第五百十六話 食いしん坊カルテットの大冒険?(後編)
『とんでもスキルで異世界放浪メシ』4・5・6巻の重版が決定しました!
これも読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます!
この間発売になった9巻をお買い上げくださった皆様も本当にありがとうございます!
これからも『とんでもスキルで異世界放浪メシ』是非是非よろしくお願いいたします。
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイが宝箱の前に集合した。
『では、開けるぞ』
フェルが器用に前足で宝箱を開けると……。
プシューッ―――。
ドス黒い煙が噴き出す。
『フンッ』
風魔法で強化した鼻息で、いとも簡単にそのドス黒い煙を吹き飛ばした。
そして、みんなが一斉に中を覗く。
『なんだ、金貨かよ』
『あるじが持ってるピカピカと同じだー』
『フン、ハズレだな』
『スケルトンキングとなるとリッチと並びアンデッドの上位種のはずなんじゃがのう。しかも、彼奴は人語を話しておった。それなりの魔物のはずなんじゃが、その割にはショボいわい』
散々な言われようだ。
大きな宝箱いっぱいに詰まった金貨となれば、もちろん一財産だ。
普通の冒険者であれば泣いて喜ぶところである。
それこそ、贅沢をしなければ一生働かずに暮らしていけるくらいなのだから。
『まぁ、それでも一応は回収しておくかのう』
そう言って、預かっていたマジックバッグへと宝箱をしまうゴン爺だった。
『ムゥ、やることがないな。飯でも食いつつ待つか』
『そうするかのう』
『賛成!』
『ごはん~』
満場一致で昼飯と相成った。
持たせてもらった昼飯をマジックバッグからいそいそと取り出していくフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイ。
皿に載った山盛りのカツサンドに目を輝かせる食いしん坊カルテット。
カツサンドはみんな大好物である。
全員がすぐさま大口を開けてかぶりついた。
『カツサンド、やっぱ美味いなぁ~』
『揚げた肉をパンに挟むなど、天才じゃな主殿は』
『美味し~』
ソースが馴染んだカツサンドがマズいわけがない。
しかし、フェルだけは鼻に皺を寄せてしかめっ面をしていた。
『我もこれは嫌いではない。が、彼奴め何故野菜を入れたのだ』
皿に載ったカツサンドの半分には、たっぷりと千切りキャベツも挟まれていた。
野菜を食べさせるための苦肉の策なのだろう。
『キャベツが挟んであるのもそんなに悪くないぞ。シャキッとした食感も加わって美味いと思うけどなぁ~』
『うむ。肉だけのも良いが、ドラの言うとおり、こちらも美味いわい』
『どっちも美味しいよ~』
ドラちゃんとゴン爺とスイはキャベツ入りでも全然OKらしい。
『なら、誰かこの野菜を挟んだものと肉だけのものと交換しろ』
自分以外がキャベツ入りのカツサンドも美味いと言うのを聞き、フェルがそんなことを言い出す。
しかし……。
『それとこれとは別だ』
『うむ。両方とも味わいたいからのう』
『スイもどっちも食べたいからヤダー』
きっぱりと断られて撃沈するフェル。
渋々キャベツ入りのカツサンドをパクつくフェルだった。
そんなこんなで一皿目をペロリと平らげた食いしん坊カルテットが、いざおかわりの二皿目に突入するというときに異変が。
灰色がかった霧が立ち昇ったかと思うと、その霧の中から先ほどの朽ちた木造船が現れた。
そして……。
『復活ッ!』
元通りの姿に蘇ったスケルトンキングが、朽ちかけた木造船の甲板に仁王立ちしていた。
そして、頭蓋骨の落ちくぼんだ目にともる赤い光が、船の下にいたフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイを捉えた。
『ゲーッ、まだいるっ』
強者であるはずのスケルトンキングがオロオロしだす。
『ほ~、半刻程度で再び湧いてくるようだのう』
『ヤッタ! 次は俺俺、俺だかんな!』
『えー、スイがヤルー!』
『待て待て、お主ら。こういうことは年功序列じゃろう。年嵩の儂からじゃ。まぁ、誰かさんはそういうことも考えずに、調子に乗って最初にいってしまったがのう』
『グルルルル、誰が調子に乗ってだ』
『ま、やるにしても、飯を食ってからじゃ』
『それは当然だな』
『だよな~』
『おかわり~』
そう言って余裕綽々で飯を食い続ける食いしん坊カルテットに、さすがにスケルトンキングもカチンときたようだ。
『クソッ、俺だって元は巷で恐れられた海賊の頭なんだぞ! クラーケンとの激闘で船ごと沈められて死にはしたが、魔物として蘇って、それからスケルトンキングにまで昇り詰めたんだからな!』
しかし、スケルトンキングのそんな言葉は、カツサンドに夢中な食いしん坊カルテットの耳にはまったく届いていなかった。
だが、このスケルトンキングは元海賊だけあって、姑息な手段もお手の物。
こちらを気にもかけていない今こそ最大の好機とみたスケルトンキングが、背負っていた大剣を素早い動きで振り下ろした。
