第五百七十七話 さらば王都よ
ちょい短めです。
そして、ようやく王都編(完)です。
いろいろ書きたいことを詰め込んでいたら長くなってしまいましたが、次はほどほどにできれば。
王都で過ごすのもあと数日。
フェルとゴン爺に宣言通りに食パンデーを敢行しつつ(泣きが入って2日目の夜には通常通りの飯に戻してあげたけど)、あとはカレーリナに残っているみんなへのお土産を買ったりして最後の王都を楽しんだ。
そして……。
「あ~、やっと、やっとカレーリナに帰れる……」
疲れ切った顔のギルドマスターがそうつぶやいた。
王都の入り口の門の前に広がる草原。
この場にいるのは、ギルドマスターと俺たち一行、そして、見送りに来た“アイアン・ウィル”の面々だ。
ギルドマスターの仕事がようやく片付いて、カレーリナへ帰れることになったのだ。
「お疲れ様でした」
俺がそう言うと、ギルドマスターが胡乱げな顔でこちらを見てくる。
「なぁにが「お疲れ様でした」だ。もとはと言えばお前が原因だろうが」
「いや、それはそうなんですけど」
お、俺というよりはうちのみんながハッスルしたせいというか。
「まぁまぁ。リヴァイアサンの解体という大仕事も無事終わったことですし」
空気が読めるヴェルナーさんがギルドマスターにそう声を掛ける。
「そうそう。今回は緊急招集だったけど、いい収入だったもんね~」
ニッコニコでそう言うリタ。
他のメンバーもウンウンと頷いている。
王都冒険者ギルド史上最大の事業と宣っていた“リヴァイアサンの解体”は、アイアン・ウィルの面々の懐を暖かくしてくれたようだ。
「なぁ~。そのおかげで武器も新調出来るってもんすよ」
そう言ってヴィンセントが笑みを深める。
アイアン・ウィルの面々は、この後、Bランク昇級を機に武器・防具を新調するそうだ。
そのためにもう少し王都に留まるとのこと。
「王都なら良い物が集まってるからな。楽しみだ」
「掘り出し物もありそうですものね」
ラモンさんやフランカさんも楽しみにしている様子。
「で、その後は……」
「ああ。途中の街で依頼を受けつつ肉ダンジョンへって感じだな」
「ムコーダさんから楽しそうなこと聞いちゃったっすからね~。これは行くしかないっすもんね、リーダー」
この間の“アイアン・ウィル”のBランク昇級祝いの時に、肉ダンジョンの話が出て、みなさん興味がありそうだったから肉ダンジョン祭りのことを教えてあげたのだ。
まだもうちょっと先ではあるけど、みなさんにとってはちょうどいいみたい。
王都から肉ダンジョンのあるローセンダールの街まではけっこう離れていることもあって、その間の街で依頼を受けつつ武器・防具の新調で寂しくなった懐を暖めつつ肉ダンジョン祭りに合わせて到着する予定なのだそう。
「俺たちも肉ダンジョン祭りに合わせて行くつもりなんで、向こうでまた会えそうですね!」
なんてったって孤児院のみんなと約束しているからね。
モツの在庫も欲しいしさ。
何があってもローセンダールに向かうよ。
「そうなったらまた美味い飯期待してるっす!」
「アタイも!」
期待するようにそう言うヴィンセントとリタに「お前らはまたそう言う調子の良いことを言って」とヴェルナーさんが呆れ顔だ。
「じゃあ材料は現地調達でってことで」
なにせ肉ダンジョンだからね。
「ハイハイ、おしゃべりはそこまで。とっととカレーリナに帰るぞ。儂はいい加減に家でゆっくり休みたいぜ」
疲れた顔のギルドマスターがそう零す。
「リヴァイアサンだけでも泡食ってんのに、こいつらが次々とやらかすから休む間もなかったんだ」
そう文句を言いながらこちらをギロリと睨むギルドマスター。
