第五百三十五話 王都到着。からの王宮へ即連行。
王都編はじまるよ~。
「おお~、あれが王都か」
ゴン爺の背中から、今まで見たどの都市よりも大きな街が見えてきた。
『ほ~、デカいな!』
『大きい~』
俺の言葉にドラちゃんとスイが身を乗り出して王都を見ている。
『無数に人の気配がしている。それなりの気配も多少はあるからそうだろうな』
俺たちの言葉を聞いて、寝そべっていたフェルもそう言う。
というか……。
「それなりの気配?」
『うむ。高ランクの冒険者やら王宮にいる者だろうな』
なるほど。
王都ならば高ランクの冒険者もそれなりにいそうだし、王宮にも強者はいそうだな。
『そんなことより主殿、どこに降りればいいんじゃ?』
「うーんと、ゴン爺が着陸できるっつったら、あの辺りの草原かな」
『あい分かった』
そう言って、ゆっくりと下降していくゴン爺。
あの草原、王都の入り口の門に近すぎるような気がしないでもないけど、ギルドマスターが各所に通知はしてあるって言ってたし、まぁ大丈夫だろう。
着陸態勢に入っていた、ゴン爺の巨体が(そうは言っても完全体ではないんだけどね)草原へと降り立った。
おっと、ずっと気を失っていたギルドマスターを起こさないと。
「ギルドマスター、王都に着きましたよ! ギルドマスター!」
俺よりも年齢はかなり上だけど、元高ランク冒険者らしいガッシリした体を揺すった。
「んん…………、ん……、んあぁぁぁっ!」
気を失う前のことを思い出したのか、ギルドマスターが跳び起きる。
「お、降りる! 儂は降りるぞー!!」
気が動転しているのか叫んでいる。
「ギルドマスター、落ち着いてください! もう地上に着いてますから!」
俺がそう言うとピタッと動きを止めたギルドマスター。
「……なに?」
「だから、もう王都ですよ。到着しましたから。下を見てください」
ギルドマスターが俺の言葉に恐る恐る下を見る。
ゴン爺が降り立ったのは草原だ。
もちろん下には青々とした草が生い茂っていた。
それを確認してホッとしたように座り込んだギルドマスター。
「さ、ゴン爺から降りて、王都に向かいましょう。なんだか、門を通るのにも時間がかかりそうですし」
上から見たときに、王都の門の前でズラッと行列ができているのが見えたんだよね。
さすがは王都。
人も物も出入りが多いんだろう。
「お、おう、そうだな」
ゴン爺から降りて伸びをする俺。
ギルドマスターは、四つん這いになって「地上はいいなぁ」なんてしみじみつぶやいているし。
まぁ、気持ちは分からなくもないけど。
そうこうしているうちに……。
「あれ? ギルドマスター、誰か来ましたよ。ってか、なんかヤバいかも。鎧を着た騎士がいっぱい」
「なぬ?」
立派な鎧を着た騎士たちが、わらわらと王都の門から出てこちらに向かってきている。
「あの装いは……、近衛兵か?」
「え゛?」
近衛兵って、王族やら王宮を警護している兵士なんじゃないの?
「あ~、ドラゴンで向かうって通知したからなぁ。王宮にもお前が王都に来るってことが知れたか……」
あ……。
考えてみたらドラゴンに乗ってるのなんて、俺だけだもんな。
だとしても、なんでいきなり近衛兵が出てくるの?
もしかして、危険視されてる?
フェンリルやらドラゴンを王都に連れてくるなって怒られるのかな?
