第六百十二話 モイラ様とウゴールさんがやってきた
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「ハァ~、コーヒーが美味い」
俺たちはいたって平和な毎日を過ごしていた。
ホント、平和っていいな。
『おい、デザートおかわり』
フェルが口の周りをペロリと舐めてそう言った。
いつもはイチゴのショートケーキ派のフェルもこれは気に入ったようだね。
そんなフェルをジト目で見つつ……。
「なにサラッとおかわりとか言ってるんだよ。デザートにおかわりはありません。というか、シュークリーム五個も食ったんだから十分だろ」
今日の夕食後のデザートは、ネットスーパーのテナントの不三家のシュークリーム。
開いたらちょうどチーズフェアなるものが開催されていてな。
ベイクドチーズケーキやらレアチーズケーキやらはもちろんのこと、チーズパイにスフレチーズケーキなんかも並んでいた。
その中で、北海道産マスカルポーネチーズを使ったチーズクリームをたっぷり挟み込んだシュークリームがあってな。
たまにはシュークリームもいいかなと思ってデザートに出したわけだ。
『チッ、ケチめ』
「はいはい、ケチで結構。こういうのは食い過ぎはよくないの」
そう言ってフェルを窘める。
『なんじゃ、おかわりなしか』
『まぁ、美味かったけど、俺はプリンの方が好きだし~』
『むぅ、残念~』
ちょっと、君たちもおかわりする気満々だったのかよ。
確かに美味いシュークリームだったけどさ。
俺も一ついただいたけど、大変美味しゅうございました。
量産品のシナッとしたシュー皮(まぁ、これも美味いんだけど)じゃなく、専門店のサクッとしたシュー皮が絶品でさ。
このシュー皮とマスカルポーネのチーズクリームの相性がこれまた抜群だった。
「デザートなんて腹いっぱい食うもんじゃないの。こういうのはほどほどにな」
苦笑いしながらみんなにそう言って、ドリップバッグで淹れたコーヒーをすすった。
このコーヒー、ホント美味いな。
今まで飲んだことないのをお試しで買ってみたんだけど、当たりだったわ。
後で買い足しとこ。
そんなことを考えながらまたコーヒーをすすった。
そんな平穏な時間を過ごしていると、玄関扉のノッカーの音が聞こえてきた。
ガンガン―――。
こんな夜遅くに誰だろ。
「は~い」
扉を開けると、バルテルがいた。
「ん? どうしたんだ?」
「冒険者ギルドからの言付けじゃ。ギルドのお偉いさんとドランの副ギルドマスターが到着したそうじゃ」
モイラ様とウゴールさんだな。
バルテルの話だと、既にギルドから家に向かっているとのことだ。
「そうか。分かった」
「んじゃ儂は仕事に戻るぞい」
そう言って門番の仕事に戻っていった。
こりゃゴン爺とドラちゃんに報告だ。
「お~い、待ち人来たりだぞ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『よっしゃー! ようやくいなくなるのか!』
『うむうむ。これで彼奴の気配も感じなくてすむのう』
「まぁ、今でもヨルゲンさんたちがしっかり監視してくれてるから特に問題はないんだけどね」
エルランドさんとはまったくと言っていいほど会わないからね。
でも、聞いた話によると、冒険者ギルドの解体の仕事で朝から晩までこき使われているらしいよ。
そんで疲れ果てて、ゴン爺やドラちゃんに夜這いする気力もない状態みたい。
ま、最初の頃は根性でしようとしたらしいけど、ヨルゲンさんたちの結界はビクともしないし、うちに手を出そうとしたのがバレて結局ヨルゲンさんたちからキツ~イお説教を食らうわで、さらに体力を削るだけだったらしい。
しかもだ、ヨルゲンさんから「気力も体力もまだまだ残っているようじゃないか。仕事、追加だな」と極限まで仕事を増やされたようだよ。
で、家に帰ってくるころには這う這うの体なんだってさ。
ヨルゲンさんをはじめハイエルフのみなさんグッジョブ。
『ここから彼奴がいなくなるのはいいんじゃが、まったく不安がないわけじゃないんじゃよなぁ……』
ゴン爺が不安を口にした。
「何が不安なんだ?」
『そうだぜ。今は問題ないとは言え、同じ街にいたら顔を会わすこともまったくないとは言えないだろ。そんなら、こっからアイツを連れてってもらった方が安心できるじゃねぇか』
『うむ。ドラの言うことも尤もなんじゃが、今までのことを考えるとのう……。今までだって彼奴は我らとは違う街にいたんじゃぞ。監視付きで。だが、彼奴はその監視をことごとく掻い潜って儂らの下へやって来ているんじゃ』
