第五百七十四話 神様チョロい(前編)
お久しぶりの神様へのお供え回で長くなってしまったので前後編に分かれます(汗)
『それでは我らは寝るからな。くれぐれも神々へ粗相のないようにな!』
「はいはい。分かったから早く寝なよ」
フェルを追い立てるようにお尻を押す俺。
『主殿、先に寝させてもらうからのう』
「ゴン爺、おやすみ~」
『先に寝てっからな~』
『あるじー、おやすみなさ~い』
「ドラちゃん、スイ、おやすみ~」
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイが一足先に寝室に消えた。
「ハァ~、俺もすぐにでもベッドに潜りたいよ……」
思わず愚痴がこぼれる。
今日は一日、昨日回り切れなかった各教会へのお布施&寄付巡りに費やした。
そのおかげで、なんとか王都のすべての教会へのお布施&寄付はつつがなく終えることができたもののかなりの強行スケジュールだった。
ホント、王都の教会多過ぎだよ……。
そんなことを考えながらも、睡魔に押し切られそうな自分の頬を叩いて目を覚ます。
リクエストは昨日のうちに皆様から聴取済。
お供えが少し遅れたことで、まぁいろいろとチクチクと言われたが、予算をちょっとばかし上乗せすることでカバーしたよ。
神様ズもそれで上機嫌(神様チョロい)。
ご要望の品も、夕飯の後の休憩を返上して超特急で用意してある。
あとは渡すだけだ。
「ここで寝たら何言われるか分かんないもんね。もうひと頑張りだ」
そう自分を叱咤して最後の仕事に取り掛かった。
まずは、神様ズへのお声がけ。
「ゴホン、皆様、いらっしゃいますかー? お待たせして申し訳ありませんでした~」
その言葉の後には、いつものようにドタドタと騒がしい足音が聞こえてくる。
『待ってたのじゃー!』
『やっと来たわ~』
『よっしゃ! 待ってたぜー!』
『早く早く』
『やっと来やがったかーーーっ!』
『待ちに待ったウイスキーだぜーーーっ!』
もう、一日か二日遅れただけだってのに。
『違うのじゃ! 三日じゃ! 三日遅れなのじゃ!』
『そうよ~。私たち相手に三日も遅れるのは失礼よ~』
『そうだぜー。約束ってのは大事だぞ~』
『約束、大事。しかも、相手は神』
『うむ。大事だぞ! 儂らのウイスキーを忘れるとは大罪じゃぞ!』
『そうだぞ! 俺たちはこれが最大の楽しみなんだからな!』
「つ、次からはちゃんとします」
神様ズの必死さに若干顔を引き攣らせながらそう答える俺。
気を取り直して、アイテムボックスから段ボール箱を取り出した。
「まずはニンリル様から」
『甘味、甘味っ、妾の甘味! 早く甘味をよこすのじゃー!』
さすがニンリル様。
糖分が切れて、なんかおかしなテンションになってんな。
「こちらになります。ご要望通りに期間限定の品が中心になっております」
只今不三家では厳選素材スイーツフェア開催中。
ということで、その厳選素材フェアのケーキが中心だ。
岡山県産のマスカットを使ったモンブランに、マスカットの果汁たっぷりのクリームがたっぷり詰まったシュークリーム。
栃木県産のイチゴを使ったロールケーキに、イチゴの果汁たっぷりのクリームがたっぷり詰まったシュークリーム。
和歌山県産のミカンを使ったムースケーキに、ミカンの果汁たっぷりのクリームがたっぷり詰まったシュークリーム。
京都府産の抹茶を使ったシフォンケーキに、抹茶入りのクリームがたっぷり詰まったシュークリーム。
北海道産の特選チーズを使ったレアチーズケーキにスフレチーズケーキ。
限定品、どれもこれもおいしゅうございました。
事前に限定品を確認していたら、スイに見られちゃって、今日の食後のデザートにみんなでいただきましたよ。
俺はマスカットのモンブランだけいただいたけど、めっちゃ美味かった。
他は、食いしん坊カルテットが嬉々として味見。
どれも美味かったって。
あとは、いつものようにケーキ諸々。
ニンリル様から『大きいケーキは絶対入れるのじゃ!』とのリクエストがあったからホールケーキも3つほど入っている。
それから、大好物のどら焼きも各種入っているな。
『むっほー! ありがとなのじゃーっ! キタキタキターッ、ケーキが来たのじゃ~、ケーキィィィッ! 早速味わうのじゃ~』
超ハイテンションな声の後にベリッと段ボールを開ける音がした。
そして……。
『ちょっと、ニンリルちゃん! 手掴みで両手に持ってかぶりつくなんてお下品よ!』
