第五百五十七話 いいか、解体は肉が手に入ったら終わりじゃないんだ
更新再開。
『よし、今日は狩りに行くぞ』
『いいのう。ここのところずっとリヴァイアサンの解体に付き合っていたから、ここらで体を動かすのも悪くないわい』
『俺も賛成!』
『狩りー!』
「ちょちょちょちょっ、君たちなにを言ってんの?」
朝飯を食い終わってホッと一息ついていたところに、なにを言い出すかと思えばいきなり狩りへ行くなんて。
「リヴァイアサンの解体はまだ途中なんだぞ」
俺がそう言うと、フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの食いしん坊カルテットはどこ吹く風だ。
『いや、終わったも同然だろう』
『うむ。重要なリヴァイアサンの肉は確保できたからのう』
『そうそう。それだよな。肉が一番大事だからな』
『お肉ー!』
「お前らなぁ……」
そりゃあお前らにとったら肉が一番大事なのは分かるよ。
肉肉肉の肉至上主義だもん。
ここ2日で、身から骨を外す作業も終わって、確かにリヴァイアサンの肉の回収は終わったよ。
俺のアイテムボックスにこれでもかってくらい大量に詰め込まれているんだから。
けどさ、それで終わりじゃないだろうが。
「いいか、解体は肉が手に入ったら終わりじゃないんだ。まだ頭部の解体は終わってないだろ」
『む、頭などどうでもいい。どうせ食える部分なんてないんだから』
フェルがそう言うと、『そうだ』とでも言うようにゴン爺もドラちゃんもスイもウンウンと頷いている。
「そんなこと言うなって。それにだ、どっちにしろまだ時間はかかると思うぞ」
『なぬ?!』
『まだ時間がかかるとは……。来週あたりには家に帰れるかと思っていたのだがのう。そろそろ風呂が恋しいわい』
『確かになぁ。俺やスイはここの風呂でも平気だけど、ゴン爺には狭すぎて入れないもんな』
『でも、お家のお風呂の方がおっきくて気持ちーよ』
ちょっと、風呂って、ゴン爺そこなの?
そりゃあフェルとゴン爺のために自宅の風呂を拡張工事したようなものだから、そう言ってくれて嬉しい気持ちもあるけどさぁ。
だけど、リヴァイアサンだよ。
風呂とリヴァイアサンを天秤にかけたら、どう考えたってリヴァイアサンの方が大事だろうが。
肉が確保できたからあとはどうでもいいと思っていそう、というか確実に思っているであろう食いしん坊カルテットをちょっと呆れつつ見やる。
「ハァ、まったくお前たちは……。あのな、まだ解体も終わってないし、王都の冒険者ギルドの買い取りについても全然決まってないんだぞ。まだまだ時間がかかるだろうが」
王都の冒険者ギルドだって、肉以外の部位を全部買い取ってくれるわけじゃないんだぞ。
資金的な関係があるから、全部はムリだって感じのことは既に言われているんだから。
そうなれば当然残った素材は引き取らなきゃならないし、買い取り分の精算だってあるし、そういう細々したことがあるんだよ。
解体が終われば「ハイそれでお終い」ってわけにはいかないっての。
「ほら、今日からは解体も冒険者ギルドでやることになっているんだから。行くよ、みんな」
胴体の解体を終えて、今日からは頭部の解体へと入る。
巨大ではあるけれど頭部であれば、冒険者ギルドの倉庫でも解体可能ということで、今日からはそちらに解体場所が変更になったんだ。
『ぐぬぬ、そんなことは彼奴らに任せておけばいいではないか』
「確かに解体とか買い取るものを決めるとかあっち側でやってもらうことの方が多いけど、物は持って行かなきゃならないだろ」
リヴァイアサンの巨大な頭部はこっちで預かっているんだから。
「ほら、行くよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王都の冒険者ギルドに到着すると、すぐに倉庫に案内された。
そして、そこで待ち受けていたのは……。
「ムコーダさん! それに、ドラちゃん、ゴン爺様!!」
満面の笑みとキラキラというかギラギラした目をして、脱兎のごとく俺たちの前に躍り出るエルランドさん。
そんなエルランドさんに顔を引き攣らせながら「あの、フェルとスイもいますんで」と付け加える俺。
それをエルランドさんは「ああ、そうでしたね」とサラッと流す。
この人、なんかだんだんとひどくなってね?
