第五百八十七話 ハイエルフが島にいる理由
お、遅くなりまして申し訳ございません(汗)
ハイエルフたちが村から出て行ってから、ゴン爺のリクエストのとんかつの準備やらから揚げの漬け込みダレの準備やらをしていた。
それもあらかた終わって、手持無沙汰になったころにハイエルフたちが村に帰ってきた。
「コカトリスを狩ってきたぞ!」
そう言ってヨルゲンさんがアイテムボックスからコカトリスを取り出した。
ドサドサと積み上げること四羽。
「……デカッ」
え、これ、コカトリス?
俺の知ってるコカトリスの2倍は大きいんだけど。
目を丸くしながら、ポカンとコカトリスを見上げる。
「あ~、島のコカトリスは大きいのよ」
「コカトリスだけじゃなく他の魔物も大きいけどね。だけど……、フフッ。なんだか今の驚きを見て島に上陸したころのことを思い出したわ」
「本当。初めて見たときには私たちも驚いたものね。島の魔物が大きくて」
ワイワイとそう話し出す女性ハイエルフたち。
島の魔物は総じて大きいらしい。
まぁ、肉が多く取れるってことだから良いことなのか?
というか……。
このコカトリス、俺が解体すんの?
コカトリスだからできなくはないけど、四羽となるとけっこう時間かかるぞ。
ってか、一羽だって手順を思い返しながらだから割と時間かかるのに。
「えっと、解体は……」
困惑しながらそう漏らすと、ヨルゲンさんの隣にいた男性ハイエルフが苦笑いしている。
「バカだな~、ヨルゲン。そのまんま渡されても困るだろうが」
「ハハッ、そうだな。いや~、気が急いてなぁ。もちろん解体もこっちでやるぞ。みんな」
ヨルゲンさんがそう声を掛けると、ハイエルフたちがコカトリスを担いで移動。
細身でシュッとしているけど、ハイエルフって意外と力持ちなんだね。
それと、女性ハイエルフも意外と力持ちなのが判明。
コカトリスを持ち込んだのは、屋根だけある小屋みたいなところ。
作業台にある包丁やらを見ると、ここを解体場にしているのだろう。
慣れた手つきでコカトリスの後ろ脚をヒモで縛ってフックに引っ掛けて逆さづりにして首チョンパ。
そのまま血抜きをすると、これまた慣れた手つきで羽をむしっていくハイエルフたち。
一つ一つの作業がとにかく早い。
「みなさん手慣れていますね」
「まぁね。こんなところに住んでいると何でも自分たちでやらなきゃならないし」
「だよな」
「俺はここに来る前から解体は得意中の得意だったぜ」
「そりゃあアンタは人間の街へ遊びに行った時はそれで稼いでたんだから当然でしょう」
みなさんとの話の中で気になるワードが。
「人間の街へ遊びに?」
「ああ、それはな………………」
手慣れた手つきで解体が進む中、ハイエルフのみなさんが色々な話をしてくれた。
まずは名前からということで、ヨルゲンさんがみんなを紹介してくれた。
ヨルゲンさんの奥さんで、明るい茶髪にアメジストのような紫色の目をしているのがアデラさん。
さっき解体が得意だと言っていた、この中で一番背が高くダークブラウンの髪に濃いブルーの目をしたヴェルデさんと、その奥さんで明るい金髪に薄桃色の目をしているセルマさん。
細身のハイエルフの中で一番がっしりした体形でアッシュグレーの髪に薄いブルーの目をしているラドミールさんと、その奥さんの白金の髪に濃いグリーンの目をしたラウラさん。
みなさん髪が腰くらいまで長くて、言うまでもなく総じて美形。
で、みなさんの話によると、みなさんはこの島で生まれてずっとこの島で暮らしているというわけではないのだそうだ。
元々は、大陸(俺たちが住んでいるレオンハルト王国がある大陸だ)出身で、約300年前にこの島に来たのだという。
そのころ、人間の国同士の戦争が激化していたことと、それに伴い、魔力が多く強いハイエルフを戦奴にしようとみなさんの住んでいた森の奥深くにまで度々人間が入り込んでくるようになったことが理由だ。
ハイエルフの見目の美しさから、奴隷にする目的で森へと侵入してくる不埒者もいたにはいたそうだが、大抵はハイエルフたちが住む森の奥深くまでは行けず途中で諦めるか、魔獣に殺されるかだったらしい。
