第五百九十三話 野菜と挽き肉のあんかけ丼
『動いたから腹が減ったな。飯にしてくれ』
『うむ。儂も腹が減ったわい。主殿、お願いするのう』
『俺も腹減った~』
『スイもお腹減ったな~』
動いたからって、みんなでフルボッコしただけなんだから、言うほど動いてないでしょ。
どっちかっていうと最近やけに正確になってきた腹時計が昼飯を告げてるだけだろ。
まぁ、どのみち昼飯は食わせないといけないからいいけどさ。
「へいへい。んじゃ昼飯にするか。作り置き、なんか残ってるかな……」
ガサゴソとアイテムボックスを探してみるが、とうとう尽き果てたようで残っていなかった。
「あちゃ~、作り置きがないから作らないとだわ。ちょっとだけ待ってて」
『む、早くするのだぞ』
「分かってるって」
今もフェルとゴン爺の腹の虫が盛大に鳴いているのが聞こえてきたし。
とりあえず魔道コンロをアイテムボックスから取り出して、何を作ろうか思案する。
「確か、挽き肉があったよな」
家に居たときに、スイに手伝ってもらって大量に作ったダンジョン豚とダンジョン牛の挽き肉があったはず。
それとアルバン印の野菜。
「ニンジンとピーマンがまだ大量に残っているな」
挽き肉、ニンジン、ピーマン………。
野菜と挽き肉のあんかけ丼なんていいかも。
簡単だし。
あ、タケノコの水煮も入れたら食感が良くなりそうだな。
よし、そうしよっと。
「そうすると、タケノコの水煮をネットスーパーで買って……」
ネットスーパーを開いて、タケノコの水煮をポチリ。
いつものようにダンボールで届いたら、調理開始だ。
ニンジン、ピーマン、タケノコの水煮を1センチ角に切る。
そうしたら、フライパンにゴマ油をひいて熱したら、ダンジョン豚とダンジョン牛の合挽き肉を色が変わるまで炒めていく。
当然ながら挽き肉は多めにしてあるぞ。
挽き肉の色が変わったら、ニンジン、ピーマン、タケノコの水煮を入れて1分程度軽く炒める。
そこに、水・顆粒の和風だしの素・醤油・おろしショウガ(チューブ入りのでOK)・砂糖を混ぜたものを投入。
クツクツと煮立てて水分が半分くらいになったところで、水溶き片栗粉を加える。
あとはトロミがつけば出来上がりだ。
アイテムボックスにある炊き立てご飯を器によそって、野菜と挽き肉のあんかけをたっぷりかけたら……。
「完成!」
みんなに声を掛けようと振り返ると、待ってましたとばかりに既に横一列に並んで準備万端だ。
さすが食いしん坊カルテットだねと苦笑い。
フェルとゴン爺からは腹の虫が鳴いているのも聞こえているし。
みんなの目の前に、いつもの深皿にこんもりと盛った野菜と挽き肉のあんかけ丼をだしてやる。
「はい。野菜と挽き肉のあんかけ丼だよ」
目敏く丼の中にある緑と赤を見つけて苦い顔をするフェル。
「なんだよ。野菜は細かくしてあるから気にならないだろ。それに挽き肉はたっぷり入れてあるんだから」
『…………』
無言のまま口を付けるが、だんだんとがっつき始める。
不満そうだった割りに味は気に入ってるみたいだね。
『おお、この上にかかったトロッとしたのが米に絡んで美味いのう』
「だろ」
ゴン爺も気に入ったようで、美味そうに食っている。
『挽き肉たっぷりなのがいいな。うん、悪くないぜ』
さすがドラちゃん、分かってるじゃん。
食いしん坊カルテット用に挽き肉は通常の倍くらい入れてるからね。
『あるじー、これトロッとして美味しいね~。……でも、今日は大きいお肉食べたい気分だったかも~』
「スイ~、大きいお肉なら明日か明後日には食えるでしょ。みんなでドラゴンさん狩ったんだから」
