第五百四十四話 憂さ晴らしに出かける
5月25日「とんでもスキルで異世界放浪メシ10 ビーフカツ×盗賊王の宝」が発売となります!
同日に本編コミック7巻と外伝「スイの大冒険」5巻も発売となりますので、こちらも是非よろしくお願いいたします!
コミックの方ですが、本編7巻と外伝5巻の特典情報がオーバーラップさんの広報室でアナウンスされました。
気になる方は是非是非ご確認を。
「とんでもスキルで異世界放浪メシ 10 ビーフカツ×盗賊王の宝」の特典情報はもう少しお待ちください。
あの人が来る―――。
ドラゴンをこよなく愛するドラゴンLOVEなあの人、エルランドさんが。
夕飯時にその衝撃的な報せをギルドマスターから聞いた。
食事に夢中だった食いしん坊カルテットには、夕食後の落ち着いたところでその話をした。
あの人の話が出て思い出したけど、前に俺たちの行き先が海の街のベルレアンだって知ったら「リヴァイアサンを獲って来てくださいよー。リヴァイアサンなら喜んで解体しますから」なんて言ってたんだよな。
リヴァイアサンなんて聞いたら、そりゃあ喜んで飛んでくるわな。
被害のないフェルとスイは『ふーん』くらいなものだったけど、ゴン爺とドラちゃんはその一報を聞いてもの凄く顔を顰めていたよ。
ドラちゃんなんて『ゲェェェッ』って絶叫してたし。
もの凄い嫌われようだよ。
まぁ、気持ちは分からないでもないけどさ。
でもね、リヴァイアサンの解体のためにはあの人の力が必要なんだってことだよね。
ドラゴンのこととなると変態チックになるけど、あの人、無駄に仕事ができるんだよねぇ。
自分のやりたい仕事だけしかやらないけどさ。
ドラゴンの解体だって一人でやっちゃうし、技術だけはプロフェッショナル。
だから余計に質が悪いのかもしれないけどね。
ゴン爺もドラちゃんも、フェルから『リヴァイアサンのためだ。諦めろ』って言われてたよ。
フェルもエルランドさんの腕だけは認めているらしい。
ゴン爺もドラちゃんもフェルに言われて唸るほどに悩んでいたけど、リヴァイアサンを食うことの方があのウザいエルランドさんに僅差で勝ったようだった。
ゴン爺は『苦渋の選択だが仕方がないわい……』と諦め、ドラちゃんは『本当の本当に嫌だけどよ、リヴァイアサンのためだ。しょうがないぜ……』とガックリと項垂れていた。
それでも『なるべく近寄らせるな』とは言われたけどね。
だけど……。
「あの人、ゴキブリ並みにしぶといからねぇ……」
ことドラゴンのこととなると、そりゃもう手が付けられないくらいにしぶといんだわ。
あの困ったエルフは。
エルランドさんがやって来るというだけで先が思いやられる俺たちだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エルランドさんが王都にやってくると知ってから3日。
『ハァ~』
『ハァ~』
日に日に憂鬱そうな顔をしている時間が増えていくゴン爺とドラちゃん。
「ゴン爺もドラちゃんもそんな溜息ばっかりつくなって。余計に憂鬱になっちゃうぞ」
『そうは言うがのう……』
『そうだ。アイツに会うと思うと溜息も出るわ……』
ゴン爺もドラちゃんも、本当に嫌なんだね……。
まぁあの人、ドラゴン愛が強すぎて本当にウザいもんねぇ。
ゴン爺とドラちゃんを励ましたものの、俺から見ても相当なんだから、当事者であるゴン爺とドラちゃんからしたら気持ちが沈んでいくのも仕方がないか。
『ゴン爺ちゃん、ドラちゃん、大丈夫~?』
そう言って、伸ばした触手でゴン爺とドラちゃんの前足をペチペチと叩くスイ。
スイは優しいなぁ。
そんなスイを見てちょっとほっこりしていると……。
『おい、此奴の言う通りだぞ。いつもはふてぶてしいゴン爺とうるさいドラがそんなではこちらの調子が狂うわ』
ちょっ、フェルっ、言い方!
