第五百十話 冷製パスタ
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なんだか“アーク”の面々から憐れむような目で見られて、納得がいかないんだけど。
別にSランクばっかり相手にしてるわけじゃないし。
…………いや、多いのは多いよ。
だ、だけど、実際相手にしてるのはフェルたちだし。
俺は見てることの方が多いし……。
って、そもそも俺って商人志望だったんだよな。
ランベルトさんのところと取り引きもあって多少は商人みたいなこともしているけど、どう考えても冒険者稼業の方が主体になっているもんなぁ。
考えると、ここのところダンジョンばっかり行っているような気がするし。
フェルたちが好きっていうのもあるけど、なんだかんだで全部踏破までしてるし。
下層に行くと、高ランクの魔物しかいないから、そうなると“アーク”の面々が言うこともあながち間違いではないというか……。
か、考えたらダメだな。
今の生活だってそれなりに楽しいんだから。
よ、よし、飯作ろう。
それがいい。
ここはダンジョンの中だっていうのにカンカン照りで暑いから、冷たくてさっぱりしたものにしよう。
簡単だし、冷製パスタがいいかもしれないな。
そうだ!
ジャイアントスカラップの貝柱がたっぷりとあるんだから、貝柱の冷製パスタなんていいかも。
うん、そうしよう。
ただ、肉好きの食いしん坊カルテットが『肉はどこだ?』とか言いそうだな。
そうなると……。
ダンジョン豚を使って豚しゃぶの冷製パスタも作ることにするか。
確かダンジョン豚を薄切りにしてストックしてあるはずだからちょうどいいね。
そうと決まれば次は材料の確認だ。
貝柱の冷製パスタの方は、手持ちで揃ってる。
豚しゃぶの冷製パスタの方は……。
「豚しゃぶならやっぱゴマだれだよね~。ということで、ゴマのソース用に白練りゴマだろ。あと野菜は、水菜でいいかな」
足りない材料の白練りゴマと水菜を、“アーク”の面々に見られないように魔道コンロの陰に隠れてネットスーパーでこそっと購入。
「よしと。まずは、お湯を沸かさないとな」
魔道コンロにたっぷりの水を入れた寸胴鍋をかけていく。
「フッフッフ、新しい魔道コンロは六つ口あるから余裕だね」
先にジャイアントスカラップの貝柱をボイルして、ダンジョン豚の豚しゃぶを作る。
六つある寸胴鍋の半分に塩を入れてジャイアントスカラップをボイル。
もう半分の寸胴鍋でダンジョン豚の薄切りをボイルする。
どちらも茹であがったらザルにあけて冷ましたら、魔道冷蔵庫に入れて冷やしておく。
今度はパスタ用にお湯を沸かす。
その間に貝柱の冷製パスタのソースに使うアルバン印のタマネギをみじん切りにして水にさらしておく。
アルバンの作ったタマネギは辛みが少なくて甘みが強いから、水にさらす時間は短めでもOKだ。
それから、アルバン印の極旨トマトは1センチ角に切っていく。
皮が気になる場合は湯剥きしてからの方がいいけど、俺は気にならないからそのままだ。
大量にトマトを切り終えたところで、水にさらしておいたタマネギの水気を切ってソースを作り始める。
ボウルにタマネギのみじん切りを入れて、そこに醤油、オリーブオイル、黒酢、砂糖、粉末タイプのカツオだしを入れて混ぜ混ぜ。
出来上がったソースをひと舐めして……。
「うん、バッチリだね」
そうしたら、今度は豚しゃぶの冷製パスタ用に使う水菜を根元を切って4センチくらいの長さに切っていく。
お次はソースを作製。
ボウルに白練りゴマ、めんつゆ、砂糖、酢、ゴマ油、白ゴマを入れて混ぜ混ぜ。
こちらも出来上がったソースをひと舐め。
「こっちもいいね」
そうこうしているうちにお湯がボコボコ沸騰しているのに気づいた。
「おっと、塩塩」
沸騰したお湯に塩を入れてパスタを投入。
パスタがくっつかないように時々かき混ぜつつ、パスタを茹でる間にもう一仕事。
冷蔵庫で冷やしていたボイルしたジャイアントスカラップの貝柱を一口大に切っていく。
