第五百九十七話 冷や汗ダラダラ
『とんでもスキルで異世界放浪メシ 12 鶏のから揚げ×大いなる古竜』をお買い上げくださった皆様、本当にありがとうございます!
引き続き『とんでもスキルで異世界放浪メシ』をどうぞよろしくお願いいたします!
「おお~、久しぶりの街だ!」
「けっこう大きな街ねぇ」
「これからしばらく住むことになるんだ。あとで見て回ろうぜ」
「そうね。美味しいお店やら調べとかないとだし」
「そうそう。酒場もちゃんと調べないとな」
「これだけ大きな街なら、あの村では手に入らなかったものもいっぱいあるだろうしホント楽しみだわ~」
ゴン爺の発着場となっているお馴染みの草原に降り立った俺たち一行+ハイエルフのみなさん。
ハイエルフのみなさんは、久しぶりとなる人の街に興奮を隠せないようでワイワイと楽しそうに話している。
そんな元気いっぱいなハイエルフのみなさんを横目に、俺は脱力した。
「ハァ~、やっと着いた……」
みなさん自由過ぎ。
何度注意したって「大丈夫、大丈夫」の一点張りで自由気ままにゴン爺の背中を歩き回るんだもん。
好奇心旺盛で恐ろしく自由人なハイエルフのみなさんの行動に俺がどれだけ肝を冷やしたことか。
恐ろしいことに平気で際まで行って下を見下ろしたりするんだぞ。
まったくあの人たちは……。
いろいろと思い出して頭を抱えていたところ、ワイワイと楽しそうなハイエルフのみなさんたちを見てハッとした。
って、ちょっと待てよ。
なんか、すぐにでもカレーリナの街を探索に出掛けそうな会話が飛び交っているんだけど。
この恐ろしく自由人なハイエルフのみなさんをそのまま街に放ったりしたら……。
想像したら、俺のこめかみ辺りからツーっと冷や汗が垂れた。
……なんかやらかしそうだよね。
ま、まずは、とにかく俺の家に連れて行こう。
そんで、家のみんなに紹介して、ハイエルフのみなさんにはとりあえず今日は家で待機してもらう。
その間にパパッと冒険者ギルドへ行ってきて、夜のうちにしっかりと問題は起こさないように言い含めておく。
自由にさせたら問題なわけで、ハイエルフさんたちも過去に街で暮らしていたこともあるそうだから、しっかりと話せば大丈夫。
きっとさ。
………………大丈夫、だよね?
ま、まぁ、とにかく、このプランで行くしかない。
ということで……。
「あの、みなさん、まずは俺の家へ行きましょう。みなさんお疲れでしょうから、とりあえずゆっくり休んでもらって、詳しい話は今夜にでも。その間に俺たちは冒険者ギルドで用事を済ませ……」
「冒険者ギルドに行くのか?」
「なら俺たちも行くぞ」
「そうね。素材を換金しなきゃならないらし」
「街ではお金がなきゃなんにもできないものね」
「買い物できないものね」
「ああ。酒も買えんしな」
「エッ……」
俺が冒険者ギルドに行くというと、ハイエルフのみなさんも一緒に行くと言い出した。
初っ端からプランが躓いた。
「で、でも、あのっ、冒険者じゃないと買い取り価格が下がりますよ?」
「ああ、それなら大丈夫だぞ。俺たち全員冒険者登録しているから。な」
ヨルゲンさんがそう言うと、ヨルゲンさんを含めた全員が懐からギルドカードを取り出して俺に提示した。
よく見ると、ヨルゲンさんとアデラさん、そしてラドミールさんはなんとAランク。
そして、ヴェルデさんとセルマさん、ラウラさんはBランクだった。
さすがというか、みなさん高ランクなんだな。
そう思いながら見ていると、みなさんドヤ顔をしている。
はいはい、すごいですね。
だけど、俺が知っている金やら銀やら、一目でランクの分かるギルドカードとは違って、みなさん茶色っぽい色のギルドカードなのが気になるんだよねぇ。
冒険者ギルド発行と書いてあるしマークが入っているから本物っぽいけど。
というか、こんなの偽造したらえらいことになるし、ハイエルフのみなさんにもわざわざ偽造までする理由もないだろうし。
「俺のとは違う感じがしますけど、いつ頃発行されたものなんですか?」
「違うってムコーダのはどんな感じなんだ?」
そうヴェルデさんに聞かれて、俺の金ピカのギルドカードをみなさんに見せた。
「金色に輝いているわね」
「というか、Sランク……」
ハイエルフのみなさんが俺をジッと見つめる。
「ええと、俺には……」
そう言いながらフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイを見やる。
それだけで「ああ~、なるほど」と納得した顔をするハイエルフのみなさん。
くっ……。
いや、そうなんだけど。
事実そうなんだから、別に反論とかは無いんだけど。
すぐに「なるほど」って納得した顔をされるのもモヤモヤするわ。
「そうだ、俺たちのギルドカードの発行時期だが、確か俺とアデラのは島に渡る直前だったから300年前かな」
ヨルゲンさんがそう言うと、アデラさんが頷く。
ヨルゲンさんとアデラさんは冒険者の時はペアで行動していて、なにやらその時欲しいものがあったらしく手っ取り早く現金収入を得ようってことで、依頼を受けたらしくその依頼達成でめでたくAランクに昇格したらしいのだ。
それでよく覚えているって話だった。
「俺は、350年くらい前だったかなぁ。400年は経ってないと思うんだが」
ヴェルデさんが顎に手をやりながらそう言う。
