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第五百六十六話 やわらか~い

 冒険者ギルドから帰ると、早速食いしん坊カルテットから、冒険者ギルドから引き取ってきた“スーパーサウルス”の肉を食いたいとの要望が。

 特にフェルとゴン爺が『この肉で夕飯だ!』と息巻いていたのだが、それをなんとか宥めすかした。

 その代わりに『それならガッツリ肉が食いたい』という希望にそって、ギガントミノタウロスとダンジョン牛でしこたまステーキを焼くハメにはなったんだけど。

 でも、しょうがないんだよ。

 だってさ、“スーパーサウルス”の肉って触った時点で硬いって分かる肉なんだもの。

 さすがにフェルとゴン爺でさえも『硬い』と言わしめる肉だわ。

 まぁ、みんなならば、このまま焼いてステーキにしても食えるとは思うよ。

 でもさ、どうせ食うなら絶対に美味い方がいいよな。

 そんなわけで、夕飯が終わってからの空いた時間、俺はキッチンに籠っているというわけだ。

 目の前の作業台の上に載った“スーパーサウルス”の肉塊。

「うーん、なにはともあれ、とりあえずはそのままで味見してみるか」

 そう思い少しだけ切り取って焼いてみたのだが……。

「うわっ、マジで硬いな」

 なんというのか、食感だけならゴムを噛んでいるかのようだ。

 塩胡椒を振って焼いたスーパーサウルスの肉の味はそれほど悪くはないのに、とにかく硬い。

「ウグッ……。何回噛んでも噛み千切れない」

 終いには噛み切るのを諦めて、ペッと吐き出した。

「あ~硬かった……。フェルやゴン爺が硬いって言うのは伊達じゃないね」

 俺では噛み切るのもままならないわ。

「しかし、こんな硬い肉どうすりゃいいのか……」

 アメリカ産やオーストラリア産の牛肉に似たスーパーサウルスの赤身の肉塊を前に思案する俺。

「ええと、確か、塩麹に漬けると肉が柔らかくなるんだよな」

 今までも塩麹は使ったことはあるが、主な目的としては、下味をつけることと旨味が増すからという理由だったからなぁ。

 正直どこまで柔らかくなるかはわからないけど、とりあえず塩麹に漬けるっていうのはアリだな。

「ふむ。よし、一晩塩麹に漬けてみるか」

 そう思い立ち、ネットスーパーを開いた。

 そして、塩麹をポチリ。

 何回か使ったことがあるパウチ入りのヤツだ。

 スーパーサウルスの肉は、そのままだと大き過ぎるから適当な大きさの塊に切り分けて、フォークでブスブスと穴を開ける。

 そうしたらその肉をビニール袋に入れて、塩麹を入れたらモミモミモミ。

 あとは魔道冷蔵庫の中で寝かせる。

「どうか柔らかくなりますように」

 そう祈りながら魔道冷蔵庫の扉を閉めた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 今朝も食いしん坊カルテットからは『あの肉は?』と急かされるように強請られたけれど、「今、柔らかくなるようにしているところだから」と作り置きしていたダンジョン牛の肉で作った牛丼を朝飯に。

