第五百四十二話 10日後……
お待たせいたしました!
5月25日にいよいよ「とんでもスキルで異世界放浪メシ10 ビーフカツ×盗賊王の宝」が発売となります!
今回も書き下ろし短編が収録されおります。
そして、同日に本編コミック7巻と外伝「スイの大冒険」5巻も発売となりますので、こちらも是非是非よろしくお願いいたします!
王都冒険者ギルドの倉庫―――。
今までのどの街のギルドの倉庫よりも広かった。
『まぁ、ここなら大丈夫かのう。頭だけならじゃがな』
ゴン爺の言うとおりだ。
あの大きさだからねぇ。
ということで、アイテムボックスからリヴァイアサンの頭だけを出すことに。
「大き過ぎて全体は出せないので、頭だけですが……」
そう言うと、お偉いさん方がザワついた。
でも本当のことだからねぇ。
「ヨイショっと」
アイテムボックスの仕様で仕舞うときには押せばスルンと入っていくし、出すときには出したいものをつかんで引っ張ればスルンと出てくるからそんなに力はいらないのだが、リヴァイアサンのような大物となると、多少は力を入れる必要があった。
力を入れてリヴァイアサンの頭だけを引っ張り出した。
リヴァイアサンのどデカい頭が飛び出した。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
お偉いさん方+ギルドマスターがあんぐりと口を開けて呆然としていた。
そういやギルドマスターもリヴァイアサンと知ってはいたものの、実物を見るの初めてだったもんな。
皆さんの唖然とした顔を見て思う。
その気持ち、大いに分かるよ。
リヴァイアサン、ヤバいくらいにデカいもんね。
無言のままリヴァイアサンの頭を凝視するお偉いさん方+ギルドマスター。
『おい、それで解体はできるのか? どうなのだ?』
一言もしゃべらないお偉いさん方に、焦れたフェルがそう問い質す。
フェルの声にハッと我に返るお偉いさん方。
「……これを逃すようでは冒険者ギルドの名折れじゃと思うんじゃが、皆はどう考える?」
王都冒険者ギルドのギルドマスターのブラムさんがそう言った。
「私もそう思いますのう。冒険者ギルドの運営に関わるようになってから一番の難関になりましょうがな」
「うむ。これの解体は冒険者ギルドの使命ともいうべきものじゃ」
「私もそう思います。これはやるべきです」
「儂もそう思いますな」
これは、できるっぽい?
『ほう。これはできそうじゃのう』
お偉いさん方の話を聞いていたゴン爺がそうつぶやいた。
「フェンリル様、古竜様、リヴァイアサンの解体の件、受けさせていただこうと思いますじゃ」
ブラムさんがそう言うと、フェルもゴン爺もパッと顔が明るくなる。
『そうか!』
『うむ。頼んだぞ』
喜びからか、フェルの尻尾がファサッファサッと左右に動く。
ゴン爺の太い尾も左右に動いていた。
というか、ここにあるテーブルとかに当たる前に止めて。
「ただ、2週間、いや10日ほど待って欲しいのですじゃ」
あれだけの大物を解体するのには準備が必要とのことで、10日待ってもらえれば解体に入れるとのことだった。
それはそうだよな。
「これは、ここ王都冒険者ギルド史上でも最大の事業となるぞ。皆の者、心してかかるのじゃ!」
「「「「おう!」」」」
「そして、我らは歴史に名を刻むのじゃぁぁぁっ!」
「「「「おうっ!!!」」」」
……な、なんか、お偉いさん方がものすごく盛り上がってるんですけど。
ちょっと不安だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぅ~」
ドサリと広く豪華なリビングのイスに座る。
さすが王都の豪邸だ。
適度に弾力のあるイスに使われている革も柔らかくて座り心地抜群だ。
ここは、王都の冒険者ギルドのお偉いさんの口利きで借りた家だ。
費用も王都冒険者ギルド持ちだそう。
ありがたいけれど……。
「おー、お前ら旅先ではいつもこんな豪華な家借りてんのか?」
ギルドマスターも一緒なんだよね。
なんか「お前らだけにしておくと何をしでかすか分からんからな」とか言って、お目付け役として一緒なのだ。
『ふむ、この家もなかなかではないか。彼奴ら、リヴァイアサンの解体もできるというし、やるではないか』
『うむ。一つ借りとしてもいいかもしれんのう』