キシャール様の声が。
…………残念女神、なにやってんのさ。
『んもう、聞いちゃいないんだからぁ。ハァ、困ったものね……。ニンリルちゃんは放っておくしかないわね。ささ、次は私よ!』
「ハ、ハィ」
キシャール様に気圧されながら、段ボール箱をアイテムボックスから取り出す俺。
『ねぇ、お願いしたもの、あった?』
「第一希望のものはありませんでしたが、第二希望、第三希望、第五希望のものがありました」
『第一希望のものがなかったのはちょっと残念だけれど、仕方ないわね。でも、雑誌の特集を見てから、もっとヘアケアに力を入れなきゃって思っていたから、第二、第三、第五希望のものが手に入って良かったわ~』
美容系雑誌のチェックは抜かりなしっすね。
なんでも、いつものように覗き見で美容雑誌をチェックしていたら、ヘアケア特集がされていたらしくて、それで、アウトバストリートメント、お風呂上がりの濡れ髪に使う洗い流さないトリートメントなる存在を知ったそうだ。
男の俺からしたら「そんなんあるんだ」ってな感想だけども。
まぁ、それを知ってしまったキシャール様から昨日『髪にはシャンプーやトリートメントに気を使うだけではダメなの! 一層の美髪を目指すために私にはアウトバストリートメントが必要なのよ!』と力説されまくった。
なんでも、そのアウトバストリートメントの中にもミルクやらオイルやらクリームやらがあるらしく、その中でもヘアオイルがキシャール様に合いそうだからとヘアオイルをご所望されてな。
姉貴から化粧品類の愚痴は聞かされていたけど、さすがにヘアケアのことまでは聞かされてなかったから力説されてもなんのことやら状態だったよ。
ヘアオイルなんて商品わからんし「オイルというからにはオリーブオイルでもつけておけばいいんじゃね?」とか思ったら、俺の思考を読んでいたキシャール様にめちゃくちゃキレられた。
曰く『あなたの世界の美容成分がたっぷり入った上に付け心地も考えられたヘアオイルと一緒にしないで!』だと。
しかし、ヘアオイルなんてよくわからんし、これは良さげなものの製品説明を一つ一つ読みながら選ばないといけないのかと正直めんどくさいことになったと思っていたら、キシャール様はもう欲しい製品に目星をつけていたらしく、第一希望から第五希望まで商品名を言い渡された。
なんでも雑誌でおすすめされていたヘアオイルの中から、自分に合いそうなものを厳選したそうな。
なんか、日を追うごとに美容知識をどんどんと蓄えていくキシャール様に戦慄したぞ。
んで、キシャール様から言い渡された品をマツムラキヨミで探したわけだ。
第一希望のものはアルガンオイルを主成分に様々な美髪成分を配合したヘアケアでは鉄板の製品らしい(キシャール様がそう力説してたんだ)が、それは売っていなかった。
第二希望の6種類のオイルをブレンドし、ひどく傷んでパサついた髪を潤いのあるツヤ髪に仕上げてくれて香水のような気品のある香りだというものは無事発見。
第三希望の植物性オーガニックオイルを主成分にハチミツやローヤルゼリーを加えた髪の芯から潤うというヘアオイルも無事発見。
第四希望のアルガンオイルや椿オイル、マルラオイルなど髪に良いオイルをブレンドして髪に良い保湿成分を加えた傷んだ髪にしなやかさとツヤをよみがえらせるというちょっとお高めなヘアオイルは、第一希望と同じく売っていなかった。
第五希望の髪に良いとされる様々なオイルを独自バランスでブレンドしてみずからうるおう地肌に導く美肌菌に着目してその美容成分を配合したスキンケア発想のヘアオイルは無事発見。
ちょい予算を上乗せしたからキシャール様が『出来れば全部ほしいわ~』なんて言っていたから三つ確保できてホッとしたよ。
なんかめっちゃヘアケアに関して力説して気合の入ってた様子だったしさ。
あとは今回もST-Ⅲのシリーズだったね。
キシャール様曰く『美を追求するために、他にもいろいろ試していくつもりだけどST-Ⅲは欠かせないわね』だって。
良いのか悪いのか、順調(?)に美容の沼にハマっているみたいだよ。
「こちらがキシャール様の分になります」
『ありがとうね~。さぁて、今日からヘアケアにも力を入れるわよ~。美は日々の積み重ねってね!』
キシャール様のそう言うウキウキした声が聞こえてた。
美容系雑誌のチェックを怠らないキシャール様の次回の要望はどんなことになるやら……。
ちょっぴり戦々恐々な俺だった。




