第五百三十一話 まだまだですよ
活動報告に書かせていただきましたが、『とんでもスキルで異世界放浪メシ』1・2・7・8・9巻の重版決定しました!!
お買い上げくださった皆様、本当にありがとうございます!
「みなさん、いらっしゃいますか~」
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイが寝静まった後、俺は一人リビングに残り、今か今かと待ちわびているだろう神様ズに声をかけた。
『キター! 待ってたのじゃー!』
『待ちわびていたわよ~』
『よっしゃ、来た!』
『……待ってた』
『ようやくウイスキーにありつけるわい!』
『待ちに待ったウイスキーだぜ!』
声をかけるとすぐに騒々しい声が聞こえてきた。
さてと、さっさと終わらせちゃおっと。
「昨日聞いたリクエストの品をお渡ししていきますね。いつもの通りニンリル様からです」
この作業も慣れたもんだよ。
ハイ、まずはニンリル様リクエストの大量の甘味。
『待ってたのじゃ~。ケーキとどら焼きー! もう妾は異世界の甘味がないと生きていけないのじゃー』
いやいや、そんなこと言ってどうすんの?
一応、デミウルゴス様の加護で寿命延びたけど、ニンリル様は女神様なんだから長くなったとはいえ俺の寿命なんてほんの一瞬なんじゃないの?
俺が死んだあと、どうすんのよ?
『ふぬ~、思い出させるなぁ! それには妾も頭を痛めておるというのに~。じゃが、今考えてもどうしようもないことじゃ! そうなったときに考えるのじゃ!』
それって先延ばしにしただけでしょ。
ま、俺が死んだ後のことまで責任持てませんし。
「それじゃ、リクエストのケーキとどら焼きをお渡ししますね。今回は不三家で“いちごフェア”を開催していたので、その限定ケーキが多く出ていたんでそれは網羅してあります。あとは、適当に入ってますんで。あ、ホールケーキももちろんありますよ。あとどら焼きはいつものように大量に入ってますので」
『ふぉー!!! 限定ケーキィィィ! すぐに味わわねば! すぐにー!』
アイテムボックスから取り出したニンリル様に用意していた段ボール箱が、置いた途端に淡い光を伴って消えていった。
そして、『ありがとなのじゃー!』という声の後にダダダッと走り去る足音が聞こえた。
お供え物を抱えてさっさと立ち去ったのか。
どんだけ限定ケーキ食いたいんだよ、ニンリル様……。
相変わらずのニンリル様に苦笑いしつつ、気を取り直して次へ。
「それじゃあ次はキシャール様です」
キシャール様のリクエストと言えばもちのろんで美容製品。
えらく気に入られた様子のST-Ⅲのシリーズをご所望。
キシャール様も『もうこれがないと生きていけないわ……』とかつぶやいていたけど、こちらも大丈夫かな。
俺、死んだあとは知りませんからね。
ST-Ⅲの化粧水、乳液、美容液とコットン。
これだけで予算使い切りなんだから、ST-Ⅲは高いわな。
「キシャール様、どうぞ」
テーブルに置いたキシャール様用の段ボール箱が消えていく。
『あ~ん、待ってたわー! いつ切れるかって冷や冷やしてたのよ~。これで安心だわぁ』
ストック用ですか。
姉貴がST-Ⅲを使い始めるとこれ以外は使えなくなるって言って、「私はST-Ⅲの底なし沼にハマったのよ」なんて冗談言ってたけど、キシャール様もその底なし沼にハマったみたいですね。
その美への執念、ある意味あっぱれです。
「次はアグニ様ですね」
アグニ様は当然ビール。
大のビール党だからねぇ。
今回もリクエストはおまかせでビールを箱で。
まぁ、好みはだいたい把握しているから、いつものプレミアムなビールを2箱にして、Yビスビール、S社の黒いラベルのビールをチョイス。
あとの残りは、おまかせ地ビール飲み比べセットを選べるだけ選んでみた。
最近は飲み比べが楽しいって言っていたからな。
「アグニ様、どうぞ。飲み比べセット多めに入ってます」
『お、そりゃあ楽しみだ! ありがとな~』
いくつかある重量感のある段ボールが消えていった。
『うっしゃー! 今夜は久しぶりにとことん飲むぜ~!』
段ボールが消えた直後には、男勝りのそんな言葉が聞こえてくる。
まぁ、ほどほどにしてくださいね。
「お次はルカ様です」
ルカ様のご用命は、いつもの通りケーキとアイスだ。
ケーキはニンリル様同様“いちごフェア”の限定ケーキを。
