第六百十話 口より先に手が出るタイプ
遅れましたが書き上がったので更新。
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鬼の形相のヨルゲンさんが仁王立ちしながら、家に無理やり入ろうとしていたエルランドさんを引き剥がす。
「お、お、お前っ、何ということを~っ!!!」
「なっ、なっ、ななななな何でここにっ?!」
驚愕の表情でヨルゲンさんを見つめるエルランドさん。
「何でここにだとっ?! 俺たちは今、ここで世話になっているんだよ!」
「お、俺たち?」
「アデラはもちろん一緒だ。他にヴェルデにセルマ、ラドミールとラウラもいる」
ヨルゲンさんのその言葉を聞いてエルランドさんの顔が引き攣る。
「な、ななななな何でハイエルフのヨルゲン爺たちとムコーダさんが一緒にいるんですかっ?! 接点なんてないでしょう! ……そうだっ、これは夢なんだ。悪い夢! きっとゴン爺様とドラちゃんに会えることに喜び過ぎて、私は気を失ってしまったに違いありません」
何を言っているんだよ、この人は……。
ヨルゲンさんの出現で混乱の極みに陥っているエルランドさん。
まぁ、確かにハイエルフのヨルゲンさんたちと俺じゃあ普通ならなんの接点もないわなぁ。
そんななんの接点もなさそうな俺たちが一緒にいるし、しかも、それが想像もしていなかった自分の大叔父さんというのだから混乱もするわな。
ゴツンッ―――。
「痛いっ」
おぉ、すごい音したぞ。
ヨルゲンさんの拳骨がエルランドさんの頭上で炸裂した。
「何を言っているんだ、馬鹿者が!」
「……ハッ?! ヨルゲン爺がいる。こ、これは、夢ではない?」
「これが夢なわけがないだろうが! いい加減に現実を見ろ!」
「ウグッ……」
現実を突きつけられたエルランドさんの顔が歪む。
「い、いいでしょう。現実だと認めます。し、しかし、ヨルゲン爺は何でそんなに怒っているのですか?」
おいおい、エルランドさん正気?
火に油を注いだぞ。
その証拠にヨルゲンさんの鬼の形相が一層険しくなった。
「エルランドよ、お前、それ本気で言っているのか?」
「本気も本気ですが?」
「ハァ~…………。ここまで大馬鹿者だったとは。幼少の頃の指導はしっかりしたつもりだったのだがな……。人様に迷惑をかけないという基本中の基本ができていないとは。しかも、お前は人間よりも長寿のエルフだ。いろいろな経験も積んできたはずなのだぞ。その長寿であるエルフとしても、お前の年齢はいい大人だ。それなのに、情けない。本当に情けないぞ。情けなさ過ぎて涙も出ないわ」
「ちょっと! なぜそこまで言われないといけないのですか!」
ヨルゲンさんの言葉にちょっとムッとした様子のエルランドさん。
あのね、ヨルゲンさんが嘆くのも当然だと思うぞ。
エルランドさんがムッとする方がどうかしてると思う。
「ムコーダさんからお前の呆れた所業の数々を聞いている」
「呆れた所業って何ですか? 私とムコーダさんは無二の親友なんですよ」
嘘言わないでください。
俺とあなたが無二の親友という事実はありませんから。
というか、何で堂々と真っ赤な嘘を宣言してるんですか?
あまりにも堂々と言うものだから、ヨルゲンさんがちょっと困惑してこっちを見ているじゃないか。
「エルランドさん、嘘は言わないでください。いつから俺とあなたが無二の親友になったんですか。というか、俺たち無二の親友と言えるほど長い付き合いじゃないでしょ。言うならば知り合い程度のお付き合いですよ」
この際だからはっきりと言わせてもらう。
俺だって腹に据えかねているんだから。
「なっ?!」
何驚いてるの?
俺が言ったことは事実でしょうが。
「エルランド……。自分の気持ちだけ押し付けていては嫌がられるだけだぞ。それも分からんのか?」
「押し付けって、ヨルゲン爺は何も知らないでしょうが!」
またもやムッとしてそうヨルゲンさんに反論するエルランドさんだが……。
「いろいろと話は聞いているぞ。耳を疑うようなひどい話ばかりだったがな」
ヨルゲンさんが顔を顰めてそう言った。
「な、何がひどいというのですか?」
エルランドさんがそれ言うの?
なら言っちゃうよ、俺。
「なら言わせてもらいますけどね、前も突然家に押しかけてきたじゃないですか。王都にいた時だってそうですよ。監視のモイラ様を振り切ってまで俺たちの所に押しかけてきたじゃないですか」
「ムコーダさんと私の仲ではないですか。何がいけないのですかっ?!」
本気でそれ言っているの?
