第五百三十八話 ドラゴンステーキ>>>伯爵様
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「お前らが去った後、儂がどれだけ苦労したか分かるか?!」
「す、すんません」
ギルドマスターは、王様と王妃様からいろいろと訊かれたそうだ。
まぁ、それはいいとしても、それ以上に腹立たしいことがあったようだ。
「貴族連中から嫌味やらお小言やらを言われて、何度暴れてやろうと思ったことか!」
ネチネチクドクドと言い募る貴族がいたらしく「何度ぶっ飛ばしてやろうと考えたか分からんぞ!」と言いながら苦虫を噛み潰したような顔をするギルドマスター。
「しかもだ、ようやく解放されて、冒険者ギルドに来てみれば、お前らの姿はどこにも見当たらないときた」
そういや、王宮での謁見が終わったら冒険者ギルドに向かうって話だったな。
すっかり忘れてたけど。
「だが、お前らにとっちゃ初めての王都だ。冒険者ギルドにたどり着くまでに時間がかかるのも仕方ないかと待っていれば……。待てど暮らせどお前らは姿を現わしゃしねぇ」
そう言ってギルドマスターがギロリと俺を睨む。
うっ……。
ご、ごめんなさい。
ギルドマスターのことはすっかり忘れて、屋台巡りしてました。
これが事実だけど、馬鹿正直にそう言ったらもっと怒られそうだから言わないけどさ。
「それで、暇そうな冒険者に調べさせてみたら……」
げっ、そんなことしたん?
「お前ら、呑気に屋台巡りしてたそうじゃねぇか~、おー」
バ、バレてる……。
というか、怖いですギルドマスター。
額に血管がピキピキ浮き出てるんですけど。
「しかもだ、冒険者にお前らを呼んで来させようとしたら、「俺たちみたいな下っ端冒険者にフェンリルと古竜の相手をさせようってんですか?」だの「無茶言わないでくださいよ~」だの「俺らに死ねっていうんすか?」だのと、まるで儂が人でなしみたいに言われるしよ。散々だぜ」
うん、カレーリナの街ならまだしも、ここ王都だもんね。
従魔って言ったってフェンリルと古竜だし、ここの冒険者たちじゃあまだフェルとゴン爺には慣れてないと思うよ。
それなら自分で来ればよかったのにとは思うけど、自分から行ったら負けとかそういう感覚だったのかな?
怒られそうだから聞かないけど。
「まぁ、それはいいとしよう。しかしだな、あの献上品は何だ?」
「いや、何だと言われましても……」
献上品が出たときに怒ってたから、分かってはいたんだけど。
「あれほど確認したというのに、お前というやつは~っ! お前を信用したのが間違いだったわ!」
ちょっ、ひどい言われようなんだけど。
ギルドマスターはそう言うけど、俺としてはさ……。
「いや、でも、俺としてはあれで大丈夫だと……」
自分ではそう思ったんだからしょうがないじゃないか。
「多すぎだってんだ! ったく、しくじったぜ。お前任せにしないできちんと確認しておけばよかったわい」
今更そんなこと言われたってしょうがないじゃん。
「しかもだ、多すぎだってことだけじゃないぞ! とんでもない物ばかりじゃねぇか! パールのティアラに、サファイアがあしらわれた短剣? あんだけのものは王家の宝物庫を探したってきっとねぇ逸品だぞ!」
いや、そんなこと言われたって。
知らなかったし……。
その後も「お前は常識というものが~」とか「もうちょっと自重ってものをな~」とか、ギルドマスターから長々と説教を食らったのだった。
長い説教が終わり、ゲッソリしていると……。
『ふぁ~』
大あくびをするフェル。
それにつられるようにゴン爺とドラちゃんもあくびをしている。
スイはまだ夢の中のようだ。
「お前ら、人が説教食らってるってのに寝てたのか?」
ジト目でみんなを見ながらそう言う俺。
『フン、我らは関係ないだろう』
『うむ。儂らが何か言われたわけではないしのう』
『まぁ、元気出せよ!』
ぐぬぬぬ。
元はと言えばお前らのせいでもあるのに~。
『そんなことより、話が終わったのならばアレだアレ!』
「あれ?」
『主殿、リヴァイアサンじゃ。リヴァイアサン』
あー、あれのことか。
ってか、俺が説教食らったことはそんなことなのかよ?
チクショウ。
俺がやさぐれていると、ギルドマスターの声が。
「お二方、先ほどリヴァイアサンと聞こえたが、それは後にしてはくれまいか。実は、今日この後、ラングリッジ伯爵様のところにお伺いしなければならないのです」
ギルドマスターが言うには、フェルたちも一緒にということらしい。
『なに? 貴族ごときが我らを呼びつけるというのか?』
『慢心しておるのう』
フェルとゴン爺が剣呑な目つきでギルドマスターを睨みつける。
睨みつけられたギルドマスターの額からは滝のように汗が流れていた。
「コラコラコラ、睨まないの!」
俺はそう言いながらフェルとゴン爺を肘で突いた。
「ラングリッジ伯爵様は俺たちが住んでるカレーリナの街の領主様なんだぞ。あの街は住みやすいし、伯爵様は俺たちにいろいろと融通も利かせてくれているんだからな」
『だからどうだというのだ』
『確かにあの街は嫌いではないが、我らを呼び出すというのがのう』
ったく、なんでこいつらはこんなに偉そうなのかね。
「リヴァイアサンのことは後にしろってこと。リヴァイアサンは逃げないし、冒険者ギルドも逃げないだろう」
そう言ってもツーンとそっぽを向くフェルとゴン爺。
このヤロー。
こうなったら奥の手だ。
「そういうことするんだ。今日の謁見で大人しくしてなかったから、今晩のドラゴンステーキ丼はなしって思ってたけど、伯爵様のところへ一緒に向かってくれるなら、今晩のドラゴンステーキ丼もありかなって考えてたんだけどなぁ~。そうか、お前らは食わなくていいんだな~」
俺がそう言うと、一番に反応したのはスイだった。
目を覚まし、ポンッと跳び上がり一言。
『ドラゴンステーキ~!』
スイちゃん、ドラゴンステーキって言葉で飛び起きちゃうのね……。
食いしん坊もここまでくると清々しいよ。
『おいコラ、フェル、ゴン爺! 俺はドラゴンステーキ丼が食いたいぞ! お前らのせいで食えなかったら恨むからな!』
俺たちの話を聞いていただけのドラちゃんだが、ドラゴンステーキ丼の話が出た途端にフェルとゴン爺に詰め寄る。
『ま、待て、ドラ。お、おい、我は行かぬとは言っておらんぞ』
『そ、そうじゃ。儂だって行かぬとは言っておらんわい』
ドラちゃんに詰め寄られるし、ドラゴンステーキ丼にありつけないかもと思ったのか、フェルとゴン爺が急にしおらしくなった。
「じゃあ、一緒に行くんだな?」
『ま、まぁ、しょうがない』
『う、うむ。そうじゃな』
イヤそうな顔をしつつもしょうがないというような顔で承諾するフェルとゴン爺。
『よし! んじゃ、予定通り今晩はドラゴンステーキ丼で頼むぞ!』
「ハイハイ、分かったよドラちゃん」
『ドラゴンステーキー!』
食いしん坊カルテットにとっては、伯爵様よりドラゴンステーキの方が上だってことは分かったよ。
口に出してはとても言えないけれど。
く、なかなか進まない。。。
すんません。
次回もまた進まなそうなのですが(伯爵様回なので)温かく見守っていただければ。




