第五百七十二話 王都でお布施&寄付巡り
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ハァ~、ホント疲れたわ……。
いろいろと。
もうとっとと帰ろうと足を出口へと向けたときにふと思い出した。
「そう言えば、エルランドさんは?」
これだけリヴァイアサンの素材が揃っているこの場に、あの変態がいないのだ。
いなかったからこそ、疲れはしたけれどすんなりと話がまとまっていったのだろうけどさ。
「彼奴か……。彼奴は今日は休ませている。この場に立ち会わせると面倒なことになるのは目に見えているからのう」
うんざりしたような顔でそう言うブラムさん。
あの人がいたら、そりゃあ面倒なことになるのは確実でしょうね。
休ませることにしたっていうのは賢明な判断だと思うよ。
「モイラを付けて、宿から一歩たりとも出すなと厳命したのじゃが、彼奴め隙をみて脱走しようとしたそうじゃ……」
ブラムさんが「そう報告が入っておったわ」と疲れたような顔でつぶやいた。
何してんの、エルランドさん……。
ブラムさんの話では、その後は、縄でグルグル巻きにされて、モイラ様だけじゃなく5人組の高ランク冒険者に囲まれて監視されているらしいけど。
「彼奴が変わったエルフだというのは周知の事実じゃったが、儂もここまで拗らせているとは思わんかったわ。図らずも今回思い知ったわい」
苦虫を噛み潰したような顔でブラムさんがそう言う。
拗らせている……、うん、確かに。
まぁ、有能な人ではあるんですけどね。
そんな会話の後、俺は、我関せずで勝手にくつろいでいたフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイを促して冒険者ギルドを後にした。
帰り道は、みんなは夕飯はどうのと楽し気に会話していたけど、俺だけが疲れて重い足取りだったよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日―――。
俺たち一行は、とある目的で朝から街へと繰り出していた。
「あなた様にキシャール様の加護があらんことを」
そう言って胸の辺りで祈るように手を合わせる司祭様。
それに続くように……。
「「「「「「キシャール様の加護があらんことを」」」」」」
司祭様と同様に胸の辺りで手を合わせてそう言うシスター達。
それを苦笑いしながら聞く俺。
「キシャール様の加護なら既にあります」
なんて言えないもんね~。
そんなことを考えつつ、ペコペコと頭を下げながら王都にある土の女神キシャール様の教会を後にした。
「よ~し、次に行くぞ~」
『うむ。次はニンリル様の教会だな』
「ブッブー。違います~。次は水の女神、ルカ様の教会です~」
『なぬ?! ニンリル様の教会にはまだ行かぬのか!』
「も~、教会は逃げないんだからそんな焦るなって」
ニンリル様の眷属だっていうのが誇りのフェルはニンリル様、ニンリル様ってうるさいんだから。
「だから、家を出てくる前にも言っただろ。順々に回るってさ」
フェルにちょっぴり呆れつつも、そう言って事前に調べていた道順を進んで行く。
今日は、リヴァイアサンの素材の金も入ったということで、王都でも孤児院に寄付をしようということで巡回中なのだ。
孤児院を併設していない教会も少ないけれどあるみたいなので、そこにはお布施をね。
「しかし、さすが王都だけあって教会の数も多いなぁ」
信者数が多いキシャール様の教会なんて5つもあるんだぞ。
しかも、その全てに孤児院が併設されているっていうし。
王都というだけあって、地方からも孤児が集まって来たりするんだってさ。
場所によっては孤児院が近くにはなかったりという所もあるらしいからね。
それに、地方からは、いろいろな事情で面倒を見られなくなった子を親がわざわざ連れて来るってケースもあるそうだ。
きっと最後の親心なんだろうね。
そんなわけで、孤児院も数多くあるものの、どこもいつも満杯なんだそうだ。
さっきのキシャール様の教会も、王都に5つあるキシャール様の教会の中では2番目に大きな規模らしくて孤児院も割と大きなのが併設されていたんだけど、それにしても子どもの数がめっちゃくちゃ多かったしな。
司祭様に話を聞いたら、国からの支援やお布施もあるけれど、子どもたちを食べさせていくだけでいつもカツカツだって言ってたよ。
そりゃあ、あれだけ子どもがいたらねぇ。
建物も雨漏りするところが何か所もあるらしいけど「応急処置をして騙し騙し使っておりますよ」なんて言って笑ってた。
司祭様、「やはり一番は子どもがすくすくと育っていってくれることですから」って言ってた。
なんか人の良さが滲み出たような司祭様だったよ。
そんなの聞いたらこっちも絆されちゃってさ。
リヴァイアサンの金も入ったことだったし、大盤振る舞いで白金貨10枚(金貨1000枚分)置いてきたよ。
「おっと、ここが次のルカ様の教会だ」
そして、いつもと同じように教会の扉をそっと開いて声をかける俺だった。
「ごめんください~」
………………
…………
……
「ここで今日は終わりかな~。まだ、半分ちょっとしか回れていないんだけど」
朝から始めたお布施&寄付巡りだが、まだ道半ばだった。
「王都の教会多過ぎだっての」
その数からサクサク回ってきていたつもりだったのだが、見通しが甘かったわ。
サクサクと言いつつも世間話というか、教会や孤児院の状況を知るために多少話しはするから、自業自得ってところもあるんだけどね。
そこはしょうがない。
今回は、元手がたっぷりということで、基本は金貨500枚であとは教会の規模やら孤児院の規模、子どもの数なんかを勘案してプラスアルファにさせてもらったよ。
これで少しは教会や孤児院の運営が楽になってくれればいいな。
「ま、残りは明日も回ればいいか」
まだ多少の時間の余裕はある。
王都でのリヴァイアサンの解体という俺たちの目的は達せられて、早いとこカレーリナに帰りたいところだったのだが、一緒に来たカレーリナのギルドマスターの残務処理がまだ残っているらしく、あと1週間は王都を離れられないというのだ。
渋い顔で「儂のとこもこれ以上空けるわけにもいかんし、早いとこ帰りたいんだがな」ってボヤいていたけど。
俺たちだけでカレーリナへ帰るってことが頭をよぎらなかったわけじゃないけど、そうなるとギルドマスターがね……。
ゴン爺に乗せてもらえば一日もかからないところを何日もかけてカレーリナに帰還するってことになるからさ。
そんなことで俺たちもあと1週間は王都に滞在となったわけだ。
明後日は、久しぶりに会った“アイアン・ウィル”と約束したBランク昇級祝賀会の予定だけど、それ以外は一応フリーだし。
だから、もし、明日回り切らなくても明々後日にってことでもいいしね。
とりあえずは今日はここで最後だな。
「フェル、待ちに待ったニンリル様の教会だぞ」
『フン、ようやくか。待ちくたびれたぞ!』
「そんなこと言ったって順に回ってるんだからしょうがないでしょ」
『やけにフェルが風の女神と騒ぐもんじゃから、はて? と思っていたが、そうか、フェルは風の女神の眷属じゃったのう。今思い出したわい』
呑気にゴン爺がそんなことを言っている。
『どうでもいいけど、腹も減ってきたし、さっさと済まそうぜ~』
『スイもお腹空いた~。あるじー、早く帰ろー』
ドラちゃんもスイも、お腹空いているのは分かるけどそんな投げやりに言わないの。
そう思うものの、俺も一日中王都の街を歩き回って疲れている。
早く済ませて帰りたいね。
ということで、いざ……。
「ごめんくださ~い」




