第五百八十八話 なに勝手にスカウトしてくれちゃってんのぉぉぉっ!
「うっま! この“からあげ”っていうのは本当に美味いな!」
「うんうん。ヨルゲンがアデラに食べさせたいって思ったのも分かるよ」
「だな~。というか、美味過ぎるぜ、これは」
「ちょっとちょっと、アンタ取り過ぎ!」
揚げたてのから揚げを美味そうにパクつくハイエルフのみなさん。
「ング。……だろ。こんなに美味い物を食ったのは初めてだったから、どうしてもアデラにも食わせたくてな」
「ありがとうヨルゲン。本当に美味しいわ」
ゴホン。
そこっ、そこのヨルゲン&アデラ夫妻はから揚げ食いながら見つめ合わないっ。
ってか「ありがとう」ってお礼言われるなら、から揚げ作った俺じゃないの?
まぁ、別にいいけどさぁ。
ここで突っ込んだら馬に蹴られそうだし。
『うむ。やはりから揚げは美味いな』
『うむうむ。から揚げはいつ食っても美味いのう』
『から揚げはもちろん美味いけど、とんかつも美味いぜ!』
『どっちも美味しい~!』
から揚げととんかつに舌鼓を打つ食いしん坊カルテット。
さっきも食ったはずなのに、驚くほどの食いっぷりだよ。
まぁ、みんな揚げ物は大好きだもんなぁ。
から揚げととんかつだなんて、胸焼けしそうな組み合わせだっていうのに。
「こっちの“とんかつ”ってのも美味いぜ!」
「本当。こんなに分厚いのに、お肉は柔らかいし、外側がサクッとしているのがいいわね」
「これはダンジョン豚の肉だって言ってたぞ」
「あ~、あのお肉ばっかり出るダンジョンね! 懐かしい~」
「あそこか! 人の街で冒険者をしていた時に一緒に行ったな」
「ええ、覚えているわ。あそこ、ダンジョン牛っていうのもいて、そのお肉も美味しかったのよね~」
胃もたれなんて関係ないとばかりに、ハイエルフのみなさんも美味そうにとんかつを召し上がっている。
ウップ……。
しかし、あの細身で良く食うよな。
から揚げもとんかつもパクパク食っているし。
そういやこの世界のエルフも良く食うもんなぁ。
そんなことを思いながら、俺は良く食う食いしん坊カルテットとハイエルフのみなさんのためにから揚げととんかつを揚げることに徹していた。
ちなみに、俺はというと、揚げ物続きじゃさすがに胸焼け確定なので軽く飲み物程度だけで。
「はい、次揚がったよ~」
そう声を掛けると、ワラワラと集まって来る食いしん坊カルテットとハイエルフのみなさん。
そして、また、から揚げととんかつをバクバクと美味そうに食っていくのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ハァ~、食った食った」
「美味しかった~」
「本当に美味かったな~」
「お腹がはち切れそう」
「お前は食い過ぎだっての」
「あなたも人のことは言えないでしょ」
そう口々に言いながら腹をさするハイエルフのみなさん。
まぁ、満足してくれたようで良かったよ。
「しかし、人間の街ではこんな美味い物が出回るようになったんだなぁ」
「「「「「それな(よね)」」」」」
「もう大陸に戻ろうぜ」
「だな」
「そうね」
「美味しい物食べたいものね」
あ、いや、から揚げもとんかつも人間の街に行けば食えるってわけじゃないよ。
なにか勘違いされているハイエルフのみなさんにそう言おうとすると……。
『おい、このから揚げととんかつは、人間の街に行けば簡単に食えるというものではないぞ』
『そうじゃ。主殿だからできる料理。他の人間では食わせることもかなわんだろうのう』
『だよなぁ。ま、屋台でもそこそこ美味いのはあるけど、やっぱ主の料理が一番だよな』
『あるじのご飯がいちばーん!』
よせやい。
照れるぜ。
「え、そうなのか?」
フェルとゴン爺の話(ドラちゃんとスイの言葉は念話だから聞こえていない)を聞いて、ガッカリするヴェルデさん。
人の街に行けば食えると思っていたから揚げととんかつが食えないと分かり、他のハイエルフのみなさんもガッカリしている。
「あっ! 飯目当てに従魔になったと言っていたよな? ということは、他にも美味い料理が……」
フェルたちが従魔になった経緯を知っているヨルゲンさんが思い出したようにそう言う。
『フフン。当然だ。我らほどの者が従魔となるのだぞ』
『うむ。主殿の飯はどれもこれもこの上もなく美味いのじゃ』
フェルとゴン爺がドヤ顔でそう言うと、ハイエルフのみなさんの視線が俺に。
いや、そんな見つめられても……。
ハイエルフのみなさんの凝視に顔を引き攣らせる俺。
『そこでお主らに相談なのだが……』
そう言って、フェルとゴン爺、ハイエルフのみなさんが顔を寄せ合ってヒソヒソと話し始める。
ちょっと、何話してるの?
