第五百八十二話 焼きドラゴンタートル
遅くなりましてすみません(汗)
『…………暇だ』
『うむ。暇だのう……』
『だなぁ』
『暇だねぇ~』
冒険者ギルドにドラゴンタートルを預けて早五日。
早くも、何もしない日々に飽きつつあるフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイ。
「えーと、ほら、昼寝でもしたら」
俺がそう振ると、フェルはフンと鼻を鳴らして『飽きた』と一言。
ゴン爺はゴン爺で『儂など既に200年寝た後じゃから、別に100年くらい寝ずに過ごしてもどうということはないからのう』だって。
ドラちゃんとスイまで『昼寝は飽きた~』なんて言ってるし。
要するにみんな暇を持て余しているのだ。
でも、解体が終わらなきゃどうにもならないしな。
フェルたちからは『まだ食えないのか?』とせっつかれているし……。
ヨハンのおっさんがまだ帰ってきていないから解体が遅れているんだと言い聞かせて、なんとか宥めすかせてはいるのだが、いよいよ限界かもしれない。
特にフェルは不満爆発で、三日目辺りからは『ドラゴンタートルが食えないうえに、こんなに暇ならば狩りに行ってもいいだろうが』と何度も言われ続けていた。
もうそろそろヤバいかなぁなどと思って戦々恐々としていた矢先、ようやく冒険者ギルドから解体が終わったとの連絡が。
とは言っても、ギルドマスターが言っていた甲羅が粉々になったドラゴンタートルのみという話だが。
それでも俺にとっては天の救いだ。
俺は、これ幸いとフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイを引き連れて、冒険者ギルドへと向かったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「頼まれてた分の解体、なんとか終わったぜ」
お馴染みの倉庫で、そう言うギルドマスターの後ろに疲れ切った様子の男性がいた。
聞くところによると、ヨハンのおっさんの部下で、解体部門のナンバー2に当たる職員の方らしい。
とは言っても、今回のドラゴンタートルのような大物を解体するのは初めてのことで、しかも、ヨハンのおっさんのいない中で相当苦労したみたいだ。
とギルドマスターが言っていた。
ホント、わがまま言ってすんません。
しかし助かった。
「少々不格好なものもあるが、許してくれよ」
そう言うけどさ、ギルドマスターはこの職員さんにぶん投げただけだろうし、指南役がいない中での初の大物解体を五日でやり遂げたのは上出来なんじゃなかろうか。
少々不格好でも食えりゃOKよ。
何はともあれ無事にドラゴンタートルの肉ゲットだぜ。
ということでドラゴンタートルの肉を携えて、俺たち一行は帰路についた。
ちなみにだが、ドラゴンタートルの素材である皮と牙は、ヨハンのおっさんが帰ってきてから残りのドラゴンタートルを解体した上、その分と一緒に精算することになっている。
とりあえずは、ドラゴンタートルの肉が手に入ったことで、フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの機嫌も上々だ。
『帰ったら食うぞ』
『主殿、期待しているぞい』
『楽しみだぜ~』
『カメさんのお肉楽しみだね~』
とまぁ食う気満々の様子。
でもさ……。
「ドラゴンタートルの肉ってどう料理すりゃあいいのかね~……」
まぁ、家に帰って味見してから考えるしかないわな。
家に帰って早々に、みんなからの期待の目を背負ってキッチンに籠る俺。
「とりあえずは味見だな。うん」
そう考えて、ドラゴンタートルの肉を切り取って塩胡椒を振ってフライパンで焼いていく。
身質は白身で獣系の肉というよりは、魚に近い。
焼けたところで、早速味見。
ドラゴンタートルの肉を味わいながら「俺も最近はいろんな見てくれの魔物の肉を口にしているせいか、躊躇しなくなったよなぁ」と苦笑い。
ドラゴンタートルの見てくれも、あれに似ていた。
えーと、外来種で増えてきた凶暴な見てくれのカメ……、そうだワニガメ。
超巨大なワニガメみたいな感じだったんだよね。
それの肉を戸惑いもなく食ってるんだもんなぁ。
今更だけど、随分この世界に染まったよなぁと感じる俺だった。
って、今はそんなことは置いておいて、ドラゴンタートルの肉に集中だ。
「フェルやゴン爺が美味い肉だって言ってただけあって、確かに美味いな」
ほどよい噛み応えの肉で、旨味のある上品な味わい。
何と表現したらいいのか……。
スッポンとフグを足して二で割ったような味わい、とでも言ったらいいのか。
それから考えると、鍋とから揚げにしたら絶対に美味いと断言出来る。
