第五百九十二話 やり過ぎ、イクナイ
遅くなって申し訳ありません(汗)
逃げた緑竜を追ってさらに森の奥へと突き進む。
そして、たどり着いた先には、ツル科の植物に覆われたこんもりとした山が。
『これがグリーンドラゴンの棲み処じゃ』
『うむ。かすかだが、気配も感じられるな』
『儂らに見つからぬように、できるだけ気配も消しておるからのう。まぁ、それも儂らにとっては無駄な足掻きなんじゃがな』
フェルとゴン爺がいるもんねぇ。
相手が悪かったな。
『おいおい、これ入口がねぇぞ。しかも、これ岩みたいに硬いぞ』
こんもりとした山の周囲を偵察してきたのか、パタパタと空中に留まったドラちゃんが、こんもりした山を爪でコンコンと叩きながら顔を顰めている。
『硬いのは身を守る棲み処じゃからのう。入口は土魔法でふさいだんじゃろうて』
なるほど。
堅牢な棲み処の入口もふさいで完全に引きこもっていると。
『まぁ、我らにはこんなもの意味がないんだがな』
そう言いながらフェルが鼻でフンと笑っている。
俺もフェルの言葉を聞いて苦笑い。
まぁ、そうだろうね。
普通ならこれでグリーンドラゴンも身を守れて被害もないんだろうけどさ。
でも、ここにはフェルもゴン爺もいるわけで。
力業で何とかしちゃうよね~。
そんなことを考えていると……。
『じゃあじゃあ、スイが壊す~?』
フェルの頭に乗っていたスイがそんなことを言い出した。
「え? スイが壊すって、どうやって?」
スイの酸で溶かすの?
前にダンジョンのストーンゴーレムを酸弾で倒してたから、溶けないこともないだろうけど、グリーンドラゴンを引きずり出すほどの大きさにするにはけっこう大変なんじゃないかな。
『うんとねぇ、こう!』
ビシュッ―――。
「うぉっ」
スイが突き出した触手からビシュッと水を噴き出した。
『あれ~? 壊れない~?』
『いや、しっかりと切れているようだぞ』
スイの不満げな声に、フェルが上を見ながらそう声を掛ける。
「え、今の何?」
呆然としていると、フェルが『スイの水魔法だ』と言った。
『ほ~、これを切断するとはスイもやるのう。なかなか強力な水魔法を持っているようじゃ』
『え~、でも、これじゃあ入れないよ~』
ゴン爺は褒めているが、スイはやっぱり不満そうだ。
……スイちゃん、何が不満なの?
ドラゴンが土魔法で作っためちゃくちゃ硬い棲み処を切断したんだよ。
よく見るとスッパリと切れ目が出来ている山に顔を引き攣らせる俺。
水魔法も威力マシマシになってるんだね、スイちゃん……。
『何を言っているんじゃスイ。これだけ隙間が出来れば十分じゃぞ。こうして儂の爪をな……』
そう言いながらゴン爺が、スイが入れた切れ目に爪をねじ込んだ。
そして……。
『フンッ』
ゴン爺が力を入れて引っ張ると、切断された山の端っこがゆっくりと倒れていった。
ドシンッ―――。
『ほれ、入口が出来たじゃろう。スイが水魔法であらかじめ山に切れ目を入れておったから簡単じゃったわい』
『うわぁ~、なら、スイお手柄~?』
『ワッハッハッハ。うむうむ、お手柄じゃ』
『わーい』
ゴン爺にお手柄だと言われて、フェルの頭の上でポンポン飛び跳ねて嬉しそうに喜ぶスイ。
『やるじゃん、スイ!』
山が硬いのを自ら確認していたからなのか、ドラちゃんも素直に褒め称えている。
『まぁ、我やゴン爺でも壊すことは可能だが、スイの一撃で簡単に壊せたのは間違いないだろうな。とは言ってもだ……、スイ、我の頭で飛び跳ねるのは止めろ』
『フェルおじちゃん、ごめぇん』
なんだかみんな和気あいあいとしているところ悪いけど、本当に悪いんだけど。
「え、えぇぇ……」
スイの威力を増した水魔法にも驚いたけど、ゴン爺『フンッ』てさぁ。
