第六百八話 …………ファッ?!
一日遅れですが、書き上がったので更新させていただきます。
「ヨルゲンさんっ、エルランドさんのこと知っているんですか?!」
思わぬ伏兵に、イスから飛び上がるように立った俺。
「話からすると、どうもあまり歓迎されていないようだから違うといいのだがな。俺の知っているエルランドというエルフは、冒険者で“ライトニングストーム”というパーティーに所属している。エルフだから草木魔法も使えるし、風魔法も得意だったな。うちの村で鍛えたから剣の腕もなかなかだ」
ヨルゲンさんの話を聞いて目を見合わすギルドマスターと俺。
そしてコソコソと話した。
「あの、エルランドさん冒険者ではないですし、違う人でしょうか」
「いや。現役時代に所属していたパーティーが“ライトニングストーム”だ。有名だったから間違いない。間違いなく同一人物だろうな」
なんと……。
「どうやらそのエルランドさんで間違いないようです。今はドランの街の冒険者ギルドのギルドマスターです……」
俺がそう言うとヨルゲンさんが「そうか」と言って深いため息を吐いた。
「で、エルランドは何をやらかしたのだ?」
「少し長くなるかもですけど、いいですか?」
「ああ」
ヨルゲンさんもイスを持ちだして座った。
それを見て、俺は、ドラゴンLOVEなあの人の起こした暴走エピソードの数々を暴露していったのだった。
………………
…………
……
一通り話し終わり、ヨルゲンさんの様子を窺う。
話を聞いている途中も頭を抱えていたが、話を聞き終えた今はガックリと項垂れて這う這うの体だ。
さながらHP0の状態。
「何をやっているんだ、あいつは。ギルドマスターという要職に就いていながら…………」
「あの、ヨルゲンさんがエルランドさんと知り合いというのは分かったんですが、どういったお知り合いで?」
ヨルゲンさんはハイエルフでエルランドさんはエルフ。
接点がありそうでなさそうなこの二人がどういった知り合いなのか気になっていたのだ。
「話を聞いたら名乗るのが嫌になってくるが、あいつとは身内だ。一応な」
顔を顰めながらすごく嫌そうにそう言ったヨルゲンさん。
「…………ファッ?! み、身内?!」
理解するのに少し時間がかかった。
これにはギルドマスターも驚いて「身内だと?!」と仰天している。
気持ちは分かる。
俺もびっくり仰天だもの。
まさかの身内。
衝撃の事実だ。
「身内だとは思いたくないがな……」
ヨルゲンさんから詳しく話を聞いていくと、なんとエルランドさんはヨルゲンさんのお兄さんの孫だそうだ。
エルランドさんからしたらヨルゲンさんは大叔父ということになる。
「俺の兄さんは、ハイエルフの中でも変わり者でなぁ……」
普通のハイエルフの方々は、時々街へ遊びに行くという感覚で生涯のうちに数度街で暮らしたりするものなのだが、ヨルゲンさんのお兄さんはその感覚が逆だったようだ。
街が大好きで、大半を街で過ごし、生存確認のような感じで忘れたころにちょうど街にいたハイエルフの伝手をたどって村に手紙が届くというような感じだったらしい。
「冒険者としても上手くやっていたようだし、兄さんは木工が得意だったからな。街での暮らしに困るようなことはなかったろう」
それもあってまったく村に姿を現さなくなったお兄さんの顔も忘れそうになっていたころに、そのお兄さんが突然帰ってきたそうな。
「人間の嫁を連れてな」
当時、ハイエルフが人間を嫁にしたというんで、ハイエルフの村は大騒ぎになったそうだ。
「ああ、これは人間を差別しているわけではないぞ。戦争ばかりしている人間は馬鹿だと思ったが、兄さんの嫁はそんなものには関係のないただの町娘だったしな」
問題なのは寿命だ。
ハイエルフと人間。
寿命には、それこそ気の遠くなるような大きな隔たりがある。
愛した人が自分よりも必ず先に死ぬ。
それはとても辛いことだ。
それが分かっているからこそ、長寿のハイエルフは同じハイエルフと結婚するというのが当たり前のことになっていたそう。
