第五百三十三話 ギクッ……
すっかりUPするの忘れてました(汗)
申し訳ありませんです。
気が付いて良かった。
今日は、お願いしていたがま口財布を引き取りにランベルトさんの店へと来ていた。
暇だと言ってくっついてきた、フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイは店の外で勝手にくつろいでいる。
ランベルトさんと俺は、いつものように店の奥の部屋へ。
そこで、出来上がったがま口財布を見せてもらった。
「おお~、いい出来ですね。さすがです」
大きさも指定通りの手のひら大のがま口財布が出来上がっていた。
がま口の金具もスムーズな開き具合。
ハンターグリーンアナコンダの皮もキレイに処理がされていて、より鮮やかな緑色になっていた。
「バッチリというか、予想以上のいい出来です!」
「それは良かった。職人も、これ以上ない皮に新しい形の財布ということで気合が入っていましたからな」
ランベルトさんの所の職人さんはさすがだね。
いい仕事してるよ。
「それはそうと、小耳に挟んだのですが、ムコーダさん王都に向かうそうですね」
さすがというべきか、耳が早いな。
「ええ」
「それでしたら、ラングリッジ伯爵様にもお会いした方がよろしいかもしれませんね。ちょうど今の時期は、一家揃って王都にいらっしゃいますから」
ああ~、やはりか。
それも考えてたんだよね。
伯爵様が王都にいた場合、やっぱり会っておいた方がいいのかなってさ。
【神薬 毛髪パワー】のこととかで伯爵様にはお世話になってるわけだし、王様にだけ会って帰ってくるってわけにはねぇ。
「それは考えていたんです。ギルドマスターが一緒に行くので、そこもお願いしようと思います」
「そうしていただけると、こちらもありがたいです」
【神薬 毛髪パワー】の販売に関しては伯爵様からの紹介も大事だもんね。
「そうだ、伯爵様への献上品は何がいいと思いますか? いつもの育毛剤はお贈りするとして、やっぱり奥様とお嬢様用にシャンプーとトリートメント、ヘアパックもあったほうがいいですよね」
「そうですね。あと高級せっけんも」
「ただ、それだといつもと変わらないんですよね。わざわざ王都で会うってこともあるし、もう少し何かあった方がいいですよね?」
「それはそうですね。それならば……」
ランベルトさんが提案したのは、マリーさんに卸すことになっているオールインワンジェルだった。
その存在は伯爵様の奥様とお嬢様も既に知っていて、出処も俺だろうと見当はついているそうだ。
まぁ、伯爵様の家とはいろいろとあるし分かっちゃうよな。
「分かりました。あのクリームも入れることにします。あと、ダンジョンから出たものなんかも入れた方がいいですかね?」
「そうでしたね……。ムコーダさん、いくつものダンジョンを踏破していらっしゃったんでした」
ランベルトさん、なに遠い目をして黄昏てんの?
「そういう品は王様へ献上なさるのでは?」
「献上する品もありますけど、それ以外にも細々した宝石とかけっこうあるんで」
「細々した宝石、ですか……」
え、俺なんで呆れたような顔で見られてるの?
「宝石もいいですが、もし、ダンジョンで高ランクのポーションなどを得られたのであれば、そちらの方がお喜びになるかもしれません」
ランベルトさんが言うには、いざというときのポーション確保は貴族の責務でありステータスでもあるらしい。
「あ、それならば……」
俺は、アイテムボックスにあったスイ特製ポーションを取り出した。
「下級、中級、上級と揃ってます。ダンジョン産ではないんですが、伝手があって、割と手に入りやすいんです」
なにせ作っているのはスイちゃんだからね~。
「それぞれ5本くらいでどうでしょうか?」
「それぞれって、上級も5本ということですか?」
「ええ」
ランベルトさんの顔がなんだか引き攣っているんだけど。
どうかしたのかな?
