第六百七話 傍迷惑なあの人再び
告知させていただいたとおり「とんでもスキルで異世界放浪メシ」がアニメ化します!
制作のMAPPAさんのチャンネルでPV第一弾も公開されましたので、まだの方は是非ご覧ください。
放送は2023年1月~テレビ東京さんほかで放送開始です!
トンカンコン、トンカンコン―――。
今日も大工仕事の音が鳴り響いている。
工事も大分進み、ブルーノさんが言うには外側はほぼ出来上がっていて残すところ内装のみ。
あと一週間もあれば工事も全て完了するだろうとのことだった。
ブルーノさんを含めたドワーフ連中は、ゴン爺が約束した仕事が仕上がった後の酒宴をものすごく楽しみにしているのでそれも考えとかないとな。
とは言っても、特にやることもなくゆったりした時間が過ぎていく。
ハァ~、毎日がこうだといいんだけどなぁ。
そんなことを考えながら、ほんのりバラの花っぽい香りがする気品あるお茶を飲んでホッと一息。
いつもランベルトさんのお店で出してくれるお茶で、俺も気に入って買い求めたものだ。
そろそろこのお茶も無くなりそうだからまた買っておこうなんて考えていると……。
ガンガン―――。
玄関扉のノッカーの音がした。
「ハーイ」
扉を開けると、ルークがいた。
ルークとアーヴィン、双子だけど目の色が違うからけっこうすぐに分かるんだよね。
「あれ、ルークじゃないか。どうしたんだ?」
確か、今日はルーク&アーヴィンが門番担当の日だったと思うんだが。
「いやな、さっき冒険者ギルドの職員が来てよ……」
なんでも、急ぎ冒険者ギルドに来てほしいとの伝言だったとのこと。
「ああ、分かった。ありがとな」
俺がそう言うと、ルークは門の方へと戻っていった。
「急いで来てくれって、なんだろ? ま、行けば分かるか」
リビングでまったりしていたフェルたちに冒険者ギルドへ行ってくる旨を伝えると、みんな『暇だから一緒に行く』とのことだ。
さすがにフェルに乗って駆け抜けるほどでもないだろうと思い、みんなして歩いて冒険者ギルドに向かうと……。
「おお~、来たか! 待ってたぞ」
冒険者ギルドに入ると、ギルドマスターが待ち構えていた。
「急ぎって話でしたけど、何かあったんですか?」
そう聞くと、途端に困り顔になるギルドマスター。
「それがなぁ……。俺の部屋、じゃみんな入らんな。倉庫へ行くか」
ギルドマスターが俺の後ろに控えるフェルたちを見てそう言う。
「え、フェルたちに関係ある話なんですか?」
「いや、まぁ、フェンリル様というよりはドラゴン様たちにな……」
なんだか歯切れが悪いな。
ドラゴン様「たち」っていうと、ゴン爺とドラちゃんに関係することか?
一体何なんだ?
言われたゴン爺とドラちゃんもハテナ顔だ。
とにかく話を聞いてみないとと、ギルドマスターの後に続いて倉庫へ向かう俺たち一行。
「おう、ヨハン! 場所、借りるぜ!」
ギルドマスターが解体中のヨハンのおっさんに軽く手をあげて声を掛け、倉庫の隅に陣取ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
倉庫の隅で、その辺にあった空いているイスを持ち寄って俺とギルドマスターは相対していた。
そして、一通りギルドマスターの話を聞いた俺は頭を抱えていた。
「今の話、本当なんですよね?」
「嘘言ってどうするよ。つうか、転移の魔法道具を使って王都の冒険者ギルドのギルドマスター名義で手紙が届いてるんだぜ」
ですよね~…………。
そして、ギルドマスターの話を聞いて、俺よりもさらにショックを受けている者たちが。
『あ、悪夢じゃ……』
『う、嘘だろ……。またアイツが……』
ゴン爺とドラちゃんは茫然自失状態。
『あのエルフ、また来るのか』
『エルフさん来るの~?』
特に被害のないフェルとスイは『フーン』てな感じだ。
「ハァ……。あの人が……、エルランドさんがこっちへ向かっているなんて…………」
ギルドマスターの話によると、王都での任務(俺たちが置いてきた異世界恐竜の解体だ)を終えた途端に、俺が貸し出していた魔剣を自分で返却しに行くと宣言して止める間もなく王都を出立したらしい。
契約では貸出期間は1か月で、返却は貸出期間終了の日の翌日から3か月以内ってなっていたんだけどね。
