第五百三十二話 お買い物
ギルドマスターから買い取り代金、今回も白金貨込みを受け取った。
貯まっていく一方だなと思いながら、アイテムボックスにポイっと入れた。
「で、どうする? 王都に行くかどうか決まったか?」
『もちろん行くぞ』
『リヴァイアサンの解体ができるかもしれんそうじゃからのう』
一緒に来ていたフェルとゴン爺が俺より先にそう答える。
「ということで、行きます」
「お~、そうかそうか」
「もちろん、ギルドマスターも一緒なんですよね?」
「当たり前だろう。儂が行かなかったら、王宮とどう渡りをつけんだよ」
「諸々のことよろしくお願いします」
「おう。任せとけ」
ギルドマスターが一緒だから、ひとまず安心かな。
『王都か。楽しみだな!』
『美味しい物いっぱいあるといいね~』
『王都というのは人がたくさんいるからのう。屋台も美味いのがあるじゃろう』
『うむ。屋台巡りは絶対にするぞ』
食いしん坊カルテットは既に観光気分だ。
俺も王宮参りがなきゃあ観光気分に浸れたんだけどなぁ。
「ギルドマスター、それで、出発はいつに?」
「儂もいろいろと終わらせとかなきゃあいけねぇ仕事があるからな。5日後ってところでどうだ?」
「はい、大丈夫です」
『む、5日もかかるのか?』
『明日にも向かいたいところなんじゃがのう』
『すぐじゃねぇのかよ~』
『あるじー、王都、まだ行かないのー?』
ドラちゃんとスイは念話だからまだしも、フェルとゴン爺は声に出して言わないの。
「無理言わないの。たった5日後なんだから、そんなに先になるわけじゃないだろ。うちの奴らがすみません」
ギルドマスターも苦笑いしている。
「ま、5日後にここに来てくれ」
「はい。あ、行きも帰りもゴン爺に乗ってなので、そのつもりで準備してくださいね」
「の、乗るのか、本当に」
「ええ。古竜に乗れるなんて、そうそうないでしょ。楽しんでくださいね」
そう言ってやると、ギルドマスターってば顔を引き攣らせていたよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王都出発までは、まだ日にちがある。
一昨日は、一日中せっせと作り置きの料理を作っていた。
この間作ったけど、いくらあってもいいものだからね。
で、昨日は、フェルたちが『狩りに行きたい』って騒ぎだしたから、それに付き合った。
鳥系の魔物の肉が少なくなってきたから、それ中心に狩ってきてってお願いしたら、コカトリスとロックバード、ジャイアントドードーを狩ってきてくれたよ。
俺の解体練習用にコカトリス3羽だけ残して、あとは狩りからの帰りがけに冒険者ギルドに寄って解体をお願いしてきた。
「この間、あれほど引き取ったってのに」ってヨハンのおっさんが呆れ顔だったけども。
あれはダンジョンのだから解体も必要ないものばっかりだったし、あれとこれとはまた別だからね。
引き取りは王都行きのために冒険者ギルドに行ったときにってことにしてある。
そして今日はというと……。
「よし、今日は久しぶりに買い物に出かけるぞ」
『もちろん我も行くぞ』
『儂もじゃ』
『当然俺もだぞ!』
『スイもー!』
「お前らは屋台での買い食いが目的だろうが。まぁ、いいけど」
思い立ったが吉日ということで、久しぶりにカレーリナの街中へと買い物に出かけた俺たち一行。
なんだかんだと目立つが、最初のころに比べれば騒がれることもなくなった。
まぁ、俺たちが通るとスッと避けられたり家の中へ引っ込んじゃう人がいたりはするけど。
人間って慣れるものなんだね。
そんなことをしみじみ思いながら訪れたのは、乾燥ハーブ専門店だ。
何度か買い物しているんだけど、種類も豊富だし、乾燥ハーブをミックスしたものがまたいいんだよねぇ。
特に肉に合うものが多くて、俺もいくつか購入させてもらったりしているのだ。
鼻の良いフェルはこの店が苦手らしく、ちょっと離れた場所に我が物顔で寝転んでいる。
ゴン爺とドラちゃんとスイも特に興味はないらしく、フェルの近くに待機していた。
そんなみんなを残し、俺は店先へと足を運んだ。
「いらっしゃい」
店主は細身の四十がらみのおじさんだ。
少し見て、前にも購入して気に入っているローズマリーっぽい香りのするドライハーブとセージっぽい香りのするドライハーブ、それからオレガノっぽい香りのドライハーブの購入を決めた。