でも……。
「鍋もから揚げも散々やっているからなぁ。それこそビッグバイトタートルでスッポン鍋やらから揚げやらも食ってるし。どうせなら違う食い方がいいよなぁ」
う~む……。
考えていて思い出した。
スッポンではないが、リーマン時代に連れて行ってもらったフグ料理屋で焼きフグを食ったことを。
「炭で網焼きにして……。あれ、めっちゃ美味かったよな」
ニンニク醤油に漬け込んであったから、香ばしい醤油の香りも相まって絶品だった。
まな板の上にあるドラゴンタートルの肉を見る。
「この肉なら網焼きにしても美味そうだな。よし、焼きフグ、いや、焼きドラゴンタートルにしよう!」
そうとなったら準備開始。
ビニール袋に適当な大きさに切ったドラゴンタートルの肉を入れて、肉に臭みはないけれど一応酒を少々振りかけてモミモミモミ。
「味付けはもちろんニンニク醤油だけど、あの時食ったのは確かニンニクの風味は控えめだったな」
それを考慮して醤油とスライスしたニンニク(控えめ)を合わせたニンニク醤油を入れてさらにモミモミモミ。
この身質だと、漬け込み時間は1時間程度でいいかも。
醤油だけだと寂しいから塩ダレでも漬け込んでみるか。
こういうときは塩麹を使っとけば間違いない。
ということで、ネットスーパーで塩麹を購入。
塩麹におろしニンニク少々とおろしショウガを入れた漬けダレにドラゴンタートルの肉を漬け込んでいく。
「よし、これで仕込みは終了。あとは、炭火で焼くからBBQコンロの準備だな」
庭に出てBBQコンロの準備にとりかかる。
着火剤を使って火を起こす。
これがけっこう時間がかかる。
火が付いて炭が使える状態になったら網をセット。
「フ~、これで準備OK。漬け込み時間は、ちょっと早いかもしれないけど、まぁいいか。あいつらももう待てなさそうだし」
玄関から顔を出して『まだかまだか』ってな感じでこっちを窺っているフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの食いしん坊カルテット。
手招きすると、待ってましたとばかりに寄ってくる。
『食えるのか』
『これがあるということは、焼くのかのう?』
『へ~、焼くのか。これで焼くと香ばしくなるんだよな』
『早く食べよ~』
「今仕込んでる肉を持ってくるからちょっと待ってて」
そう言って、キッチンで仕込んでいたドラゴンタートルの肉を持って戻る。
「さぁ、焼いていくぞ」
網の上にドラゴンタートルの肉を置いていく。
ジュワジュワと焼けていくドラゴンタートルの肉。
なんとも言えないイイ香りが漂ってくる。
食いしん坊カルテットは焼けていくドラゴンタートルの肉に目が釘付けだ。
フェルとゴン爺は涎まで垂らしているよ。
みんなに『まだか』とせっつかれつつも、トングでひっくり返しながらじっくりと火を通していき……。
「はい、焼けたよ」
皿に盛って出してやる。
「熱いから気を付けろよ~。それと、骨があるからな」
小さい骨が付いている肉もあるのだが、食いしん坊カルテットはそんなこともお構いなく骨ごと噛み締めていく。
『うむ。悪くないな、これは!』
『香ばしい風味がたまらんわい。主殿、酒はでないのかのう?』
『ドラゴンタートルって初めて食ったけどウメェな!』
『カメさん美味しい~!』
匂いからして分かる。
こりゃ絶対美味いわ。
そして、この匂いで酒が飲みたくなる気持ちも分かる。
なので、ゴン爺には「ほどほどにな」と言ってビールを注いでやった。
俺も便乗して、ビールを片手に焼きドラゴンタートルを味わう。
「うっま」
ニンニク醤油に漬け込んだものも塩麹に漬けこんだものも、甲乙つけがたく美味い。
おっと、アレを振りかけても美味いんだった。
焼きフグを食った時におすすめされた食い方。
アイテムボックスから赤い粉が入った瓶を取り出した。
このままでも十分に美味いのだが、一味を振りかけるとピリッとした辛味が加わって美味いんだよね~。
一味を振りかけて食う。
ク~、こりゃビール不可避だわ。
グビッとビールを飲む俺。
それをジーっと見つめる視線が。
『おい、おかわりだ。それと、その赤い粉は何だ?』
「これは一味唐辛子。ピリッと辛い調味料だよ」
『よし、それを掛けておかわりだ。我はピリッとするのは嫌いではないからな、たっぷりと掛けてくれよ』
『儂も頼むぞい。主殿を見る限り、それは酒に合いそうだからのう』
『辛いのか。俺もかけてくれ!』
『スイは辛いのかけないでおかわり~』
「はいよ~」
ったく目ざといというか貪欲だよなぁ。
美味い物に関しては。
そんなことを思いつつ焼きドラゴンタートルのおかわりを出してやる俺だった。
 




