第五百六十三話 目も当てられないカオスな状況
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特典情報などは、分かり次第お伝えしたいと思います。
是非是非よろしくお願いいたします!
カレーリナのギルドマスターであるヴィレムさんに王都の冒険者ギルドに連行された俺は、すぐさま王都冒険者ギルドのギルドマスターのブラムさんをはじめとするお偉方の前へと引っ立てられた。
そして、ギルドマスターからお偉方にかくかくしかじかと説明があり、そこで顔色を変えたお偉方に王都冒険者ギルドの大きな倉庫へと連れてこられたのだった。
そこではリヴァイアサンの解体がほぼ終わっており、概ね片付いた状態ではあったものの、当然というか、面倒くさいことこの上ない例のあの人、エルランドさんもいるわけで……。
血相を変えたお偉方と俺たちが入っていった時点で、なにかあると察知したエルランドさんがワクワクした顔で俺たち一行に引っ付いてきた。
空気を読まずに俺たちに声をかけてこようとしたけれど、ピッタリと張り付いていたモイラ様が殴って黙らせていたよ。
しかし、今は、エルランドさんのことはどうでもいい。
無言のお偉方&ギルドマスターがめっちゃ怖いよ……。
「おい、出せ」
ギルドマスターが怖い顔でそう言った。
「はぃ。あ、あの、全部ですか?」
「全部だ」
「えと、全部だと入りきらないと思います」
「いいから、とりあえず出せるだけ出せっ」
ヒェッ、元々強面な顔が鬼みたいになっているから怖いんですってば。
「じゃ、じゃあ一種類一頭ずつ」
俺は、アイテムボックスから恐竜を取り出していった。
「「「「「「………………」」」」」」
物言わぬ姿となった恐竜を無言のまま凝視するお偉方&ギルドマスター。
シーンと静まり返る倉庫に「ンホォォォ」というあの人の奇声が聞こえたけれど、そんなことは無視だ無視。
そんなことよりも……。
俺は、居並ぶお偉方を前に顔を下に向けながらチラチラと様子をうかがっていた。
無言はホントにヤメテ。
めちゃくちゃ不安になるから。
何か言って。
そこからたっぷりと時間を置いて、お偉方のため息が聞こえてきた。
「リヴァイアサンの次はこれか……」
「次から次へと問題を持ち込みよるわい……」
「ハハ、本当にいたんじゃのう……」
「言葉もでないね……」
「本音を言えば、見たくなかったな……」
王都冒険者ギルドのお偉方が5人とも頭を抱えていた。
カレーリナのギルドマスターも額に手を当てながら「お前、本当に自重しないよな……」とガックリと項垂れていた。
お通夜のような雰囲気のお偉方&ギルドマスターをよそに、一人だけ元気な輩が。
「こ、これはっ、もしや、新種のドラゴンですか?! そうなんですかーっ?!」
そう言うと、必死に止めるモイラ様の制止を振り切って、倉庫の床に並べられた恐竜の中へと突進したエルランドさん。
そして、恐竜にペタペタと触ったり外観を観察したりしている。
相も変わらず自由な人だ。
「いや、恐竜と言ってドラゴンとは別で……。ん? “恐竜”だから竜と言ってるくらいだし、全くの別物とは言えないのか?」
「オッホ~! やはりそうですかっ!!」
そう言いながら狂喜乱舞するエルランドさんもとい変態。
「いろんな種類がいるようですが、これっ! これなんて、地竜にそっくりですもんね!」
そして、エルランドさんがTレックスに頬ずりしそうなほどに近付いて観察して「でも、触ってみると皮膚の感触が地竜とは違うし、歯並びはまったく違うんですよね~。そのことからも、地竜とは別種であることが分かります!」などと言っている。
しかし、このままこの変態が放置されるわけもなく……。
「いい加減におし!」
べチコンッ―――。
モイラ様に頭を盛大にひっぱたかれたエルランドさんは、元の場所へと引き摺られるように戻されたのだった。
そして、王都冒険者ギルドのギルドマスターのブラムさんが「ハァ~」と盛大な息を吐いた。
「このアホウには早くお引き取り願いたいところなんじゃが、そうもいかなくなったわい」
ちょちょ、言葉。
アホウって言いたい気持ちは分かるけど、変態ではあるけど、この国のダンジョン都市の冒険者ギルドのギルドマスターなんだから言葉に出さないで~。
「ムコーダよ、これはこちらで買い取ろう」
ブラムさん曰く、「さすがにこれは捨て置けん」とのことだ。
“ヘイデン冒険記”とかいうお伽噺的なものの場所が現実にある証拠だものね。