「私もそんな感じかしら」
「私も400年までは経ってないと思うのよね」
「俺もだ」
セルマさん、ラウラさん、ラドミールさんも同じような感じらしい。
うーんと頭の中で整理する。
ハイエルフのみなさんは、街中で過ごすときはハイエルフとは名乗らずエルフとして過ごしていたと聞いている。
エルフの寿命は500年で、長寿になると600年。
それを考えるとギルドカード発行の時期が400年前っていうのもおかしくはないか。
大丈夫そうだな。
「分かりました。それじゃあ先に冒険者ギルドに行きましょう」
こうして俺たち+ハイエルフの一行は、カレーリナの街の門をくぐり、一路冒険者ギルドへと向かったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ハァ、ようやく着いた……」
疲れた顔で冒険者ギルドに入る俺。
その後にフェルたちやハイエルフのみなさんが続く。
ここまで来るのにいつもの倍以上時間がかかった。
久しぶりの街中にハイエルフのみなさん大興奮。
気になる店があるとフラフラと近付いていって、なかなか進まないったらありゃしない。
みなさんには「今は手持ちがないでしょ。どっちにしろ、しばらくはこの街にいるでしょうし、冒険者ギルドで換金してそれからゆっくりこの街を回ってください!」って言って引っぺがしてようやく連れて来たのだ。
俺たち一行が冒険者ギルドを訪れたことで、すぐにギルドマスターが姿を現した。
「お前~」
「はいはい、いろいろとお話があるのは分かっています。でも、今は連れがたくさんいるので、そちらを先にしていただけると」
「連れだと?」
ギルドマスターが俺の背後でわちゃわちゃしているハイエルフのみなさんに目をやり「エルフか」とつぶやいた。
「ちょっと、行った先で知り合いになりまして。みなさん買い取り希望です」
「まぁいい。いつもの倉庫だ。どうせお前も買い取りあるんだろ」
「はい、まぁ一応は」
「んじゃついて来い」
ハイエルフのみなさんに「ついてきてください」と声を掛けて、ギルドマスターの後にぞろぞろとついていった。
倉庫に着くと、ヨハンのおっさんが「よう」と声をかけてこちらにやって来た。
ギルドマスターが、ハイエルフのみなさんに「あんたら買い取り希望なんだろ? 冒険者ギルドには登録しているのか?」と聞く。
すると、みなさんが先ほど俺も見せてもらったギルドカードを差し出した。
「こりゃ随分と古いギルドカードだな」
そう言いながら近場にいた職員に、ハイエルフのみなさんのギルドカードを渡した。
「買い取り金額を出すのはギルドカードを確認してからになるが、先に物を見せてもらえるか?」
ギルドマスターのその言葉に、ハイエルフのみなさんが島で得た素材をアイテムボックスから取り出して作業台の上に置いていく。
「ほ~、キレイに処理されてるな。こうキレイだと、俺の仕事もほとんどないな」
ハイエルフのみなさんの素材を見て、ヨハンのおっさんが感心したようにそう言うと、解体を担当したであろうヴェルデさんがちょっぴりドヤ顔に。
その間も積み上がっていく素材。
「おいおい、まだあるのかよ」
「これで最後だ」
そう言って何かの牙か爪らしきものを最後に置いたラドミールさん。
「キレイに処理はされているが、これだけの量があると査定にはちっと時間をもらうかもしれねぇな」
ヨハンのおっさんがそう言ったところに、ハイエルフのみなさんのギルドカードを持った職員の方が戻ってきた。
「あの、ギルドマスター……」
ギルドマスターに声を掛けた職員がなぜか困惑顔をしている。
「何だ?」
「あ、あのですね、ご覧になって分かる通り、大分古いカードでして」
「それは分かっているわ」
「それで、大分長い間依頼を受けておられないようでして、ギルドカード自体は無効ということにはなるのですが、高ランクの方々なので、一応情報は残っていまして……」
「グダグダ前置きはいいから、はっきり言え」
「あの、何故かはわかりませんが、こちらの方たちが冒険者登録をされたのが600年以上前だと出てくるのです……」
「ハァ? 何をバカなことを」
「そんなことを言われましても……」
職員さんのその言葉と同時にギルドマスターの顔が俺に向けられた。
ハンパない目力のギルドマスターから睨まれる。
え、え、600年?
ハイエルフのみなさん、ギルドカードが発行されたのは300年から400年前だって言ってたのに。
………………あ。
300年から400年前だっていうのがAランクとかBランクに上がった時に発行されたギルドカードっていうことか?
それだと冒険者登録したのはもっと前のはず。
それが600年以上前ってことか?
え、それだとエルフで通すの無理じゃね?
だって長寿のエルフが600年だよ。
ここにいるハイエルフのみなさん、どう見ても20代前半のピチピチの美男美女。
え、どうすんの?
ハイエルフのみなさんに助けを求めるように見ても、話が見えないのかキョトンとした顔をしている。
クソ~、キョトン顔でも美男美女だぜ。
「おい、お前は誰を連れて来たんだ? 詳しく話してもらおうじゃねぇか」
ギルドマスター、怖いよ。
笑ってるけど、目が笑ってない。
蛇に睨まれた蛙のごとく、冷や汗をダラダラ垂らしながら顔を引き攣らせる俺だった。