ハハ、ドラゴンタートルやら、“ヘイデン冒険記”の恐竜のことですね~。
「こいつらって、フェルたちのせいなんですけどね。全部」
目を逸らしながらも、俺を入れないで欲しいぞという主張をボソリとつぶやく。
「まだそんなこと言ってるのか。飼い主はお前だろうが」
いや、それを言われるとそうではあるんですけどぉ。
こいつら自由過ぎるからどうしようもないんですよ。
でもまあ、強力なというか最強の武器が見つかったから、これからは多少は抑えられると思いますけど。
「ハァ~、まぁいい。とにかく早く帰るぞ。まぁ、帰っても仕事はあるんだがなぁ。ドラゴンタートルはうちでなんとかせにゃならんし……」
『うむ。頼むぞ。昨日と一昨日はひどい目にあったからな……。とにかく美味い肉を食いたい気分なのだ』
『そうじゃのう。なにはともあれ美味い肉が食いたいのう……』
『ったく、お前らの自業自得だろうが。スイ、俺らは上手くやろうな』
『うん? よくわかんないけど、美味しいお肉食べたいねー!』
今まで黙ってたくせに、うちの食いしん坊どもはちゃっかりこういう時だけ主張するんだから。
ってか、そんな死んだ魚のような目をして沈んだ表情しなくたっていいじゃないの。
効果あり過ぎ。
俺的にはありがたいけど。
「おい、何かあったのか?」
フェルとゴン爺の顔を見て何かを察したギルドマスターがそう聞いてくるが……。
「まぁ、放っておいても大丈夫ですよ。原因は自分たちにあるんで」
ドラちゃんの言うとおり自業自得ってやつだね。
「そ、そうか」
「それじゃあそろそろカレーリナに向けて出発しますか。ゴン爺、お願い」
『うむ。承知したわい』
そう言ってゴン爺が、王都に来た時と同じように大きな姿に。
当然、近隣の街にも通知済みだから万全だ。
「や、やっぱり、帰りもこうなるのか?」
大きくなったゴン爺を見て、顔を引き攣らせたビビり顔のギルドマスター。
「今更何言ってるんですか。当たり前でしょ」
ゴン爺に乗って帰らなかったらカレーリナに着くまで何日かかると思ってるんですか。
「そ、そうだよな……」
「はい、乗った乗った」
尻込みするギルドマスターの背中を押す。
「お、押すなよ!」
「なら早く乗ってください」
渋々ながらゴン爺の背中に乗るギルドマスター。
その脇でいつも通りにちゃっちゃと乗り込むフェルとドラちゃんとスイ。
最後に俺が乗り込んで……。
「よし、全員乗ったね」
これでしばらくお世話になった王都ともおさらばだ。
「みなさん、また会いましょうね!」
「ああ、またな!」
「肉ダンジョンで会うの楽しみにしてるっす!」
「ムコーダさん、また会えるの楽しみにしてるね~」
「うむ。また会う日まで!」
「次に会えるのを楽しみにしてますわ!」
ゴン爺の背を叩いて「行こう」と声を掛けた。
『うむ。それでは出発じゃ』
その言葉とともにゴン爺の巨体が地面を離れる。
「それでは皆さんまた会いましょう!」
そう言ってアイアン・ウィルのみんなに手を振った。
どんどんと上昇するゴン爺。
ギルドマスターは頭を隠して蹲り「ヒィィィィッ……」と悲鳴を上げている。
厳つい爺さんの悲鳴って誰得だよと苦笑い。
一度経験しているわけだけど、やっぱり空の旅は苦手のようだ。
でもま、ちょっとの辛抱だよ。
ゴン爺便は何せ速いからね。
夕方までにはカレーリナに到着するだろう。
さらば王都よ。
そして、いざ懐かしのカレーリナへ!
正月休みをいただいたばかりなのですが、いつも区切りがついたところでお休みをいただくのがルーティンなので、それに則って次週はお休みをいただこうかなと思います。
ということで次の更新は1月31日(月)となります。
よろしくお願いいたします。