あとは不三家のアイスと、ネットスーパーにある数あるアイスの中でルカ様にまだ送ってないものを中心に選んでみた。
しかし、アイスってものすごい種類があるもんだね。
新作もいつの間にか出てるし。
けっこうな種類と数を揃えたから、ルカ様も満足してくれるんじゃないかな。
「それじゃあどうぞお納めください」
消えていく段ボールとともに『ありがと』という言葉。
そして『アイスがいっぱいある。嬉しい』という可愛い声が聞こえてきて、ちょっとほっこりした。
「次は……」
『儂らじゃな!』
最後は言わずと知れたヘファイストス様とヴァハグン様の酒好きコンビだ。
このお二人(柱?)、またしっかりと酒のリサーチをしていたようで、前回から引き続きの高級ウイスキーのほか、通好みっぽいものまでをご要望だった。
ウイスキー好きってわけじゃないから、探すのに苦労したよ。
このお二人のを揃えるのが一番時間がかかった。
そのリクエストされた品が……。
スーパープレミアムバーボンと言われる馬のボトルキャップが特徴のウイスキー。
ストレートで飲むと非常に美味いと聞いて選んだそうだ。
あとは、近年、大いに注目されている台湾ウイスキー。
トロピカルな味わいかつ飲みやすさが特徴とのこと。
注目されているという一点で、自分たちも飲んでみたくなったと言っていた。
それから、青いラベルが目印の“個性豊かな世界五大ウイスキーの原酒をブレンドしてブレンデッドウイスキーを開発する”というコンセプトから生まれたウイスキー。
お二人曰く『個性的なウイスキーをブレンドして新しいウイスキーをなんて、飲んでみたくなるじゃねぇか!』とのことだ。
最後は、ラベルに描かれた山猫が目印の通好みのウイスキー。
ウイスキー好きの間で特に人気が高いらしく、『そんなら俺らも飲まなくちゃならんだろ』って言っていた。
お二人も予算のことを考えたらしく、高級ウイスキーばかり選ぶとその分本数がどうしても少なくなってしまうので、今回はこの4本にとどめたそうだ。
残りは低価格帯のおすすめのウイスキーをいろんな種類用意してくれってことだったので、今回もリカーショップタナカのランキングを参考にさせてもらいつつ低価格で高評価のものを選んでみた。
そのウイスキーがぎっしり詰まった段ボールが数箱。
割れ物なので慎重にテーブルの上に置いた。
「お二人の分がこちらです。お受け取りください」
『ホッホ~、待ちに待ったウイスキーじゃ! あんがとな!』
『いつもありがとよ! 鍛冶神の! 今夜も夜通しウイスキーを飲もうぜ~!』
そう言うとテンションアゲアゲのヘファイストス様とヴァハグン様は、ドスドスという足音を立てて去っていったようだった。
あとはデミウルゴス様だなと思い、アイテムボックスからデミウルゴス様用の段ボール箱を取り出していると、声がかかった。
『ねぇ……』
ん、この声はルカ様か?
『いろんなアイスが売っているアイス屋さんってものがあるんだってね』
あ~、ありますね。
アイスクリーム専門店にジェラート専門店やら。
『がんばって』
…………テナントっすね。
「あ、あの~、テナント解放までのレベルまでまだまだなんですが……」
昨日確認した俺のレベルはこんな感じ。
【 名 前 】 ムコーダ(ツヨシ・ムコウダ)
【 年 齢 】 27
【 種 族 】 一応人
【 称 号 】 孤独の料理人
【 職 業 】 料理人 冒険者? 巻き込まれた異世界人
【 レベル 】 114
【 体 力 】 569
【 魔 力 】 546
【 攻撃力 】 541
【 防御力 】 529
【 俊敏性 】 442
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス 火魔法 土魔法
従魔 完全防御 獲得経験値倍化
《契約魔獣》 フェンリル ヒュージスライム ピクシードラゴン
古竜(300年限定)
【固有スキル】 ネットスーパー
《テナント》 不三家 リカーショップタナカ マツムラキヨミ
【 加 護 】 風の女神ニンリルの加護(小) 火の女神アグニの加護(小)
土の女神キシャールの加護(小) 創造神デミウルゴスの加護(小)
次にテナント解放されるのは、確かレベル160だぞ。
そんなになるまでにはまだまだ時間がかかるよ。
『大丈夫。ダンジョンを2つか3つ、もしくは4つくらい巡れば余裕』
いや、余裕じゃないから。
ってか、ダンジョン巡りなんてしないよ!
