第五百九話 俺を憐れむような目で見るなーっ
既にご承知の方もいらっしゃると思いますが、先日、TBS「櫻井・有吉THE夜会」にて俳優の菅田将暉さんのおすすめ漫画として「とんでもスキルで異世界放浪メシ」が紹介されました!
原作者としても嬉しい限りです。ありがたや、ありがたや。
9月25日には、小説9巻、本編コミック6巻、外伝4巻が発売となりますので、皆さま是非是非よろしくお願いいたします!
何事もなかったかのような様相のフェル、ゴン爺、ドラちゃんたちと相対するように、精魂尽き果てた俺と魂が抜けてしまったかのような面持ちの“アーク”の面々。
その一行を乗せた巨大スイは、一路近場の島へと向かっていた。
兎にも角にも、地に足を着けて落ち着きたかった俺の強い要望だ。
あれだけひどい目に遭ったんだから、俺がそう思うのも分かるってもんでしょ。
フェルたちは早く進みたくてブツブツ文句を垂れていたけど、そんなものは却下だ。
夕飯を盾にして、俺は島への上陸を強硬主張。
フェルたちも仕方なしという感じで同意したわけだ。
『あるじー、島が見えてきたよー』
「よし! 急げスイ」
『分かったー!』
スピードを上げたスイにより、ほどなくして島へと上陸。
俺はすぐさまスイから飛び降りて、地に足を着けたのだった。
そして、砂まみれになるのも気にせずに砂浜に大の字になる。
「あ~、生きててよかったぁ~」
ホッとすると、思わずそう口を衝いて出た。
だが、地に足を着けてホッとしたのは俺だけじゃなかったようだ。
「生きてるっ、生きてるぞ俺はぁぁぁっ」
「ウォォォォッ」
「ふぃ~、本当にこれで終いかと思ったわい……」
「帰ったら絶対、絶対に孫に会いに行く……」
きっと生きた心地がしなかったのだろう。
島に上陸して地に足を着け、ようやく生気が戻ってきた感じの“アーク”の面々が、思い思いの言葉を口にした。
その気持ちはすっごく分かるぞ。
俺たちにとっては、正に九死に一生を得たという感じだもんね。
「生きてるって素晴らしいですね……」
「ああ。生きてて良かった」
「ホントだぜ……」
「冒険者っちゅうのは、死と隣り合わせの仕事じゃとなったときから分かってはいるつもりだったんだがのう。……本当に生きててよかったわい」
「うん。もう孫にも会えないし、美味しい物も食べられなくなるんじゃないかと思った……」
そんなことをしみじみと言い合いながら、肩を叩き合って喜ぶ俺たち。
死を意識した同じ経験をしたからなのか、なんとなく俺たちには仲間意識のような連帯感みたいなものが生まれていた。
「しかしよう、ムコーダさんはいつもあんな経験してるのか?」
ギディオンさんが気遣わしげな顔でそう聞いてきた。
「まさか! いつもあんなんだったら、俺の気が保たないですよ。今回みたいな危機的というか、自分でももしかしたら本当に死ぬかもなんて思ったのは初めてのことです。いつもは後方で控えているだけだし……」
俺じゃあ戦力不足なのは分かっているからね。
下手に参加しようものなら、足手まといになるだけだよ。
だから、みんなが高ランクの魔物と戦っているときは、距離を空けて見守ってるってのがいつものパターンだしね。
「いつもはって、あんな化け物みたいな魔物を相手にしていることは否定しないんだな」
「いや、その~……」
ガウディーノさん、鋭いところ突いてくるね。
あれほどの化け物かはわからないけど、いろいろと相手にはしているな。
フェルたちが。
俺はそんなのと対峙したくないんだけど、超が付くほど好戦的なうちのみんなが見逃さないんだよね……。
「儂らとて、これでもAランクの冒険者じゃ。時にはSランクの魔物とぶつかることもある。……じゃが、あれはダメじゃ。あんなのは儂らみたいな普通の冒険者が対峙するもんじゃないわい」
そう力説するシーグヴァルドさん。
俺だってあんなのと対峙したくなかったですよ。
ってか、あんなのだって知っていたら、全力でフェルを止めていたのに。
「あれは多分、絵本に出てくるカリブディス」
フェオドラさんがそうつぶやいた。
「カリブディス? 絵本て……。あれか? “光の勇者~海の冒険編~”に出てくるヤツ!」
実は勇者に憧れていたというギディオンさんがピンときた様子だ。
「そう。娘に何度も読んであげたから覚えている」
フェオドラさんが深く頷きながらそう言った。
「カリブディス……。暴食の魔物か」
「しかし、本当にいるんじゃな。あんなものが」
ガウディーノさんもシーグヴァルドさんも、光の勇者とカリブディスというキーワードを聞いて思い出したようだ。
何でも、光の勇者の物語は、勧善懲悪ものの勇者の話で、多くの人が子どものころに寝物語に一度は聞かされる類の話らしい。
その光の勇者の物語の海の冒険編の最大の敵が、このカリブディスという化け物なわけだ。
なるほどねぇ。
……って、え?
みなさん何でこっち見てんの?
“アーク”の面々の視線が一斉に俺に向けられていた。
「ムコーダさん、案外苦労してるんだな……」
「あんなんばっか相手にしてたら、俺だったらどうにかなりそうだわ……」
「まぁ、あれは特別だったにしろ、毎回毎回Sランクの魔物を相手にしていたらのう……」
「いくら冒険者でもムリ」
「な、何を言っているんですか?」
なんか、みなさん俺を憐れむような目で見ているんですけど……。
「ムコーダさん、あんたならきっと大丈夫だ」
「希望を持てよ、ムコーダさん!」
「強く生きるんじゃぞ!」
「死なないで」
いやいやいや、なに言ってるんですかっ?!
あんなのは今回が初めてだって言ったでしょうにー!
『おい、腹が減ったぞ。飯だ』
『儂も腹が減ったのう』
『俺も腹減ったー!』
『スイもお腹減ったの~』
念話で聞こえてくる『腹減った』の大合唱。
君たちね……。
俺が憐れむような目で見られてるのも、好戦的過ぎるお前たちのせいなんだからなー!
今日の更新はちょい短めでした。
来週はもう少し長めに書ければ……(汗)




