第五百八十三話 なんでこうなるの?
『おい……』
何か言いたげにジト目で見てくるフェル。
『主殿……』
ゴン爺もフェルと同じく何か言いたげに俺を見てくる。
『なぁ……』
ドラちゃんも同じだ。
『あるじー、ひまぁ。つまんない~』
スイのその言葉にフェル、ゴン爺、ドラちゃんが『そうだ』と大きく頷く。
みんなの視線が俺に集中。
言いたいことは分かってるんだよ。
『やはり、緑竜狩りだな』
『うむ。狩りじゃ』
『だな。緑竜を狩りに行こうぜ』
『ドラゴンさん狩りに行くー!』
やっぱりね……。
ドラゴンタートルを食ったくらいでは、さすがに有耶無耶にはならなかったか。
焼きドラゴンタートルを食った後も、一昨日はドラゴンタートルのから揚げを出して、昨日はドラゴンタートルの鍋に食べ比べとしてリヴァイアサンの鍋も出して、とにかく美味い物をたらふく食わせてなんとかフェルたちの狩りに行きたい気分を誤魔化せないかと試みた。
でも、それも徒労に終わったようだ。
わちゃわちゃ『狩りだ』と騒ぐフェルたちをため息をつきながら見る。
やっぱり飯だけじゃあ誤魔化されてくれなかったか。
フェルたちにとって暇な時間が多過ぎたのがいけなかったよなぁ……。
その分俺はゆっくり過ごさせてもらったんだけどさ。
ネットスーパーで厳選した美味いコーヒーや紅茶、こっちの世界で見つけた美味いお茶を飲みながらボーッと過ごす時間は最高だったんだけどな~。
もう少しゆっくりしたいところだけど、フェルたちがそれを許さないだろう。
冒険者ギルドからの連絡で、今日ヨハンのおっさんがカレーリナに帰ってきたということは知らされたけど、さすがに明日明後日でドラゴンタートルの解体が終わるわけはないし……。
だから、冒険者ギルドに行くという方便も使えない。
そもそも行く用事もないから、行ったところで時間つぶしにもなりゃあしないだろうしな。
狩りモード全開で『狩り! 狩り!』と騒ぐフェルたちを再び見やる。
ハァ……、やっぱ行かないといけないのか?
いや、待てよ。
ドラゴンと来れば当然解体はあの人に頼まなければいけないわけだし、そこを突けばなんとかなるか?
「なぁ、ドラゴン狩りドラゴン狩りって言うけど、お前ら忘れてないか?」
『何がだ?』
キョトンとした顔をするフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイ。
「あのな、ドラゴンを狩ったからってすぐに食えるわけじゃないんだぞ。今までの獲物だってそうだったろう。肉にならなきゃ、俺は料理できないんだぞ。ドラゴンタートルだって、冒険者ギルドで解体してもらって肉になったから食えたんじゃないか」
俺がそう言うと『あ!』というような顔をするフェルたち。
「しかもだ、ドラゴンなんて大物は解体できる人も限られる。具体的に言うとだな……」
そう言いながらゴン爺とドラちゃんを見た。
「エルランドさんに頼むしかないんだぞ」
ドラゴンLOVEなあの人の名前を出した途端に、“ムンクの叫び”のような顔をするゴン爺とドラちゃん。
『彼奴か……』
フェルはそう言って渋い顔をしている。
それでも……。
『まぁ、彼奴しかできないというのならしょうがないだろう』
フェルは直接の被害を被ってはいないからねぇ。
だからそう言える。
スイは『おもしろいエルフのおじちゃん~』と言ってキャッキャしている。
おもしろいエルフのおじちゃん…………。
スイにはそう見えていたんだな。
まぁ、ゴン爺とドラちゃんを見ては興奮して尻を追いかけているような輩だもんな。
ってか、スイに変態やら不審人物とみなされずにおもしろいって思ってもらえるだけマシ? なのか。
それは置いておいて、“ムンクの叫び”のまま固まっているゴン爺とドラちゃんだよ。
「ゴン爺とドラちゃんは分かってるの?」
エルランドさんの被害者になるのはゴン爺とドラちゃんなんだからね。
『あ、あれに会うのは嫌じゃのう……』
『俺もだ……』
過去にあの人がやらかしたあれやこれやを思い出しているのか、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしてそう言うゴン爺とドラちゃん。
「それじゃあドラゴン狩りは中止だね」
ニンマリしながらそう言う俺。
『なっ?!』
『えー?!』
俺の宣言にフェルとスイは不服そうだ。
「ゴン爺とドラちゃんはこんなに嫌がっているのに、フェルは強制するのか?」
そう言うと、フェルが『ぐぬっ。そんなつもりはないが……』と押し黙る。
「スイもゴン爺とドラちゃんが嫌がってるのに、嫌な事させるの? スイが嫌な事させられたら、どう?」
そう言われるとスイも『イヤ~……』とションボリする。
「だろ。だから、やっぱりドラゴン狩りは中止ってことだよ」
思わずドヤ顔になりそうなのを抑えながら、俺は再びそう宣言する。
心の中で「よっしゃ!」とガッツポーズな俺だ。
これでドラゴン狩りに行かなくて済むと思っていたら……。
『待つのじゃ。物は考えよう。主殿によれば、ドラゴンの肉は少なくなってきているようじゃが、他の肉はまだまだあるという話じゃった。幸い主殿のアイテムボックスにはたんと物が入るうえに時間経過も気にしなくて良い。ならば、狩ったドラゴンもすぐに肉にしなくともいいだけではないのか?』
ギクッ。
くっ、そこに気付くか、ゴン爺ぃ。
『あ、そうか! 狩ったら保管しときゃあいいんだもん、狩る分には何の支障もないよな。そんで、どうしてもってなったときに、アイツに頼めばいいんだし。まぁ、会うのは嫌だけど、切羽詰まったら多少の我慢はしょうがねぇかんな』
ゴン爺の言葉にピンときたらしいドラちゃんがそう続けた。
『なるほど。緑竜をすぐに食えぬのは残念だが、確かにそれならば狩ることにはなんの支障もないな』
嬉しそうな顔をしてそう言うフェル。
『ドラゴンさん狩れるのー?』
一人分からなそうだったスイがそう言うと、フェルが『そうだ』と力強く頷く。
『ヤッター! スイがんばるよー!』
ドラゴンが狩れると聞いて、俄然テンションが上がるスイ。
『そういうことだ。ドラゴンを狩りに行くぞ』
『うむ』
『行こうぜ!』
『行くー!』
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイがそう言いながら迫ってくる。
「ちょっ、待って! いろいろ準備もあるしっ」
『準備?』
『冒険者ギルドとやらに報告かのう?』
『なら、今から行けばいいだけのこと』
『そうだのう』
『んじゃ冒険者ギルドに寄って、そのまま狩りに行こうぜ』
「何お前らだけで決めてんの?!」
反論するもポイッとフェルの背中に乗せられる。
『よし、行くぞ』
「ちょっと! だから、待てってば!」
『おい、黙らねば舌を噛むぞ』
「だからー、なんでこうなるんだよぉぉぉぉぉっ」