『げっ、言われてみれば……』
「確かに」
ゴン爺の言うことも確かにと思う。
言われてみると大きな懸念事項だわな。
モイラ様やウゴールさんの監視が甘かったとは思わないけど、自分の欲望のためエルランドさんはそれを上回るG並みのしぶとさで動くからな。
それこそヨルゲンさんたちのように、G並みにしぶといエルランドさん以上の実力と厳しさがなきゃ変態の監視という大役は務まらないのかも。
ゴン爺の口にした不安について考えを巡らせていると、再び玄関扉のノッカーの音が聞こえてきた。
扉を開けると……。
「この度は本当に申し訳なかったっ」
「うちの馬鹿マスターが本当にすみませんっ」
挨拶するよりも先に頭を下げるモイラ様とウゴールさん。
「お二人とも頭を上げてください。とりあえず、どうぞ」
二人をリビングに案内した。
「お二人とも夕飯は?」
「お構いなく。早々にあの馬鹿を引き取らねば」
「ええ。本当にムコーダさんには迷惑かけっぱなしで申し訳ないです」
こんな暗くなってるのにわざわざ家に訪ねてきたのは、傍迷惑なエルランドさんを早急に引き取る目的というわけか。
お二人とも責任感強そうだもんね。
しかし、ちょい待ち。
一旦落ち着こう。
俺は、お二人にネットスーパーで購入したちょっとお高めのとっておきの紅茶を勧めた。
「素晴らしい香りのお茶だね。味も今までに飲んだお茶とは比べ物にならないほどだね」
「本当に。こんなに美味しいお茶は私も初めてです」
二人とも紅茶を気に入ってくれたようだ。
落ち着いてきたようだし、つかみはOKかな。
「それで、あの馬鹿はどこに?」
「ああ、エルランドさんなら、この家にはいませんよ。裏手にある家の方に。もちろん強力な監視付きですが」
「では、そちらに伺って」
「まぁまぁちょっとお待ちください」
モイラ様とウゴールさんにも、さっきのゴン爺の心配事を伝えておいた方が良いと思い、かくかくしかじかと話した。
「ああ。不徳の致すところだが、それは私たちも感じていたことだからねぇ」
「ええ。しかしながら、限界もありますし……」
「普通ならモイラ様やウゴールさんの監視で諦めると思うんですが、あの方、自分の欲に忠実過ぎて本当にしぶといですからね。あの黒い虫並みに……」
俺の言葉にモイラ様もウゴールさんもウンウンとしみじみと頷いている。
「そう言えば、ここではどうだったんだい?」
モイラ様が心配そうな顔で尋ねてくる。
「それが、実は強力な助っ人がいまして。ガッチガチの監視の下、大人しいものですよ。おかげで平穏に暮らせています」
「ほ~、強力な助っ人とな?」
モイラ様とウゴールさんの目がキラリと光った。
ま、モイラ様とウゴールさんならヨルゲンさんたちのことを話しても問題ないだろう。
俺は再びかくかくしかじかとヨルゲンさんたちハイエルフのことや、ヨルゲンさんがエルランドさんの大叔父にあたることなどを話した。
「ほ~、それはそれは。あの馬鹿の監視役には適任の方ですな!」
「ああ、ああ。ハイエルフとは恐れ入ったよ! あの馬鹿も大人しくしてるわけだわ」
お二人の目がギラギラだ。
「ところで、物は相談なんだが……」
話を聞くと、ヨルゲンさんをスカウトしたいようだ。
一応、うちで雇っている体だから話を通してきたらしい。
「雇っていると言っても、出来高払いなので。今の所は手持ちで大物の獲物はいないので、うちからの解体はまだ頼んでいない状態なんです。ですから、交渉はできると思いますよ。ただ、ハイエルフさんたちを全員連れて行かれちゃうと家も困るんですけどね。ヨルゲンさんご夫妻には期待できると思いますよ。なにせエルランドさんの身内ですから」
ヨルゲンさん、身内の恥だってえらく気にしていたからね。
根性を叩き直すって息巻いていたし、話に乗ってきそうな気はするよ。
「ほ~、そうかいそうかい。それじゃあ早速、そのヨルゲンさんの所に案内をお願いしようかね」
「そうですね。こういう話は早い方がいい」
モイラ様もウゴールさんもノリノリだ。
というかヨルゲンさんを絶対ゲットしてみせると気合がすごい。
急かされるように、俺はヨルゲンさんの住む部屋へとお二人を案内するのだった。
今年の更新はこれで最後となります。
来年は、1月2日・1月9日の更新はお休みさせていただいて、1月16日より更新再開とさせていただきます。
皆様、良いお年を!