『誰がふてぶてしいじゃ、誰が。だいたいふてぶてしさならお主の方が勝っているじゃろうが』
うんうん、確かに。
俺との付き合いも一番長いし、この面子にもすっかり馴染んで、俺たちに対してもどこの誰に対しても、一番ふてぶてしい態度なのはフェルだぞ。
『おい、お主、なにを頷いているのだ?』
ゴン爺の言葉にウンウンと頷いていると、俺の頭の上にデカい足が乗った。
「ちょっ、お前さ、俺の頭の上に足を乗せるなっての」
も~、変な所よく見てるよなお前は。
「くっ……。っつか、力入れんなって!」
お前のバカ力で押されたら背が縮むわっ。
『フンッ』
そう言ってそっぽを向くフェル。
そんなフェルを恨めし気な目で見ながら再び溜息を吐くドラちゃん。
『ったく、俺もいつもうるさくて悪かったな~』
力なくそう言うドラちゃん。
エルランドさんと相まみえることが相当堪えている様子。
まぁ、あの人だもんね~。
カレーリナの我が家に押し掛けてきたエルランドさんがやらかした数々のことを思い出す。
うぅっ……。
ドラちゃんになんとか触れようと追いかけ回したりとか、ゴン爺の血や唾液を要求したりとか、呻きたくなるような数々が。
うん、完全にアウトだな。
そりゃあ溜息もつきたくなるか。
でもなぁ……。
リヴァイアサンの肉は、みんなが望んで楽しみにしているわけだし。
そのリヴァイアサンの解体にあの人の力が必要だってことも分かるし。
ゴン爺とドラちゃんも、リヴァイアサンの肉を食いたいってのは間違いないから葛藤があるんだろうなぁ。
『ハァ~』
『ハァ~』
ゴン爺とドラちゃんが、また溜息を吐いた。
『あー辛気臭いわ! よし、狩りに行くぞ! こういう時こそ狩りでもして憂さを晴らすのだ!』
『わーい! スイ、いっぱいビュッビュッてするー!』
「いやいや、狩りってフェルが行きたいだけじゃないかよ。スイも喜ばないの」
『フェルの言うことも一理あるかのう。ここで悶々としていてもしょうがない』
『だなぁ。いっちょ憂さ晴らしに暴れるか』
「ちょ、ちょっ、勝手にお前らだけでまとめんなって!」
『なんだ? リヴァイアサンの解体が始まるまで、どうせ暇であろうが。んん?』
したり顔でそういうフェル。
チクショウ、狩りに行くのを狙ってやがったな。
「いや、それはそうなんだけど、でもっ」
『でも、なんだ?』
「えと、その……」
『おーい、フェル、早く行こうぜ』
『うむ。狩りをして早く気分転換をしたいわい』
『スイ、いーっぱい倒すんだー!』
お、お前らぁ~。
『グダグダ言ってないで、行くぞ』
そう言いながら俺の襟首を噛んだフェルが俺をポイッと放り上げた。
「うわぁっ」
俺がボスンとフェルの背中に着地した途端に走り出そうとするフェルを慌てて止める。
「まっ、待て待て! 書き置きだけ残していくからちょっと待て!」
ここに泊まっているギルドマスターが、今日は朝から王都冒険者ギルドに詰めていた。
夕飯までには帰ってくるつもりではいるけど、俺たちより先にギルドマスターが帰ってきたときに俺たちがいなかったら、また大騒ぎになるかもしれない。
それじゃなくても「前科があるからな」って毎日予定を聞かれて、今日は家に居るって答えてあるのに。
『チッ、早くしろ』
フェルたちに急かされながら「狩りに行ってきます」とだけこちらで買った目の粗い紙に書いてリビングのテーブルの上に置いた。
『よし、行くぞ!』
「おいっ、あまり遠くまではダメだからな!」
『分かっているわ』
「本当の本当にダメだからなぁぁぁっ」
俺たちは王都の街を走り抜け、街の外へと繰り出したのだった。




