第五百十八話 ラッキーパンチ
ちょっとしたアクシデント?はあったものの、島を後にした俺たち一行は再び海へと繰り出した。
俺たちを乗せた巨大スイが順調に進んでいく。
途中、ケートスに襲撃されたけど、一度戦った相手だ。
“アーク”の面々がここぞとばかりに狩りまくっていた。
ドロップ品の回収は、スイにお願いしてきっちり回収してたしね。
その辺はさすがAランク冒険者だなって感心したよ。
しかしながら、ドロップ品のケートスの皮が多過ぎたのか、いよいよフェオドラさんのアイテムボックスが入らなくなってきたようで、「残念だけど捨てるしかないな」などと話し合っていたので、申し出て俺のアイテムボックスに収納してあげた。
今は共同でダンジョンアタックしている仲間だしね。
そんなこんなで大海原を進んでいたんだけど、この海域はサメが多いのか、チョイチョイ出てきた。
4、5メートル級のサメ(これも一応魔物らしいのだが)が、俺たちの周りを泳ぎ回ってさ。
最初はビビッていたけど、暇してたスイが嬉々として触手でブスッと突き刺して狩っていくから、だんだんと「また出たか」ってな気分に。
スイに狩られるだけなのに、サメも次から次へとやってくるものだから、ドロップ品のサメの皮と肉が大量に回収されたよ。
サメの皮なんて、サメ皮おろしくらいしか利用価値が思いつかない。冒険者ギルドでこの大量のサメの皮を買い取ってくれるといいけど。
サメの肉は、フェルたちが食うかどうかはわからないけど、フライや竜田揚げ、すり身にしてさつま揚げにするとか、酒のあてに良さそうなのでとっておこうと考えている。
まぁ、それはいいとして、今はとりあえずは平和に海を進んでいるところだ。
始終4、5メートル級のサメに囲まれてはいるけどねー。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お、サメがいなくなった」
『うん、いなくなったー』
『ククク、次は我の出番だな』
『儂もやるぞい』
フェルとゴン爺が張り切ってる。
嫌な予感がするね。
「おい、フェルとゴン爺がやるって、次は何が出るんだ?」
『シーサーペントだ』
予感的中。
『シーサーペントだと? 俺もやるぜ!』
『スイもー!』
シーサーペントと聞いて、ドラちゃんとスイも俄然ヤル気だ。
というかさ、Sランクのシーサーペントって聞いてヤル気を出すうちのみんなってどうなんだろう、ハハハ……。
『お出ましだ』
ザッパーンッと水しぶきを上げながら姿を現したシーサーペント。
蛇のような細長い胴体を持ち上げて、俺たちに食いつこうと鋭い牙の生えた口を開けて襲い掛かった。
「いきなりかよ! 誰かなんとかしろー!」
『お主は耳元で騒ぐな。フンッ』
フェルが前足を一振り。
ザシュッ―――。
シーサーペントの細長い体がぶつ切りに切断された。
『あー! フェルおじちゃんズルーい! いっつも先にやっちゃうんだからぁ~』
『そうだぞ! フェルは少しは遠慮しろっつーの』
フェルに先を越されて、プンプン怒るドラちゃんとスイ。
『心配するな』
『そうじゃ。ここの海域、シーサーペントがわんさかおるようじゃからのう』
ん?
ゴン爺が聞き捨てならないことを言ったんだけど。
「ゴン爺、シーサーペントがわんさかいるって、どういうことだよ?」
『どういうこともなにも、言ったとおりじゃぞ』
「言ったとおりって、いっぱいいるってこと?」
『うむ』
「あのシーサーペントが?」
『そうじゃ』
「ハァァァッ?! そ、それってヤバイじゃん!」
近くで俺とゴン爺の会話を聞いていた“アーク”の面々も、その言葉に唖然としている。
『ほれ、来たようじゃ』
ザッパーンッ―――。
ザッパーンッ―――。
ザッパーンッ―――。
ザッパーンッ―――。
ザッパーンッ―――。
ザッパーンッ―――。
「出たーっ!!!」
6匹のシーサーペントが、俺たちの周りを囲むように水しぶきを上げながら姿を現す。
『ふむ、6匹とはちょうどいい。それぞれ相手するとしよう』
『そうじゃな』
『よっしゃ!』
『ヤッター!』
「ままま、待て! フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイがそれぞれ1匹ずつってのは分かるけど、残りの2匹は?」
『お前たちでやればいいのではないか。お主もレベルが上がったのだから、一人であれくらい倒せるだろう』
フェルがさも当然のようにそう言った。
「一人で、あれを? ……無理無理無理、無理だって! あんなの相手にできるわけないじゃん!」
あれの相手を一人でしろって、お前は鬼かよ!
