第五百八十四話 野生の、ハイエルフに、出会った。
遅れてしまいました。すみません(汗)
「ハァ……」
『おい、何をため息なんぞついているのだ?』
ため息をついた俺に向かってそう聞いてくるフェルをキッと睨む。
「お前のせいだろうが~!」
『何を訳の分からぬことを』
「訳が分からぬなことじゃないよ! ああもうっ!」
絶対、絶対、帰ったらまたどやされるよ、ギルドマスターに~……。
冒険者ギルドでのことを思い出す。
勢いよく冒険者ギルドに駆け込んだ俺たち一行に、けっこうな人数がいたにもかかわらずシーンとなっちゃってさ。
だけど、そんなことになっても当然というか、フェルもゴン爺も空気を読むなんてことは一切しない。
何事だとやってきたギルドマスターを見るや否や『我らは緑竜を狩りに行くからな』『うむ。そういうことじゃ。こうしてしっかりと知らせたからのう』と言い捨てて冒険者ギルドを即退散。
俺だってさすがにこれじゃマズいと思って「待て!」って言ったし「止まれ!」って言ったのに全然聞きやしないで門へと一直線。
街の外へ出たら、お馴染みの草原で今度はゴン爺の背中に乗り換えてあれよあれよという間に空へ。
そして今に至るというわけだ。
「ハァ。ホント、どうしよう。ギルドマスター、唖然とした顔をしてたよなぁ……」
そりゃあそうなるよなぁ。
フェルもゴン爺も、緑竜を狩りに行くってことだけ宣言して、どこに行くとか全然言ってないんだもん。
あれじゃあギルドマスターも対処のしようがないよ。
あーあ、これはもう……。
「怒られるの覚悟するしかないよなぁ」
そうつぶやいて、俺はガックリと項垂れた。
『おい、さっきから何をブツブツつぶやいているのだ?』
そう言ってきたフェルを再びキッと睨む。
「だから、お前の、いや、お前とゴン爺のせいだろうが!」
『ぬ、儂もか?』
ゴン爺の声が念話で入る。
「お前ら、ギルドマスターに緑竜を狩りに行くってだけ言って、どこに行くとか全然言ってないじゃん! 俺が散々「ちょっと待て!」「止まれ!」って言ってるのに全然聞かないで街の外まで出ちゃうしさ! 帰った時にギルドマスターに怒られるのは俺なんだからな!」
俺のせいじゃないのに、怒られるのは結局俺になるという理不尽さに憤る。
『……そんなことよりも、緑竜が居るのは少し遠い場所だとゴン爺が言っていただろう。本格的に狩りに向かう明日に備えて少しでも休んでおけ。我らの中で一番体力がないのはお主なのだからな』
『フェルの言うとおりじゃぞ、主殿。儂でも到着するのは陽が落ちる間際になるだろうからのう。その間に少しでも休んでおったほうがいいじゃろう』
「おい~っ! 『何だそんなことか』ってな態度で話変えるなよーーーっ!」
『実際、何だそんなことかというようなことではないか』
『うむ』
………………。
「ハァ~、もういいよ。お前らには何を言っても無駄だって分かった」
寝そべるフェルの腹を枕に、俺はふて寝した。
『あるじー、ねんねするのー? スイもねんねする~』
そう言って俺の隣にやってきたスイを抱きしめる。
「ハァ、スイちゃんだけが俺の癒しだよ……」
『あるじ、くすぐったいよ~』
キャッキャするスイに頬ずりする。
『そういや今日の狩場まではちょっと時間がかかるっつってたし、俺も昼寝するわ』
俺はドラちゃんとスイに挟まれて目を閉じたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『……い…………お……きろ! ……おい、いい加減に起きろ!』
聞こえてきた声とともにゴンッと後頭部をしたたかに打ち付けた。
「イッテー! なにすんだよ!」
後頭部をさすりながら起き上がる。
