第五百六十七話 王都観光 ~マーリア広場~
ちょい書き直ししてたりしたら遅くなってしまいました(汗)
「ほら~、みんなそんな腐ってないで行くぞ! 屋台巡り、するんだろ?」
『まぁ、あの肉より美味い肉はたくさんあるからな』
『うむ。そうじゃのう』
『屋台にも美味い店、あるしな』
『美味しいお肉食べる~』
みんな吹っ切れたようでホッとした。
今朝も、朝飯には“スーパーサウルス”の肉を食いたいと強請られたのだが、いかんせんその用意はしていなかった。
“スーパーサウルス”の肉は硬く、柔らかくするためには少なくとも前日から仕込んでおかないと。
それにだ……。
「お前らいつでも食えると思ってるけど、今の調子で食っていったらすぐに無くなるぞ。そうなったら二度と食えないからな。なにせ絶滅したんだからさ」
そう言ったら、みんな『そうだった!』ってな顔するんだもん。
絶滅させたのはお前らじゃないの。
だけど、昨日食ったシャリアピンステーキにした“スーパーサウルス”が予想以上に美味かったからなのか、みんな落ち込んじゃってさぁ。
朝飯のダンジョン豚のそぼろ丼はモリモリ食っていたけど。
そんなわけで、みんな朝からちょっぴりジメーッとした雰囲気だったわけだ。
屋台巡りの話をしたら、気持ちも晴れたみたいだけどな。
王都での屋台巡りはみんなも楽しみにしていたとはいえ、チョロいぞお前ら。
「よし、今日はいろいろと買いまくるぞ」
物欲全開。
俺の主な目的は買い物だからね。
ずーっと楽しみにしていたんだから。
王都には大きな市場があるらしいからめちゃくちゃ楽しみだわ。
うちは肉はフェルたちが獲ってくるし、野菜はアルバンが極旨野菜を作っているから、狙いは果物。
美味そうなのがあればじゃんじゃんゲットしていきたい。
あとは、小麦粉も産地ごとに売られているようなので、いろいろと購入してみたいところだ。
ミックスハーブの店も王都にはたくさんあるようだから楽しみにしている。
フェルたちのおかげで金に余裕があるからなのか、購買意欲がムクムクと湧いてくるね。
いろんな店がある王都だってこともあるかもしれないけど。
とにかくだ、今日は爆買いするぞ~!
『今日は食って食って食いまくるぞ』
『うむ。楽しみじゃのう』
『王都の屋台がどんなもんか見てやろうじゃねぇか』
『スイ、いーっぱい食べるんだ~』
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイも屋台で爆食いする気満々だ。
「よーし、王都観光へレッツゴーだ!」
こうして俺たち一行はウキウキと王都観光へと繰り出したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺たち一行は、王都民の憩いの場マーリア広場へと来ていた。
ちなみにだけど、広場の名前のマーリアというのは先代の王様のお妃様の名前で、この広場は結婚20周年だか30周年だかを記念して造られたのだそうだ。
王城を一望できる絶好の立地にあり、なかなかキレイに整備されている。
それもあってか、多くの人で賑わっていた。
「ほ~、噴水まであるのか」
そういえば噴水なんてこっちの世界に来て初めて見たな。
さすが王都だ。
広場を見回しながら感心していると、無粋な声が。
『そんなことはどうでもいい。それよりもあっちへ行くぞ』
そう言いながらフェルが鼻面で指したのは、広い広場の中でも屋台が集まった一角だった。
フェルだけでなく、ゴン爺もドラちゃんもスイもその一角を爛々とした目で見ていた。
ったくお前らは目ざといというか鼻が利くというか。
まぁ、どっちもなんだろうけどさ。
『ほら、早く行くぞ』
『そうじゃ主殿、早く』
『さっさと行こうぜ!』
『あるじー、早く早く~』
「お前らはやっぱり食い気が一番なんだなぁ」
食いしん坊カルテットに急かされて、屋台が集まる一角へと向かった。
みんな肉以外の屋台には目もくれず、ひたすら肉系屋台を梯子する。
それも、美味そうな屋台を厳選しているところはさすがだ。
俺たちの登場に、最初は屋台の店主や客たちもビビッていたけど、さすがにリヴァイアサンの件があったからかフェルとゴン爺のことは王都中に広まっているようで、こちらが普通にしていたらすぐに問題ないっていうのが分かったみたいで落ち着いていった。
それどころか今はみなさんこちらを興味津々で見ている。
ちょっとした注目の的だよ。
食いしん坊カルテット(特にフェルとゴン爺なんだけど)が買い食いした後の屋台は人が集まる集まる。
