第五百二十三話 黙らっしゃい!
ちょい短いです。
「なぁ、このダンジョンってまだ続くのか?」
『それは、下へという意味か?』
「それもだけど、この階層もさ」
このダンジョンに潜って20日近く経つ。
いい加減に地上に戻りたいというのもあるし、最近、とあることからちょっぴり危機感も持ってるんだよ。
あの、“アーク”の面々の一件以来ね……。
“アーク”の面々は良い人たちだし嫌いじゃあないけど、この先も一緒に居たいかといわれるとねぇ。
正直なところ、面倒が増えるのはごめん被るよ。
食いしん坊カルテットで手一杯なんだから。
てなわけで、ダンジョンから出たら、近場のロンカイネンの街に戻ってそこで早々に解散ってことにしたいんだよなぁ。
『主殿、下へという意味なら、それはなさそうだわい』
『うむ。この階層で終わりだろう』
ゴン爺とフェルが言うなら間違いなさそうだな。
『えー、ここのダンジョンってこの階層で終わりなのかよ? ここ、面白いのになぁ~』
『もっと続けばいいのに~』
俺たちの話を聞いていた、ドラちゃんとスイが残念そうにそんなことを言った。
「こればっかりはしょうがないよ」
そう言いながら、俺としてはホッとした。
しかしこのダンジョン、ここまで来ておいてなんだけど普通の感覚からいったらとんでもない鬼畜仕様のダンジョンなんだろうな~。
1階層の湿地帯に2階層の海と、どちらもとてつもなく広いんだから。
俺たちがここまで来られたのも、フェルやゴン爺、ドラちゃん、スイがいてくれたからだよね。
そもそもこんな海の階層、普通なら船、それも外洋船がなかったら進むことなんてできないしさ。
それはそうと……。
「下にはないっていうのは分かったけど、この階層っていうか海はまだ続くのか?」
『ククククク、もうすぐだ。もうすぐ』
『クハハハハハ、そうじゃのう。儂も少しは楽しめそうじゃ』
ちょっと、なにその笑い。
めちゃくちゃ好戦的に聞こえるんだけど!
不安になるからヤメテくれ~。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フェルとゴン爺から、このダンジョンはこの階層で終わりだと教えてもらってから3日。
俺たち一行は、昨日からずっと巨大スイの上で過ごしていた。
フェルとゴン爺曰く『ここから先に島はない。最後以外はな』とのことだ。
その最後の島とやらに、階層主というかこのダンジョンのラスボスがいるらしい。
俺やドラちゃんやスイが「どんなのがいるんだ?」って聞いても、フェルもゴン爺も『見てからのお楽しみだ』なんて怪しい笑みを浮かべるだけで教えてくれなかった。
ますます不安だ。
それにだ……。
「スイ、ずっと休みなしだけど、大丈夫か?」
『だーいじょうぶだよ~。スイ、元気ー!』
「そうか。でも、疲れたら言うんだぞ」
『ハァーイ』
島がないから休む場所もないわけでしょうがないけど、スイにばかり負担をかけて心苦しい。
食事やおやつの時は、作り手の強権発動で「スイは休みなしなんだぞ!」って言って、スイには余計に出してはいるけど。
スイはたくさんもらえたって『スイだけ特別ー』って言って喜んではいるけど、それでもね……。
それにだ、スイの上だから調理もままならずにアイテムボックスにあるストックを放出してる状態だし。
「ごめんな。スイだけ働かせているみたいで。もうちょっとだけがんばってな」
『うーん』
「お家に帰ったらスイの好きなものなんでも作ってやるからな」
『ホントォー、ヤァッタ―――!』
そう言ってブルブル揺れるスイ。
「コ、コラコラッ、みんなが乗ってるんだから揺れるなっ」
『ゴメンなさぁい』
そう言った後に、スイはご機嫌で『から揚げにしようかな~♪ それとも、ハンバーグがいいかな~♪』と調子っぱずれに歌っていた。
『おい、スイだけズルいのではないか』
ムスッとした顔のフェルがそう言った。
「黙らっしゃい!」
俺はフェルにピシャリと返した。
「いいか、スイはな、ずーっと休みなしで俺たちを乗せて進んでるんだぞ。それを見てなんとも思わないのか?」
『いや、それは……』
「だいたいな、ここまでこられたのだってスイのおかげだろ」
『まぁ、そうとも言う』
「それなのにお前ときたら…………」
あまりにもなフェルの態度に説教を食らわしていると、外野の声が聞こえてきた。
『うへぇ、文句言わなくて良かった~』
『ドラよ、余計な口は出さない方が利口なんじゃぞ。口は禍の元とも言う。そこに良い見本がいるじゃろう。フェルを見て学んだ方がいいのう』
『だなぁ』
説教食らわしてる俺が言うのもなんだけど、ゴン爺もドラちゃんもヒデェ。
まぁ、余計な口は出さない方がいいのは間違いないけどさ。
そしてこちらからも……。
「ムコーダさん、すごいな。フェンリル様にピシャリだぞ……」
「ああ。「黙らっしゃい!」だもんな。しかも説教してるし」
「世の中広しといえど、フェンリル様にあんな態度ができるのはムコーダさんしかおらんわい」
「すごい」
“アーク”の皆さん、コソコソ話してますけど、バッチリ耳に入ってますからね。
それにね、俺だって言う時は言うんですよ。
伊達に長く一緒に過ごしてきたわけじゃないんですから。
そんな時、巨大スイが大きく揺れた。
「うおっと」
咄嗟にバランスを取り事なきを得た。
『波が強くなってきたな』
「そう言えば、天気も随分と変わったな」
いつの間にか常夏の青い空からどんよりとした空に変わっていた。
海もあれほど凪いでいたのに、今では波が出て、時折スイが揺れている。
『なぁ~、魔物は出ないのか? 今日はもうずーっと見てないぞ』
ドラちゃんがそう言う。
そう言われてみると……。
「見かけないな。魔物」
あれほど出ていた魔物もとんと見ない。
『もうすぐだからのう』
『うむ。もうすぐだ。明日にはたどり着くだろう』
「たどり着くって、最後の島か」
そう聞くと、フェルとゴン爺が頷いた。
ということは、とうとうラスボスに遭遇するというわけか。
「で、ラスボスは何なんだ?」
フェルとゴン爺に改めて聞いてみたが、ニヤリと笑うだけだった。
も~、超気になるだろうがぁぁぁ。
ダンジョン編はなんとか年内には……(;´∀`)