第五百六十二話 ん? 絶滅種?
「………………」
俺の前には、フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイが居心地悪そうに横一列に並んでいた。
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイは、連携しての圧倒的戦力で、草原に居た首の長い恐竜3頭をあっという間に倒してしまった。
そこまではまだ良い。
いや、良くないのかもしれないけれど、襲ってきたのだからしょうがない。
だけど、その後、フェルが『ここに居る魔物の中で此奴の肉はまぁまぁの味なのだ』と言ってさ。
それに続くようにゴン爺も『うむ。少々肉は硬いが味は悪くないのう』とか言ってさ。
そうなると、当然みんな『もっと狩ろう!』っていう話になって。
テンション高いからみんなイケイケ状態。
あのデカい図体だからすぐに見つかって、止める間もなく狩り再開。
食いしん坊カルテットは、瞬く間にさらに4頭仕留めてしまった。
「こんなデカいの7頭もどうすんだよ? 味は悪くないったって、肉が硬いんだろ?」
そう言いながら、回収がてらに「そういやまだ鑑定してなかったな」と首の長い恐竜を鑑定してみたのだ。
そうしたら……。
【 スーパーサウルス 】
惑星 地球の恐竜を模して創られたこの地の固有種。獰猛な肉食。この地で一番の頑丈な表皮を持つ。長く強力な首を持ち、その首をしならせて獲物を叩きつける攻撃を得意とする。この地で最強だった。絶滅種。
と出てきたんだ。
デミウルゴス様とコンタクトが取れたからか、けっこう詳しく出てきた。
フムフムと読みながら、読み進めて「ん?」となったよ。
最強“だった”?
過去形なんだもの。
で、最後に“絶滅種”だよ、“絶滅種”。
一瞬時が止まったよ。
だって、ついさっきまで動いていたのを見てるんだぞ。
それが“絶滅種”だ。
その言葉で導き出される答えは嫌でも分かる。
「なんで怒られているか分かるか?」
怒られているのかは分かるが、なんでかまでは分からなそうなドラちゃんとスイとは逆に、フェルとゴン爺は思いっきり分かっているな。
「フェルは鑑定ができるんだから分かってるよな。ゴン爺も、分かっているだろう」
『いや、そのな』
『う、うむ。それはのう』
「分かっていなさそうなドラちゃんとスイに教えてやれよ」
フェルとゴン爺にそう言うと、言い難そうに目を背けている。
『なんなんだよ? おい』
『あるじ、怒ってるの~。フェルおじちゃん、ゴン爺ちゃん教えて~』
『それは、そのな……』
『それはじゃのう……』
言い淀みはっきり言わないフェルとゴン爺。
「この首の長い恐竜、みんなが絶滅させちゃったんだよ」
『……は?』
『ん?』
絶滅の言葉に唖然とするドラちゃんと未だよく分かっていなさそうなスイ。
「だから、絶滅させちゃったの! もう、この種はいないの! スイは分かっていないみたいだけど、スイと同じスライムがこの世から全部消えちゃっていなくなっちゃったらどうする? スイもいなくなっちゃうっていうことだよ?」
『いやぁ~』
「でも、この恐竜さんはいなくなっちゃったの。みんなが倒しちゃったから」
ここの恐竜たちはこの地の固有種らしく、他の場所には生息していない。
さっき倒した首の長い恐竜“スーパーサウルス”は、元々みんなが倒した7頭しかいなかったっていうことだ。
「ったく、絶滅だぞ、絶滅!」
元の世界でもいろいろと問題になっていた。
種の絶滅というのは、環境やら生態系やらいろいろと問題になってくるのだ。
そもそもだ、この“スーパーサウルス”がここの最強種だったというのなら、今だって肉食恐竜が跋扈するこの地がさらにカオスになるってことじゃないか。
「だいたいな、お前たちはいつもやり過ぎなの!」
俺が本気で怒っているのが伝わり、いつになくショボンとしているフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイ。
「ほどほどって言葉知っているか? 何事もほどほどがいいんだよ。それなのにお前らはい~っつもやり過ぎるんだから!」
『い、いやな、我もちょっとだけやり過ぎたかなとは思う。でも、あの時は勢いでというか、気が昂っていたというかな……』
『う、うむ。儂もやり過ぎたかという気はあったのじゃ。しかし、血が騒いだというかのう』
『す、すまん。いつもと同じように狩りをしているつもりだったんだけどよ。絶滅とか、そんなんなっているとは思ってなかった……』
『ごめんなさい。あるじ~……』
俺が強く言ったことで少しは反省しているのか、しおらしくそう言うフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイ。
「だいたいな、フェルとゴン爺は年長者組なんだからもう少しそういうところ考えてくれよ。ましてや、いろんなスキルもあっていろいろなことが分かるんだからさ」
フェルは鑑定だってできるし、気配察知もお手の物だ。
ゴン爺だって、空を飛べるから周囲の状況把握はお手の物だし、鑑定もあるし、気配察知だってフェルほどではないかもしれないけれど十分以上にできている。
それ以上に、そもそもというか根本的なことなんだけど……。
「フェンリルも古竜も最強種って言われてる強者なんだからさ、全力でやっちゃダメでしょ」