店主も忙しそうにしているけれどホクホク顔だよ。
まぁ、みんなの目利きというか鼻利きというか、それはほぼ間違いなしだからね。
基本的にマズイ屋台は選ばないし、フェルたちが選んだっていうだけでそれなりの美味い店確定なのだ。
『おい、次はあの店だ』
『あの店の匂い、美味い予感がするのう』
『へっへっへ、俺もあの店気になってたんだ』
『お肉美味しそう~』
そう言ってダダダダッと突撃する食いしん坊カルテット。
みんなが次にロックオンしたのは、見た目は何の変哲もない串焼きの屋台だった。
「えーと、とりあえず71本お願いできますか」
内訳はフェルとゴン爺とスイが20本ずつで、ドラちゃんが10本、俺が1本だ。
既にいろんなものを食っているからこんなもんで大丈夫だろう。
「はいよ! あんたらに来てもらえて光栄だね」
店の親父さんはそう言いつつも、味には相当自信がありそうで俺たちが来ることを予想して焼いていたのか、すぐに71本の串焼きが出てきた。
店のちょい裏手の空いている場所に移動して、みんなの皿をスタンバイ。
そこに串から外した肉を盛っていく。
「ほい」
全部串から外した途端に、ガフガフと勢い良く肉を頬張っていく食いしん坊ども。
既に六つの屋台をめぐって食い倒しているというのに、みんなまだまだ食欲旺盛だ。
そんな食い気全開な食いしん坊カルテットに苦笑いしつつ、俺も串焼きをいただく。
「お、美味い!」
なんの肉かはわからないが、柔らか過ぎずほどよい噛み応えのある肉で、「俺は今肉食ってるんだぜ」って感じがして心地よい満足感をもたらしてくれる。
肉自体の味も、屋台とは思えぬクオリティだ。
そして、一番感心したのが味付けだ。
ハーブソルトのみのシンプルな味付けなのだが、ニンニクと様々なハーブをブレンドしたハーブソルトで、この肉にベストマッチしているのだ。
ニンニクを使うと、どうしてもニンニクの味が前面にきがちなのに、そこをうまい具合にハーブをブレンドして爽やかに仕上げている。
なんのハーブを使ってどういう割合なのか聞き出したいくらいだよ。
それにこのハーブソルト……。
「かすかに柑橘系の香りが鼻を抜けるんだよねぇ」
そうつぶやくと、店の親父さんが反応した。
「兄さん鋭いね~。ってか、そこまで分かってくれると、こっちまで嬉しくならぁ」
「これ親父さんがブレンドしているんですか?」
「おう。この味にたどり着くまでに、1年以上かかったぜ」
それだけ時間をかけて追求した味だから自信があるんだな。
「この肉にすごく合ってますよねー」
「そうだろう、そうだろう」
俺の言葉に満足気に頷く親父さん。
「ところで、この肉はなんの肉なんですか?」
「フフン、兄さんはなんの肉だと思う?」
「全然わからないです」
分からないから聞いてるんだし。
しかし、これはオークの肉とも違うし、鳥系の魔物の肉では絶対ないし、牛系の魔物の肉ともちょっと違う気がするんだよなぁ。
もしかして、羊系?
「これはな、ホーンラビットだ」
「エエッ?!」
ホーンラビットと言えば、繁殖力も高くそこら辺の草原にもよくいる魔物だ。
新人冒険者が日々の凌ぎに狩っている魔物でもある。
そんなわけで、ありふれたというかよく出回っている肉でもあるのだが、俺としてはあんまり好きではない。
こっちの世界にきたばかりのときに、街の食事処で食ったことがあるが、クセがあるし少々硬い肉だった。
舌の肥えたフェルたちが狩る魔物でもないし、それ以来口にしてはなかったのだが……。
「あのクセがあって硬い肉がこれですか?」
とても信じられなくて目を見開きながら親父さんにそう問うと、親父さんがしてやったりという感じでニンマリする。
「特別な下処理をすると、クセもなくこういう風に柔らかくなるんだよ」
「特別な下処理、ですか」
「もちろん秘中の秘だけどな」
そりゃそうだろうね。
知られたら商売あがったりになっちゃうし。
「いや~、こんなに美味い肉がホーンラビットの肉だなんてビックリです」
そう言いながらパクリと肉を味わう。
うん、やっぱり美味い。
「へへっ、そう言ってもらえるのが俺の一番の喜びなんだ」
照れたように鼻の下を擦る親父さん。
俺と屋台の親父さんがそんな会話をしているうちに、皿に盛った串焼きをペロリと平らげていた食いしん坊カルテット。
『おい、この肉は追加で買っておいてくれ』
『儂もじゃ』
『俺も!』
『スイも~!』
「はいはい。親父さん、追加で、そうだな……100本お願い」
「あいよ!」
ちなみにだけど、俺たちが追加購入した親父さんの店は、その後長蛇の列が出来上がっていた。