それなのに、ヨルゲンさんのお兄さんは人間と結婚した。
「ハイエルフの寿命からしたらほんの一瞬しか一緒にいられないんだぞって、村のみんなから散々なじられてたよ。俺も兄さんを「必ず自分より先立つと分かっているのに、そうなった時、悲しみに耐えられるのか?」って責めたよ」
でも、お兄さんは「好きになっちまったものはしょうがない」って笑っていたそうだ。
それからたった20年後(ハイエルフの時間の感覚としたら“たった”という感覚みたいだ)、悲嘆にくれたお兄さんがハイエルフの村に帰ってきたそうだ。
人間の嫁さんが流行り病でポックリ逝ってしまったらしい。
村のみんなからはそれ見たことかと言われたそうで、同じハイエルフの結婚相手を散々薦められたそうだが、それがいけなかったのかお兄さんはまたもや村を出て行ってしまった。
そして、しばらくした後に、今度はエルフと結婚したと手紙だけが届いたそうだ。
「エルフもそれなりに寿命はあるが、それでも俺たちの寿命の半分にも満たないっていうのにな」
最初の結婚で散々忠告したのに、それを聞き入れなかったお兄さんには村のみなさんももう言うことはないと放っておいたそうだ。
「まぁ、それでな、当然その二人目のエルフの嫁さんも兄さんより先に亡くなって、三人目にエルフの嫁さんをもらったっていうところまでは手紙で知っているんだが、それ以降は……」
戦争やらで、村ごとあの島に移住してしまってお兄さんとは連絡が途絶えてしまったそうな。
「エルランドは、兄さんの二人目の嫁さんとの息子の息子。兄さんの孫にあたるんだ」
ほ~、ということは、エルランドさんはハイエルフのクォーターってことか。
と思っていたら、ハイエルフの寿命はハイエルフとハイエルフとの子どもにしか引き継がれないそうで、ハイエルフとエルフの夫婦からはエルフしか生まれないそうだ。
ちなみに一人目の人間の嫁さんとの間には、子どもが生まれなかったそうだ。
元々ハイエルフは子どもができ難いというのが原因だろうとヨルゲンさんが言っていた。
まぁ、結婚期間20年とハイエルフにとっては相当短い期間だったからそれもあるんだろうね。
それは置いておいて、エルランドさんは子どものころにヨルゲンさんの村に預けられていたことがあって(魔法や武器の扱いを習うのにハイエルフの村ほど適した地はないってことで、短期留学みたいな感じで預けられたらしい)、大人になってからも何度か訪ねてきていたそうだ。
「エルランドが最後にうちの村を訪ねて来た時に、ちょうどグリーンドラゴンの討伐があってな」
あ、何か前にチラッと話してましたよね。
ヨルゲンさんとこのハイエルフの戦士たちが三日三晩総当たりしてようやく倒したって。
「その時に「ドラゴンを初めて見た!」ってエルランドはひどく感動していたが……」
その時もドラゴンドラゴンと興奮気味にいろいろと聞き回っていたらしい。
「まさかそれがな……」
はい。
正にそれがエルランドさんがドラゴン好きになった原因でしょうね~。
とは言っても、後の変態的なまでにドラゴン好きになるにはいろいろと拗らせたのでしょうけど。
「昔からエルランドは、自由奔放な兄さんに似ていると言われていたが……。自由にやるのは良いが人様に迷惑だけはかけるなと、何度も言い聞かせていたというのに。まさかそんな風になっているとはな……。本当に、本当に身内が、すまん……」
ものすごく申し訳なさそうな顔をしてそう言うヨルゲンさん。
「いえ、ヨルゲンさんが悪いわけではないですから」
悪いのはあのドラゴンに執着する変態だよ、まったく。
ドラゴンのことになると全然周りが見えなくなるんだよな、あの人は。
「しかし、安心しろ」
表情が一転して目の据わったヨルゲンさんがそう言った。
「世話になっているムコーダに迷惑をかけるとは言語道断。あいつが来たら、俺がその腐った根性をしっかりと叩き直してやる」
そう言ってヨルゲンさんが「フハハハ」と不気味に笑っていた。
…………。
エルランドさん、終わったかも。