『いや、全力ではないのだがな』
『うむ。儂らが全力でやったら、この地どころかこの山ごと更地になってしまうからのう』
「黙らっしゃい!」
俺がピシャリとそう言うと、黙り込むフェルとゴン爺。
「全力じゃなくったって一つの種を絶滅させちゃったんだから、明らかにやり過ぎでしょ! 強者だからこそほどほどにが大事なんでしょうが。その場その場でちゃんとほどほどにを心掛けてよ」
血の気が多いのかなんか知らんけど、テンションが上がるとやらかすよね~、フェルもゴン爺も。
「ドラちゃん、スイ、今回のフェルとゴン爺は悪い大人の見本だからな。真似しちゃダメだからな」
ドラちゃんの『いや、俺大人なんだけど……』という言葉は聞こえないふりだ。
「フェルとゴン爺はもういい大人なんだからもうちょっと冷静に行動してほしいもんだぞ。だいたい普段から……」
普段からやり過ぎるきらいのあるフェルたちの行動には多少の鬱憤もあってついつい小言が多くなる。
『ええいっ、さっきからグチグチと小言ばかりでうるさいわ!』
「うるさいって何だよ!」
『だいたいな、終わったことはしょうがないだろう!』
「逆ギレかよ、フェル!」
『主殿、儂もやってしまったことはアレだが、元には戻らんししょうがないと思うのう』
「ゴン爺は開き直り?!」
フェルとゴン爺のショボンとしていた顔が、いつも通りのなんともふてぶてしい顔に戻っていた。
「フェルもゴン爺も人の話聞いてた?! だいたいね…………」
と再び説教をかましたが、今度はどこ吹く風の強者の風格。
倒れた“スーパーサウルス”が目に入り、空しくなった。
「ハァ、もういいよ。どのみち、この“スーパーサウルス”が生き返るわけじゃないし、絶滅させちゃった事実は変わらないんだから……」
フェルもゴン爺も『やっと終わったか』とか言ってるけど、これで終わりじゃないぞ。
「みんなにはちゃんと罰は受けてもらうからな~」
『な、なに?!』
『ば、罰とはなんじゃ?!』
『罰?!』
『ばつ~?』
「まぁ、とにかく帰ろう。王都に戻るぞ~」
この地最強の“スーパーサウルス”は絶滅しちゃったけど、元々ここって肉食恐竜が食い食われで混沌としている地だし、うん、大丈夫だろう。
きっと大丈夫さ……、多分。
そんなことを考えながら“スーパーサウルス”を回収し、俺たち一行は王都へと戻っていったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
出発したときと同じ、王都の大門とは逆にある裏門の前にゴン爺が着陸すると……。
門の前に腕を組んで仁王立ちするギルドマスターがいた。
あちゃー……。
ゴン爺の姿が見えたのが伝わって、こっちで待ち構えていたんだろう。
どうしよう。
ギルドマスターと極力目を合わせないようにしながら「た、ただいま戻りました」と伝える。
「なんで儂がここに居るかわかってるよな?」
こ、声が怖いです。
「えと、その、すみませんでした」
「儂は言ったよなぁ。ちゃんと報告しろって」
「本当の本当にすみませんでした!」
マジで申し訳なかった。
フェルたちに急かされて連れていかれたとはいえ、報告なしはホントにマズかったよなぁ。
しかし、今回はお土産があるんです。
「あのですね、今回の狩場は特殊な場所らしくって、お土産があるんです。冒険者ギルドにとっても悪い話ではないと思うのですが……」
激おこなギルドマスターの様子をうかがいながらそう話した。
「土産だとぅ?」
「はい。あの、今回俺たちが行った場所がですね…………」
かくかくしかじかと俺たちが行ったカルデラの場所やら、その内部のこと、いろんな恐竜がいたことなどをギルドマスターに説明した。
そうすると、なぜかみるみるうちに顔を蒼くするギルドマスター。
「お前ぇぇぇ、またやってくれたなぁぁぁ」
地を這うがごとくの声でそう言われて、ガックンガックン肩を揺らされる。
よくよく話を聞いてみると……。
「子どもが読む物語でな、“ヘイデン冒険記”ってのがあるんだ。ちょっといいとこの本が読める環境の子どもにゃあ英雄譚と並んで人気の物語さ。教会やらで字を習える子どもなんかも、読み聞かせてもらえるから知ってる物語だ。お前がさっき話したことはなぁ、その物語に出てくる植物やら魔物とピタリと一致するんだよ。“ヘイデン冒険記”ってのは何時書かれたもんか定かになっていないが、人が書いた夢物語だと思われていたんだよ。今の今までな!」
人がそれほど入っていない地だとは思っていたけど、夢物語……。
なんかややこしくなりそうな予感が。
誰も立ち入ったことがない誰も知らない土地だってことならば、誰も見たことがない生き物でもまだ納得できる気がするけど、物語に出てくる想像上の生き物が実物で出てきたら……。
想像してブルリと震えた。
「実物をしっかり確認させてもらうからな。それと、こりゃあ上の連中の判断を仰がなきゃならん事態だ。その辺も含めて、今から冒険者ギルドでしっかり説明してもらうからな」
「はぃ……」
罪人のように有無を言わさず王都冒険者ギルドに連行される俺だった。
俺の後を飄々とした顔をして付いてくるフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイだけど……。
原因はお前らなのに~。