『死ねーッ!!!』
魔法なのかスキルなのか、一振りで何十もの斬撃が飛んだ。
ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ―――。
すべてが何かにぶつかったかのように防がれる。
自分の最大にして最高の攻撃が防がれ、唖然とするスケルトンキング。
無防備な今なら、フェンリルだろうがドラゴンだろうが、致命傷になるくらいの傷は負わせられるはず。
そう思っていたスケルトンキングだが……。
二大巨頭による頑丈すぎる結界に、スケルトンキング渾身の攻撃は防がれてしまった。
『我らの飯時を邪魔するとは、万死に値するな』
『まったくじゃ』
『死んで詫びろ』
『ご飯邪魔するホネは嫌いー』
『ちと早いが、どれ、儂が相手をしてやろう。ここまでするつもりはなかったが、仕置きじゃ。ホレ』
ゴン爺の口の中がカッと光り、あふれんばかりに光を伴ったゴン爺のドラゴンブレスが放たれた。
『またかーーーッ!!!』
スケルトンキングは反撃する間もなく船ごと光の中に消えていったのだった。
カツサンドを存分に堪能したあとに回収した宝箱の中には、大粒の青いサファイアを柄の中央にあしらい、その周りをダイヤモンドなどの宝石で埋め尽くし、鞘にも宝石がちりばめられた、贅を極めたという言葉が相応しい短剣が一振り収められていた。
『これ、剣なんだよな。こんなの使えんのか?』
『魔剣でもない剣などハズレだろう』
『まぁ、そう言うな。宝石くらいは価値があるじゃろうて』
『スイが作ったやつの方がキレイだよー』
普通の冒険者ならば、これだけで一生遊んで暮らせるほどの財産になるのだが、食いしん坊カルテットの反応はまたもやしょっぱいものだった。
とは言うものの、一応は回収する。
そして、昼寝をしつつ再び半刻を待つ食いしん坊カルテット。
『む、湧いたようだな』
欠伸をしつつそうつぶやいたフェル。
『いるのう。隠れてこっちを窺っているようじゃな』
ゴン爺も気配を察知しているようだ。
二大巨頭にすぐさま復活したのを見破られたスケルトンキング。
『よっしゃ! 次は俺な! オラァッ』
ドシュッ、ドシュッ、ドシュ、ドシュドシュッドシュッドシュッドシュ―――。
ドラちゃんの氷魔法が炸裂。
スケルトンキングごと朽ちた木造船を鋭い氷の柱が次々と串刺しにしていく。
『なんでこうなるんだよーーーっ!』
今回も、スケルトンキングは反撃する間もなく船ごと海に沈んでいったのだった。
そして、間もなく現れた宝箱の中には……。
『一つ、二つ、三つ……、宝石が10個入っているのう。こりゃダイヤモンドじゃろうな』
『ちぇーっ、たったこれだけかよ~』
『どうもここの宝箱はハズレばかりだな』
『お肉の方が絶対いいのにね~』
またもや散々な言われようだ。
10カラット以上に相当する大粒のダイヤモンドが10個となれば、相当な価値であるのに。
文句を言いつつも、当然これも一応は回収する。
そして、またもや半刻を待つ食いしん坊カルテット。
『おぉ、湧いたようだのう』
『よし、スイの番だ』
『ハーイ! いっくよー、エイッ!』
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
朽ちた木造船に、スイによって放たれた大きめの酸弾が降り注いだ。
『もうお前ら出ていけぇーっ!』
またもやスケルトンキングは反撃する間もなく船ごと溶かされていったのだった。
そして、恒例となりつつある宝箱の中を覗くと……。
『なにこれー?』
『赤い石だと? 宝石か?』
『いや違うようだ。鑑定では“賢者の石”と出ているぞ』
『“賢者の石”とは、聞いたことがあるようなないような……。うーむ、すぐには思い出せんのう。それより、その石の下になにか紙があるようじゃが』
ゴン爺が鋭い爪でその紙をプスリと刺して取り出した。
『何々……。おおっ、これは、この間のルバノフ教とかいう不逞の輩たちを懲らしめた件についてのデミウルゴス様からの報酬らしいわい。この“賢者の石”を使うと、普通の鉄がミスリルやらオリハルコン、ヒヒイロカネに変わるそうじゃ』
『ほ~。さすが神がくださったものだ。ヒヒイロカネなど、この我でも数度しか見たことがないほどのものだぞ』
『えー、なんでスイがやった時にそういう良さそうなのが出るんだよー』
『わーい』
神が授けた“賢者の石”。
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイは単に“良いもの”としか捉えてないが、世に出れば相手を殺してでも、国ならば戦争をしてでも相手から分捕りたいと願うものだったりするのだが。
食い気が一番の食いしん坊カルテットには、結局のところ人間世界の価値なんてどうでも良い話なのであった。
『では、帰るとするか。しかし、もう少し歯応えがあると思ったのだが……』
『儂らが強すぎるんじゃろうて。ま、こういう時こそ主殿の美味い飯でも食って気晴らしじゃ』
『ああ。それがいい。早く帰って美味い飯にありつこうぜ!』
『あるじのごはんー!』
スケルトンキング『お前らもう二度と来るなぁぁぁぁぁっ!』




