第五百三十七話 鬼が出た!
ちょい短めかもです。
「んん……、不敬、罪…………、死刑………。ハッ」
飛び起きると、俺はなぜか街中にいた。
しかも、通りにいる人がみんな俺を見ていた。
何でだと思いながら自分の状況を確認すると……。
「え? 俺、なんでフェルに乗ってるの?」
俺を乗せたフェルの横には、ドラちゃんとスイを乗せたゴン爺がいる。
「王宮にいたよな? へ、あれは夢だったのか?」
混乱する俺を見て溜息を吐くフェル。
『夢なわけないだろう。ちゃんと王宮にいたぞ。お前は情けないことに気絶しおったがな』
「うっさいわ。というか、気絶……。はっ、そうだ! フェルとゴン爺が王様に向かってとんでもないこと言って!」
あんだけ大人しくしててって言ったのに、フェルとゴン爺ってば王様に向かって『まだ終わらないの?』的なこと偉そうに言ってたんだよ。
『フン、お主の願いだから付き合ってやったが、無駄に時間がかかり過ぎなのだ』
『そうじゃのう。そもそもが一国の王程度に儂らが付き合う義理はないんじゃしのう』
「な、な、な、なんでお前らはそんなに偉そうなんだよー!」
王様に対してもこの態度。
別に媚びへつらえとは言わないけど、黙って大人しくしていてほしかったのに~。
『我はフェンリルなのだぞ。誰よりも強い我が偉いのは当然だろう』
なにを当たり前なことを言っているんだというようにそうのたまうフェル。
『フェルの誰よりも強いというのには異議ありじゃが、弱者が強者に従うのは世の理じゃな。そして、この世で最も強者たるのは古竜である儂じゃろうて。一国の王程度の者が儂に指図すること自体おこがましいことよ』
ゴン爺も当然のことのようにそうのたまった。
「お前らぁ~」
く~、ドラちゃんとスイはまだしも、フェルとゴン爺を王宮に連れていったのは大きな間違いだった。
ハァ、もう終わってしまったことはどうしようもない。
それよりこれからのことだ。
なんで王宮から出て街中にいるのかはわからないけれど、この状況では都合がいい。
「よしみんな、不敬罪とかに問われる前に、王都からズラかるぞ!」
『ハァ、お前はなにを言っているのだ』
『主殿……』
呆れ顔のフェルとゴン爺。
「なんだよ、その態度はーっ。お前らが失礼な態度とるからだろうがっ。お前らの主ってことで罪に問われるのは俺なんだぞ!」
フェルとゴン爺のあまりにもな態度にムカッとして、思わずフェルの毛を引っ張った。
『おいコラッ。毛を引っ張るな!』
「お前らが悪いんだろうがぁ~」
『だから、引っ張るなと言っておろうが!』
「ケッ、お前の毛なんか毟ってやるわ!」
『毟れるものなら毟ってみろ! お主の力では精々生え変わりの古い毛が毟れるだけだ』
「この~、言ったな! フェルめ!」
腹が立ったので、フェルの毛を思いっきり引っ張ってやった。
『おうおう、こそばゆいなぁ』
フェルが振り返って、バカにしたように俺に向かってそう言った。
「くっそー」
さらにギリギリと毛を引っ張ってやったが、フェルにはまったく効いていないようだった。
チクショウ。
『ククククク。まぁまぁ、主殿、落ち着くのじゃ。罪になど問われはせんよ。向こうにもなかなか話が分かる者がおったからのう』
「話が分かる者?」
ゴン爺の言うその話が分かる者って誰だよ?
『ゴン爺の言う通りだ。王の隣にいた人間の女がなかなか話の分かる者だった。一切我らに手出しせんしさせないと言っておったぞ。王の隣にいたのだから、それなりに力のある者だろう』
王様の隣?
………………。
「それ、王妃様だからぁーっ」
『そうなのか? 王を窘めて王よりも強そうだったぞ』
「い゛っ……」
王家のご家庭内の力関係が垣間見えた。
王様、王妃様の尻に敷かれてるのかな……。
『話が分かる者だったからな、一度くらいは願いを聞いてやろうと話しておいた。フェンリルたる我がそう言ってやったのだ、それをみすみす逃すようなことはすまい』
『うむ。それに、この国で自由に過ごしていいと言っておったからのう。我ら相手にそうそう話を違えるようなことはしないじゃろう』
そ、そうなのか?
ということは……。
「俺、無罪?」
『さっきから大丈夫だと言っているだろうが』
『主殿はもう少し儂らの話をちゃんと聞いた方がいいのう』
うっさいわい。
お前らが無茶ぶりばっかりするからこっちは気苦労が絶えないんだよ!
というか……。
「助かった。良かったぁぁぁ」
ホッと一安心していると、ドラちゃんが俺の頭に飛びついてきた。
『お前ら話が長いんだよ! 話終わったんなら、屋台巡りするぞ!』
「え?!」
『あるじ、スイお腹ペコペコ~』
『うむ。まずは腹ごしらえをせねばな』
『王都の屋台も悪くなさそうじゃのう』
『よし、まずは俺が目を付けてた屋台に行ってみようぜ! あっちだ!』
ドラちゃんの先導で方向転換。
俺たち一行は、ドラちゃんが目を付けていた屋台へと向かったのだった。
それからは食いしん坊カルテットの独壇場。
フェルもゴン爺もドラちゃんもスイも、匂いを頼りにあっちの屋台だこっちの屋台だと王都の街中を行ったり来たり。
俺は当然それに付き合わされる羽目に。
あちこち回って、みんなが満足するころには空が赤く染まっていた。
『王都の屋台もまぁまぁ良かったな!』
『美味しかったねぇ~』
『うむ。悪くはなかったな。まぁ、肉のダンジョンがあった街の屋台に比べれば劣るがな』
『あの街か! あの街の屋台は美味かった!』
『お肉のダンジョンー! また行きたいね~』
『ほ~、そのようなダンジョンがあるのか。儂も行ってみたいのう』
ローセンダールの街か……。
思い出すなぁ。
あそこは通常のダンジョンよりは危険は少ないし、肉が大量に確保できるのがいいんだよね。
孤児院の子たちや、屋台を始めるって言ってたメイナードとエンゾにもまた会いたいな。
なにより、みんなと約束したからね。
「次の肉ダンジョン祭りに合わせて行こうな」
『うむ!』
『もちろんだ!』
『行くー!』
『ホッホッホ、それは楽しみだのう~』
一時はどうなることかと思ったけど、こうやって買い物していたって俺を捕まえに誰も来ないし、こりゃ無罪放免確定で間違いないな。
良かった、良かった。
しかし、なにか忘れているような気が……。
なんだっけ?
「………………あーっ、ギルドマスター!」
呑気に屋台巡りなんてしていたけど、今になって思い出した!
一緒だったギルドマスター!
「と、とりあえず、王都の冒険者ギルドに行くぞ!」
通りを歩く王都民に冒険者ギルドを聞きながら急いで向かった。
そして到着した、他の街の冒険者ギルドよりも大きくて立派な王都の冒険者ギルド。
恐る恐る中に入っていくと……。
仁王立ちした鬼がいた。
「お、ま、え、らぁぁぁぁぁっ」
「ヒェッ」




