第五百五十五話 ついにリヴァイアサンの肉を手に入れた!
エルランドさんからまさかの説教をかまされた翌日、1日かけても残っていた皮を剥ぐ作業が終わらず更にその翌日に持ち越し。
期待していたリヴァイアサンの肉は再びお預けとなってしまい、フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの機嫌も急降下。
特にフェルは不機嫌さが顔に出てずっと仏頂面でさ。
宥めるために「フェルの食いたいもの作ってやるから」って言ったら、返ってきた答えが『から揚げ』。
フェルだけじゃなくみんな好きだし、作ってやるかと夕飯にはから揚げを作ってやったんだ。
でもさ、みんなリヴァイアサンを食えない不満をぶつけるように食うわ食うわ。
揚げたそばから無くなっていくんだから。
から揚げ用に仕込んでいた肉も無くなって、急遽ダンジョン豚とダンジョン牛でとんかつと牛かつを揚げる羽目になったし。
めちゃくちゃ疲れた。
さらにその翌日に、やっと皮を剥ぐ作業が終わって、全体から見たらほんの一部だけど身の部分から骨が外されてようやく待ちに待った肉となった。
その作業も早くリヴァイアサンの肉が食いたいという、うちのみんなの強い希望により(というかフェルとゴン爺が半ば脅してた)なんとか叶ったわけだけども。
そうして解体作業開始から4日目にして、俺たちはついにリヴァイアサンの肉をほんの少しゲットしたのだった。
だけどさ……。
いや、こうなることは予想していたけど、フェルもゴン爺もドラちゃんもスイもみんなリヴァイアサンの肉を食うことで頭がいっぱい。
リヴァイアサンの肉を手にした瞬間から、みんな『すぐ帰ろう』の大合唱でさ。
エルランドさんやヨハンのおっさんに挨拶してからなんて思ってたのに、やきもきしたフェルに襟首咥えられてポイっと背中に乗せられた。
スイはいつの間にか準備OKとばかりに定位置のバッグに入ってるし、ゴン爺とドラちゃんは『先に行ってるぞ』と王都上空を飛んで一足先に帰っちゃうし。
そうしたら、なんの憂いもないとばかりにフェルは王都の中を爆走。
フェルに「止まれ」って言っても止まりゃあしない。
必死に「もっとゆっくり! じゃないとリヴァイアサンは無しだからな!!」って怒鳴ってようやく速度を落としやがった。
それでもブチブチ文句言いながら早歩きして王都で借りている一軒家へと到着。
玄関のドアを開けたら、休む暇もなくみんなにキッチンへと追い立てられた俺だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ったく、少しぐらいは休ませろっつうの」
文句を言いながらも、なにを作ろうかと考えを巡らす俺。
「調理に時間をかけると、みんな騒ぎ出しそうだしなぁ。なにより、俺もパパッと簡単に済ませたいし……」
フェルとゴン爺曰く、この間食ったアイスドラゴンに似ているって話だったけども……。
アイテムボックスから取り出したリヴァイアサンの肉は見た感じアイスドラゴンの肉と同様に白っぽい魚に似た肉質だ。
触った感じはこちらの方がいくらかムチッとした感じがするな。
「まぁ、なにはともあれ味見してみてからだな」
切り分けた少量のリヴァイアサンの肉に塩胡椒を振って焼いてみた。
焼けた感じもアイスドラゴンの肉に似ているな。
味もタラっぽいのか?
そう思いながら、リヴァイアサンの肉を口にした。
「うわっ! これは……」
ホクホクホロホロと崩れる身質は、アイスドラゴンの肉に似ている。
だけど、口いっぱいに広がるうま味が段違いだ。
表現するのが難しいけれど、美味い白身魚を全部合わせて5割増しにした感じだとでも言えばいいのか、とにかく美味い。
「これなら塩胡椒を振って焼いただけでも十分に美味いけど、なんとなくもったいない感じなんだよなぁ。この肉だったらいろんなソースと相性良さそうだし。ムニエルにして、定番だけどバター醤油ソースでいくか。あとレモンバターソース。…………あ! それなら、この間ネットスーパーで見つけたやつをかけても美味いかも!」
ネットスーパーでちょっと前に見つけた新商品。
ケチャップがなくなりそうだったから、買い足しておこうと思って見ていたら、なにやら初めて見る商品が目についた。
ケチャップで有名なメーカーから出てるトマトを使ったソースで、“そのまま料理にかけるだけでメニューが美味しく鮮やかに!”っていうキャッチコピーで、今度使ってみようって思ってたんだよね。
3種類あっていろんな料理に使えそうだし、トマトソースを作るのが面倒な時にはかなり便利そう。
なにより俺の直感が「これは絶対美味い」って訴えかけてるんだぜ~。
というか、ケチャップとかトマト缶とかはここのメーカーの買っときゃ間違いないって信頼感があるしな。
「よし、メニューは決まり。リヴァイアサンの肉はシンプルにムニエルでいただこう」
足りない材料をネットスーパーで購入してと。
あとは件のケチャップで有名なメーカーから出てるトマトソースをポチリ。
「よし、準備OK。まずは……」
リヴァイアサンの肉に軽く塩胡椒を振って、満遍なく小麦粉をまぶしたら余分な粉は落としておく。
熱したフライパンに有塩バターを入れて溶かしたら、リヴァイアサンの肉を入れる。
あとは両面がカリッとするまで焼いていく。
焼けたリヴァイアサンの肉を取り出して、そのフライパンを使ってソース作りだ。