『とにかくがんばって。期待してる』
ルカ様……。
期待されてもまだまだ先ですからね。
『これこれ、ルカよ、無理を言うてはならんぞ。前にも注意したではないか』
『創造神様……』
『普段は大人しいルカが珍しいのう』
『アイス、とても美味しいから』
『そうかそうか。でも、無理を言ってはいかんぞ。次にやったら罰を与えねばならん』
『むぅ、分かった』
トットットと走り去る足音。
『すまんのう。普段はあんなわがままは言わんのじゃが』
「デミウルゴス様、あれくらいなら可愛いものですよ」
他の女神様から受けたプレッシャーに比べればねぇ。
「それより、お供えの期間が空いてしまい申し訳ありませんでした」
デミウルゴス様へは、1週間ごとになっていたんだけど、ダンジョンに籠っていたこともあってちょっと期間が空いてしまっていた。
『そんなことは気にする必要はないわい』
「ありがとうございます。その代わり、今回はちょっと多めにご用意させていただきました」
『ほ~、それは楽しみだわい』
日本酒は、いつものようにリカーショップタナカ厳選の飲み比べセットの中から選ばせてもらった。
秋田名門酒造5本飲み比べセットに東北人気銘酒7本飲み比べセット、日本酒品評会で金賞受賞歴の酒5本セットを2種類、京都人気銘酒5本飲み比べセット、信州人気酒造5本飲み比べセットをチョイス。
それから、梅酒の方もいつものようにランキングから7本を選ばせてもらった。
こだわりの天然温泉水を使った梅酒に芋焼酎仕込みの梅酒、梅の実をブレンドして果肉感たっぷりに仕上げたあらごし梅酒、霊峰白山の天然水を使った水にこだわった梅酒、青いダイヤとも呼ばれる青梅を使い梅の香りや酸味をしっかりと引き出した梅酒、桃やラフランスのような香りがするフルーツ感たっぷりの梅酒、完熟した梅の果肉を贅沢に使ってトロトロした口当たりと梅の旨味がぎゅっと凝縮された味わいの梅酒、そして、変わったところで紅茶の風味が合わさった紅茶梅酒というのも選んでみた。
それから、いつものプレミアムな缶つまもたっぷりご用意。
日本酒と梅酒、それから缶つまの入った段ボール数個をテーブルに置く。
「デミウルゴス様、どうぞお納めください」
『ふぉっふぉっふぉっ、すまんのう』
その言葉とともに段ボールが消えていく。
「それと、例のフェルとゴン爺への報酬ですが、あの“賢者の石”とかいうのなんですか?」
『賢者の石は賢者の石じゃが? どうかしたかのう?』
「どうかしたかのうじゃありませんよ! やり過ぎですってば! あんなのどうすればいいんですか!」
賢者の石を媒介にして鉄に魔力を流すと、その魔力量により鉄がミスリル、オリハルコン、ヒヒイロカネに変化するって、こんなもん世に出したら争いの種にしかならないでしょうが!
『いや~、お主なら有効に使ってくれそうじゃったし。いいかなぁと思ってのう』
「いやいや、全然よくないですから! こんなの怖くて使えませんよ!」
『まぁまぁ、持っていて損はないじゃろ。使わないならお主が保管しておけばいいことじゃて』
「いや、そういう問題ではなくてですね。こういうとんでもないものを報酬に……」
『お、呼ばれておるわい。さらばじゃ!』
「ちょっと! デミウルゴス様ーーーっ!」