爪をねじ込んで力業で引き倒すって……。
ちょっと引いたぞ。
『ということで、入口も出来たところでじゃ』
『グリーンドラゴンを仕留めようではないか』
『だな!』
『ドラゴンのお肉~』
パカリと開いた入口に勢揃いした食いしん坊カルテット。
みんな目がギランギラン輝いている。
美味い肉の前にみんなヤル気満々だ。
そんなヤル気満々のみんなを横目に、ススス~と後ろに下がる俺。
こんなのに巻き込まれたらたまらん。
「えーと、俺はここで待ってるから」
そう宣言すると、フェルが『その方がいいだろう。いると邪魔になるからな。結界は張っておく』と入口から真っ暗な空洞の中を見つめながらそう言った。
邪魔で悪うござんしたね。
というか、付き合って巻き込まれる方が御免だわ。
『それでは、行くぞ』
フェルがそう言うと、みんな一斉に真っ暗な空洞の中へと入っていった。
そして…………。
暗闇から、フェルたちの声や戦闘音が聞こえてきた。
『おとなしく我らの糧になれっ』
ザンッ―――。
『グギャオゥッ』
『ほぅ、フェルの攻撃でも致命傷にはならぬか。なかなかに耐久力があるのう。お主も曲がりなりにもドラゴンというわけか。しかし、儂の攻撃はどうじゃろうな?』
ズシャンッ―――。
『グギャァァァァーッ』
『お~、スゲェ! さすが古竜の爪! スパッといったな! ってか、まだ抵抗すんのか? しぶといなコイツ。抵抗なんて無駄無駄ぁ! 今度は俺だ! おらっ』
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ―――。
『ギャ、グギャア……』
『まだ倒れないよー。次はスイがいくー!』
『ちょっと待て、スイ!』
『なぁに~、フェルおじちゃん』
『それの肉は我らで食うのだからな。酸攻撃は止めておけ。あちこちある傷に酸がかかると、そこから酸が入ってせっかくの肉が溶けてしまう』
『そっかー。お肉溶けちゃったらもったいないもんね~』
『スイよ、それならば先ほどの水魔法はどうじゃ? あれなら、今の弱った此奴の首を切り落とすことも可能じゃろうて』
『分かったー! エイッ!』
ビシュッ―――。
ドスン。
『ヤッター! 倒したー!』
『見事じゃったぞ、スイ』
『エヘヘ~』
…………聞こえてくるのは不穏すぎる会話と音ばかりだね。
というか、フルボッコだな。
やり過ぎ、ダメ。
そうこうしているうちに、暗闇から姿を現すフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイ。
『おっも~』
ドラちゃんがグリーンドラゴンの頭を重そうに運んでいる。
でも、その顔はどこか誇らしげだ。
『あーるじー、たおしたー』
スイが巨大化してグリーンドラゴンの体を運んできた。
グリーンドラゴンの体には、大きな傷がいくつも刻まれていた。
「フェル、ゴン爺…………」
『なんだ?』
『なんじゃ?』
「やり過ぎはよくないよ、やり過ぎは。これじゃあ弱い者いじめみたいだぞ」
『な、なぬっ? これは狩りだぞ!』
『そ、そうじゃ! それに、この世は弱い者がより強い者に倒されるは道理じゃっ』
「そうは言うけどさ、フェルもゴン爺もこの世の頂点みたいな存在じゃん。それがやり過ぎると、弱い者いじめにしか見えなくなるってことだよ」
『断じてそんなことはないぞ!』
『そうじゃっ、主殿は間違っているぞい!』
ワーワー騒ぐフェルとゴン爺を放っておいて、ドラちゃんが持つグリーンドラゴンの頭とスイが運んできたグリーンドラゴンの体をアイテムボックスにしまった。
そして……。
ナム~。
フルボッコの上に倒れたであろうグリーンドラゴンに、心の中でそっと手を合わせた俺だった。