あとは……。
「すみません。なにか新しい乾燥ハーブミックスって出てますか? 肉に合うものがいいんですけど」
この世界って味付けが乏しいから、乾燥ハーブってけっこう重要な役どころなんだよね。
一般家庭でも自分で作るって人もけっこういるし。
こうして店としても成り立つ。
何を使うかやどういう割合で混ぜるかは秘伝になっていたりする。
それだけに、千差万別でいろんな乾燥ハーブミックスがあるんだよね。
ネットスーパーのハーブソルトもいいけど、たまにこっちの乾燥ハーブミックスを使うと新鮮な驚きがあるんだ。
ここの店主が作る乾燥ハーブミックスは、今まで購入したものは全部当たりだったから期待できる。
「兄さん、よくぞ聞いてくれた。かなりの自信作が出来上がったんだ」
そう言いながら店主が出してくれた乾燥ハーブミックス。
香りを嗅ぐと、ローズマリーっぽい香りが強めに出ているが、他にもいろんなハーブが入っていることがうかがえる香りがする。
いかにも肉料理に合いそうだ。
「いいですね~。これもください」
「毎度あり」
新しい乾燥ハーブミックスを手に入れてご満悦の俺は、フェルたちを引き連れて次なる店へと移動した。
次の店は塩専門の店だ。
前に手に入れたメルカダンテ産の岩塩がめちゃくちゃ良かったので、追加購入しておきたくて来たのだ。
まぁまぁの値段がしたけど、買って悔いなし。
けっこうな量を買ったからか、店主自らお見送りしてくれたよ。
『おい、まだ終わらないのか?』
『主殿、腹が減ってきたぞ』
『俺も~。早く屋台の肉食おうぜ』
『スイもお腹減った~』
「はいはい。分かってるよ。寄りたいお店はあと一つだから、もうちょい待って」
早くも飽きてきている、というか屋台に目が奪われている食いしん坊カルテット。
だがもう一店舗だけは。
俺が一番楽しみにしていた店なんだから。
そうしてやってきたのは、何度か訪れたことのあるお茶の専門店だった。
「すみません、セリア産のお茶ってありますか?」
「おお、ちょうど仕入れたばかりなんです」
セリアという街特産のお茶は、ランベルトさんのところでいつもご馳走になるお茶だ。
バラの花っぽい香りがして、なんとも高貴で美味しいお茶なのだ。
買おう買おうと思っていて、いつもなんやかやあって手に入れそびれていたから、この機会に購入。
「あとおすすめのものがあればいくつか購入したいと思ってるのですが、おすすめのお茶ありますか?」
こういうのは、素直にお店の人に聞いたほうが良いのが手に入るんだよね。
「それでしたら……」
お店の人のおすすめは3種類。
まず紹介されたのは、エルマン王国のグラナドスという街の特産のお茶。
香りを嗅がせてもらったが、茶葉に乾燥した果実が入ったフレーバーティーで、モモっぽい甘い香りがなんとも言えないお茶だ。
次に紹介されたのが、クラーセン皇国のセラーティという街で作られているお茶。
なんでも生産量が少なくて、貴重なお茶らしい。
香りは烏龍茶っぽい感じで、その中でも前に飲ませてもらったことのある希少品種の黄金桂ってのに似ていた。
ほのかに金木犀っぽい香りがするんだ。
最後に紹介されたのは、この国のブリュネルという街特産のお茶。
こちらも香りを嗅がせてもらったら、紅茶の中にミントっぽい爽やかな香りがした。
気分を変えたい時や食後にピッタリのお茶だそうだ。
本当は他にもおすすめのお茶はあるのだそうだが、今店に在庫があるものの中からだとこの3つが特におすすめだとのこと。
もちろん全部お買い上げー。
どれも香りが良くて、今から飲むのが楽しみだよ。
買い物を終えて、店の外で待っていたフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイに合流すると……。
『よし、お主の買い物は終わったな』
『次は儂らじゃのう』
『行くぞー! 俺はあそこの串焼き屋に目を付けてたんだ!』
『スイはね~、あっちのお店が美味しいと思うー』
それぞれが目を付けていた屋台へとまっしぐら。
「って、おいおい、バラバラに行くなよー!」
結局この後は、あっちの屋台こっちの屋台と散々巡らされて、いくつかの屋台を完売御礼にさせた食いしん坊カルテットだった。
疲れたよ……。