 みんな牛丼は嫌いじゃないから『なるべく早く食いたいぞ』とは言われたものの騒ぎはしなかったよ。

 牛丼、美味いもんね。

 ついつい俺も朝からいただいちゃったよ。

 そんなことはさておき、朝飯の後は、塩麹に漬けこんでいたスーパーサウルスの肉をチェック。

 ビニール袋の上から肉塊を触ってみる。

「触った感じは大分柔らかくなっているようだけど……」

 その辺りはやはり食ってみないことにはね。

 ということで、塩麹をある程度落としたら、薄く切り分けて焼いてみた。

 塩麹に漬けこんでいたから塩味は十分だろうということで、黒胡椒を振っただけだ。

 食べてみると……。

「うん、大分柔らかくなってるな。俺でも十分噛み切れる」

 でも、もうちょい柔らかいともっとうまいかもしれないな。

「あと肉を柔らかくするって言ったらタマネギだよな。そうなるともうアレしか思いつかんわ。すりおろしタマネギに漬け込むシャリアピンステーキ!」

 昼飯はスーパーサウルスのシャリアピンステーキといきますか。

 漬け込み時間も考慮して、さっそく作業にとりかかる。

 まずは、アルバン印の極旨タマネギをすりおろし&みじん切りに。

 使う肉が大量だから、こちらも大量にね。

 普通なら大変なところなんだろうけど、俺には“孤独の料理人”という称号があるからね。

 欲しくなかった称号だけど、こと料理に関してはとてつもない威力を発揮してくれるんだよね……。

 そんなわけで、サクッと大量のタマネギのすりおろし&みじん切りを終えたら、次は肉の準備だ。

 スーパーサウルスの肉をビニール袋から取り出して、塩麹をこそぎ落とす。

 そして、ある程度の厚みに切ったら、肉たたきで叩く。

 俺としては8ミリくらいの厚さがベスト。

 見える筋はちょい強めに叩いて柔らかく。

 あとは包丁で細かい格子状の切り込みを裏表に入れていく。

 肉にすりおろしたタマネギを全体に馴染ませてみじん切りも載せてバットに置いたら、ラップをして魔道冷蔵庫で2時間寝かせる。

 2時間後―――。

「うん、さらに柔らかくなってる感じ」

 魔道冷蔵庫からスーパーサウルスの肉を取り出したら、馴染ませていたタマネギをこそげ取りキッチンペーパーで余分な水分を軽く拭きとってから塩胡椒を振る。

 先に塩麹に漬け込んでいたから塩は少な目で。

 熱したフライパンに油をひいて、肉の両面にイイ感じの焼き目が付くまで焼いていく。

 そうしたら肉を取り出して、同じフライパンにバターを溶かしてこそげ落としたすりおろし&みじん切りのタマネギを投入。

 タマネギが透明になるまで炒めたら、赤ワイン、醤油、砂糖を加えて一煮立ちさせたらソースの出来上がりだ。

 皿に載せた肉に、ソースをかけたら……。

「シャリアピンステーキの出来上がりだ。発祥の某ホテルでは醤油は使ってないようだから、和風シャリアピンステーキかな?」

 ま、美味けりゃなんでもOKなんだけどね。

 ということで、恒例の味見をば。

「うんま!」

 肉がめっちゃ柔らかくなってる~。

 最初の噛み切れないほどのあの硬さからは想像できない柔らかさ。

「やっぱ塩麹とタマネギ、ダブルで漬け込んだのが良かったんだろうな」

 そして……。

「この味、白飯と一緒にかっ込みたくなるわぁ~」

 ということで、保存していた炊き立てのご飯もスタンバイ。

「さぁて、みんなどんな反応するかな」



『『『『おかわり!』』』』

 昼飯に出したスーパーサウルスの和風シャリアピンステーキだが、フェルもゴン爺もドラちゃんもスイも、みんなモリモリ食っている。

『あの硬い肉がここまで柔らかくなるとはな』

『本当だのう。驚きじゃ』

『元のを食ったことがないからあれだけど、めっちゃ柔らかくて美味い肉じゃんこれ』

『美味し~い!』

 フッフッフ、そうだろうそうだろう。

「ドラちゃん、これはな元は俺だと噛み切れないくらい硬い肉だったんだぞ」

『へ~、そんな風には思えないけどなぁ』

「塩麹に漬け込んで、タマネギに漬け込んで、そうやって柔らかくしたの。ま、これでこの硬いスーパーサウルスの肉も美味い肉としていただけるってわけだな。せっかくの肉が無駄にならなくて良かったよ」

『フム。ということは、いつでもこの肉を味わえるというわけだな』

『柔らかくなって一層美味くなったこの肉をのう。良いことじゃ』

『確かにこの肉はまた食いたくなるよな』

『スイもこのお肉好き~』

「え?」

 いや、ここまで柔らかくするには時間かかるんだよ。

 塩麹に漬けこんでタマネギに漬け込んでってしなきゃなんないしさ。

 そう思うも、食いしん坊カルテットは『この肉はまた食いたいな』と盛り上がっている。

 …………。

 こりゃ墓穴を掘ったかな。






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― 新着の感想 ―
スーパーザウルスのお肉 食いしん坊従魔ズは喉元過ぎて、絶滅からの食パンごはんの刑を食らったことを忘れちゃったのかな?
完熟してないあまり甘くないパイナップルを舌の上に置くと舌の表面が「冬場の手のあかぎれ」のようになるぐらいタンパク質を溶かしてるのを感じる。
[一言] 受売りなんですが、パイナップルやキウィに漬け込んでもお肉が柔らかくなるらしいです。但し、15分以上放置してはいけないとのことでした。
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