第六百十一話 復活記念のドラゴン肉のサイコロステーキ
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あれから数日。
一時はどうなるかと思ったけど、静かで平和な日々が続いている。
「落ち着けるっていいよね~」
昼食後にコーヒーをすすり、そう独り言ちる。
『憂いがなくなって、食事が美味いこと美味いこと。主殿、夕飯も楽しみにしてるからのう』
『だな~。一時期は食欲も落ちちまったけど、もう大丈夫! 飯が最高に美味いぜ!』
俺の独り言に反応するように、満面の笑みでゴン爺とドラちゃんがそう続けた。
なんと言っても一番迷惑を被っていたのはゴン爺とドラちゃんだからなぁ。
面倒くさいドラゴンLOVEなあの人がいないだけでこんなに平和だとは。
まぁ、実際には同じ敷地内にはいるんだけどね。
『あのエルフ、どうなったのだ?』
『エルフのおじちゃん見ないね~』
フェルとスイも迷惑は被ってないとはいえ気にはなるようだ。
あの人も一応(?)ドラゴンの解体要員という重要なポジションにいるからね。
ま、それもハイエルフさんたちのおかげで頼ることも無くなりそうだけどさ。
「フフフ、聞きたいか? あのなぁ…………」
俺は、やらかしエルフのことの顛末を詳しく聞かせてやったのだった。
まんまとヨルゲンさんに捕まったエルランドさんは、当然のように家の裏に新しく出来たアパートにあるヨルゲンさん宅へ。
それから一晩中ヨルゲンさん&アデラさんからの説教コース。
反論しようものならゴツンと拳骨(ヨルゲンさん&アデラさん双方からね)。
それから「一晩寝ずとも死にはしない」と冒険者ギルドに連行。
ヨルゲンさん曰く「人様に多大な迷惑をかけまくったのだから、少しでも人様の役に立て!」と解体の仕事を手伝わせているそうだ。
ヨルゲンさん&アデラさんはもちろんのこと、他のハイエルフのみなさんの監視の下、朝から晩までね。
おかげでギルドマスターとヨハンのおっさんからお礼を言われちゃったよ。
解体期間が短くて済むって、冒険者たちからも評判なんだってさ。
ヨハンのおっさんも「ギルドに泊まりがけも多かったんだが、最近は毎日家に帰れるんだぜ。それに息子が喜んでくれてよう。感謝だぜ」と嬉しそうに言ってたよ。
なんでも、あのおっさん五歳になる息子がいるんだってさ。
ヨハンのおっさん、実は親バカだったらしく息子自慢をしまくられたが、そこは割愛。
まぁ、それはいいとして、エルランドさんはヨルゲンさんをはじめとしたハイエルフのみなさんのガッチガチの監視の下で日々解体の仕事をこなしている様子。
それが終わって家に帰ってきても、ハイエルフのみなさん(年長者の方々)からのありがたいOHANASHIを聞いてから部屋で就寝するという一日らしい。
そうそう、部屋の扉や窓にはハイエルフさんたちの渾身の結界が施されているそうで、小さな虫一匹でさえも出入りは不可能とか。
「まぁ、要するに一日中まったく隙のないガッチガチの監視の下に生活させられているってことだな」
『フム。まぁ、しょうがないか』
『エルフのおじちゃん大変そ~』
君たち他人事だね。
ま、実際他人事なんだけども。
『フッ、フハハハハハハハハハハハッ! 儂をこれだけ不快にさせた報いじゃわい!』
『クククッ、ざまぁ~。自業自得~』
「ちょっ、他人の不幸を笑わないの。ププッ」
『なんだよ~、そう言いながらお前も笑ってるじゃん。でもよ、あんだけ俺らは迷惑被ってたんだからいいだろ』
『うむ。儂らには笑う権利ありじゃな』
「まぁね~」
『あ、主殿よ。ハイエルフたちには彼奴の監視の目を絶対に緩めないように申し伝えてくれのう』
『うんうん。絶対にだぞ』
「分かってるって」
『ところでだ、食欲も戻ったことだし、今晩の夕飯はこうガッツリ肉~っていうので頼むぜ! できればドラゴンの肉で(チラッ)』
『おおっ、それは良いのう。ドラゴンの肉(チラッ)付け加えるなら儂は酒に合うというのもな』
憂いが無くなって食欲が爆上がりしたゴン爺とドラちゃんがそんなことを言ってくる。
というかドラゴンの肉って言ってチラ見すんなよ。
「肉ーって毎日どころか毎食肉だろが」
『いやそうなんだけどよ。野菜とかなしで肉のみでさ』
『うむうむ』
肉のみという言葉にフェルも反応して『肉のみか。しかもドラゴンの肉。我も賛成だ』とか言ってるし、スイも基本お肉大好きだから『お肉だけスイも良いと思う~』と大賛成している。
「肉のみね~。ゴン爺とドラちゃんの復活記念としてまぁいいか」
そう言うと大喜びする食いしん坊カルテット。
そんじゃ、夕飯の用意といきますかね。