「ハァ~、またこの人は…………。上級5本は多すぎです。下級3本と中級と上級は1本ずつで十分だと思いますよ」
「分かりました。そうします」
ランベルトさんの言う通りにした方が間違いないだろうからね。
それから、マリーさんへオールインワンジェルは明後日くらいの納品になる旨の言伝をお願いした。
詳細は、いつもの通りコスティ君を通してということも付け加えて。
その後、少しの世間話の後、ランベルトさんの店をおいとました。
店を出たとたんに、待ち構えていた食いしん坊カルテットに買い食いを強請られて、その後は昨日に続いて屋台巡りをすることになったけどね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
家に帰ると、テレーザたち女性陣がちょうど母屋の掃除を終えて帰るところだった。
ちょうどいいので奴隷全員に集まってもらうように言付けを頼んだ。
少しの後、奴隷が集まってきた。
広いリビングは腹いっぱいになった食いしん坊カルテットが昼寝して占領しているので、玄関ホールにて。
「この前の旅ではお土産がなかったからな。その代わりのようなものなんだけど……」
そう言いながら、今日受け取ってきたばかりのがま口財布をみんなに配る。
「ダンジョンで獲れた皮で作った財布なんだ。みんな財布持ってなかったみたいだからさ、いいかなと思って。緑色の皮がイイ感じだろ」
トニ一家とアルバン一家の面々はがま口財布に目を輝かせている。
しかし、冒険者組はなぜか顔を引き攣らせていた。
「ちなみに聞くけど、ダンジョンってどこのダンジョンなんだ?」
「ムコーダさん、ロンカイネンの街に行くって言ってたよな? 俺の記憶が正しければ、ロンカイネンの街の近くにダンジョンなんてねぇはずなんだけど」
そう聞いてきたのはルークとアーヴィンだ。
お前らアホなはずなのに、鋭いこと聞いてくるな。
「ええと、まだあんまり知られてない小国群にあるダンジョンだよ」
そう言うと、コソコソと「聞いたことあるか?」とか「手つかずってことか」なんて言葉が聞こえてくる。
「踏破はしたのかい?」
タバサがそう聞いてくる。
「フェルとゴン爺がいるのにしないと思う?」
そう逆に問い質してやると、冒険者組一同「だよな」と納得顔だ。
「でじゃ、この皮はいったいなんの皮なんじゃ? 儂が一度だけ見たことのある蛇の魔物の皮に似ているんじゃが、その魔物の皮じゃったら、こんな風にホイホイと儂らみたいな奴隷に渡していい皮じゃないはずなんじゃけどのう」
バルテルがジト目で俺を見ながらそんなことを言った。
「この鮮やかな緑色の皮を見てアタシが予想したのもそうなんだよね。でも、それだとさすがにこうホイホイと渡してこないって思いたいんだけど……」
タバサまでジト目で俺を見てくる。
「蛇の魔物で緑の皮って、まさかアレか?」
「去年のオークションに出てた……」
ギクッ。
もしかして、アホの双子も分かってんのか?
「金貨1000枚近くの値がついて、冒険者の間ですごい話題になった。俺でも知ってる」
あれ、ペーターまで知ってる?
「え、えと……」
あれ、なんであげる側なのにこんなに汗かかなきゃいけないのかな?
「で、もう一度聞くが、なんの皮なんじゃ?」
バルテルがトドメとばかりにもう一度聞いてきた。
「………………ハンターグリーンアナコンダ」
バルテルの圧に負けて、俺はそうボソリとつぶやいた。
それを聞いた冒険者組からは「やっぱりか……」とか「あちゃ~」とかいう言葉とともにため息が聞こえてきた。
「あのなぁムコーダさん、小物だろうがハンターグリーンアナコンダの皮を使ったもんを奴隷にやるなんっちゅうことは普通なら誰も考えもせんことなんじゃぞ」
呆れたような顔をしてバルテルがそう言ったのを皮切りに、冒険者組からとくとくと説教をされた俺。
こんな高価なものをなんで俺たちにだとか、こんな高価なものを持っていたら逆に襲われる可能性がだのとさ。
確かに襲われる可能性は考えてなかったけど、でもさぁ……。
「俺がいいって言ってるんだからいいの! 外に持っていくと危ないっていうなら、家で小物入れにでも使ってよ」
がま口なら小物入れにもいいでしょ。
だいたい君たち話が長いし、くどいよ。
それにさ、話を聞いてたトニ夫婦とアルバン夫婦も顔を青くしちゃってるじゃないか。
ロッテちゃん以外のある程度話の分かる子どもたちもオロオロしちゃってるし。
「いざっていう時には売るって手もあるしさ。とにかくみんなにあげたものなんだから持っていなさいって」
そう言って、みんなを玄関から追い立てて家へと帰した。
みんながいなくなったところで、ふと考える。
「そういや、みんな財布がないからあのがま口財布にしたのに、あれじゃ外に持っていけないってことか。それなら、今度はもっと普通の皮、レッドボアの皮とかそんなので作ったがま口財布をプレゼントするってのもありだな」
そんなことを思う俺だった。




