽しみにしていてくれたのに、あまり食わせられないまま送り出すことになっちゃったからさ。
肉をドカンと渡すことも考えたけど、ハイエルフさんたちは料理はあんまりだからね。
ということで、料理だ。
聞いた話によると、アデラさんのアイテムボックスは時間の経過がかなり緩やからしいから。
確か通常の8分の1くらいとか言ってたかな。
とは言え俺のアイテムボックスのように時間停止ではない。
だから、冷めても美味いものをと考えたんだけど、それならアレしかないかなと思っている。
豪華にローストドラゴンだ。
周りをしっかり焼き固めるから、冷めてもイケる。
切ってそのまま食ってももちろん美味いし、パンに挟んでも美味いしね。
なにより、グリーンドラゴンのステーキであんなに喜んでくれていたんだから、同じグリーンドラゴン肉を使ったローストドラゴンもきっと喜んでくれるだろう。
「それじゃあ作っていきますか」
王都へ戻る道すがら、一つはモイラ様やウゴールさんたちと食ってもいいだろうと思い、大きめのグリーンドラゴンの肉塊を二つ用意した。
素材がドラゴンだから、エルランドさんが騒ぎそうだけど、口に入るかどうかはヨルゲンさん次第だろうなぁ。
まぁ、そこはお任せだ。
今までの様子からみても、ヨルゲンさんがエルランドさんに引けを取ることはまずなさそうだからその辺は大丈夫だろう。
っと、そんなことより作業開始だ。
まずは、グリーンドラゴンの肉塊におろしニンニクと塩と黒胡椒をスリスリ。
それを30分程置いてから、フライパンに油をひいて肉の全面に焼き色が付くまで焼いていく。
クッキングシートを敷いた天板に全面に焼き色を付けたグリーンドラゴンの肉塊を置いて……。
「あとはオーブン任せだ」
様子をたまに見つつ、ソースの準備を。
今回は、肉汁を使った和風タマネギソースにしようかなと思う。
どんな肉にでも合うし、今回のローストドラゴンにもバッチリだろう。
ということで、タマネギをスリスリスリスリ。
状態異常無効化が功を奏しているのか、目に染みないのが地味にありがたいぜ。
様子見でオーブンの中を覗いていると、背後に気配を感じた。
振り返ると、爛々と目を光らせた食いしん坊カルテットが。
「な、何だよ?」
『昼はドラゴン肉か? 気が利くではないか』
『うむうむ。楽しみじゃわい』
『昼からドラゴンかよ! めちゃくちゃ豪華じゃねぇか!』
『ドラゴン~!』
チッ、匂いで食いしん坊が集まってきちゃったか。
ってかさ、このローストドラゴンを自分たちの昼飯と勘違いしてる?
「あー、楽しみにしてるところ悪いけど、これ、昼飯じゃないぞ」
『なぬっ?!』
『儂らの昼飯ではないのかっ?』
『おいおい、どういうことだよ?!』
『食べられないの~?』
「いやさ、お前らにも朝飯の時に話したじゃん。ヨルゲンさんとアデラさんが、エルランドさんの監視として付いていくんだってさ」
本当なら送別会を開いて送り出したいところが時間に余裕がなくて、代わりと言っては何だけど俺の作った料理を渡そうと思って作っていたんだとみんなに話した。
そうしたらみんなガーンってな顔しちゃって見るからに落ち込んじゃってさ。
『わ、我のドラゴンの肉が……』
『ドラゴン肉にありつけると思ったのにのう……』
『何だよ、ドラゴン肉が食えるって期待してたってのによ……』
『ドラゴンのお肉~……』
エェェ~、そんな落ち込むこと?!
「何だよっ、いつもちゃんと肉を食わせてるだろ」
『ドラゴンの肉は別格だ』
『そうじゃ。肉としたら最上級なのじゃぞ』
『うんうん。あんな美味い肉を他の肉と一緒にすんな』
『ドラゴンのお肉はすっごくすっごーく美味しいんだから~!』
そ、そりゃあ確かにすごく美味い肉だけどさ。
『ドラゴンの肉が食えると思ったこの思いどうしてくれるんだ……』(チラッ)
『ハァ~、がっかりだのう……』(チラッ)
『口の中がドラゴンの肉の味になってらぁ……』(チラッ)
『ドラゴンのお肉~……』(チラチラッ)
うぐっ……。
「あ~、もう分かりました!」
俺が根負けしてそう言うと、食いしん坊カルテットから歓声が上がる。
「ただし! ちょっとだけだからな。今日の昼は、メンチカツサンドの予定なんだ。メインはそれで、ローストドラゴンはちょっと添える程度だからな!」
『腹いっぱい食いたいところだが、今日のところはしょうがないだろう』
『じゃのう。食えるだけ良しとしようではないか』
『だな~』
『ドラゴンのお肉ー! ヤッター!』
騒ぐ食いしん坊カルテットに苦笑い。
ハァ~、俺も甘いよなぁ。
でも、食いしん坊どもの圧がすごいのよ。
伝説の魔獣だのと言われているのは伊達じゃない。
こういうところで発揮しなくてもいいんだけどさ。
まぁしょうがない。
ローストドラゴンを追加で用意だ。
騒ぐ食いしん坊カルテットをキッチンから追い出して、昼飯用のローストドラゴンを作り始める。
再びグリーンドラゴンの肉塊を用意して(同じく二つ。これでも食いしん坊カルテットにとっては添える程度の量だな)おろしニンニクと塩と黒胡椒をスリスリ。
その肉を置いている間に、先のローストドラゴンもイイ感じに焼き上がったのでアルミホイルで包んで少し休ませる。
その間に和風オニオンソースだ。
フライパンにすりおろしたタマネギと天板に残った肉汁、赤ワイン、おろしニンニク、醤油、砂糖を入れて半分くらいになるまで煮詰めればソースのできあがり。
「よし、これはヨルゲンさんたちに渡す分だからこのまま保管っと」
あとは食いしん坊カルテット用の分も同じように作っていって……。
『おい、まだか?』
キッチンの入り口からこちらを窺う食いしん坊カルテット。
「もうすぐだから向こうで待ってなって。できあがったらすぐに持っていくから」
ったく、今更だけどうちのみんなはホント潔いほど食い気に全振りしてるよなぁ。
クスッとしながら最後の仕上げに取り掛かる。
そして……。
「できたぞ~」
『待ってたぞ!』
『ようやく食えるわい』
『待ってました!』
『わーい!』
当然のごとく、メンチカツサンドもローストドラゴンもペロリと平らげる食いしん坊カルテットだった。
俺はというと、メンチカツサンドのボリュームがありすぎてローストドラゴンは一切れだけしか食えなかったよ。
メニュー選びでミスったな。
というのはどうでもよくて、モイラ様とウゴールさんへのお土産も作ろうと思ってたのに全然進まなかったじゃん。
まったくもう。
明日にはみなさんこの街を発つんだから、午後のうちにしっかり作っとかないとな。