王都の冒険者ギルドのギルドマスターから「今どうしてもバタバタしとるから、返却するのに少し余裕があると助かるんじゃがのう」っていう話があってさ。
貸し出した“魔剣カラドボルグ”は、俺としてもすぐに使うとかはなかったからOKしたんだ。
何より王都の冒険者ギルドをバタバタさせている一番の原因が俺たちだったし。
王都の冒険者ギルドのギルドマスターは、「返却までに少し時間はもらうが、王都を拠点にしている六つのSランクパーティーのうちのどれかに依頼して、間違いなく返却期間内にはカレーリナのお主まで届けるからのう」って言っていたんだけどな。
「なんでエルランドさん自ら動いてんだよ……」
そんな俺の呟きにギルドマスターが「だよなぁ」と頷きながら、知り得た情報を教えてくれた。
「この前の件で、ドランのギルドマスターにゃモイラ様がお目付け役に付いていただろう。にもかかわらず、いろいろとやらかしていたもんだから、より締め付けが厳しくなっていたらしくってなぁ。それに耐えかねてっていうのと、お前に会うってことはよぅ…………」
俺の後ろで頭を抱えるゴン爺とドラちゃんを見やるギルドマスター。
だよね~。
俺の居るところ、すなわちゴン爺とドラちゃんも居るわけだから。
ドラゴン愛が凄まじいエルランドさんのことだ、このチャンスを逃すはずもないか。
というかさ…………。
これ、王都の冒険者ギルドからしたら、魔剣の持ち逃げ犯ってことじゃないの?
そう思ってギルドマスターに聞いてみる、「既に捕縛令が出てるぞ」とのことだった。
なんでも、この国の全冒険者ギルドに出ているらしい。
その上で、王都拠点の手の空いていた二つのSランクパーティーにもすぐにエルランドさんの後を追うようにとの緊急依頼がなされたそうだ。
本当に傍迷惑なエルフだな。
そうだ!
「あのっ、エルランドさんがカレーリナにたどり着くまでにはまだ時間がありますよね?」
「そりゃあ王都からだからな」
「なら、俺たち一旦この街から避難してもいいですか? 狩りならみんな喜ぶし、この際遠出しても」
それこそどっか狩りにでも出かけて時間を潰すんだ。
いい考えだよね。
『そ、それじゃ!』
『そうだっ! そうしようぜ!』
俺の提案に、ゴン爺もドラちゃんも賛同する。
というか、一番の被害者たちだから必死さがうかがえるね。
『狩りというのは悪くないな』
『狩り~!』
狩り大好きなフェルとスイも俺の意見に同意する。
だけど……。
「ダメだ! この街から出るなんて絶対にダメだぞ!」
ギルドマスターが椅子から立ち上がって猛反対。
「なんでですか?!」
「儂一人にアレの相手させるつもりかっ!」
「でもですねっ」
「でももだってもねぇ! 王都で少し関わったんだがな、アイツ、ドラゴンのことが関係していると全然人の話を聞きゃあしねぇんだぜ! あんなのの相手すんの絶対嫌だからな!」
ぐっ、ギルドマスターの言っていることは正にその通りだし、分かるけど、本当に分かるけどぉーっ……。
だからって、また俺たちが相手しなきゃならないの?!
ゴン爺とドラちゃん、ストレスで鱗が剥げちゃうよ!
「も、元はお前の問題なんだ。アレがこっちに来た時は、しっかり相手するんだぞ!」
「そ、そんなぁ~」
「ま、まぁ、アレがやってきたら知らせろ。すぐに王都の冒険者ギルドに知らせて対応を協議すっから」
「来てからじゃあ遅いんですよ~」
「それはまぁ、途中でアレが捕縛されることを祈るこったな」
「そんなぁ……」
ガックリと項垂れる俺。
後ろに居るゴン爺とドラちゃんに至っては足元がおぼつかなくてヨロヨロだ。
「ちょっといいかな?」
その声に顔を上げると……。
「ヨルゲンさん」
今はここの冒険者ギルドの解体部門で働いているハイエルフのヨルゲンさんがいた。
「悪いとは思ったが、お前たちの話が聞こえてきてな。その話の中で、ドラゴンという言葉とエルランドという名のエルフが出てきたようなのだが……」
「え、ええ」
「もしや、そのエルランドという名のエルフ、無類のドラゴン好きではないか?」
「…………え?」
は? え?
もしかしてヨルゲンさん、エルランドさんのこと知っているの?!




