第五百十四話 休みでも休めない性質のムコーダさん
9月25日にいよいよ「とんでもスキルで異世界放浪メシ 9 ホルモン焼き×暴食の祭典」と本編コミック6巻、外伝コミック4巻ですが、既に店頭に並んでいるようですね(汗)
担当さんに詳しくは聞いていないのですが、4連休があったのが関係しているのかもしれません。
既にお買い上げくださった皆さま本当にありがとうございます!
とにもかくにも、書籍9巻、本編コミック6巻、外伝コミック4巻をどうぞよろしくお願いいたします!
朝飯を食い終わり、ホッと一息。
ちなみに朝飯は、宣言通り作り置きしておいたものだ。
食いしん坊カルテットは当然のごとく肉とのことで、朝からガッツリ生姜焼き丼をバクバク食っていた。
俺と“アーク”の面々は、ハクサイとシイタケの味噌汁とワカメの混ぜ込みごはんの素で作ったおにぎり、それからだし巻き卵にキュウリの浅漬けのあっさり和風朝飯メニューだ。
フェオドラさんだけは、そのあっさりメニューでは物足りなさそうだったので、生姜焼き丼を出したら喜んでバクバク食ってたけど。
カレーリナで、時間がある時にちまちまと作ってはアイテムボックスにしまっていた自分を褒めてやりたいよ。
そんなわけで、まったりと食休み中だ。
特に今日は休みでやることもないしね。
食いしん坊カルテットと“アーク”の面々には、朝食後だしとりあえず無難ということで100%のオレンジジュースを出してある。
俺は、アイテムボックスから陶器製のコップを取り出した。
ここは透明なグラスにしたいところだったが、“アーク”の面々もいるしね。
氷がカランと音を鳴らすとともに、コーヒーの香りが鼻孔をくすぐる。
常夏の気候なんだもん、コーヒー好きとしてはそこで飲むならやっぱりアイスコーヒーでしょってことで、ネットスーパーでちょっと贅沢にコーヒー粉を買って昨日から仕込んでいた。
選んだのはアイスコーヒーにも最適と紹介されていたキリマンジャロブレンド。
香りを壊さないように、そのキリマンジャロブレンドのコーヒー粉を通常の倍量を使って濃い味になるようにドリップして、氷の入った容器に入れて急速冷却。
こうすると香りが失われることなくアイスコーヒーを楽しむことができる。
作っておいたアイスコーヒーをアイテムボックスにしまっておけば、出来立ての香り立つアイスコーヒーを楽しめるというわけだ。
「ん? ムコーダさん、その飲み物は?」
聞いてきたのはガウディーノさんだ。
目ざといな。
「これですか? 俺の故郷の飲み物で、香りがいいんです。苦いですけどね」
このままだとね。
俺は、考えていた説明をスラスラと言ってのけた。
嘘は言ってないし。
新しい飲み物に、目を光らせて興味津々の様子だったフェオドラさんだが「苦い」と聞いて、一瞬で興味を失ったようだ。
その様子に苦笑いしつつ、ガウディーノさんに「飲んでみますか?」と聞くと「止めておく」と断られた。
コップの中を覗いて「色がさすがにな……」って引かれた。
真っ黒な色合いが、どうにも飲めるようには見えないようだ。
コーヒーなんだから黒いのは当たり前でしょ。
聞いておいて、そんな引き攣った顔しないでよね。
コーヒーはこういう飲み物なんだからさ。
「香りがいい飲み物なら、紅茶なら少しは嗜むんだがな」
ガウディーノさんがそう言うと、ギディオンさんとシーグヴァルドさんから茶々が入る。
「そうなんだよなー。リーダーって、行く先々で絶対紅茶買い漁ってるもんなぁ」
「うむ。そんなものより男は酒じゃろうと思うんじゃがのう」
ガウディーノさんが、茶々を入れた二人に「うるさいな。人の好みに文句付けるなよ」と抗議している。
意外と言っては失礼だけど、ガウディーノさんは紅茶好きのようだ。
でも、紅茶ならば……。
「紅茶もありますよ。冷たい紅茶は香りは弱いですけど、スッキリとした苦味と爽やかな飲み心地でけっこういいんですよ」
最近は紅茶もイケる俺は、アイスティーの準備も怠らなかった。
ネットスーパーで選んだ茶葉は、無難にアールグレイだ。
やっぱりアイスティーなら爽やかな飲み口は重要だからね。
温めたティーポットにアールグレイの茶葉を通常の倍量入れて、沸騰したての熱湯を注いだら、フタをして蒸らして、あとは茶漉しでこしながら氷の入った容器に入れて急速冷却。
「おお、紅茶もあるのか。是非飲ませてもらいたい」
紅茶と聞いて、俄然興味を持ち出したガウディーノさん。
アイスティーが入った陶器製のコップを出してやると、早速ゴクリと飲んでいる。
「確かに香りは弱い。が、いい香りだ。飲み口もムコーダさんの言うように、スッキリと爽やかだ。なによりこういう暑い最中ゴクゴク飲めるのが悪くない」