ってか、話が全然聞こえないんだけど。
もしかして、結界張ってる?
え、なに?
そんなに重要な話なの?
(フェルとゴン爺、ハイエルフのみなさんの密談)
『お主ら、ドラゴンの解体ができると言っていたな?』
「ああ」
「もしかして、さっき狩るって言ってた緑竜の解体か?」
『うむ』
「それならば、少しの素材と肉と引き換えに請け負うぞ」
「ヤッタ! ドラゴンの肉が食べられるわね」
「素材も貴重だしな」
『フハハ、これで緑竜もすぐ食えるぞ』
『うむ。そうじゃが、フェルよ。思ったのじゃが此奴らが我らの所におれば、またドラゴンを狩ったときに、あの気味の悪いエルフに頼まずともすぐに食えるのではないか?』
『確かに! あのエルフに頼むのは面倒だからな』
『うむ。主殿も会いたくないようじゃし、儂もドラもできれば会いたくないわい。それにじゃ、此奴らドラゴンの解体ができるのならば、他の魔物の解体もできるのではないかと思うんじゃがのう。ほれ、先のドラゴンタートルも解体できる人間がいないとかで待たされたじゃろ。此奴らがいれば、解体がすぐに頼めるんじゃないかと思うんじゃ』
『そうか! おい、お主らはドラゴンの解体ができるのであれば、どんな魔物の解体もできるのだろう?』
「どんな魔物でもって言われると語弊があるけど、大抵のものは大丈夫じゃないかな。解体が得意なヴェルデもいるし。ねぇ?」
「まぁな。人間とは生きている年数が違うからな。初見の魔物でよっぽどのものじゃなきゃあそれほど苦も無く解体できるぜ」
『クククク。そうか』
『フハハハハハ。フェルよ、最初は面倒だと思っておったが、いい出会いじゃったのう』
『ゴン爺の言うとおりだ』
『お主ら、物は相談じゃが、儂らの所に来ないか?』
「それは、さっきあんたらが話してた解体要員としてか?」
『うむ。我らの獲物は大物が多いからな。すぐに食えないものが多いのだ』
「あ~、解体できる奴がいないってか?」
『うむ』
『それにお主らも話を聞くと、人間の街に戻ろうとしておるんじゃろう? この話に乗るのであれば、儂に乗せてやるぞい』
『それだけじゃないぞ。我らの所に来れば、彼奴の美味い飯も食える』
「「「「「「行く!」」」」」」
フェルとゴン爺、ハイエルフのみなさんの話が終わったのか、みんなでこちらへやって来た。
『おい、此奴らも一緒にくることになったから頼むぞ』
「は? 何言ってんの、フェル。一緒にくることになったからって、どういうこと?」
『主殿、儂らの家にじゃよ』
「………………ハァ?」
『此奴らがいれば、ドラゴンの解体だろうが、他の魔物の解体だろうが問題なくなるだろ』
いやいやいや、そうかもしれないけど!
『此奴らも丁度人間の街へ行きたいと思っていたところじゃというからな、それならばと誘ったのじゃ。帰りは儂が載せて行けばいいだけのことじゃからのう』
いやいやいや、そうだけど!
『そういうことだから頼むぞ』
『主殿、よろしくのう』
「「「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」」」
え、ちょちょちょちょっと!
なに勝手にスカウトしてくれちゃってんのぉぉぉっ!




