第五百十五話 食いしん坊カルテットの大冒険?(前編)
「とんでもスキルで異世界放浪メシ 9 ホルモン焼き×暴食の祭典」と本編コミック6巻、外伝コミック4巻をお買い上げくださった皆さま本当にありがとうございます!
書籍もコミックも好調とのこでホッとしたところです。
引き続き「とんでもスキルで異世界放浪メシ」をどうぞよろしくお願いいたします!
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイは、上陸した砂浜から反対側へと来ていた。
そこは砂浜から一転してゴツゴツとした岩がむき出しになった崖になっている。
その崖には、海水が入り込む洞窟がポッカリと開いていた。
『クククク、ここだな』
『うむ。いるのう』
『フェルとゴン爺が話してたのはこの洞窟か?』
『ここで狩りするの~?』
洞窟を前にして、目を爛々と光らせるフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの食いしん坊カルテットだった。
遡ること昨日―――。
コソコソと話し込むフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの姿があった。
『で、あいつの休みの提案をあっさり受け入れて先に進まない理由、教えてくれるんだろ?』
『うむ。狩りをするためだ』
『おいフェルや、もうちと詳しく説明せんとわからんじゃろうが。まったくもう。儂が説明するわい。実はのう……』
そう言って、ゴン爺がドラちゃんとスイに説明をした。
ゴン爺の説明によると、狩りとは言っても、通常の獣系の魔物を狩るのではないという。
というか、そもそもだが、この階層は海の魔物メインで、島であっても獣系の魔物は一切いないのだという。
これは、フェルとゴン爺が気配をたどって確認していることだから間違いのないことのようだ。
では、この島で何を狩るのかというと……。
『ここからちょうど島の反対側に、ほぼ間違いなく洞窟があるんじゃ。そこから妙な気配がしてのう』
『妙な気配だと?』
『うむ。おそらくはアンデッドじゃ』
『アンデッドだと?!』
『ホネー!』
『そうじゃスイ。骨もいるのう』
『いやいやいや、『骨もいるのう』じゃなくて! 今、この階層は海の魔物メインって言ってたじゃねぇか』
『そうじゃ。だから逆に面白そうじゃろう。じゃが、主殿に言ったところで……』
『絶対に反対するわなぁ。ってか、アイツならアンデッドと戦うくらいなら先に進んだ方がマシだって言いそうだわ』
『うむ。神から頂いた印があるというのに』
『なぬ? そんなものがあるのか?』
『ああ。エイヴリングのダンジョンに挑む時に彼奴がいただいたそうだ』
『その印を体に付けてもらうと、アンデッドも一発の攻撃でお陀仏だったぜ』
『ビュッビュッてやっていーっぱいホネやっつけたんだよー』
『ほ~、主殿はそんなものを持っているのか。まぁそれでも、主殿は行くとは言わんじゃろうな。一緒にいる時間が一番短い儂でも分かるわい』
『そういうところで弱腰だからな。彼奴は』
『ドラよ、そういうわけじゃ。しかものう……』
『その洞窟、まぁまぁの強さの奴がいるな』
最後にギラリと目を輝かせたフェルが獰猛な顔でそう言ったのだった。
早速とばかりに、洞窟を進む食いしん坊カルテット。
洞窟の中央を海水が満たし、脇のゴツゴツとした岩場を辿っていく。
すると、海水で満たされた水路のようになっている中央にどこからともなく小舟がスーッと現れた。
小舟に目を向ける食いしん坊カルテット。
そして……。
ガタガタッという音とともにスケルトンが立ち上がった。
『あ! ホネだー! エイッ』
ビュッ。
スイが我先にと酸弾を放つが……。
『あれ~?』
スケルトンは倒れず、こちらに向かってきていた。
スイの酸弾はスケルトンの肋骨を少し溶かしただけで、動くのに支障があるほどではないようだ。
