第五百九十四話 グリーンドラゴン、いざ解体
一部書き直していたため更新遅くなりました(汗)
たまにはこういうこともあるということでお許しください。
活動報告にて報告させていただきましたが、6月25日『とんでもスキルで異世界放浪メシ 12 鶏のから揚げ×大いなる古竜』発売となります!
今回は書籍のみの発売となりますが、何卒よろしくお願い申し上げます。
「ただいま戻りました~」
ハイエルフの村に戻ると、ハイエルフのみなさんが集まって来る。
なぜかみなさん浮かない顔をしている。
「ドラゴン狩り、失敗したのか?」
ヨルゲンさんが恐る恐るといった感じでそう聞いてくる。
「え? 失敗?」
俺は、意味が分からなくて呆けてしまう。
「だって、今朝出て行ったばかりじゃない。それなのにもう戻ってくるんだもの」
いや、そりゃあアデラさんの言うとおりだけど……。
朝出ていって、今は夕暮れ時。
狩りを終えて帰ってくるのには普通だよなぁ。
「相手は緑竜だ。狩りに失敗したとしても恥ではないぞ」
「そうだぞ。昔、俺たちがグリーンドラゴンを倒した時は、里の戦士たちが三日三晩総当たりしてようやく倒したのだ。そんな相手だ。失敗しても誰も責めない」
ヴェルデさんとラドミールさんがそう言うと、セルマさんとラウラさんも俺たちを見て気遣わしげに頷きながら「そうよ」と言っている。
…………あっ、そういうこと。
ようやく理解した。
グリーンドラゴンは、ハイエルフの戦士という猛者たちが三日三晩総当たりしてようやく倒したほどの相手だ。
それなのに俺たちはというと、朝出て行ってその日の夕方には戻ってきている。
だからみなさんは俺たちがグリーンドラゴンの狩りに失敗したと思っているってことか。
なるほど~。
実際にハイエルフのみなさんは、グリーンドラゴンを倒した実績があるから余計にそう思うんだろうね。
だけど、うちの場合はねぇ。
フェルたちをチラリと見ると…………。
『フン。お主たちと一緒にするな』
不機嫌そうな顔でそう言い放つフェル。
『そうじゃわい。儂らがグリーンドラゴンごときに後れを取るわけがなかろうが』
ゴン爺も不機嫌そうだ。
『そうだそうだ! 俺たちが負けるはずねぇだろ! グリーンドラゴンなんてボッコボコよ。瞬殺だぜ瞬殺!』
ハイエルフのみなさんの「失敗」という言葉に、ドラちゃんも憤慨しているのか短い腕を振り回しながらそう抗議する。
でも、ハイエルフのみなさんには聞こえてないと思うぞ。
それにドラちゃん、確かにボッコボコにしはてたけど、瞬殺は言い過ぎだからね。
『失敗なんてしてないもん! ドラゴンさん倒したんだからねー!』
スイもフェルの頭の上で高速振動しながらプンスカ怒っている。
フェルとゴン爺の言葉を聞いて「え?」と動きを止めるハイエルフのみなさん。
「えっと、狩り自体はすんなり、いや、すんなりでもないか。うちのみんなの攻撃に恐れをなしたのか、グリーンドラゴンが棲み処に逃げ帰って立てこもるっていう思わぬ出来事はあったものの、そんなに時間もかからずに倒すことはできたので」
俺がそう言うと、ハイエルフのみなさんは「エッ……」と言ってあんぐり口を開けている。
絶世の美男美女6人がそろいもそろって締まりのない顔をしているものだから、思わず笑ってしまいそうになる。
『そうだぞ。その後は腹が減ったからゆっくり飯を食っていたからこの時間になったのだ。それがなければとっくに戻ってきているわ』
フェルがそう言うと、ゴン爺もドラちゃんもスイも『そうだそうだ』と同意している。
「飯を…………」
「ゆっくり食っていた…………」
みなさん唖然としている。
そして、なぜか俺を何とも言えない顔で見ていた。
いや、そんな顔で見られても。
俺のせいじゃないですからね。
うちのみんなはいつもこんな感じだし。
みんな強いからしょうがないんですって。
「え、えと、そういうことなので、今日はもう遅いから、あ、明日に解体をお願いします」
ハイエルフのみなさんからの視線を受けて、いたたまれなくなった俺は、そう言い捨てると、フェルたちを連れて借りている家へそそくさと引っ込んだのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、朝食を終えて解体場に向かうと、ハイエルフのみなさんは既に準備をして待っていた。
「おはようございます」
「おはよう」
みなさんと軽く挨拶すると、早速、グリーンドラゴンをと話が進む。
「さすがにグリーンドラゴンほどの大物はここには入らんから解体は外でだな」
ヨルゲンさんがそう言うと、解体の中心となるだろうヴェルデさんが頷く。
「ああ。ありがたいことに今日は天気も良いしな。ということだから、ラウラ、頼むぞ」
「ええ」
ヴェルデさんから頼まれたラウラさんが、村の広場に土魔法でしっかりとした大きな台を作っていく。
