第五百四十五話 狩りの穴場
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「とんでもスキルで異世界放浪メシ 10 ビーフカツ×盗賊王の宝」、本編コミック7巻と外伝コミック「スイの大冒険」5巻、どうぞよろしくお願いいたします。
フェルの背に乗せられて王都の街の外に出ると……。
『よし、ここからはお主の出番だ』
『うむ。みんな儂に乗るのじゃ』
王都の門を出たところの草原で、フェルからゴン爺に乗り換え。
ドラちゃんとスイが嬉々として乗り込んでいく。
「って、おいおい、ゴン爺に乗ってって、どこまでいくつもりなんだ?!」
『いいからいいから』
「いいからじゃなくって!」
『あるじー、早くー』
『そうだぞ。お前も早く乗れよ』
先に乗り込んだドラちゃんとスイに急かされる。
「いやいや、早くじゃなくってね」
『いいから早く乗れ』
俺の襟首を噛んだフェルにポイッと放り上げられる。
「うわぁぁぁっ」
なんだよ、コレ!
さっきと同じじゃないかーっ。
『よし、みんな乗ったな。ゴン爺、頼むぞ』
『うむ。ここからなら、あそこがいいかのう』
「あそこってどこだよ?! 遠くはダメだからな!」
『む、遠くはないぞ、主殿』
「遠くはないって、そもそもゴン爺に乗って行くって時点で遠いだろうが!」
『お主はちょっと黙ってろ』
フェルの大きな肉球が俺の口というか、顔を覆った。
「んーっ!!! モゴモゴモゴォォ」
俺の顔を覆うフェルの前脚をバンバン叩いた。
『おーい、フェル、それ苦しんでるんじゃねぇか?』
そう言うドラちゃんの声。
そうだよ!
フェルの肉球に鼻も口もふさがれて苦しいんだよ!
ドラちゃんの言うとおりだと、俺はさらにフェルの前脚を叩いた。
『ん、そうか』
そして、ようやくフェルの前脚が外された。
「ゼーハー、ゼーハー。フェル~、お前、俺を殺す気か!」
『そう怒るな。ちょっとした手違いだ』
「なにが手違いだよ!」
『あるじー、大丈夫~?』
「俺を心配してくれるのはスイだけだよ~」
そう言いながらスイを抱きしめてスリスリする。
『ゴン爺、出発だ』
『うむ』
そう言って飛び立つゴン爺。
「ちょっと! まだ話は途中だろ!」
というか、どこに行くつもりなんだよー!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゴン爺の背に乗ること小一時間。
着陸したゴン爺の背から降り、地に足を着けた。
そこは、乾いた土とゴツゴツとした岩だらけの荒涼とした大地だった。
…………。
「ここ、どこ?」
まるで俺の言葉に合わせるように、冷たい風がビューッと俺たちの間を通り抜けていった。
王都の街では全く感じなかった肌寒さにブルリと震える。
「さっむ」
俺は、前にネットスーパーで買ったパーカーをアイテムボックスから取り出して急いで着込んだのだった。
『おいゴン爺、此奴ではないが、ここはどこなのだ?』
『ここか? しいて言えば狩りの穴場じゃのう』
『狩りの穴場~? こんなとこに獲物がいんのか?』
『それが、いるんじゃよ。むか~し、ドラゴンでないのに名にドラゴンとつくのが腹立たしくて、狩り尽くして絶滅させてやろうと思ったのだが、予想外に肉が美味くてのう……』
肉の味を思い出しているのか、ゴン爺の目が細くなっている。
『それで狩り尽くすのは止めにしてやったから、まだ生き残っているはずなんじゃ』
予想外に肉が美味かったから狩り尽くすのは止めにしたって、お前なぁ……。
『調整したドラゴンブレスで炙った肉がまた美味でのう』
そう言うゴン爺の口からポタリと涎が垂れ落ちた。
「ゴン爺、涎涎」
『いかんいかん』
ゴン爺の話を聞いて難しい顔をしていたフェルが、パッとなにかを思い出したように顔を上げた。