「ですよね。熱いのも悪くないですけど、やっぱりこういう気候なら冷たい方が美味しいですし」
「ああ。だが、氷をこのようにふんだんに使った贅沢な飲み物は、なかなか飲めるもんじゃないけどな」
ガウディーノさんに言われて、あ~そういう話になるのかと思った。
うちじゃあフェルがいるから氷は使い放題だけど、普通は氷魔法の使い手がいるか、魔道冷凍庫でもないと無理だもんなぁ。
氷魔法の使い手がいても、凍らせる水は用意しないといけないようなこと聞いたし。
なにせ、水魔法で出る水は通常じゃあ飲水になるようなもんじゃないって言うからね。
なんにしろ、うちは氷が使い放題で良かったわ。
そんなことを思いながらアイスコーヒーを飲む俺だった。
『おい』
アイスコーヒーを飲みつつまったりしていると、フェルから声がかかった。
「んー?」
『我らは狩りに行くぞ』
「狩り~? 何だよ、今日は休みだろー」
『別にお主は来んでいい』
「俺は行かなくていいって、フェルとゴン爺とドラちゃんとスイで行くってこと?」
『そうだ』
「そうだって、守りはどうするんだよ? この前のベヒモスみたいになるのは嫌だぞ」
通称“ウラノス”での苦い思い出が頭によぎる。
『あれは、たまたまだ』
「たまたまってなぁ~。ここでもそのたまたまがあったらどうするんだよー」
『この周辺には雑魚しかおらん! それに、結界も張っていく』
「えー」
トラウマっていうのはけっこう引きずるんだぞ。
『お主を中心に、あそこの木まで結界を張ろう』
あそこの木っていうと、15メートルくらい先にあるヤシの木か。
半径15メートル、直径にすると30メートルのドーム型って感じか。
『それも我とゴン爺のだぞ。これ以上ない防御だろうに』
「本当の本当に雑魚しかいないんだろうな?」
『本当だ。我は嘘は言わん』
「しょうがないなぁ。分かったよ。んで、昼には戻ってくるのか?」
『くっ、昼飯か。それは考えてなかった……』
そこまで落ち込むなよ。
昼飯の一回や二回抜いたってどうってことないってのにさぁ。
「あーはいはい、お弁当としてマジックバッグに適当に入れて渡すから、昼はそれ食いな」
『なぬ?! お主、気が利くではないか!』
食いやすいカツサンドを皿に載せて、おかわり分も含めて詰めてやった。
『それでは、皆行くぞ!』
「ちょい待った! 結界は?」
『主殿、儂のもフェルのもすでに張ってあるぞい』
『んじゃあ行くぜー! ヒャッホウ、楽しみ~』
『あるじー、行ってきまーす!』
「みんな気を付けるんだぞー! それと、日が暮れるまでには帰って来いよー!」
フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイの食いしん坊カルテットを見送った。
「ムコーダさん、フェンリル様や古竜様たちどこ行ったんだ?」
ギディオンさんが聞いてきた。
「みんなで狩りに行くって、行っちゃいました。でも、結界だけはしっかり張っていってくれてるんで、ここは安全です。俺たちはゆっくり過ごしましょう」
「そうか」
そんなホッとしたような顔しないでよ、ギディオンさん。
「しかし、さっきベヒモスとかいう恐ろしい名前が聞こえてきたんじゃがのう……」
顔を引き攣らせたシーグヴァルドさんがそう言う。
聞いてたんかい。
でもまぁ……。
「いろいろあるんですよ、いろいろね」
そう答えると、ガウディーノさんやギディオンさんまで顔を引き攣らせていた。
解せぬ。
それからは、アイスコーヒーやアイスティーをのみつつ、浜辺に寝転んでゆっくりと過ごした。
昼前は。
昼になって、“アーク”の面々とカツサンドで昼飯。
フェルたちにお弁当に持たせてやったら、自分でも食いたくなってな。
ガウディーノさんとギディオンさんとシーグヴァルドさんには、ビールもちょこっとだけ出してやった。
フェオドラさんは、カツサンドが気に入ったのか両手に持ってモリモリ食っていたよ。
昼飯後は、昼前と同じく浜辺に寝転んでまったりゆっくり過ごそうかとも思ったんだけど、アイテムボックスに保存してある作り置きが目減りしていることに気付いたら、無性に気になってなぁ。
結局、作り置き用の料理をして過ごした。
フェオドラさんが、魔道コンロの前に陣取ってこっちをというか、できあがっていく料理を凝視しているのにはうんざりしたけどね。
ちょこっとだけお裾分けしつつしていたら、手を出すことはなかったから放っておいたけど。
昼過ぎは、そんな感じで料理三昧だった。
ゆっくりはできなかったけど、気になったしこういう性分だからしょうがないよね。
「しかし、もうそろそろ戻ってきてもいい頃なんだけどなぁ。せっかくみんなの大好物のから揚げ作ってあるのに……」
狩りに行くって、どこまで行ったのやら。