喜ぶ食いしん坊どもを尻目に、キッチンに向かう俺だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「肉のみね~。そんで、酒にも合うのだろ?」
ゴン爺はガッツリ酒も飲むつもりみたいだし。
う~む。
いろいろと考えた末……。
「やっぱサイコロステーキかな。ビールにもめっちゃ合うし」
ビールに合うのは、やっぱガーリックバター醤油かな。
でも個人的にはさっぱりしたのも食いたい。
ということで……。
「ガーリックバター醤油とおろしポン酢醤油の両方だ。サイコロステーキ、簡単だしね」
当然まずはネットスーパーで手元にない材料を……。
そろったところで、調理開始だ。
といってもそんなやることはないんだけどね。
まずは、肉だな。
ご所望はドラゴンの肉。
「まぁ、ゴン爺もドラちゃんも一時は食欲がなくなるくらいに元気なかったからなぁ。今回は特別ってことで、ドラゴン肉にしてやるか。グリーンドラゴンの肉ならまだ量もあるし」
アイテムボックスからグリーンドラゴンの肉を取り出した。
そして、サイコロ状に切っていく。
それに塩胡椒を振り少し置いておく。
その間に、ガーリックバター醤油の方のニンニクをスライスして、おろしポン酢醤油の方のダイコンをすりおろして小ネギを刻んでおく。
「よし、OK。まずはガーリックバター醤油の方から」
フライパンに油をひいて熱したらスライスしたニンニクを入れる。
ニンニクの香りが立ってきたところで、サイコロ状に切ったグリーンドラゴンの肉を投入。
ドラゴン肉の表面に焼き色が付くまで転がしながら焼いたら取り出す。
そうしたらドラゴン肉を焼いた同じフライパンに醤油、酒、有塩バターを入れて一煮立させたらソースの完成。
あとは焼いたグリーンドラゴンのサイコロステーキにソースをかけて……。
「ガーリックバター醤油のグリーンドラゴンのサイコロステーキ~。こりゃ香りもヴィジュアルもヤバイね。絶対美味いヤツだよ」
お次はおろしポン酢醤油だ。
とは言ってもニンニクを入れないだけで焼き方は同じなんだけどね。
フライパンに油をひいて熱したら、サイコロ状のグリーンドラゴン肉を焼いていく。
表面に焼き色が付いたら取り出して、その上に水気を絞ったダイコンおろしを載っけてポン酢醤油をかけて刻んだ小ネギをパラリと散らしたら……。
「おろしポン酢醤油のグリーンドラゴンのサイコロステーキ~。こっちも美味そう。…………うん、味見は必要だよな」
箸でグリーンドラゴンのサイコロステーキをつまもうとしたところ……。
『『『おいっ』』』
『あるじ、ズル~い!』
キッチンを覗きにきていたフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの食いしん坊カルテットにまんまと止められた。
「……チッ」
『おいっ、今舌打ちしただろう』
「…………さっ、夕飯にしよう」
ささっとサイコロステーキをアイテムボックスにしまい、リビングへと向かう俺。
ゴン爺とドラちゃんとスイは素直に付いてくる。
『おいっ』
「なんだ? フェルは食わないの?」
『食うに決まってるだろ!』
慌ててこちらに来るフェル。
密かにククッと笑いながら、みんなの前に山のようにサイコロステーキが積まれた皿を二皿ずつ出していった。
「こっちがガーリックバター醤油のグリーンドラゴンのサイコロステーキで、こっちがおろしポン酢醤油のグリーンドラゴンのサイコロステーキだ。今日は特別だからな」
そう言った俺の言葉も耳に入っていはいないのか、食いしん坊カルテットの目は目の前のグリーンドラゴンのサイコロステーキに釘付けだ。
そして、ガブリと口いっぱいに頬張った。
『うむむっ』
『これはっ』
『ウメーーーッ!』
『おいしーーーっ!』
そうだろう、そうだろう。
てかさ、サイコロステーキを一口で何個食ってんのよ。
これ、ドラゴン肉だよ。
肉汁ハンパないんだから、そりゃあ口の中ドラゴン肉の肉汁で溢れんばかりになるでしょうよ。
『こりゃたまらん。あ、主殿、酒じゃ、酒っ! ビールを所望するぞい』
「はいはい」
いつもの特大ボウルにビールを注いでゴン爺に出してやると、速攻でゴクゴクゴクと飲み干している。
『ビール、おかわりじゃ!』
「はいよ~。でも、ほどほどにしとけよー」
俺も便乗して冷えた缶ビールを。
「ガーリックバター醤油のサイコロステーキ、めっちゃビールに合うわぁ。こっちのおろしポン酢醤油のサイコロステーキもイケるな」
総合して言うと……。
「ビールがすすむわ~」
『主殿、ビールおかわりじゃ!』
『『『肉おかわり!』』』
『あ、主殿、肉もおかわりで頼むのう』
「へいへい」
 