あれかな?
ドラゴン好きだったけど、実際にドラゴンを見られたのも、俺と出会ってからだろうからどんどん箍が外れていっている感じなのかな。
それにしても最近は自重しなさすぎだとは思うんだけど。
エルランドさんを見ながらそんなことを考えていると……。
「ドラちゃんっ、ゴン爺様っ、会いたかったですー!」
なにを思ったのか、そう叫びながらドラちゃんとゴン爺に突進するエルランドさん、もとい変態。
慌てて変態の前に手を広げて通せんぼするように仁王立ちした俺。
「ム、ムコーダさん?! なぜ邪魔するんですか!」
「なぜって、当たり前でしょ! カレーリナでのことを忘れたんですか!」
こちとらしっかりと覚えているからね!
リメンバーカレーリナ!
「くっ、それはそれ、今回は今回です!」
なんじゃそれは。
「王都に来てからずっと会えなかったんですよ! 空の警備に当たられているとかで、なぜかずっとずーっと会えなかったんですから! こんなに近くに居るというのに!」
変態が「このもどかしさ、辛さ、分かりますか?!」とかなんとか力説しているが……。
それ、アナタに会いたくない一心からドラちゃんもゴン爺も早々に空へと飛び立っただけだからね。
「いや、それドラちゃんもゴン爺もエルランドさんに会いたくないってことだから。分かれよ」
ボソリと呟く俺。
カレーリナであんなことがあったんだから、会いたくないって分かるでしょうよ。
普通はさ。
というか……。
「そもそもがダメでしょ。なんで抱き着こうとしているんですか?」
そう。
このエルフ、最初から抱き着く気満々で腕を広げて突進してきてるんだよ。
「ちょっとくらいいいじゃないですか!」
ちょっとくらいってねぇ……。
「ドラちゃんとゴン爺、めっちゃ嫌がっていますから!」
そう言いながら振り返ると、予想通りにものすごく嫌そうな顔をして俺の言葉に高速で何度も頷いているドラちゃんとゴン爺が。
「そ、そんなぁぁぁ! 私はこんなにもドラちゃんとゴン爺様を愛しているというのにぃぃぃ!」
「愛してるって、キモイわ」
思わずホンネが声に。
「キモイって、ひどいですよムコーダさぁぁぁん!」
四つん這いになって叫びながら項垂れるエルランドさんは、さらにキモイうえに残念だった。
それは誰が見ても同じだったらしく、周りの職員さんたちもドン引きしているしみんな関わり合いたくなさそうにそそくさと引き上げていっている。
俺たち一行とエルランドさんが取り残された中、どうしたものかと思っていると……。
エルランドさんをゲシゲシと蹴り上げるお人が。
「ちょっと目を離したすきに、アンタはなにをやっているんだい! 仕事しな!」
「え、ちょっ、モイラ様っ。ドラちゃんとゴン爺様とまだ触れ合ってないんですっ。ちょっ、引っ張らないで! ドラちゃん、ゴン爺様ーーーっ」
やってきたモイラ様に一喝されて、引き摺られていくエルランドさん。
コッソリとモイラ様を拝む俺だった。
それから、戻ってきた職員にリヴァイアサンの頭をどの辺に出せばいいのかを聞き、指定された場所にアイテムボックスから取り出して置くと、ドラちゃんとゴン爺の強い希望でみんなでそっとその場を後にしたのだった。
コロナワクチン2度目の接種が終わりました。
心配していたほど副作用もなく(1回目と同様と言うか、それよりもちょっと腕の痛みは出ましたが)過ごすことができたので、ホッと一安心です。
それでもまだまだコロナは蔓延中です。
皆様、お互いに気を付けましょう。