もちろんそうしてもらえればこちらとしては万々歳。
「あの、買い取りじゃなく、寄付という形でも構いませんが……」
「それはいかん。冒険者ギルドの矜持に関わる。初めて目にする魔物ゆえ、価格が定まっていない。若干安いと感じる買い取りになるかもしれんが、きっちり買い取りさせてもらうわい」
「はぁ」
そういうことならば、こちらはそれで構わないけども。
ただ、初見も初見のものばかりだから、算定にも時間がかかる。
買い取り代金は、カレーリナの冒険者ギルドでの受け取りということになった。
俺としてはまったく問題ないので承知したよ。
ブラムさんは、俺との話が付くと、今にも恐竜へとフラフラ近付いていきそうなエルランドさんと、それを押さえるモイラ様に話しかけた。
「おい、エルランド。話を聞くのじゃ。これらの魔物はのう……」
カレーリナのギルドマスターであるヴィレムさんからの説明を話して聞かせたのだった。
そして、これらの解体を任せる旨を話すと、話を聞いたエルランドさんは興奮しきり。
鼻息も荒く興奮度MAX状態だ。
任せられそうな人がこの人だけとはいえ、心中お察しします……。
「オホォォォッ、さすがっ、さすがムコーダさん、最高ですよー! 私の親友はどれだけ私を喜ばせてくれるのですかーっ!」
いや、断じて親友じゃないから。
勝手に親友扱いするの止めてくれるかな。
「モイラには苦労を掛けるのう」
「いや。それよりも同じエルフとして申し訳ない気持ちでいっぱいだよ……」
意気消沈のモイラ様。
それほどまでに変態はひどかった。
大丈夫、あのエルフが特異中の特異だってみんな知ってるから。
それはそうとして、これだけは言っておかないと。
多分、解体に支障をきたしそうだし。
「あの、その一番大きいの、多分アダマンタイト製のナイフでも切れないかもしれないです」
俺のその一言にその場にいた全員の目が向いた。
“スーパーサウルス”は、アダマンタイトをも噛み砕くとかアダマンタイトを切り裂くとかあった恐竜の中でも一番の頑丈な表皮を持つってあったから……。
『おそらく魔剣なら大丈夫だぞ』
『うむ。同じアダマンタイトでも魔力を帯びた魔剣なら切れるじゃろうな』
ずっと置物みたいに黙りこくっていたフェルとゴン爺がようやくしゃべった。
疲れた顔で「そうか」と言ったブラムさんが、俺に魔剣の賃貸契約を申し出てきた。
もちろん俺は承諾。
貸し出すのは、エルランドさんの手に一番馴染むという“魔剣カラドボルグ”だ。
契約書は数日のうちに作成することにして、大まかな内容としては賃貸期間は1か月で賃料は金貨800枚となった。
これが噂に聞く不労所得ってやつか。
不労所得おいしいです。
「しかしヴィレムよ、お主、今まで苦労していたのだのう」
そう言ってブラムさんがギルドマスターの背中を叩くと……。
「分かってくれますかっ」
そう言って男泣きするギルドマスター。
それをお偉方が慰めていた。
その一方で、ドラゴンLOVEなあの人が奇声をあげながらはしゃぎ回っているし。
エェ、なにこのカオス……。
なんとも言えない苦い顔をしていると、みんなの声が。
『おい、肉はどうなるのだ?』
『あれらは売るためのもんじゃろう? 儂らの食う分もなんとかならんかのう?』
『あのデカいのの肉食ってみたいんだよ~。頼むぜー』
『あるじー、スイも食べてみたいの~』
そうだ、こっちの分があったんだ。
みんな肉を食うまで諦めないだろうな。
「あ、あの、追加でコレの解体、お願いできますか?」
おずおずといった感じで、追加でスーパーサウルスを一頭出した。
「ハァ~、やってやれ。ただし、それの素材は全部返却じゃ」
リヴァイアサンの他にこの恐竜たち、魔剣の賃貸料やらで金欠必至。
少しでも節約せねばだそうだ。
フェルたちにせっつかれて、なるはやでお願いしたら、練習に使っていいならということだった。
練習に使うのならば解体費用もなしにしてくれるそうなので、それでお願いしたよ。
ドラゴンLOVEなあの人は、ヤル気を漲らせて「徹夜で解体作業しますよー!」と叫んでいた。
お偉方やモイラ様は疲れた顔をしているし、ギルドマスターは男泣きしているし、変態は無駄に元気だし……。
目も当てられないカオスな状況に、俺たち一行はそそくさとお暇させてもらった。
しかし、フェルたちにせっつかれたとはいえ、あの状況でスーパーサウルス一頭の解体だけでも食いこませた俺、よくやったって褒めてあげたいよ。