ビクビクしながら、その場に留まっていると……。
到着した近衛兵が、俺たちの前で一糸乱れぬ動きで整列した。
「近衛第一師団、王の命にてSランク冒険者ムコーダ殿をお迎えに参りました!」
…………。
「エェ……」
思わずそう声を漏らした俺は悪くない、悪くないぞ。
一介の冒険者の迎えに近衛兵をよこすって、ないでしょうよ。
「そうきたか」
「そうきたかって?」
「王様は、お前に会いたがっていらしたからなぁ。それで、お前が王都に来ると知って……」
迎えを出したってことか。
ハァ~。
もう早速帰りたくなってきたんだけど……。
「ささ、行きましょうぞ! おい、お前たち!」
「「「「「「ハッ」」」」」」
近衛師団が俺たち一行を前後左右ぐるりと囲んだ。
「ギルドマスター、これ、断ることは……」
「できると思うか?」
「ですよね……」
コソコソとギルドマスターと話し合う。
仕方ないと、近衛兵に前後左右を囲まれながら王都の門をくぐる俺たち一行だった。
フェルとゴン爺も空気を読んで大人しくしているのかと思っていたんだけど、王都の街を進む中、フェルの念話が。
『王宮が先か。リヴァイアサンを先にと思っていたが、まぁいい』
「ま、断れないしさ。それに嫌なことはさっさと終わらせた方が、この後動きやすいだろ」
『そうだな。しかし、人の王に会うのは久しぶりだ。前に会った王は、生意気にも我を屠ろうとした馬鹿者だったが、ここの王はどうだろうな?』
そう言ってフェルが獰猛な笑みを浮かべた。
「ちょっと、ちょっと、絶対に暴れないでよ!」
『さぁな』
「さぁなじゃなくって!」
『儂も人の王に会うのは久しぶりじゃわい。まぁ、フェルと同じで前に会った王は儂の素材がどうとかほざいておったから、確認してすぐにドラゴンブレスを食らわせてやったがのう』
ゲッ、ゴン爺のドラゴンブレスって、ご臨終コースじゃないかっ。
「ゴン爺もかよ! ゴン爺も絶対に暴れないでよ!」
『さぁのう』
「も~、フェルもゴン爺もお願いだから変なことしないでよ~!」
とてつもなく不安だ。
フェルに乗ったドラちゃんとスイは『あそこの屋台美味そうだぜ!』とか『人がいっぱいだね~』なんてお気楽モードだし。
大丈夫なんだろうか、俺……。
不敬罪とかに問われないといいなぁ……。
近衛兵に前後左右を囲まれて王宮へと進む俺たち一行。
王都民からは何事かと注目されるし、なんともいたたまれない道中だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王宮へ到着すると、今度はあれよあれよという間に王との謁見になってしまった。
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの従魔ズはいつものごとく緊張感の欠片もない様子だが、俺とギルドマスターは緊張しつつ扉の前でスタンバイしていた。
「おい、献上品について儂は確認しなかったが大丈夫なんだろうな?」
ギルドマスターがそう聞いてきた。
事前に王への献上品があれば、一度こちらで預かる旨を王宮側から言われたので(ギルドマスター曰く、警備の面でも事前チェックは必要とのことで、これは通常のことらしい)、用意していたものを預けてあった。
「一応、直接お会いして献上する品ってことで、この前よりは多くしたんで大丈夫だと思いますけど……」
確認した人に「本当にこれでいいのか?」ってちらっと聞かれたけど、なんだか声が上ずってたし、もしかして少なかったか?
でも今更どうしようもないし。
その時はその時だ。
後で追加でなにか献上するようにしよう。
そう自分を納得させる。
それよりもだ、今は大事なことがある。
王に謁見する作法を急ごしらえで習って、それを忘れないように頭の中で反芻しているところだ。
これは間違えられないからね。
俺がやることは、ギルドマスターの後ろについていって、ギルドマスターが止まったら、俺も止まる。
そこで片膝を突いて、左手を胸へ。
この時点で頭は下げたまま。
王様から「面を上げよ」って言葉があってから頭を上げて……。
やり取りは全部ギルドマスター任せだから大丈夫。
その辺は付け焼刃の俺が話してボロを出すより任せた方が安全ってことでね。
フェルたちは俺の後ろでとにかく大人しくしててって言いつけてある。
偉そうな態度もしないようにって言ってあるけど、大丈夫だよな。
お前ら、信じてるからな!
そして、謁見の間の重厚な扉が開いたのだった。