「こっちのフライパンは、バター醤油ソース。んで、こっちはレモンバターソース」
バター醤油ソースは、追加で有塩バターを溶かして、醤油を入れて全体がなじんだら出来上がり。
レモンバターソースは、同じく追加で有塩バターを溶かして、レモン汁と塩を入れたら、粗びき黒胡椒を。
「挽きたての黒胡椒はやっぱり香りが良いね」
うちで使う黒胡椒はミル付きの容器に入った黒胡椒だ。
こういうのが手に入るのはネットスーパー様々だよね。
これでこちらも全体がなじんだら出来上がりだ。
あとは、トマトソースをかけるムニエル。
こちらは、トマトソースを邪魔しないようにあっさりと仕上げたいのでオリーブオイルで焼いていく。
リヴァイアサンの肉が両面カリッと焼けたら……。
「よし、出来上がり!」
俺のその声が聞こえたのか、ダダダッとフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイがキッチンに雪崩れ込んできた。
『出来たか! よし、食うぞ!』
『ようやくリヴァイアサンが食えるのう!』
『待ってました!』
『りばいあさんのお肉食べるー!』
「そっち持っていくから、戻った戻った」
まったく期待し過ぎだっての。
いそいそとリビングに戻っていくみんなに苦笑いの俺だった。
そして……。
みんなの前に並べられたリヴァイアサンのムニエルの載った皿。
「今日はシンプルにムニエルにしてみた。これがバター醤油ソースで、こっちがレモンバターソース。んで、こっちのなんにもかかってないムニエルには……」
ドドンと取り出した例の3種のトマトソース。
一つが、あらごしトマトに玉ねぎを加えたさっぱりとした味わいのオーソドックスなトマトソース。
もう一つが、ニンニクがたっぷり入ったニンニク風味豊かなトマトソース。
最後が、スペイン発祥だというトマトや赤いパプリカがベースのピリ辛風味ソースでブラバスソースと言うソースだ。
それをなにもかかっていないリヴァイアサンのムニエルにかけて……。
「あ、スイは、このブラバスソースっていうのはちょっと辛いから止めておいた方がいいかもな」
ちょっと味見してみたら、けっこうピリリとした辛味があってどちらかというと大人向けのソースだ。
『えー、食べてみたい~』
「じゃあ、ちょっとだけな。試してみて食えるようだったら、たっぷりかけてあげるから」
『分かったー』
そして、5種類のソースのムニエルが揃うと、待ってましたとばかりにパクつく食いしん坊カルテット。
『うむ。やはりリヴァイアサンの肉は美味いな!』
『そうそう。この味じゃわい。だが、やはり主殿が料理してくれている分さらに美味くなっているのう』
『うっま! これ、うっま!』
『りばいあさんのお肉、おいし~!』
待ちに待ったリヴァイアサンの肉だ。
食いしん坊カルテットの喜びもひとしおだ。
みんな一巡目をペロリと平らげて、すぐにおかわり。
やはりスイにはブラバスソースはちょっぴり辛かったようで、他の4種をおかわり。
そんじゃあ俺もいただきますか。
やはりここは気になっていた3種のトマトソースで。
まずはオーソドックスなトマトソースから。
ちょい酸味があって、さっぱり食えるな。
うん、美味い。
次はニンニク風味豊かなトマトソース。
おお~、これも美味い。
個人的にはこれ大好きなヤツだ。
で、次がピリ辛なブラバスソース。
パンチが利いててこれも美味い。
ピリリとした辛さはやっぱり大人向けだな。
これも美味い。
どれも美味いわ。
あ~、なんかパンが食いたくなってくるな。
ということで、テレーザ特製田舎パンをアイテムボックスから取り出した。
トマトソースをちょいとつけてパクリ。
うん、美味い。
パンを味わったら、次はリヴァイアサンのムニエルを。
あー、ヤバ。
無限にいけそう。
そんなことを思いつつムニエルとパンを交互にパクついていると……。
『おい、これとこれをおかわりだ!』
フェルがご所望なのはニンニク風味のトマトソースとピリ辛なブラバスソースのムニエルだ。
あー、フェルが好きそうな味だわ。
『儂もこれとこれのおかわりを頼むぞい』
ゴン爺は定番のバター醤油ソースとニンニク風味のトマトソースのムニエル。
やっぱ定番は外さないもんなぁ。
『俺もおかわり! これとこれな!』
ドラちゃんはさっぱりした味わいのレモンバターソースとピリ辛なブラバスソースのムニエル。
レモンの風味を生かしたレモンバターソースもいいよな。
だからこそピリ辛な濃い目の味のソースでも味わいたくなるのも分かる気がするわ。
『スイもおかわりー! んとね、全部ー!』
ハハハ、スイはピリ辛なブラバスソース以外全部か。
相変わらずの食いっぷりだね。
みんなにおかわりを出してやったのだが、数分も経たないうちに……。
『『『『おかわり!』』』』
「早っ」
待ちに待ったリヴァイアサンだからなのか、みんなの食うペースが早いこと早いこと。
『まだまだ食うぞ。リヴァイアサンの肉はたっぷり用意してあるのだろうな?』
リヴァイアサンのムニエルを食いペロリと口を舐めながらフェルがそう言う。
『儂も食うぞ』
『俺も! リヴァイアサンの肉なんて初めてだかんな。しっかり味わわねぇとな』
『スイももっともーっと食べるよ~』
「……追加で焼いてくるわ」
まだまだ食う気満々の食いしん坊カルテットに顔が引きつる俺だった。