ラウラさんはこの中では一番の土魔法の使い手らしい。
「大きさはこんなもんでいい?」
ラウラさんがヴェルデさんにそう言うと、今度はヴェルデさんから俺に「どうなんだ?」と質問が来る。
「グリーンドラゴンの大きさですよね。えーと、もう少し大きい方が良いかもしれないです」
俺の言葉を聞いて、ラウラさんが台を大きくしていく。
「随分と大物だったんだな……」
側で見ていたラドミールさんがそうつぶやいた。
「よし、大きさはこんなもんでいいだろう。ドラゴンだからな。血の一滴も無駄に出来ねぇ。台の表面は血が染み込まんようにとにかく硬くしてくれ。そして、こっち側に血が流れるように少し低くだ」
「分かったわ」
それからも、ヴェルデさんの指示でラウラさんがグリーンドラゴンを解体する台を微調整しながら作っていった。
「うん、こんなもんでいいだろう」
全体をチェックしたヴェルデさんが納得する。
そうすると、いよいよ…………。
「ムコーダ、グリーンドラゴンを」
「はい」
アイテムボックスからグリーンドラゴンが台の上に乗るように取り出した。
その大きさに「おお~」とハイエルフのみなさんがどよめく。
「デカいな……」
「ああ」
「だな」
台の上に乗ったグリーンドラゴンをまじまじと見るハイエルフのみなさん。
「しかし、あれだな。ムコーダがアイテムボックス持ちなのは見ていて分かっていたが、こんな大物が入るとは、ハイエルフ並みのアイテムボックスを持っているんだな。人族では初めて見たぞ」
ヨルゲンさんにそう言われてドキッとする。
「ま、まぁ。ありがたいことに容量はそれなりにあるので」
と適当に誤魔化しておく。
それよりも……。
「ハイエルフのみなさんはアイテムボックス持ちなんですか?」
「ああ。俺たちは魔力が多いから、持ってないヤツは見たことがないな。まぁ、容量は様々だが、少ないヤツでもあの家一軒分くらいは入る」
そう言いながら近くにあった家を指差すヨルゲンさん。
「ほ~、なかなかですね」
小さいが家一軒分入るアイテムボックスってけっこうすごいな。
ってか、冒険者だったら引っ張りだこだろう。
ハイエルフってつくづく勝ち組だなぁ。
「中にはこの大きさのグリーンドラゴンを100匹入れても余裕そうなのもいるぞ」
ラドミールさんがそう言うと、ヴェルデさんが「あ~、ルーカスか。この島に来るときはアイツには世話になったなぁ」と懐かしむように目尻を下げた。
「ハイハイ。無駄話はそこまでよ」
「大物なんだから解体も時間がかかるでしょ」
「さっさと始めましょうよ」
なかなか始まらない解体に、ハイエルフの女性陣が旦那の尻を叩いた。
言われた男性陣は、いそいそと動き始めるのだった。
「それじゃあ始めるぞ」
そう言うヴェルデさんの手に握られているのは白いナイフだった。
見るからに金属製ではない。
ミスリルのナイフじゃなくて大丈夫なのか?
そう思いながらジッと見ていると、ヴェルデさんが俺の視線に気が付いたようだ。
「これか? いいだろう」
自慢の一品なのか、俺に見せびらかすように全体を見せる。
「ミスリルナイフじゃなくて大丈夫なんですか?」
「ハハ、問題ないさ。これはアースドラゴンの爪で作ったナイフだからな。ミスリルナイフも悪くないが、俺はこっちの方が気に入っている。切れ味なら、こっちのナイフの方が良いくらいなんだぞ。ま、見ていれば分かると思うがな」
そう言うと、ヴェルデさんがグリーンドラゴンにアースドラゴンの爪のナイフを突き刺した。
ヴェルデさんの言うとおり、アースドラゴン製のナイフは切れ味抜群で、硬いドラゴンの皮もなんのそのでサクサクと切れていく。
それに加えてハイエルフのみなさんの連携もバッチリで、あれよあれよという間にグリーンドラゴンの解体は進んでいった。
そして…………。
「フゥ、終わった」
そう言って汗を拭うヴェルデさん。
昼を少し過ぎたころには解体が終わった。
すると、静かだったフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイが動いた。
『フハハハハハ。よくやった。昼を我慢した甲斐があったわ』
『じゃのう。よしよし、主殿、少し遅くなったが今から昼飯にしようぞ』
『お待ちかねのドラゴンステーキだ!』
『ドラゴンステーキ~!』
やけに静かだし、昼飯って騒がないなぁと思っていたら、これを狙っていたわけか。
解体が終わってから即ドラゴンステーキかよ。
というか、お前ら楽しみにし過ぎ。
ったく本当にうちの奴らは食いしん坊だよなぁ。
ま、ドラゴンステーキとは言ってたからいいけどさ。
「へいへい。分かりました」
ドラゴンが食えるとウキウキな食いしん坊カルテットのために、ドラゴンステーキを焼く準備にとりかかる俺だった。