でも、話を聞いていると、その時は、国が冒険者を雇って次々と送り出してきたようだった。
そりゃあフェルやゴン爺が認めるほどの強さを持つハイエルフだ。
戦局を動かすほどの戦力になり得るってことを国はよく理解していたんだろうね。
まぁ、そんな理由で、仲間のハイエルフ約60人と一緒にこの島に移住してきたらしいんだ。
だけど、100年も経つと、ポツポツとこの島を去るハイエルフが出てきた。
というのも、ハイエルフというのは割と自由で、生活の基盤は森にあるものの、息抜きというかそういうので時々人の街へと遊びに行くのだそうだ。
ラウラさん曰く「人の街っていろんなものがあって楽しいからね」とのこと。
ヨルゲンさんも「特に俺たち世代が大人になってからは、人の街にはエルフがたくさんいるようになって、俺たちが街にいてもハイエルフだってバレなかったしな」と話していた。
ちなみにここにいるみなさんは全員600歳代らしい。
そんな感じで少しの間、人の街での生活を楽しんで、また森へと帰る。
その少しの間というのが、ハイエルフの寿命だと十年単位らしいけども。
解体が得意中の得意だと豪語していたヴェルデさんは、人の街に滞在中は冒険者ギルドの解体部門で働いていたこともあるそうだ。
ということで、戦渦を逃れて島に来たけれど、人間の国がない島での生活はある意味安全ではあったけど、刺激がないのも事実で……。
大陸から切り離された島での生活に、詰まらなさや息苦しさを感じたハイエルフたちは次々と島を去っていったそうだ。
「で、最後に残ったのが俺たち6人ってわけだ」
「なるほど」
「もうそろそろ大陸に戻ろうかって話したんだけどね」
「でも、そう言いながら10年くらい経ってるけど」
「だなぁ」
「でもさ、こうして久しぶりに人間に出会ったのも良い機会じゃない。本気で大陸に戻ろうか」
「そうだな。久しぶりに人の街も楽しみたいし」
そうこうしているうちに、コカトリスの解体が終わった。
「それじゃあから揚げを作りますんで」
早速コカトリスの肉を切り分けて、醤油ベースのタレに漬け込んでいると、ヨルゲンさんに話しかけられた。
「そういえばムコーダは何の用でこの島に来たんだ?」
「それはですね~……」
かくかくしかじかと緑竜の話をする。
「ああ~、あのグリーンドラゴンか。かなり気性が激しいが大丈夫か?」
「狩るのは俺じゃないんで」
そう言いながらフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイを見る。
「ああ、なら大丈夫か」
ヨルゲンさんとそう話をしていると、他のハイエルフたちも話に交じる。
「あのグリーンドラゴンを狩るのか?」
「俺らにももう少し仲間がいればな。そうすれば狩ったのに」
ヴェルデさんとラドミールさんが悔しそうにしている。
「本当よね。私たち6人でも狩れないことはないけど、かなり危険になるしね」
「ええ。でも、狩れるものなら狩りたかったわ」
「ドラゴンの肉、美味しいものねぇ~」
アデラさんとセルマさんとラウラさんも悔しそう。
『ちょっと待て。お主らドラゴンの肉を食ったことがあるのか?』
俺たちの話を聞いていたフェルが何故か口を出してきた。
「え、ええ。そりゃあハイエルフと言えどもほんの数回だけど、あるわよ」
アデラさんがそう答えると、他のみなさんもウンウンと頷いている。
『それはどうやって』
「どうやってって、自分たちで狩ったに決まってるさ。なぁ」
ヨルゲンさんがそう言う。
『解体も自分たちでやったのか?』
フェルがそう聞くと、何故かゴン爺が顔を上げた。
「そりゃあもちろん。俺も2回ほど解体したことがあるぞ」
ヴェルデさんがそう言うと、フェルとゴン爺が顔を見合わせて何故かニヤリと笑っていた。
ゾクリ―――。
な、なんか嫌な予感が……。
関わらんとこ。
知らんぷりでから揚げの準備をする俺だった。