『何度も起こしたにもかかわらず起きないお主が悪いのだ!』
どうやら枕にしていたフェルが起きない俺に焦れて立ち上がったようだ。
「だからってもうちょっと優しい起こし方があるだろうが。ったく」
『ようやく着いたのだ。飯にしろ!』
プンスカ怒るフェルがそう言ってゴン爺の背中から降りて行った。
『ったく、ようやく起きたのか。早く来いよ~』
『あるじ~、早く早く~』
ドラちゃんとスイは既に降りているようだ。
「へいへい、今行くよ」
俺も続いてゴン爺の背中から降りる。
もちろん落ちないように気を付けながらそろりとな。
そして、ゴン爺がいつもの大きさに。
俺たちが降り立った先には鬱蒼と茂る森が。
『緑竜が居るのはあの森の奥深くじゃ。今日はここで一晩過ごして、明日向かうのがいいじゃろう』
『うむ。ということだから、飯だ』
『あ~、腹減った。飯、飯~』
『あるじー、お腹減った~』
「ったくお前らはそればっかりなんだから」
夕飯は、アイテムボックスにあったダンジョン豚の照り焼き丼で済ませて、俺たち一行は明日に備えて早めに就寝したのだった。
翌朝―――。
「あ~、よく寝た」
土魔法で作った箱型の家から出て朝日を浴びる。
そして、背伸びをしてコキコキと首を鳴らした。
「昨日はゴン爺に乗ってる時も寝てたし、そんなに寝られないかと思ったけど、けっこう寝られるもんだな」
そんなことを考えていると、みんなも次々と起きてきた。
『あるじー、おはよ~』
「おはようスイ」
『ふあ~あ、はよ』
「おはようドラちゃん」
『主殿、おはよう』
「おはようゴン爺」
『ふあ~、起きたぞ』
「おはようフェル」
グググッと伸びをするフェル。
『よし、すぐに飯を食って向かおう』
『うむ』
『賛成』
『ドラゴンさんに早く会いたいね~』
って、飯作ってる時間ないじゃん。
みんなどんだけ楽しみなんだよ。
ったく。
アイテムボックスにカツサンドが残ってたから、朝はもうそれでいいか。
フェルたちにはカツサンドを、俺は俺の朝飯用に作ってあったおにぎりと漬物で軽く済ませて、早々に森の中へと入っていくのであった。
木々の葉が生い茂る薄暗い森の中をスイスイと進む。
ゴン爺がいるからフェル的には相当手加減しているみたいだけど、それでもけっこう速く進んでいく。
元々のスペックが高いからなのか、ゴン爺も「ドラゴンってこんなに速く走れるんだ」ってびっくりするほど速いからね。
とは言っても、念話の話では、緑竜の居場所まではもう少しかかるようだが。
それならば……。
『なぁ、緑竜の居場所まではもう少しかかるんだろう? なら、ここらで一旦休憩しないか?』
そう念話で言うと、フェルとゴン爺が止まった。
『ゴン爺がバテてるようだし、そうするか』
『ハァ、ハァ、な、なにを言う。バテてなどいないわい』
ゴン爺、そんな風に見えなかったけど、バテてたのね。
「なんか飲むか?」
『我はコーラがいいな』
『俺も!』
『スイも~』
『主殿、儂はビールが「却下」』
昼間っからビール飲もうとすんなよ。
みんなにコーラを用意しようと、アイテムボックスに手を突っ込んだその時……。
ヒュンッ、トスッ―――。
俺の真横をかすめ、後ろに立っていた樹に何かが当たった。
振り返ると、樹には矢が刺さっていた。
「え?」
フェルとゴン爺が少し先の方を睨んでいる。
『おい、出て来い』
『お主の居場所は分かっているぞい』
フェルとゴン爺がそう言うと、カサリと葉が擦れる音とともに矢をつがえて臨戦態勢の人が現れた。
いや、人ではない。
「エルフ……」
黄金の長い髪をなびかせた美男子が目の前にいた。
『いや、あれはエルフではないな』
『うむ。あれはハイエルフじゃろう』
「ハイ、エルフ…………」




