第五百七十六話 王都更地の危機?
皆様、明けましておめでとうございます!
本年一発目の更新ですが、書き足しなどしていて少し遅くなりました(汗)
次回は遅れないようにします。多分。
とにもかくにも本年も「とんでもスキルで異世界放浪メシ」をよろしくお願いいたします!
「え~、“アイアン・ウィル”のみなさんのBランク昇級を祝して、カンパ~イ」
「「「「「カンパ~イ」」」」」
ゴンッ―――。
木製のジョッキが勢いよくぶつけられて、中のビールがビシャリとこぼれる。
だが、そんなことには気にも留めずに、ゴクゴクゴクと豪快にビールを飲んでいくアイアン・ウィルの面々。
上品そうなフランカさんも全然気にしていない風だし。
やっぱり冒険者だけあってみんな豪快なんだねぇ。
青空の下、庭の一角で始まった“アイアン・ウィル”のBランク昇級祝賀会。
飲んで食ってみんなで楽しめるって言ったらやっぱりBBQでしょってことで、BBQコンロが大活躍中だ。
しかし、あれだな。
木製のジョッキにしておいて助かった。
冒険者の食事処では木製のジョッキが使われてるし、前に買っておいたのがあったから、なんとなくそっちの方がみなさんにも馴染むかなと思って今日はこっちを使うことにしたんだけども大正解だったわ。
陶器製のを出してたら絶対に割れてたよ。
「カーッ、美味いっす! ムコーダさんが出してくれるものは飯だけじゃなく酒も美味いんすね~。最高っす!」
そう言って満面の笑みを浮かべるヴィンセント。
「エールってあんま好きじゃなかったけど、この冷えてるエールはめちゃくちゃ美味しい!」
そう言ってゴクゴクゴクと豪快に木製ジョッキを傾けるリタ。
まぁ、それエールじゃなくてラガービールなんだけどね。
キレに定評のある銀色のヤツ。
「ヴィンセント、リタ、この日を楽しみにしていたのは分かるが、はしゃぎ過ぎてムコーダさんに迷惑をかけるなよ~」
「分かってるってリーダー!」
「迷惑なんてかけないよっ! イーだ!」
二人を窘めたヴェルナーさんにリタが歯をむき出しにしていた。
それにヴェルナーさんは苦笑い。
「ムコーダさん、今日は俺たちのためにありがとうございます」
「いえいえ。俺もみなさんと再会出来て嬉しいですし。あ、おかわりどうぞ」
そう言って空になっていたヴェルナーさんのジョッキにビールを注いだ。
「お、ありがとう。この冷えたエール、実に美味いですね~」
ヴェルナーさんはそう言って、俺の注いだビールを美味そうにゴクゴクと飲んだ。
「ヴェルナーよ、これはいつも飲んでいるエールとは似て非なる物だ」
「ラモンの言うとおりね。確かに冷えていることも美味しさの一つだけれど、エールよりもすっきりとした味わいだわ。うん、私はこちらの方が好きね」
あれ、分かる?
もしかして、ラモンさんとフランカさんって酒好きでイケる口?
「お二人とも、こちらにおかわり用意してあるので、どうぞ。あ、今飲んでいるのと同じものの他にも果実酒も用意してありますので。あ、ヴィンセントとリタも酒のおかわりはここにあるからね~」
土魔法で作った台の上に並べられた木製ピッチャー。
半分はビールを入れたもので、もう半分はネットスーパーで仕入れたお手頃価格のワインを入れたものだ。
「ありがたくおかわりをいただくとしよう」
「私もいただきますわ」
「あー! 俺も俺も!」
「アタイだって!」
酒に群がるアイアン・ウィルの面々。
そんな面々を見ながら「俺もだけど、うちの奴はみんな酒好きなんだ。ま、強いのはラモンとフランカなんだけどな」とまたもや苦笑いのヴェルナーさん。
ま、冒険者は飲兵衛が多い感じだしね。
「みなさんのためにたくさん用意したんですから、じゃんじゃん飲んじゃってくださいよ!」
「ありがとな! そういうことなら、俺もおかわりさせてもらうかな」
そう言って、みんなの輪に入っていくヴェルナーさんだった。
『おい、肉はまだ焼けぬのか?』