貝柱の冷製パスタのソースが入ったボウルに、アルバン印の極旨トマトとジャイアントスカラップの貝柱を入れてよく混ぜる。
今度は豚しゃぶの冷製パスタのソースが入ったボウルに、冷やしておいたダンジョン豚の豚しゃぶと水菜を入れてこちらもよく混ぜておく。
そこまで終わったところでパスタが茹であがった。
あとは、茹であがったパスタを氷水でしめて、貝柱の冷製パスタのソースと具材が入ったボウルと豚しゃぶの冷製パスタのソースと具の入ったボウルそれぞれにパスタを入れてよく絡めたら出来上がりだ。
それをさらに盛り付けて……。
「完成!」
貝柱の冷製パスタには大葉の千切り、豚しゃぶの冷製パスタにはカイワレを載せたりした方が彩りもキレイなんだけど、少々癖が無きにしも非ずなので、今回は載せずにそのままで。
“アーク”の面々もいるからね。
「飯出来たぞ~」
声をかけると、すぐにみんな集まってきた。
フェルとゴン爺とドラちゃんとスイの食いしん坊カルテットには、最初から両方の冷製パスタを出したんだけど(みんな言わずもがなの大食漢だからね。二皿なんてペロリだし)、“アーク”の面々にはどっちがいいか聞いた。
パスタって腹持ちがいいし、さすがに両方は食えんだろと思ってのことだったんだけど、見事に4人とも両方とのリクエスト。
大丈夫かって思っていたんだけど、みんな見事にきれいに食い切っていたよ。
「冷たい麺とは、こんな食い方もあるんだな。さっぱりして美味い」
「どっちもウメェ!」
「どっちも美味いが、儂はこっちの肉の載った方がより好みだのう。香ばしい濃厚な味わいがなんとも言えんわい」
「すっごく美味しい」
なんていってペロリだよ。
フェオドラさんなんて、貝柱の冷製パスタをさらにおかわりしたからね。
まったく恐ろしい胃袋だよ。
食いしん坊カルテットはいつものごとく、おかわりの嵐だ。
ゴン爺、ドラちゃん、スイは、この暑さの中で食う冷製パスタを気に入ってくれたようで、貝柱の冷製パスタも豚しゃぶの冷製パスタも満遍なくおかわりしてたけど、フェルだけは『む、肉が少ない』とか文句を言ってたな。
その割には豚しゃぶの冷製パスタをバクバク食って一番おかわりしているんだから世話ないよね。
俺は、貝柱の冷製パスタをいただいた。
自分で作っておいてなんだけど、さっぱりしてめちゃうまだった。
やっぱり暑いときはこういうさっぱりしたものがいいよね~。
ちなみに今回はソースを作ったけど、面倒なときは貝柱の冷製パスタは和風ドレッシングを、豚しゃぶの冷製パスタはゴマドレッシングを使っても全然OK。
その方が超簡単ってことで、俺も夏はよくやってたよ。
そんなこんなで、みんな冷製パスタを食い終わり、ピッチャーに移しておいた冷たいリンゴジュースを飲みながらホッと一息ついてた。
「そういやさ、カリブディスのドロップ品だっつってムコーダさん受け取ってたみたいだけど、どんなドロップ品だったん?」
リンゴジュースで喉を潤しながら、興味津々な様子でギディオンさんがそう聞いてきた。
「そういや、確かにそんなやり取りしてたな」
ガウディーノさんも興味ありげだ。
「うむ。あれほどの魔物から出たドロップ品じゃ。儂も興味があるのう」
シーグヴァルドさんも「後学のため」と興味があるようだ。
というか、あの状況でみんなよくそんなところ見て覚えているよな。
“アーク”の面々に出したリンゴジュースは、以前にネイホフの街で買った陶器製のコップに入れて出していたのだが、そのコップを無言で差し出してきたフェオドラさんにリンゴジュースを注いでやった。
そんな我が道を行くフェオドラさんに苦笑いしながら、俺はカリブディスのドロップ品のことを思い出していた。
「ええと、確か魔石と牙と宝箱でしたね」
俺がそう言うと、3人とも宝箱に反応した。
「ほっほ~、宝箱かいの。で、中には何が入っておったんじゃ?」
「俺もそれ興味ある!」
「ああ。俺もだ」
「あー、あんな後だったんで中身は見ずにアイテムボックスにしまっただけで、俺もまだ中身は見てないんですよ。そうだ、今開けてみましょう」
