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第五百九十一話 え、逃げた?

 ハイエルフの村を発って小一時間。

 緑竜(グリーンドラゴン)の居場所を知っているというゴン爺の指示の下に森の中をひた走る。

 そして、ようやくゴン爺から『止まれ』の声が。

『確かこの辺じゃったんだがのう』

 ゆっくりと進みながら辺りを窺う。

『む、気配はあるな』

 フェルがそう言うのと同時に、ドドッドドッという地響きが聞こえてきた。

『向こうからやって来たみたいだぜ』

『なんかくるよ~』

『そうか。ここはもう彼奴の縄張り内じゃったか。手間が省けたわい』

 ちょっと待て、それって……。

「落ち着いてる場合じゃないだろ~!」

 グギャオォォォォッ―――。

 耳をつんざくような雄叫びが聞こえた。

「ヒェッ」

 圧倒的なその音量に思わず身が縮む。

『フンッ。一丁前に我らに威嚇するとはな』

『まぁ、そう言ってやるな。ドラゴン種の中では、緑竜(グリーンドラゴン)はちとかわいそうな頭をしておるのじゃからのう』

『ブハッ。まぁ、でも、俺らが格上だって気付いてない時点で大馬鹿だよなぁ』

『ビュッビュッてしてスイがやっつけちゃうんだ~。スイのが強いもんね~!』

 お、お前ら、言いたい放題だね。

 俺は、まだ見ぬグリーンドラゴンにちょっとだけ同情した。

 その間にも……。

 ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ。

 地響きがだんだんと近付いてきていた。

『来るぞ』

 フェルのその言葉の直後。

 木々を押し倒しながら緑色の巨体が現れた。

「は? え? あれって、トリケラトプスゥ?!」

 俺たちの前に姿を現したグリーンドラゴンの姿は、かつて図鑑で見た絶滅した恐竜のトリケラトプスにそっくりだった。

 特徴のある頭部と3本の角は図鑑で見た通りだ。

 だけど……。

「トリケラトプスは草食ってことだったけど、グリーンドラゴンはどう見ても草食に見えないよね」

 顔を引き攣らせてゴン爺を盾にしながらグリーンドラゴンを窺い見る。

 鋭い歯が生えそろった大きな口から涎を垂らして、こちらを威嚇するように足を踏み鳴らしていた。

 ………………。

 あれ?

 もしかして、これ、創造神様やっちゃった?

 ってか、これ、完全にやってるよね?

 ノリで、地球の恐竜を参考にして、創造神様の言うところの「おりじなりてぃ」を加えてトンデモ生物を創ったお方だぞ。

 …………あり得る。

 非常にあり得るぞ。

 今思い出すと、地竜(アースドラゴン)もTレックスにそっくりだったよな。

『ゴホン。これこれ、あの山にいたのとは別物じゃぞ。あそこのは、実験とノリで創ったからのう。一番近い言い方をするのなら“ドラゴンに近くはあるが、ドラゴンそのものとは言い難いもの”じゃな。それに比べてじゃ、地竜(アースドラゴン)はもちろんじゃが、緑竜(グリーンドラゴン)もれっきとしたドラゴンとして創ったんじゃぞ。その証拠に山にいたのは、火を噴くとか酸を吐くとか強力な顎で咬みつくとか毒爪で攻撃するとか、まぁそんな感じの物理攻撃が主流じゃったじゃろう。でも、ドラゴンは違うぞ。巧みに魔法を使うのじゃ!』

 俺が「創造神様、やらかした?」と考えていたら、いきなり頭の中に声が響いてきた。

 というかですね、説明という名の言い訳ですね。

 それに『巧みに魔法を使うのじゃ! (ドヤァ)』じゃないですから。

 まぁ、今のであの山にいたトンデモ生物とアースドラゴンやグリーンドラゴンが別物だっていうのは分かりましたよ。

 分かったんですけどね~。

 …………実のところは?