『其奴らはヤルつもりのようだぞ』
え?
横を見ると、真剣な顔をしている“アーク”の面々がいた。
「み、皆さん?!」
え、ちょっと、マジ?
「このままだと、俺たちは弱いって思われたままになりそうだからな。ここいらで、俺たちも踏ん張らないと」
そう言ってフェルとゴン爺にチラリと目を向けるガウディーノさん。
「そうそう。ここが勝負所ってやつよ!」
ギディオンさんがそう言って自慢の槍をギュッと握りなおす。
「それに、シーサーペントに勝ちゃあ箔がつくしのう。ついでに、一攫千金じゃあ!」
シーグヴァルドさんはそう言って豪快にガハハと笑った。
「孫と一緒に美味しいものいっぱい食べるの!」
そう言っていつになく気合を見せるフェオドラさん。
本気だー!
ちょちょちょっ、嘘でしょ?!
『うむ。よく言った。お主も此奴らを見習って、少しは気張れ』
「なぁっ! 少しは気張れって、少しじゃないだろ!」
『主殿、危なくなったら手助けはするからのう』
ゴン爺にポンポンと前足の爪で肩を叩かれた。
「危なくなったらじゃなくって、最初からお前らが相手すれば済むことだろぉー!」
『グダグダ言うな。そら、もう来るぞ』
頭を揺らしてこちらを窺がっていたシーサーペントたちが一斉に襲い掛かってきた。
「チクショーーーッ!」
フェルたちの思惑通り、まんまと戦いに参戦しなければならなくなった俺。
急いで、アイテムボックスからミスリルの槍を取り出しつつ……。
「ファイヤーボールだ、こん畜生!」
大口を開けて俺に狙いを定めて襲い掛かったシーサーペントの口内に向けて、ファイヤーボールを放った。
ファイヤーボールは、なんとかシーサーペントの口の中に命中した。
しかし、シーサーペントは少しばかり鬱陶しそうな顔をしただけで、致命傷などというものには程遠かった。
「キシャーッ」
今度はこっちの番だと言わんばかりに、シーサーペントが俺をバクリと捕食しようと襲ってくるが、それを必死に避ける。
「ハァ、ハァ。あっぶね~。あんなん無理だって。ってか、またかよ?!」
避けたと思ったら、またすぐに襲ってくるシーサーペント。
そして、必死の思いでそれを避ける俺。
その攻防が続いた。
「ゼィ、ゼィ、ゼィ、ゴッホ、ゴッホ……。あ、危なくなったら、手助けしてくれるんじゃないのかよ!」
攻撃を何度も避けていたせいで、足もガクガクだ。
だけど、次の攻撃も避けないと、シーサーペントの餌確定になってしまう。
こっちが弱ってきたのを察知しているのか、シーサーペントも間髪容れずに襲ってきた。
「クソッ、マズった」
足が思ったように動かずもつれて避けるのが遅れる。
「このぉぉぉっ!」
やけくそでミスリルの槍を前に突き出した。
手に伝わる重い感触。
「ギュアァァァァァァァァッ」
耳が痛くなるような絶叫がすぐ近くから聞こえた。
そして、ドサリと何かが落ちる音。
頭を上げると……。
「マジかよ」
シーサーペントの眼球に、俺の突き出したミスリルの槍がグサリと突き刺さっていた。
俺とシーサーペント、双方に勢いがあったからなのか、ミスリルの槍は、その長さの半分くらいまで眼球に埋まっている。
これ、脳まで達して死んだってことか。
というか……。
「ヤッタ! ヤッタゾ! シーサーペントを倒したぁぁぁぁっ!」
俺は、マグレではあったが、Sランクのシーサーペントを一人で倒すことに成功したのだった。