『主殿、匂いだけで腹は膨れぬぞ』
『そうだそうだ! こんな美味そうな匂いしてんのにまだ肉食えないんかよー』
『にーく、にーく、お肉~!』
「ハイハイ、ちょい待ちちょい待ち。えーっと、これはもうそろそろ大丈夫かな」
ダンジョン牛とギガントミノタウロスの肉を、愛用している市販の焼き肉のタレに漬け込んでいたものだ。
時間もなかったから手抜きだけど、このタレなら外さないしね。
「あ、こっちのタマネギとナスもイイ感じに焼けてるからこれも一緒にな」
そう言いながら、こんがり焼けた肉を盛った皿に、輪切りにしたタマネギと輪切りにしてオリーブオイルを塗ったナスを添えた。
『野菜はいらん』
そう言う仏頂面のフェルをガン無視してというかタマネギとナスを更に上乗せして出してやった。
そうしたら『なっ』とか言って呆然としていたけど、お前が悪いんだからな。
黙って食え食え。
ゴン爺は『黙っていればよいのに、お主つくづく阿呆じゃのう』とか呆れているよ。
ドラちゃんとスイは、よほど腹が減っていたのかそんなことはそっちのけで肉にかぶりついている。
「あ、みなさん、酒もいいですけど肉も焼けましたよ~」
アイアン・ウィルの面々にそう声をかけると、ワラワラと集まってきた。
そして肉をパクつく。
「ウメー!」
「美味しい!」
「うっま!」
「これは酒に合うな」
「ホント、お酒にピッタリですわ」
うんうん、この味にはビールが合うというか必須だよね~。
俺も肉をつまみながらビールをゴクリと飲む。
「ムコーダさん、ちなみにっすけど、この肉なんの肉なんすか?」
ヴィンセントが口いっぱいに頬張った肉をゴクンと飲み込んだ後にそう聞いてきた。
「ダンジョン牛とギガントミノタウロスだね」
そう言うとリタは「ギガントミノタウロスなんて初めて食べたー!」とキャッキャと喜び、ラモンさんとフランカさんは「さすがムコーダさんだ。良い肉を使っているな」「ええ。さすがだわ」と冷静、アイアン・ウィル一の苦労人だろうヴェルナーさんは「ハハ、やっぱイイ肉使ってるわ……」と諦めた顔で笑っていた。
いや、フェルたちが肉目当てで狩りまくったから、まぁまぁ在庫もあるしね~。
「ギガントミノタウロスが高級肉ってのは俺でも分かるっすけど、ダンジョン牛って肉ダンジョンのでしょ? こんなに美味い肉だったんすね~」
あー、アイアン・ウィルみたいなガッツリ冒険者ってなパーティーは、難易度の低い肉ダンジョンには行かないか。
俺たちからしたら、あそこほど良いダンジョンはないんだけどな。
「まぁこれは下層の上位種の肉だけどね。でも、あそこの肉はどれも割と美味いよ」
『うむ。あのダンジョンは良かった。また行きたいぞ』
『聞いていた肉ばかり出るダンジョンか。儂も行ってみたいのう』
『あそこは良かったよな~。ダンジョンも良かったし、地上の屋台も楽しめた』
『美味しいお肉いっぱいあったね~』
肉ダンジョンの話が出て、フェルたちも思い出したのかそんなことを言う。
アイアン・ウィルの面々には、声に出してしゃべっているフェルとゴン爺の言葉しか聞こえていないのだが。
「肉ダンジョンか。難易度が低いから行ったことがなかったが、一度行ってみるのもいいかもな」
ヴェルナーさんがそう言うと、他のメンバーも「賛成」とか「確かに」とか賛同している。
プチ情報として、「あそこの冒険者は、妻子持ちが多くてあんまり無理しないから下層の上位種の肉は割といい値段で買い取ってくれるんですよ」と教えてあげたら、みなさん行く気満々になっていた。
そんな話をしているうちに、みなさんに是非とも味わってもらいたかった本命が焼けた。
「みなさん次のも焼けましたよ~。これも肉ダンジョンのドロップ品なんですけど、俺としてはこっちを是非味わってもらいたかったんです」
「気にはなっていたけど、焼けたって、今ムコーダさんが転がしてるのだよな……」
「それ何なんすか?」
フフフ、見た目にビビっちゃってます?