『スイ、前のようにはいかんぞ。アンデッドというのはしぶといのだ。仕留めるのなら、頭に向かって酸を多めに飛ばせ』
『そうだぞ。前みたいにアイツに印を押してもらってるわけじゃないからな』
『そっかー、分かったやってみるー。エーイッ』
フェルとドラちゃんのアドバイスに従って、スイがスケルトンの頭に大きめの酸弾を放った。
ビュッ、ビュッ。
最初のスケルトンと追加で立ち上がった二体目のスケルトンの頭に酸弾が命中した。
ジュワッと溶けていく頭蓋骨。
頭蓋骨を失ったスケルトンは、バラバラに崩れていった。
『ヤッター!』
ポンポン飛び跳ねて喜ぶスイ。
『そうだ、スイ。アンデッドはしぶといが、頭を潰せば確実に仕留められる』
『うむ。アンデッドはしっかりと仕留めねば復活するからのう』
『面倒だが、出てくるアンデッドの頭を確実に潰して進んでいくぞ』
『カーッ、面倒くせぇがそれしかなさそうだな。スイ、気合入れて行くぞ!』
『うんっ』
それから、洞窟の奥に進むごとに出てくるスケルトンの数は増し、船から岩場からと方々から襲ってきた。
それとともに、徐々に上位種であるスケルトンウォーリアやスケルトンナイト、スケルトンメイジも出てくるように。
しかしながら、食いしん坊カルテットの敵ではなかった。
それどころか、ほぼドラちゃんとスイだけで仕留めていた。
ドラちゃんは得意の氷魔法で頭蓋骨を粉砕し、スイは酸弾で頭蓋骨を溶かしていく。
張り切って進むドラちゃんとスイの後を、悠々と歩くフェルとゴン爺の二大巨頭。
危うさの欠片もなく、どんどんと洞窟の奥に進んでいく食いしん坊カルテット御一行だった。
そして……。
『わぁ~』
『随分と開けた場所に出たな』
洞窟の先にあったのは、ドーム状に広がる空間だった。
流れ込んだ海水がそこに溜まり、雨風に影響されない天然の船着き場のような場所だ。
『む、船があるな』
『うむ。あそこから気配を感じるぞい』
帆はボロボロで船体も朽ちかけているおどろおどろしい雰囲気の巨大な木造船がそこには浮かんでいた。
『フハハハハハハッ、よくぞここまでやってきた!』
その朽ちかけた木造船の甲板に、古びてはいるがまるで海賊のような服と帽子のひときわ大きなスケルトンが躍り出てきた。
頭蓋骨の落ちくぼんだ目にともる赤い光。
それが、船の下にいたフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイに向けられた。
『…………え?』
気の抜けた声を出すスケルトン。
『ふむ。スケルトンキングか。我が相手をしてやろう』
フェルがスケルトンキングをロックオンしながら獰猛な顔で笑った。
『行くぞ』
『ちょっ、待て! なぜここにフェンリルがいるっ?!』
その問いかけも空しく、フェルは問答無用で爪斬撃を放つ。
『アーーーッ!!!』
スケルトンキングは反撃する間もなく船ごとバラバラになっていったのだった。
『フェルおじちゃん、ズルーい!』
『そうだぞフェルー、お前最後の最後に美味いとこだけ持ってくなんてズリィだろが!』
『儂もちょっとは戦いたかったのう』
みんなから責められてバツの悪そうなフェル。
『ダ、ダンジョンの魔物なのだから、次に湧いたときに倒せばいいだろう』
そう言って誤魔化すが、そうは問屋が卸さない。
『次はいつだってんだよう。フェルは分かるのか?』
『ぐっ……』
ドラちゃんの追及に呻くような声を発し、苦虫を噛み潰したような顔をするフェルだった。
そこへ、期せずして救いの声が。
『ねぇねぇ、スイ、お腹空いた~』
『そ、そうかそうか。よし、彼奴がよこした飯を食いながら待つというのはどうだ?』
フェルは、嬉々としてスイの言葉に乗っかったのだった。
『なぁーんか誤魔化された感じだけど、まぁ腹も減ってるし、そうすっか』
『その前に宝箱が出たようじゃから、主殿の土産に回収じゃ』
ちょびっと長くなりそうなので前後編に分けました(汗)