どのみち後で確認することになるんだから、今確認してもいいかということで開けてみることにする。
アイテムボックスから取り出した“カリブディスの宝箱”は、改めて見るとかなりのものだった。
深い藍色で、波のデザインの細工だろうか、それが細やかに施されて、ダイヤモンドやら真珠やらの宝石が鏤められていた。
それを見たガウディーノさんが「宝箱だけでも一財産だな」とつぶやくと、ギディオンさんもシーグヴァルドさんもゴクリとつばを飲み込みながら頷いている。
確かに俺が今まで見た宝箱の中でも、特に豪華な仕様なことは間違いない。
俺も知らず知らずのうちにゴクリと唾を飲み込んだ。
おっと、開ける前に鑑定だけはしないとな。
宝箱をこっそりと鑑定して、仕掛けがないことを確認。
「それじゃ、開けてみますね」
俺は、緊張しながら“カリブディスの宝箱”を開けた。
ガウディーノさん、ギディオンさん、シーグヴァルドさんと俺が宝箱の中を覗き込む。
「「「「…………」」」」
4人とも無言になった。
中に入っていたのは、サファイアとダイヤモンド、そして真珠がこれでもかというくらいふんだんに使われたティアラだった。
「えらいもんが入っていたのう……」
シーグヴァルドさんのつぶやきに、ガウディーノさんとギディオンさんが無言のまま頷く。
「冒険者ギルドで買い取ってくれるかな……」
相当価値がありそうなのは分かるが、宝石でしかもティアラじゃ買い取りに出すしかなさそうだし。
「無理じゃな。というかじゃ、場合によっちゃあこれは戦の原因にもなりうるぞい」
「エ゛ッ?」
シーグヴァルドさんの「戦の原因」というワードに、思わず変な声が出てしまった。
「ムコーダさんはパールの価値を知っとるのか?」
パールって真珠のことでしょ?
真珠よりダイヤモンドとかサファイアの方が価値があるんじゃないの?
「分かっとらんようじゃな。いいか、パールというのはな…………」
シーグヴァルドさん曰く、パールはそもそもが滅多に出回るものではないのだそう。
と言うのも、パールが採れるジャイアントパールオイスターという貝の魔物は、大昔に乱獲されて、今はごくわずかが生息するのみとなっているという。
しかも、すべてのジャイアントパールオイスターからパールが採れるわけではなく、ある程度の年数を生きたジャイアントパールオイスターからでないとパールは採取できないそうなのだ。
なので、パールというのは、今では、年に数個見つかるのみの非常に貴重なものとなっている。
シンプルだが上品で、身に着けるものをより引き立たせるパールの輝きは、上流階級の女性を虜にしているそうだ。
現に、年に数個見つかるパールも国を問わずで上流階級女性たちの奪い合いが発生しているのだという。
当然その価値も、言わずもがなで宝石の中でもダントツ。
シーグヴァルドさんは若いころ、里にどこかの王族から加工依頼が来たものをチラリとだけ見たことがあるそうだ。
「これよりもっと小さな粒だったがのう。じゃが、物々しい警備が加工が終わるまで付いておったわい。今でもよく覚えているぞい。そのパールがじゃぞ、これだけふんだんにあしらわれている。しかも、どれもこれも歪みのないほぼ完ぺきに近い球体じゃ。それにこの大きさ! こんなものがあると知れた暁には……。儂は恐ろしくて考えたくもないわ」
シーグヴァルドさんの話を聞いたガウディーノさんとギディオンさんの顔が引き攣っていた。
そして、3人の目が俺へと向けられる。
まるで「どうすんの、これ?」と聞かれているようだ。
「これは、みなさん見なかったことにしてください……」
それしか言えないよ。
シーグヴァルドさんの「戦の原因」って大袈裟って思わなくもなかったけど、話聞いたらそれも大袈裟だって言い切れないじゃんよぉぉぉ。
こんなん世に出せるわけない。
見なかったことにして、アイテムボックスに永久保存しかないでしょ。
しかし、カリブディス、最後までロクなもんじゃなかったよ……。




