第五百九十九話 スペシャルメンチカツ
冒険者ギルドを出た俺たち一行は、ハイエルフのみなさんを連れて家へと帰宅。
ハイエルフのみなさんは、冒険者ギルドでの解体の仕事がすんなり決まって安定した収入が得られることにホクホク顔だった。
家に到着してからは、うちの奴隷たちと顔合わせ。
みんなには、今回の旅先で知り合ったエルフとして紹介して、大物の解体もできることからうちで解体メインで働いてもらうことになったと説明した。
とは言っても、それもフェルたちの狩り次第になるし、解体場所は冒険者ギルドで、空いた時間は冒険者ギルドで働くことになるってことも付け加えてな。
それを聞いた一部からは、「おいおい、とうとう自前で解体師を用意してきたぞ」とか呆れた声があがっていたけどね。
うるさいよ、アホの双子。
まぁ、何はともあれ、こういう時は宴会だ。
一緒に飯を食えば、打ち解けるのも早いだろうしね。
で、主賓のハイエルフのみなさんに何が食いたいか聞いてみたら声をそろえて「メンチカツ!」とのことだった。
その答えで「あ~」となんとなく察したよ。
というのも、ハイエルフのみなさんにとって、油で揚げる料理というのはそれまで聞いたこともないし食ったこともなかったらしくてさ。
揚げ物の美味さにいたく感動したらしく、盛んに「このから揚げととんかつの他にも油で揚げる料理で美味いのがあるのか?」って聞かれてたんだよね。
それで、ポロッと「揚げ物ならメンチカツも美味いかな」って言っちゃったんだよ。
どうやらそれで、ハイエルフのみなさんの中で「メンチカツ食いたい!」熱が高まっていたみたいでさ。
そんなわけで、ハイエルフのみなさんの熱いリクエストに応えて宴会のメニューはメンチカツに決まった。
ま、肉汁たっぷりのジューシーメンチカツはフェルたちも大好物だ。
それに、子どもから大人まで楽しめるだろうし、酒好きな飲兵衛たちも文句ないだろう。
何せ揚げ物とビールなんてこれ以上ない組み合わせなんだからな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一人で作業するか、女性陣にも手伝ってもらおうか、ちょっと迷ったけれどここは手伝ってもらうことにした。
俺一人で作業すれば、不本意な称号“孤独の料理人”が能力を発揮してくれはするだろうけど、さすがにここはねぇ。
やっぱり手伝ってもらった方が楽ではあるし。
ということで、テレーザ、アイヤ、セリヤちゃんを招集。
3人には玉ねぎのみじん切りをしてもらうことに。
だけど、包丁で大量のタマネギをみじん切りにするのはさすがに大変だと思って、事前に秘密兵器をネットスーパーで仕入れていた。
紐を引くと容器の中の刃が回転してあっという間にみじん切りにできるみじん切り機だ。
それを用意しておいて、ある程度の大きさに切ったタマネギをみじん切り機に入れて、ひたすらタマネギのみじん切りを作ってもらった。
俺は、そのタマネギのみじん切りとダンジョン牛とダンジョン豚の合い挽き肉とその他いつものメンチカツの材料を加えてボウルの中でこねこねこね。
粘り気が出てきたら平べったい丸形に形成していく。
ひたすらメンチカツの種をこねて形成していると、キッチンを覗く二つの小さな影が。
ジーッ。
「ロッテちゃんに、スイじゃないか」
「ムコーダのお兄ちゃん、ロッテもやってみたいなぁ」
『スイもお手伝いしたい~』
ロッテちゃん、スイ、上目遣いがあざといよ。
でも、可愛いから許す。
デレている俺をよそに、ロッテちゃんの母であるテレーザが「ロッテ、遊びじゃないんだよ! あっちにいってな!」と叱る。
そんなテレーザを俺は「まぁまぁ」と宥めて「ロッテちゃん、スイ、こっちおいで」と手招きすると、嬉しそうにやってきた。
さすがに刃物は使わせられないので、メンチカツの形成を手伝ってもらうことにする。
しっかりと手を洗ってから、見本を見せてメンチカツの形成をしてもらう。
「うーん、こんな感じかなぁ」
『スイもできたー!』
一生懸命に平べったい丸形を作っていくロッテちゃんとスイ。
少々いびつなものもあるけれど、そこはご愛嬌。
そうしてみんなで大量に形成していった。
もちろんチーズINもね。
あとは、ひたすら形成したものを小麦粉、溶き卵、生パン粉の順につけて油でカラッと揚げていく。
途中、ガン見してくるロッテちゃんとスイに負けて(ロッテちゃんなんて涎垂らしてるんだもん)「味見だよ」ってメンチカツを食わせたら、『美味しい~』ってプルプル揺れるスイを真似したロッテちゃんから「美味しいー!」ってクネクネダンスを披露されて爆笑したなんてことはあったけれど、無事に大量のメンチカツの作成も終了。
メンチカツを揚げている間に、テレーザ、アイヤ、セリヤちゃんにネットスーパーで買ったスライサーでキャベツの千切りもたくさん作ってもらって、ほぼ宴会の準備は出来たとも言えた。
だけど……。
俺はもう一品、スペシャルなメンチカツを考えていた。
ただ、物が物だけに、知った時に女性陣は卒倒するかもしれないから、ここからは俺だけで調理だ。
たくさんは作らないつもりだから、俺一人でも十分だし。
まぁ、物が物だけにスペシャルメニューとしてちょっとだけね。
フェルたちは『もっと!』って言いそうだけど、気に入ったなら後日作って思う存分食わせてやればいいし。
ということで、みんなにはいったんキッチンから捌けてもらってスペシャルメンチカツの調理開始だ。
アイテムボックスからドドンと取り出したのは、緑竜の塊肉。
それをおおまかに切った後に、包丁でたたいてたたいて粗いミンチ状に。
粗いミンチ状になったグリーンドラゴンの肉をボウルに入れて、タマネギのみじん切り等々を入れて粘りが出るまでこねこねこね。
あとは、さっきと一緒で平べったい丸形に形成して衣をつけて油で揚げるだけ。
ここはジューシーなドラゴン肉をじっくり味わってもらうために、あえてチーズINはなしで。
きつね色に揚がったドラゴンメンチカツは実に美味そうだ。
熱々のメンチカツは冷めないように、すかさずアイテムボックスに収納。
そして、最後の仕上げだ。
メンチカツにかけるウスターソースをネットスーパーで購入。
それから食事がメインの子どもたちのためにメンチカツバーガーにできるよう、バンズもカートにIN。
絶対に忘れちゃいけないのが、ビールだよね。
瓶ビールをしこたま買って、氷で冷やしておく。
さぁて、宴会の準備は万端だ。
スペシャルメンチカツ、みんなどんな反応するだろうな?
ちょっと楽しみだ。
 