なら俺もはっきり言うからな。
「正直言って迷惑です!」
「なぁーっ」
「というか、この前うちに押しかけて来た時に、あれだけウゴールさんに怒られたのにまだ分かってないんですか! それに、ウゴールさんに知らせたのは俺ですよ! 迷惑なんで早急に連れ帰ってほしいって! 知らないとは言わせませんからね!」
あの時にウゴールさんからきついお灸をすえられたんじゃないか。
その話の中で、ウゴールさんは俺から「迷惑してるから早く連れ帰ってほしい」って連絡があったんだっていうのはエルランドさんに対してはっきり伝えたんだって聞いてるんだからな。
俺から「迷惑だ」ってはっきりとは言われてないとしても、ウゴールさんから聞いてるんだから知らないはずがないだろうが。
だいたいね、俺たちのエルランドさんに対する拒否反応を見たら普通は察するでしょうよ。
「いくらドラゴンが好きとは言え、ゴン爺とドラちゃんの一挙手一投足を事細かに観察して……。ゴン爺とドラちゃんは気が休まる暇がないって嘆いていますよ! 舐めるような視線が気持ち悪くて仕方がないとも言っていましたね! 極めつけはゴン爺に向かって血が欲しいとか、それがダメなら唾液をくれだとかなんて気持ち悪すぎですよ! ゴン爺もドラちゃんもエルランドさんとはもう関わりたくないって言ってるくらいなんですからね!」
俺がそうぶっちゃけると、エルランドさんは「そんなぁぁぁぁぁっ」と膝から崩れ落ち号泣している。
そんなエルランドさんを上から見下ろすヨルゲンさん。
「どれだけムコーダさんたちに迷惑をかけていたか分かったか?」
エグエグと泣くエルランドさんにさらに続ける。
「最初に話を聞いた時には羞恥と怒りで卒倒するかと思ったぞ」
そりゃあそうだよね~。
いきなり身内の醜態が耳に入ったんだから。
ヨルゲンさんからしたら寝耳に水だよ。
「しかし、今は、お前のその腐った根性を叩き直す機会を得たのだと思っている」
「は?」
ヨルゲンさんの言葉を聞いてか、涙と鼻水まみれになったエルランドさんの顔が上を向いた。
「躾のし直しだ。行くぞ」
エルランドさんの首根っこをつかむヨルゲンさん。
「ちょっ! 放してください!」
ボガッ―――。
「痛っ」
「うるさい。黙れ」
「何で殴るんですかっ!」
ボガッ―――。
「痛いっ」
「黙れと言っているだろう」
「ヨルゲン爺が意味の分からないことを言っているからでしょう! だいたい躾のし直しってなんですか?!」
ボガッ―――。
「ちょっ、痛いって言ってるでしょうがっ!」
「お前が黙らないのが悪いんだろうが。躾のし直しとはそのままの意味だ。お前は人様に多大な迷惑をかけているのだからな」
「何を言っているのですか?! 今更躾だなんて馬鹿なことは言わないでください! 私はれっきとした大人です! 冒険者ギルドのギルドマスターという要職にも就いているのですからね!」
ボガッ―――。
「痛っ! また殴った! いい加減にしてください!」
「黙らない馬鹿者を殴って何が悪い。れっきとした大人だ? 聞いて呆れるわ。寝言は寝て言え」
「本当に何なのですかっ! 私はまだゴン爺様にもドラちゃんにも会ってないのですよ!」
ボガンッ―――。
「痛いーっ!」
「まだ言うかっ!!!」
エルランドさんの首根っこをつかんで連れて行こうとするヨルゲンさんとそれに必死に抵抗するエルランドさんとの攻防。
あっ、ヨルゲンさんが魔法でエルランドさんを拘束したみたい。
「ムコーダ、すまなかったな。此奴が本当に迷惑をかけた。だがもう大丈夫だ。俺が付きっきりでコイツを指導する。アデラや他のみんなにも協力してもらってな」
そう言ってヨルゲンさんがウンウン唸りながら指一本動かせなくなったエルランドさんを引き摺っていく。
あ、そうだこれだけは言っておかないと。
「エルランドさん、ウゴールさんとモイラ様もこっちに向かってますんで覚悟しておいた方がいいですよ」
「ンンーーーッ」
自業自得でしょ。
というか…………。
ヨルゲンさんって口より先に手が出るタイプだったんだな。
スパルタだねぇ。
エルランドさん、ガンバ。(超他人事)