『ドラゴンでないのに名にドラゴンとつき、予想外に肉が美味いというと、アレか! ドラゴンタートル!』
『『ドラゴンタートルー?』』
フェルの言葉に、ドラちゃんとスイの声が重なった。
「ドラゴンタートルっていうと、名前からしてカメの魔物か?」
『うむ』
フェルがそう言って頷いたのに続き、ゴン爺がドラゴンタートルについて教えてくれる。
『ドラゴンと付いてはいるが、儂やドラと違いドラゴンとはまったく異なるものじゃ』
ゴン爺曰く『ドラゴンのような鋭い歯と強靭な顎を持った、ドラゴンブレスもどきの火を吐くただのカメじゃな』とのこと。
加えて『動きもとんでもなく鈍いし、もちろん実力は本当のドラゴンの足元にも及ばんがのう』とのことだった。
続けてフェルが『だが、彼奴皮膚は硬いのだ。甲羅はそれ以上に硬くてそこが少々厄介なのだ』と言うと、ゴン爺も『うむ』と頷いた。
フェルが言うには『我でもあの甲羅は一度の攻撃では砕けなかったからな』とのことだし、ゴン爺も『あの甲羅の中に引っ込まれると厄介でのう。あれの甲羅は硬い上に魔法耐性があるんじゃ。魔法以外で倒そうとすると、我らでも何度か攻撃を繰り返さんと倒せんわい』とのことだった。
え、それってけっこう強くない?
フェルとゴン爺みたいな強者が何度か攻撃しないと倒せないなんてさ。
『ほ~、フェルとゴン爺が認める硬い甲羅のカメか。倒し甲斐がありそうだな!』
『スイがビュッビュッてやって溶かしちゃうもんね~』
ドラゴンタートルがフェルとゴン爺も認める硬い甲羅の持ち主と知って、俄然やる気を出すドラちゃんとスイ。
『しかし、魔法耐性ありかぁ~。魔法が得意な俺とは相性が悪そうなんだよな』
確かに魔法特化のドラちゃんとは相性が悪そうだな。
『……そうだ! スイ、ここは共闘してドラゴンタートルを倒そうぜ!』
そう来たか。
確かにドラちゃんとスイの強力タッグなら、そのドラゴンタートルとやらも問題なく倒せそうだ。
『どうだ、スイ?』
ドラちゃんにそう聞かれるが、ポンポンと飛び跳ねるだけのスイ。
どったの?
『うーんと、えーっと、“きょうとう”ってなぁにー?』
そうのほほんとしたスイの声が響いて、思わずズッコケた。
フェルもゴン爺も提案したドラちゃんも苦笑いしている。
そうか、“共闘”って言葉はスイちゃんには難しかったね。
『“共闘”っていうのはな、協力して一緒に戦うってことだよ。俺とスイでドラゴンタートルを倒すんだ。どうだ?』
『うーん、いいよー!』
『よっしゃ! そんなら、そのドラゴンタートルをさっさと見つけにいこうぜ!』
張り切ってそう言うドラちゃん。
『うむ。それならだいたいの居場所は探知済みだ。まずは近場から行くぞ。お主とスイは我の背に乗れ』
「へいへい、分かりました」
スイと共にフェルの背中によじ登る。
『ドラ、儂らは飛んで行くぞ』
『おう』
フェルの背に乗ること数分。
着いた先で目にしたのは、こんもりとした巨大な山。
『これがドラゴンタートルだ』
「…………」
遠目にも見えていたんだ。
俺は、岩山だと思っていたんだけど。
でも、よく見ればリクガメのようなゴツゴツした甲羅の模様が見て取れる。
それはいいんだけど、とにもかくにも……。
「デカッ!」
高さもあるけど、これ、端から端まで30メートル、いや40メートル近くはあるんじゃないのか?
『うむ。まぁまぁの大きさじゃのう』
『我らの気配を察知して、早々に頭と手足を甲羅の中へ引っ込めたようだな』
いやいやいや、フェルもゴン爺も呑気にそんなこと言ってるけどさ、この大きさの上に無茶苦茶硬い甲羅の持ち主なんだろ?
こんなの、いったいどうやって狩るっていうんだ?
そう思いながら、硬い甲羅に守られた巨大なドラゴンタートルを見上げる俺だった。