あと10日でリヴァイアサンが食えるとフェルとゴン爺はご機嫌だ。
『あと10日か~。そんな話になっていたとはな。しかし、楽しみだな!』
『スイも楽しみ~!』
ドラちゃんとスイは寝ていて話は聞いてなかったけど、ここに来る途中に起きて、フェルとゴン爺から王都の冒険者ギルドがリヴァイアサンの解体を請け負ってくれたことや、それが10日後になることなどを聞いていた。
「おいおい、10日後って言っても、すぐに解体が終わるとは限らないぞ。あの大きさなんだから」
『ぐっ。そ、そうかもしれんが、我らが食う分くらいの肉は取り出せるだろう』
『うむ。フェルの言うとおりじゃ』
『そうだそうだ』
『美味しいお肉すぐ食べるの~』
ったく、みんな食い意地はってんだから。
どんだけ楽しみなんだよ。
それはいいんだけど、気がかりなのは話がとてつもなくデカくなってきていることだ。
「ギルドマスター。リヴァイアサンの解体を受けてもらえたのはいいんですけど、10日後って、なんかずいぶんと大掛かりになりそうな気がするんですけど……」
「そりゃあそうだろう。王都冒険者ギルド、一世一代の大事業だぜ」
「うう……。あまり大事にはしたくないのに」
「おいおい、リヴァイアサンを、それもあんな超ド級のデカさのを差し出しといて大事にするなってほうが無理だろ」
…………確かに。
ごもっともです。
「それで、気になっていることがあるんですが、あのドデカいリヴァイアサンをどこで解体するつもりなんでしょうね」
そもそもの話だけど、あの大きさのリヴァイアサンをどこでってことだよね。
王都冒険者ギルドのあのデカい倉庫でも頭しか出せなかったのに。
「そりゃ外に決まってんだろ」
「外?」
「そうだ。王都の前の儂たちが降り立っただだっ広い草原があんだろうが。あそこでやるつもりだろう。ってか、あそこしか考えられんわ」
確かにあそこなら何とかなりそうだ。
「お偉いさん方は今、必死に人集めに奔走してんだろうなぁ」
「人集め?」
「おうよ。解体の職員だって、とてもじゃないが王都の職員だけじゃあ間に合わん。それにだ、リヴァイアサンなんて代物においそれと触らせるわけにもいかねぇだろ。熟練の技ってもんが必要ってことだよ。今頃は各地の解体に定評のある職員が招集されてんだろうな。うちのヨハンも間違いなく呼ばれてるだろうよ」
確かにあの大きさだもんなぁ。
「それから高ランク冒険者にも召集がかかるだろうな」
「高ランク冒険者にですか?」
「物がリヴァイアサンだぞ。それを誰もが目の届く場所で解体すんだ。良からぬことを考える者が必ず出てくんだろうが。当然厳重な警備が必要だろ」
なるほど。
言われてみれば確かに。
そう思っていると……。
『なぬ? 我らのリヴァイアサンに手を出す不届き者が出るというのか?!』
『それは許せんのう』
話を聞いていたフェルとゴン爺の目つきが鋭くなる。
お前らコワいよ。
『そういう話なら我がいくらでも結界を張るぞ』
『儂もじゃ。それこそフェンリルか古竜でもなかなか破れぬ頑丈なものをのう』
『よし。我とゴン爺の二重結界を張ろう。これを破れる者などいまい』
『うむ。今回に関してはとにかく頑丈にしておいた方がいいじゃろう。誰かに盗まれてはかなわんからのう』
『それに警備にも出るぞ』
『そうじゃのう。それがいい』
『俺も警備するぞ! 美味いリヴァイアサンを盗まれたなんてなったら腹立つからな』
『スイもやるー!』
フェルとゴン爺の二重結界に、フェルとゴン爺とドラちゃんとスイの警備か。
ハハ、リヴァイアサンも安泰だね。
「それはいい! 朗報だ! これで百人力、いや千人力だな。儂は早速王都冒険者ギルドに知らせて来るぜ!」
フェルとゴン爺が結界を張って警備にも出ると聞いたギルドマスターは、王都冒険者ギルドのお偉いさん方に知らせるために喜び勇んで出ていった。
ハァ~、ますます大事になっていきそうな予感がするんだけど……。
俺にはどうしようもないしね。
『なぁなぁ、腹減った!』
『スイもお腹減った~』
『うむ。我もだ』
『主殿、儂も腹が減ったのう』
さすが食いしん坊カルテット。
いつでもどこでも平常運転ですね。
「ハイハイ、分かった。今から作るよ」
リヴァイアサンの解体!
とはなりませんでした(汗)
解体場面はもうちょい後に。