まぁ、普段食ってる肉とは違いますもんね。
「これはダンジョン牛の内臓ですよ」
そう言うと、みなさんギョッとした顔をした。
フランカさんなんてちょっと顔が青ざめてたよ。
『おい、そっちが焼けたなら早く出せ!』
『主殿、儂にも頼むぞい。それと酒も欲しいの~』
『俺も食う!』
『スイも食べる~!』
「分かってるから、ちょい待ちなさいって」
こんがり美味そうに焼き上がった味噌、酒、みりん、砂糖、コチュジャン、おろしニンニク、おろしショウガ、ごま油を混ぜた揉みダレに漬けてあったホルモン。
皿に盛って出してやれば、みんなホルモンの美味さは知っているからガツガツ食っている。
シレッと酒を要求してきたゴン爺にはビールも付けてやった。
これにビールなしは辛いもんな。
「フェル様が食べてるってことは、美味しいってこと?」
リタが興味を持ったのか、そうつぶやいた。
「まぁまぁ物は試しでちょっとだけ食ってみてください」
俺がそう言うと、リタとそれにちょっと遅れてヴィンセントがエイヤッという感じで口に放り込んだ。
モグモグモグ……。
「どうだ?」
ヴェルナーさんが恐る恐る聞いている。
「ウメーッス!」
「美味しい!」
そう言って続けてパクパクと食い続ける。
その姿を見たヴェルナーさん、ラモンさん、フランカさんが意を決したようにホルモン焼きを口の中へ。
噛み締めた途端に、三人が三人とも目を見開いている。
そして……。
「美味い!」
「美味しい!」
「美味しいわ!」
その反応に俺は満足したように頷いた。
「これ、この酒とも最高に合うんですよ」
俺は、そう言ってホルモン焼きを口に放り込んだ後に、ビールをゴクゴクと飲んで見せる。
それを見て、アイアン・ウィルの面々もホルモン焼きの後に冷えたビールをクイッと傾けた。
当然みんな満面の笑みで、それからは美味い飯と美味い酒で話も弾んだのだった。
そして、みんなイイ感じにアルコールが回ってきたところで、ヴィンセントが酔った勢いからかフェルに話しかけた。
まぁフェルのことは知っているし気が大きくなってるんだろうな。
みなさんには、ゴン爺のことは新しい従魔で納得してもらったけど(なんか「ムコーダさんだしな」で片付けられてた。解せぬ)、さすがに酔っていても話しかけるまではいかなかった様子。
「フェル様~、そう言えば前に古竜とやり合ったって話してくれたじゃないっすかぁ~」
『そう言えばそういう話もしたな』
「気になってたんすけど、その相手ってもしかして~」
そう言いながら酔いのまわった赤ら顔でゴン爺を見やるヴィンセント。
リタも気になっていたのか興味津々でゴン爺を見ている。
他の三人は余計なことをと頭を抱えていた。
『うむ。そうだ。やり合ったのは此奴だ』
フェルがそう言うと「やっぱそうなんすか! スゲ~!」とヴィンセントが騒ぎ出す。
「ハイハイ! 次はアタイが質問! フェル様、『次は負けない』っておっしゃってましたけど、今一緒にいるっていうことは勝ったんですか?」
リタが嬉々としてそうフェルに聞くと、『いや、それはな……』と歯切れ悪くなるフェル。
『ほ~、お主そんなことを言っておったのか。随分と大きく出たものじゃのう~。お主が儂に勝てるわけがないというのに』
目をひそめながらそう言うゴン爺。
それを聞いて『なぬ?』と歯をむき出しにしてゴン爺を睨むフェル。
『儂は事実を言ったまでじゃぞ』
『なんだと? お主が我より強い? ハンッ、戯言を』
『では、ここでやるか?』
『いいぞ。我はいつでも受けて立つ』
睨み合うフェルとゴン爺。
一触即発な雰囲気に、質問をぶつけたヴィンセントとリタ、そしてそれを見ていたヴェルナーさん、ラモンさん、フランカさんもみんな顔面蒼白。
俺はというと……。
クワッと目を見開いて、怒鳴った。
「コラーッ! いい加減にしろっ! 王都を更地にする気かーっ!! 従魔のやったことの責任は俺にかかってくるんだからなーっ!!!」
そして、フェルとゴン爺の頭をバチコンッとぶっ叩いた。
『な、何をする?!』
『あ、主殿っ?!』
「黙らっしゃい!!!」
ピシャリと言うと、口をパクパク開きながらも黙るフェルとゴン爺。
「お前らが暴れたらどうなるか分かるだろ?! なのに何でそういうことしようとするわけ?! フェルもゴン爺もバカなの?!」
『わ、我に向かって馬鹿だと?』
『あ、主殿、さすがに言葉が過ぎるのではないか?』
「ふーん、反省しないんだ。フェルとゴン爺、明日は食パンだけね」
『何っ?! なんで我がっ!』
『こ、これくらいであの罰はひど過ぎるぞい!』
「はい、もう一日追加~」
『ぐぬっ』
『ぐぬぬ』
俺たちのやり取りを見ていたドラちゃんから『黙っていればいいのに余計なこと言うからだよ』と呆れたような声の念話が聞こえてくる。
それを聞いて、フェルとゴン爺は苦虫を噛み潰したような顔で黙りこくった。
それを見て俺は「やっぱ“食パンだけ”最強だわ」と心中でガッツポーズをしたのだった。
一連のやり取りを見たヴィンセントとリタが「「ムコーダさんスゲーッ!」」とキラキラした目を俺に向けていたりだとか、ドラちゃんがスイに『ああいうダメな大人になっちゃダメだからな』とフェルとゴン爺を見ながら諭しているのとかは聞かなかったことにして。