『!!! そうだー、ドラゴンのお肉ー!』
「ドラゴンさんね、村にいたハイエルフさんたちが解体してくれるって。だから、すぐに食えると思うぞ」
『ヤッター!』
嬉しそうに高速でブルブル震えるスイ。
まったく現金なんだから。
『うんとねぇ、スイはドラゴンのお肉はすてーきで食べたい!』
ドラゴンの肉は美味いから、シンプルにステーキにするだけでめちゃくちゃ美味いもんねぇ。
塩胡椒を振って焼いただけでもう最高よ。
「ステーキか。いいねぇ」
スイとそんな話をしていると、他のみんなも話に乗ってくる。
『うむ。ドラゴンの肉ならばステーキが良いな。それも分厚いヤツだ』
ウンウンと頷きながらそう言うフェル。
というか、お前、涎垂れてるぞ。
野菜と挽き肉のあんかけ丼を食ってるってのに、ドラゴン肉を思い出して涎垂らすなっての。
『それでだ、分厚いステーキを最初はそのまま味わい、次からはいつものやつで味わうのだ』
ああ、いつものってステーキ醤油ね。
フェル、あれ好きだもんね。
まぁ、あのステーキ醤油はステーキにめちゃくちゃ合う上に相乗効果でさらに美味くしてくれるからねぇ。
『分厚いドラゴンステーキ……。いいのう』
ゴン爺も同意して頷いている。
ちょっと、ゴン爺も涎垂れてるからね。
『ステーキかぁ。ステーキも良いけど、俺はローストドラゴンも捨てがたいなぁ。迷うところだけど』
短い腕を組みながらドラちゃんがそう言う。
うんうん、確かにローストドラゴンも捨てがたいよなぁ。
『ドラ、何を言っておる。やはり、最初はステーキだろう。ドラゴンの肉の美味さを直に味わうという意味では、やはりステーキが一番だ』
『そう言われると、確かにフェルの言うとおりかもしれないなぁ。最初はステーキで、次にローストドラゴンで味わうのがいいか』
『うむ。それは良い。完璧な布陣だな』
『ドラゴンステーキにローストドラゴン。いいのう~。美味いドラゴン肉を何通りも味わえるのは、本当に最高だのう。フォッフォッフォッ』
『ということだから、頼むぞ』
フェルが俺を見てそう言った。
「へいへい」
ドラゴンステーキにローストドラゴンを作るのは確定らしい。
『なぁなぁ、ドラゴンステーキからのローストドラゴンは決定だろ。その次は? 俺はドラゴンカツなんかいいと思うんだよなぁ。あれは揚げ物にしても絶対に美味いと思うんだ』
『ほ~、揚げ物か。ドラよ、確かに美味そうだな。今まではドラゴンというとステーキにすることが多かったが、他にも違う食べ方にするのもまた一興か。ドラゴンカツ、良いな』
『なんじゃ、フェルたちも今までドラゴンの揚げ物は食ったことがないのか?』
『うむ』
『そうなんだよ』
『それはいかんじゃろう。せっかく主殿がいるのだ。いろいろな食べ方で味わわなくてはもったいないではないか』
『ゴン爺に指摘されるのは癪だが、今になるとそう思う』
『ドラゴンステーキは確かに美味い。だけど、地竜と赤竜でそれなりに味わってきたからな。今度はステーキとかローストドラゴン以外も作ってもらおうぜ』
『うむ』
『そうじゃな』
『ねぇねぇドラちゃん。うーんと、いろんなドラゴンのお肉を楽しめるってこと~?』
『そういうことだ、スイ』
『わぁ~、楽しみ~』
なんか勝手に盛り上がってるね。
ってか、俺は、ドラゴン肉でいろんな料理作らなきゃならないわけ?
ドラゴンの極上の肉ならステーキが一番だと思うんだけどなぁ。
野菜と挽き肉のあんかけ丼を食いながら、ドラゴン肉の食べ方で盛り上がる食いしん坊カルテットなのだった。