『ちょびっとだけ面倒になってしまってのう。見た目をお主の世界の恐竜から拝借したのじゃ』

 そんなことだろうと思いました。

『そ、その時はドラゴンをたくさん創ったし、ほ、他にもやることがあって忙しかったのじゃ。お主だってそういう時あるじゃろうがっ』

 いや、そりゃああるけど、規模が違うでしょ規模が。

『と、とにかくじゃ! 見た目はあんなじゃがれっきとしたドラゴンじゃ。そういうことじゃから! アディオス!』

 なにが『そういうことじゃから!』だよ。

 それに『アディオス!』って、どこでそんなん覚えてくるんだよ。

 っとと、そんなことより目の前のグリーンドラゴンだ。

 睨み合うフェルたちとグリーンドラゴン。

 お互い牽制し合っているようだが……。

 グギャオゥッ。

 グリーンドラゴンが動く。

 3本の鋭い角をこちらに向けて突進してくる。

『主殿っ、儂にしがみつくんじゃ!』

 ゴン爺にそう言われて、必死に背中にしがみついた。

 大きな体に似合わず華麗にグリーンドラゴンの突進を避けるゴン爺。

『フン、そんなことで我らをどうこうするつもりか?』

 フェルも自慢の脚力で軽々と避けていた。

 スイもフェルの頭に乗っているから無事だ。

『そんなんで当たるわけねぇじゃんよ~。だから馬鹿って言われんだよ』

 パタパタと羽を動かして空中に留まるドラちゃんにいたっては、グリーンドラゴンを馬鹿にしている。

 な、なんかグリーンドラゴンが鼻息荒く興奮してるみたいなんだけど……。

 ドラちゃんがバカにしたの何となく伝わってる?

 これ、めちゃくちゃ怒ってない?

『お、本当のこと言われて怒っちゃった?』

「ちょっ、ドっ、ドラちゃん煽るなって!」

 グオォォォォォォッ―――。

 憤怒の雄叫びと共に、俺たちの足元から1メートルはあろう剣山のような針が広範囲で突き出してくる。

「うわっ」

 フェルは大ジャンプして躱し、針の圏外に着地。

 ゴン爺は大きい羽根を広げて飛んで躱した。

『なんだよその程度かよ。そんなら今度はこっちからいくぜ』

『あーっ、ドラちゃんズルい~!』

『こういうのは早いもん勝ちなんだよ!』

 ドラちゃんのその声とともに、先が尖った氷の柱がグリーンドラゴンに降り注いだ。

 氷の柱がグリーンドラゴンの硬そうな皮を貫くことはなかったが、「グギャッ」っと呻き声をあげたグリーンドラゴン。

『チッ。さすがに俺の魔法一発で倒すのは無理か』

『次はスイがいくよ~! エイッ!』

 ビュッ、ビュッ―――。

 スイの酸弾がグリーンドラゴンの横っ腹に当たる。

「ギャオウゥッ」

 身を捩りながら悲鳴とも取れる声をあげるグリーンドラゴン。

 見ると酸弾が当たった横っ腹からシュウシュウと煙が上がっていた。

『むー、倒れない~』

 スイは得意の酸弾で仕留められなかったことにご立腹の様子。

『スイ、倒れはしなかったが確実にダメージは与えているぞ。ホレ見ろ。身を捩って痛がっているじゃろう』

「そ、そうだぞ。それに相手はドラゴンなんだから」

 それじゃなくてもスイの酸弾の威力がすごいことになってきてるんだから。

 酸弾一発でドラゴンを倒せるようになんてなったら……。

 ブルルッ……、俺のかわいいスイちゃんカムバックッ。

『よし、最後は我がやる。これで終いだ』

 そう言ってフェルが足を踏み出した途端。

 グリーンドラゴンが怯えたように後ずさる。

 そして、一気に方向転換すると、ダダダダッと一目散に走り去ってしまった。

 ………………。

「え?」

『逃げたな』

『逃げたのう』

『ククク。スゲー逃げっぷり』

『あれー? どこ行くのー?』

『後を追うぞ』

『うむ。極上の肉を逃せはせんからのう』

『だよな!』

『ドラゴンのお肉絶対食べるもんねー』

 逃げたからといって、素直に逃がすフェルたちではなかった。

 美味しい肉のためならどこまでも。

 俺たち一行はグリーンドラゴンを仕留めるべく後を追ったのだった。






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― 新着の感想 ―
フェルさんたちや 以前に恐竜を絶滅させたことを忘れてないかい? グリーンドラゴンを根絶させてはいないよね?
Isn't Demurge slightly disturbed by seeing how this group hunts and devours his creations to the poi…
主人公くんが大人しいからか、すごく読みやすい! まるで100〜300話位の頃並みに読みやすい!! 自分の事を食べようと嬉々として襲ってくる集団、弱肉強食!怖い!!
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